祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第420話 

市街地の通路を、ゼマは水飛沫を蹴り上げながらひた走っていた。時折塀を駆け上がり、屋根を跳び移り、また地上へと舞い降りる。その動きは獲物を追う野生獣のように躍動的だったが、彼女には理由があった。

 

「ジャアアア!!」

 

耳をつんざく叫び声とともに、【シャークバイター】の1匹が水面から飛び出し、ゼマの背中すれすれを通り過ぎる。鋭い歯が空気を噛み、着地と同時に石畳へ深い傷を残した。

 

「あっぶね~。どんどん濡れて来てるし、もうほぼ海じゃねえかこんなの」

 

息を吐きながら軽口を叩くが、足は止めない。押し寄せる鮫の顎をロッドで迎撃しつつ走り続ける。

 

遥か奥では、巨大な海の神がいまだ暴れまわっていた。その存在が引き起こす波は街へ絶え間なく流れ込み、石畳の通りを水路のように変えつつある。人が暮らす区画はじわじわと水に呑まれ、時間の問題で深い海と化すだろう。だからこそ、彼女は高所にある塀を選んでいた。だがその幅は足二つがようやく収まるほどの細さ。バランス感覚と俊敏な着地力が常に試されていた。

 

「地上の猿が! っが、破壊活動は順調に進んでいるぞ!」

 

追いすがる本体のシャークス族の男が、余裕を含んだ声で嗤う。鋼のような脚が海水を蹴り、濡れた石畳を軽々と駆ける姿には、魚人特有の適応力があった。彼にとっては水に沈む街の方が都合が良い。呼び出した【シャークバイター】たちも水を得たかのように動きが増し、速度も鋭さも倍増していた。

 

塀や住居の壁は鮫の突撃で粉砕され、色鮮やかな装飾や光沢のある建材が無残に砕け散っていく。その煌めきは、戦場の混沌の中で逆に哀しいほど鮮烈に目に映った。

 

(問題はそこよな~。祠なんて見つかんないし、これじゃあただ逃げてるだけ)

 

心中で毒づいたゼマは、意を決して速度を上げ、塀から塀へと大きく跳んだ。

 

「回転式【ホーリースイング】!」

 

その場で数度回転し、ロッドに遠心力を溜め込む。次の瞬間、【伸縮自在】の効果でクリスタルロッドが伸び、しなりながらシャークスへと振り下ろされた。衝撃でロッドがきらめき、周囲の光沢ある建材や割れた飾り石と鮮やかなコントラストを描き出す。

 

「っぐぅ! っが、俺の脚を止めたところで、我が先祖が貴様を蝕む!」

 

両腕を交差させて受け止めるシャークス。焼けつくような力が腕に走るが、痛みを物ともせず踏みとどまった。その隙を逃さず、水中の【シャークバイター】が襲いかかり、鋭い歯がゼマの腹をかすめた。鋭利な切れ味に皮膚が裂け、赤い筋が水に溶けて流れ出す。

 

(あの鮫男、意外とレベルが高いな? それか、【防御力上昇】系のパッシブを持っているのか)

 

顔をしかめながらも、ゼマは跳躍して再び塀の上に戻り、走りを再開した。余裕はまだある。しかし、背後で破壊されていく建物は止められなかった。白壁の住居、日常の洗濯物が干された生活の光景が、次々と水と牙に呑み込まれていく。

 

縁もゆかりもない街だが、住民たちの暮らしを壊されるのは、冒険者として胸に重くのしかかる。人々の安寧を守るための戦いであるはずなのに、守り切れていない。

 

(あいつといるから勘違いするけど、私はまだまだ中堅ぐらいの冒険者だ。ここはハンドレッドらしく、頭を、脳を使うとするか)

 

足を動かしながらも冷静に策を組み立てていくゼマ。その背を、獲物を逃すまいと凄まじい眼光を放つシャークスが執拗に追い続けていた。

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