祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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404話

 王都ミズクアから少し船を進めた先にある離島。人はほとんど住んでいないが、土地自体は広く、居住区と自然地帯がほぼ半々に分かれていた。ララクたちが立っているのは砂浜の近くで、この先から海に出れば、王都の漁港に繋がる航路が見える。視力の良い者なら、遠くに停泊する船と港の建物をかすかに確認できた。

 

 砂浜を上がると、そこにはガラスを主体にした建物が見えてくる。光を受けて壁面が反射し、朝の曇り空でも柔らかく煌めいていた。ここが依頼主の住まいで、そのすぐ隣には果樹園が広がっている。緑が生い茂り、木々の間から果実は見えにくいが、鮮やかな緑の陰に宝物のように隠れているのだろう。

 

「すいませ~ん。ギルドで依頼を受けた者でーす」

 

 ララクの声が、硝子の扉の前に響くと、ゼマが少しふざけた、真面目なのか判断できない声で続ける。

 

「おさるさん駆除班で~す」

 

 その瞬間、ガラス細工の扉がゆっくりと開き、依頼主の女性が現れた。やる気に満ち溢れたその姿は、人魚の血を引くような長めの耳を持ち、目はきりっとしながらも唇は自然な赤さで印象的だった。化粧はほとんどしていないらしく、元の血色の良さが目立つ。肩まで伸びた桃色の髪は、光を受けて淡く艶やかに揺れている。服は貝殻を散りばめたような煌びやかなタイトワンピースで、都の派手さに負けないデザインだが、ゼマの目には「ほえ~、美人だしオシャレさんだな」と映った。王都周辺の人にとっては日常的な装飾だが、地味な服を手に入れるほうがかえって難しいという事情もあるらしい。

 

「あのもしかして、えっと、セオリアさんですよね。あなたも参加するんですか?」

 

 ララクが少し声を潜めて尋ねると、依頼主である20前後の女性はやる気に満ちた表情で応じる。

 

「あったりまえでしょ。あなたたちが本当に果物を傷つけないか分からないし、私も一応だけど戦えるから。冒険者に比べれば非力だけれど」

 

 そう言うと、セオリアは扉を閉めて外に出た。果樹園の緑を背景に立つその姿は、害獣を一掃する気概で満ちていた。ララクとゼマは、そのやる気に少し圧倒されつつも、これからの作戦を思案し始めた。

 

「っさ、こっちへ来てよ。特にあいつらは、パイナップルが好きみたい」

 

 セオリアはララクとゼマを果樹園の奥へと案内する。日差しをやや遮る曇り空の下、枝にぶら下がったオレンジパイナの果実が淡く光を反射していた。枝にはいくつかの実が齧られた跡を残し、いくつかは無くなっている。ゼマは無邪気に笑いながら、それを見てのんきな声を漏らした。

 

「あ~あ、盛大にやられてますな~。まぁ、旨そうだからね」

 

 セオリアはその発言に眉をひそめ、首をきりっと動かして長い目じりでゼマをぎろりと睨む。その視線にゼマは少し身を引き、微かに息を詰めた。

 

「うっ、まいよ。味の証明になっている反面、残念だけどあいつらはお得意さんじゃないから。育てたいだけで育てているわけじゃない。売り物にして生活しないといけないからね」

 

 果樹園の空気には、育てた果実を守ろうとする女性の真剣さと、商売を営む現実が混ざっている。ララクは木々の間に潜む気配を、視力だけでなく聴覚と嗅覚で探りながら、静かに息を整えた。枝葉の間から甲高い声が飛び交う。

 

「ケキャっ」

「ケケキヤッ」

 

 赤い毛が少しうねりながら伸びた小型の猿たちが、果実に齧りつきながら忙しなく動く。大きな瞳が光を反射し、枝を揺らすたびに落ちる果汁の匂いが園内に漂った。ランブータンと呼ばれるその種族は小柄ながら鋭い爪先を持ち、害獣として十分な力を示している。

 

 ララクは呼吸を整え、身体の感覚を研ぎ澄ます。ゼマも棒を握りしめ、猿たちの小さな鳴き声と動きを注意深く追った。果樹園の緑の中で光が揺れ、ランブータンたちの気配が迫る。小さな猿の群れを前に、二人の緊張感が静かに高まった。

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