祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第419話 

王都ミズクアの教会前の広場。周囲には池のようにぽっかりと開いた水場があり、その縁を取り囲むようにぞろぞろと現れる影があった。カニの魚人、クラブスの集団である。

 

蒼濤派閥の連中とは雰囲気がやや異なり、彼らの格好は冒険者に近かった。鎧や武具を身に着け、戦いに備えている。

 

「いくぞぉ、同士たちよぉ! 王城を攻め落とすのだぁ!」

 

先頭に立つリーダー格のクラブスが声を張り上げる。頭には大きめの帽子を被り、その姿はいかにも海賊らしい。実際、彼らは海賊団だった。

 

「城攻めなんて、見過ごすことはできないね。海賊どもよ」

 

鋭い声が響いた。姿を現したのは離島の人魚、セオリアだった。濡れた黒髪を背に垂らし、その目はじっとりとした鋭さを帯びている。

 

「おー、これはこれは。行方不明だった王女様ではないですか。我輩、ネオ貴族のカニ甲爵と申します。今後会うことはないでしょうが」

 

「あなたたちも、この都市を海で満たすつもりなのね」

 

「……ぼっほほ。そんなことに興味はありませぬ。アスビアの教えも、正直よく分かりませぬので。協力関係なだけです。作戦が終われば、祠は我輩たちが頂きます」

 

クラブス海賊団は確かに海神教の信徒ではあった。だが蒼濤派閥に属するわけではなく、独自の思惑で動いているようだった。

 

「……祠を手に入れたのに、どうしてここに? 仲間割れして共倒れしてくれればいいのに」

 

セオリアは眉をひそめる。祠を海賊が独占することを、アスビアヘルムが許すはずがないのでは、と考えたのだ。

 

「ふん。あんな軟弱な教徒たちに負けるはずはありませぬ。それに、我々の狙いは同士の解放。切磋琢磨してきたタコ箔爵、イカ男爵、そしてそれらの団員たち。彼らに自由を与えるのです!」

 

海賊たちの仲間は王城のどこかに捕らえられていた。王城襲撃の際、本来の目的は祠であり、仲間を探す時間は足りなかった。そのため城内に残されていたのだ。今こそ警備が薄くなったこの時が、奪還の好機というわけだった。

 

「……貴族って言いながら、ただの海賊じゃない。野放しにはできないし、ここで私と戦ってもらおうかしら」

 

セオリアの声は低く、挑発的だった。

 

「ぶおっほっほ。あなたが? ぶふふふ」

 

カニ甲爵が腹を揺らして笑うと、部下たちもカチカチと鋏を鳴らして嘲笑する。

 

「あなたはこの国を捨てたのでしょう? いまさら戻って来て何ができるというのです。あなたは名ばかりの王女なのです。本物の高貴なる存在というものを教えてあげましょう」

 

カニ甲爵は巨大な蟹ばさみを振り上げ、カチカチと威嚇音を響かせた。広場の水場に波紋が広がり、海賊たちの殺気が空気を覆っていく。

 

「……捨てただと……? そんなはずないだろう……!」

 

セオリアの双眸がさらに鋭さを増し、怒気を孕んだ光を放つ。胸の奥で抑え込んでいた感情が一気に噴き出し、声の熱は周囲の空気すら震わせた。

 

「この国は……私がこのままの、煌びやかなまま保ってみせる。あなたたちはもう、害獣認定だ。……ぶちのめしてあげるよ……! 海賊たち」

 

白く整った指先が迷いなく組まれ、人差し指と中指が突き立つ。そこから揺らめく黒色の音符が浮かび、まだ輪郭の定まらない魔力の震えが空間を満たす。

 

煌めくガラス細工の王都を背に、王女としての覚悟を決めたセオリア。その姿は、幼さを脱ぎ捨てた戦士の気配を帯びていた。彼女の戦いが、ここから幕を開ける。

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