妖怪・カイザー好き好き黄金裔 作:カイザーの椅子
「ふっふっふ……ようやくこの時が来た!」
天気は快晴、風向き良好。意気揚々。エラポスは屋台の下で不敵に微笑んでいた。
今日は数ヵ月に一度の蚤の市。古着等の古物や手作りの手芸品などを各々割り振られたスペースで販売するイベントが開催されるのである。
準備期間中、夜なべし続けたエラポスの涙ぐましい努力が今日この日、結実しようとしていた。
「そんなに自信がおありになのですね……少し見せていただいても?」
声が聞こえていたのだろうか、隣のスペースに陣取るキャストリスが興味ありげにひょっこりと顔を覗かせた。
彼女は普段から趣味で作っている動物のぬいぐるみや、読まなくなった古書を出品するらしい。
「良いよ。ほら、こっち来なよ」
「失礼します」
「今日持ってきたのはこれと、これ……あとこれかな。
好きに手に取って見てて良いよ」
エラポスに手招きされたキャストリスはぺこりとお辞儀をしてから屋台の屋根の下に入る。
棚に並んでいる商品をエラポスが取り出して何個かカウンターに置いて並べて見せる。
「これは……カイザーのぬいぐるみでしょうか?」
キャストリスが最初に手に取ったのは、精巧に作られており、美しいかつ可愛らしさが引き立つケリュドラのぬいぐるみ。
神は細部に宿るというのだろうか、ケリュドラの持つ威光すらぬいぐるみ越しから伝わってくるようだった。
「素晴らしい出来です。これはわたくしも少しほしくなってしまいます。
アレ……? あの、こちらも?」
もう一つ、ケリュドラのぬいぐるみがあり、そちらも手に取って両手で並べるとサイズ感とポーズが違うが、同じような商品を二つも売るのだろうかと疑問符を浮かべる。
「今右手に持ってるのがおすわりカイザーぬいぐるみ。左手に持ってるのはカイザーちびぐるみだ」
「ええと……いえ、大丈夫です」
商品の説明を求めたのではなく、どうしてぬいぐるみを二種も作ったのか。という意味だったのだが、これ以上深掘りしてはいけなさそうな雰囲気をエラポスの眼力から感じ取り、キャストリスはぬいぐるみをカウンターに置く。
「こっちがカイザー匂い硝子細工*1、こっちがカイザー饅頭*2。あと、壁に飾ってあるのが等身大カイザー綴織*3」
「……カイザー、ばかりですね。全てエラポス様が?」
「デザインだけして外注したのもあるけど、ほとんどは手作りだね……死ぬかと思った。死ななかったけど」
エラポスの背後には夥しい量のケリュドラグッズの在庫が並んでいて、その全てを蚤の市のために用意したというのだから、彼の熱量に圧倒されるしかなかった。
「そうなのですね……では、わたくしは戻りますのでお互い売れるよう祈りましょう」
「だね」
色々気になることはあったが、そろそろ開始時刻になるため、キャストリスは自分の屋台に戻った。
「おー、失恋おじさんも蚤の市に出店してたんだねぇ……カイザーグッズしかないのは引くけど」
程なくして何人か客が屋台の前を通っていき、その中に一人、見覚えのある猫耳の少女がエラポスに気付いて入ってきた。
名前はサフェル。彼女も黄金裔の一人でザクレウスの神権を受け継いだ半神でもある。
普段は気ままに盗賊、ないしは義賊のような暮らしをしている。
「いらっしゃい。にゃん小娘。来て早々ご挨拶だな」
失恋おじさん。にゃん小娘と、お互いをあだ名で呼び合うのは、二人は何か画策した時に共謀する悪友のような関係であるからだ。
エラポスとしては失恋していないということは、声を大にして反論しておきたいが、今回も依頼したいことがあるため、一度心中にしまっておく。
「これさぁ、出来は良いけど本人に許可貰ってんの~? バレたらまた処刑なんじゃない?」
「カイザーのために死ねるなら本望だが?」
カイザーちびぐるみを手に取ってニヤニヤとからかうように笑うサフェルに真顔で切り捨てる。
そこまでの覚悟なのに、ケリュドラからは一切振り向いて貰えなさそうな塩対応をされている場面を知っていると、中々に哀れな生き物として目に写る。
「さて、にゃん小娘。わざわざ来たってことは取引しに来たんだろ……売上の二割でどうよ?」
守銭奴のサフェルがわざわざ蚤の市に来たということは、ビジネスの話をしに来たとしか思えない。
エラポスもケリュドラの偉大さと可愛さを世にしろしめすために、サフェルの祝福を活用して頼みたいことがあった。
「えぇー? あたしの祝福を使うならちょっと足りなくない? 五、なんて言わないからさぁ……ね?」
「三割」
「よし、決まった」
交渉成立。
サフェルは大きめな袋を取り出して棚にあるケリュドラグッズを詰めていく。
これで蚤の市に来ていない人間にも届けることができて、サフェルは売上の一部を懐に入れるWIN-WINな取引である。
「モノは適当に袋に詰めておくよ。足りなくなったらまた戻ってくるからさ」
「じゃ、頼んだ」
「はいさー」
袋の口を閉じた瞬間にサフェルの姿が消える。
彼女の祝福は神速の力を得た足で、瞬く間に好きな場所に移動できる。
が、その力を盗賊行為に利用していることについて、一部の人物から良く思われていない。
「うわ……エラポス先輩のお店が出てると聞いて来てみたんですけど……噂通りですねぇ」
サフェルと入れ替わるようにヒアンシーが驚き半分引き半分。といった表情を浮かべながら入ってくる。
彼女はキャストリスに会ってぬいぐるみを一つ買ったついでに、隣なら一応エラポスの方も覗いて見るか。という感覚でしかなく、冷やかしでしかない。
「意外と売れてるんですね。先輩と同じ嗜好の人が居るなんて……」
「なんでや! カイザー可愛いだろ!!!」
「否定はしませんが……先輩レベルまでの人はオクヘイマ中探してもいないんじゃないでしょうか? とりあえずこっちのぬいぐるみを一つ買いますね」
「まいど」
何だかんだで気に入ったのかおすわりカイザーぬいぐるみを一つ購入し、店から出ていく。
意外とその後も各商品はエラポスの予想を越えて売れていき、大量に用意していたストックはみるみるうちに減っていった。
「噂の水流を辿ってきてみれば……今のうちに首を切った方が良いか?」
「死刑宣告が出るまでは売るぞ!」
客足が落ち着いた頃、セイレンスがやってきて剣をエラポスの首筋に当てる。
反射的に両手を上げて降参の意を示すが、じりじりと詰め寄られ、今にも殺されそうな視線が痛いだった。
「何故、ワタシの商品がない」
「気にするとこそこなの!?」
「当たり前だ。カイザーが最も信用する騎士として、ワタシとカイザーが並んでいないのは納得がいかん」
ケリュドラの臣下として自身とニコイチで無いことに文句があるらしい。
そもそもエラポスはセイレンスに対して同僚以上の感情は持ち合わせていないので、彼女のグッズを作る理由など欠片もない。
結局は自己満足のためにやっているのだ。セイレンスのモノまで作る余裕はなかった。
「ところで、さっきから気になってたんだが……その背負ってる籠は?」
「貝殻や魚達が落とした鱗だ。蚤の市で屋台は出さないが、こうして売って回っている」
籠の中身の量を見るに、残り七割ほどといったところだろうか。営利目的ではないだろうが少し減りがゆっくりに見える。
「……物々交換。していくか?」
「では、カイザーセットを二つずつ貰っていこう。こちらから好きなモノを取っていくと良い」
「思いの外買っていくんだな……」
結局、今回の蚤の市では自分用に確保してあるものしか在庫は残らなかった。
今日で一週間毎日更新達成。
書き貯めしてもないのに、よくもまぁ、ここまでやったなと我ながら思う。