妖怪・カイザー好き好き黄金裔 作:カイザーの椅子
「さて、これはどういうことか、説明して貰おうか。永死卿」
玉座に座ったケリュドラは、跪くエラポスとその前に置かれた先日の蚤の市で出品されていたカイザーグッズを睨みつける。
「カイザーの栄えある覇道をオンパロス全土に知ろしめすために、まずは蚤の市から始めた次第。売上は好調、少なくとも蚤の市に来た人間はカイザーに心酔しているかと……」
「貴様は自分用に制作したとも言っていたが、まさかこれを枕元にでも置いて寝るとでも言うつもりか?」
販売する分には経済効果もあり、実際、報告では馬鹿にならない数字が動いていることを考えると、悪くはなく、セイレンスが考案したサラダにカイザーの名を冠して世に出回ることを許していることもあり、理性では気にすることではないと判断しているのだが、エラポス個人がどう扱うかという点に引っ掛かりを覚える。
「例えば、カイザーちびぐるみですが……出掛けた時に映写ストーンで景色と共に撮影して、そこがカイザーの支配下であることをディアディクティオにてアピールに使わせていただきましょう。
もしくは……戦場に持ち込み兵達の指揮を向上させ、血で汚さないことでカイザーの勝利を完膚なきまでに示して見せましょう」
「……」
最早言葉にすらならない。
デフォルメ化された君主を身に付けて戦場に出る者のシュールさを想像すると、ケリュドラは嘆息することしかできず、横で控えているセイレンスに合図を送ることすら面倒に思えてきた。
「カイザー。どうする?」
「そうだな……」
セイレンスに声をかけられても、判然としない相槌を返すだけで、何処か上の空である。
いつも氷の矢のごとく冷たく鋭いケリュドラの視線はエラポスを貫くも、何処か覇気がない。
普通の人間ならば気付かないが、ほぼ毎日その視線に射貫かれているエラポスだからこそわかる感覚であった。
「……もういい。下がれ」
結局、その日は死刑にされることもなく、集中したいから出ていけと言われ、エラポスとセイレンスは謁見の間から追い出された。
「何故ワタシまで……何かしたか?」
最近のケリュドラは思い付きで過剰な量の花を持って一人で何処かに出掛けたり、今のように生返事になることも多くなってきた。
何かあったにしても、セイレンス自身に心当たりがない以上はエラポスが何かしたのかと勘繰り、疑いの目を向ける。
「俺? うーん。最近はカイザーに告白できてない。とか?」
「聞いたワタシが──」
愚かだった。
前提として、エラポスはいくら振られようがケリュドラのことになると、幾度振られたとしても告白をし続ける妖怪の類いである。
言葉を続けようとした瞬間にエラポスが口を開いて遮る。
「でも、今日は確かに変だったな……いつもはもっと、こう。人をもっと駒とか道具を見るような感じがするんだけど、今日は何か違った」
「……貴様はどっちなんだ」
なんだかんだで細かいところはよく見ていて、何かしらの違和感を感じ取っていたらしく、普段はそれで良いのかということを指摘しそうになるが、どうせ「カイザーの手駒になれるんだったらそれで良くないか?」と真顔で言われることが目に見えていたため、セイレンスは言葉を飲み込んだ。
「ま、今はほっとくのが良いでしょ。これからのことに支障が出るならカイザー自身がどうにかするか。どうにもならなかったら俺達で問題を排除すればいい……まぁ、俺には誰かの代わりに死ぬことしかできないけど」
いつになく真面目な表情と声音のエラポスに呆気に取られたセイレンスは数秒間彼を見詰めてしまう。
すると、次第に照れくさそうにエラポスは頬を掻きながら目を逸らす。
「何だよ。そんなに見詰められたって、俺の心はカイザーのモノだぞ」
「カニが珍しく真っ当なことを言う。と思っただけだ。カイザーも貴様の心など欲しがっていない気にするな」
「そうかい……暇になったしメーレでも飲みに行くか?」
「ワタシが気に入るものがあれば、な」
ケリュドラの胸の内は彼女自身にしか知り得ない。結局は本人が言い出さないのであれば想像で語るしかない。
その間は海底谷で熟成されたモノに劣るが、メーレでも飲んで待つのも悪くはないと、セイレンスは思い微笑んだ。
■■
(こんな物、よくもまぁ手作りで用意したものだ……)
その日の夜、謙譲と称して放置されたカイザーグッズを自室に持ち帰ったケリュドラはカイザーちびぐるみを手に取って細部を確認する。
本人ですら似ていると思うほどの手先の器用さがあるのに、どうして自分へのアプローチはド直球なのかは疑問に思ってしまう。
(しかし、だ。少しだけ小さいな)
サイズ感など顔の特徴等は完璧でデフォルメされたケリュドラそのものと言っても過言ではない品ではあるが、それ故に気に入らない。
蚤の市に出店する際、ケリュドラに声を掛けてこなかったことも、エラポスの言った通りの使用用途にしても、こんなものより本人が直接何かした方が効果的だろう。
決して、ぬいぐるみ如きに嫉妬しているわけでない。ないったらないのだ。
(不敬罪で刑に処すべきだったな。どうしてくれようか……)
エラポスの処刑を如何に行うか考えながら、おすわりカイザーぬいぐるみの下に薄めの書の上に乗せてぬいぐるみといえども座が一定の高さになるように調整する。
(……悪くない)
後日、改善点を纏め、次回の蚤の市では改良版を販売させることを考えながらケリュドラは眠りについた。