「爆破、えげつな。あんた、充分冒険者クラスじゃん。しかも手練れの」
ゼマが息を整えながら笑う。手元のロッドにはまだ微かな光が残り、爆発の余韻がガラスの街並みに揺れて反射している。
「そうは思わないかな、私自身は。レベルも20程度だし。今のドは、火力特化なだけだから」
セオリアは控えめに答えるが、実際には目の前の広範囲で複数の教徒たちが吹き飛ばされ、地面に倒れ込んでいた。赤やオレンジの光が宙に舞い、煌びやかなガラス細工の街並みに鮮烈な軌跡を残す。
しかし仇はまだ多く、肝心の海神は王都の上空で暴れ続けている。教徒たちは「阻む者は容赦なく断罪しろ~!」と叫ぶと、今まで人を避けていた彼らも、邪魔するゼマたちを敵視し始めた。
水位が上がり始めた海水をものともせず、ゼマとセオリアは俊敏に駆け出す。しかし教徒たちは躊躇なく襲いかかる。
「【パラライズサンダー】!」
オレンジ色の稲妻が空気を裂き、教徒たちへと向かう。雨や海水で体が濡れている者ほど電気の通りが良く、体中に痺れが走る。カニの魚人は泡を吹きだし、手足をもつれさせて倒れる。
雷の軌道を追いながら、稲妻が向いた先には金髪が濡れた少年、ララクの姿があった。彼は静かに構え、周囲の状況を見据えながら次の行動を考えている。
街のガラス細工の建物は揺れるものの割れることはなく、雷と光の戦闘の中でも被害は最小限。戦場は暴力的でありながら、巧みに制御された力の舞台となっていた。
「はぁ、お2人とも、ご無事だったんですね
ララクは深く息をついた。無事でいてくれた二人を目の前にして、やっと少し肩の力が抜ける。王都の街はまだひどいありさまだが、それを見つめる余裕も、今は二人の安否を確認することで多少なりとも落ち着いていた。
ゼマとセオリアに近づきながら、ララクは心の中で、果樹園での集合の約束を思い出す。あの時、自分が最も案じたのは、ここにいる二人の安全だった。果樹園が落ち着いていれば、こうして顔を合わせることができる。それだけで安堵感が胸を満たす。
ララクの肩越しに、ゼマが軽口を叩く。
「ララク、テレポ使ったんだでしょ。はは、兵士たちは散らせても、あんたは即座に戻ってきたわけだ」
ゼマの笑みは、状況の苛烈さをまるで無視するかのように明るい。だがその楽観的な態度に、ララクはほっとした。ここにいてくれるだけで、作戦遂行の心強さは格段に違う。
セオリアは静かに言葉を紡ぐ。
「……ララク、こんな状況だけど、ありがとう。果樹園は……なんとか落ち着いたから」
その声には、短い安堵と、しかし戦場の最中での責任感がにじんでいた。ララクは頷き、状況を整理する。人魚である彼女がここまで来てくれたことは、救助活動において大きな戦力となることを意味していた。
「いえ、そこまでは上手くいったんですが……過激派を甘く見ていました。作戦を即時決行するとは。予測できた事態でした。そのせいで兵士たちの姿と圧倒的に少ないです」
ララクは言葉を慎重に選びつつも、現実の苛烈さを淡々と伝える。戦況を把握し、次の行動を考えるのは彼の役割だった。
「だよね~。けどあんたがいんだし、なんとかするしかないでしょ。っはい、まとめてみて。それに従うから」
ゼマは軽やかに応じる。疲れの色はあっても、その目は確かな信頼を向けていた。ララクは短く息をつき、三人の行動計画を頭の中で再構築する。
「ええ、挽回します! では3人でそれぞれ祠を探しながら、救助活動をしましょう。セオリアさん、あなたなら出来ると思うんですが?」
セオリアの瞳は決然としていた。小さく頷き、声に力を込める。
「やらせていただきますよ。ここまで来て見捨てて帰ったら、王女として最低だから」
その覚悟の表情を見たララクは、人魚であり戦闘力も兼ね備えた彼女ならば、この混乱の中でも救助活動をしっかりこなせるだろうと確信する。
三人は互いに目で確認し合い、短い間に戦況を見渡す。街はまだ波に揺れ、建物やガラス細工の装飾が光を乱反射させる。そこに漂う緊張と混乱の中で、彼らは身を低く、素早く走り出す。
王都の一角で、崩れた屋根の下に閉じ込められた人々を救い、瓦礫に絡まる者たちを引き上げる。遠くで暴れる海神の影を横目に、祠を探しながら、三人の足は光の筋となって都市の混乱を駆け抜ける。
こうして、ララク、ゼマ、セオリアは、王都を守り、被害を最小限に留めるために、それぞれの力を駆使して動き出すのだった。