祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第434話 

 シーサーペントは巨体をしならせ、海中を矢のように駆け抜けた。尾の一振りごとに重い水圧が弾け、轟音が泡の奥へと突き抜けていく。ララクは背にしがみつきながら、その力強さに振り落とされそうになりつつも必死に耐えた。

 

 王都を支える柱や水路が眼下を交差する。だがシーサーペントは迷いなく身体をくねらせ、障害物をすり抜けて進んでいく。その動きは、海そのものが彼に道を譲っているかのように滑らかだった。

 

 パッシブスキル【水感知】の効果が発揮されている。

 

【水感知】

 効果……周囲の水を介して情報を得る。

 

 わずかな潮流の揺れや、遠方で起こる乱れさえも把握し、最適な進路を描き出す。ララクの全身にも水の振動が伝わり、その力強い進撃に胸が熱くなる。

 

 やがて、蒼濤派閥アスビアヘルムのローブをまとった教徒たちが現れた。槍を構え、狂信に染まった瞳をララクへ向けて突進する。だがシーサーペントが尾を叩きつけ、アクションスキル【波起こし】を解き放つと、奔流が水路を揺るがし、教徒たちは泡の渦に呑まれて散り散りに弾き飛ばされていった。

 

 その先、視界が急に広がる。

 

 正確には、広間に見えるそこは都市の建造物が崩れ落ち、地盤が裂けた巨大な空洞だった。瓦礫が沈み込み、砕けた柱が水中を漂っている。

 

 そして、その中心に存在するものを見て、ララクは息を呑んだ。

 

 大男の上半身を思わせる巨大な渦。幾重にも折り重なる水流が筋肉の束のようにねじれ、肩や腕を形作っている。輪郭は曖昧なのに、確かに人の姿をしていると脳が理解してしまう異形。肌に触れる水粒子ひとつひとつが、意志を持つかのように震えていた。

 

「っ! (海神の胴体か!?)」

 

 圧倒的な威容。ララクの胸を圧迫するような存在感。

 

 その下には祈りを捧げる教徒たちが集まっていた。両手を組み、瞳を閉じ、外界の騒乱を無視してただひたすらに祈り続けている。

 

 さらに奥、祈りの中心には白の大理石を思わせる石板があった。表面には幾何学的な紋様が刻まれ、青白い光を脈打たせている。そこから流れ出す光が海神の肉体を形作り、渦と共に広がっていく。

 

(あれが……海神を呼び下ろす祠……!)

 

 ララクの目に、はっきりと確信が宿った。

 

 ララクは少し疑問を抱いた。祈りによって召喚されるのだろうが、その人数は10人にも満たない。わずかな人数で、都市全体を揺るがす勢いの海神を呼び起こしていることになる。ララク自身の身体に蓄えられた数百人分の魔力を思えば、あまりにもコストパフォーマンスが良すぎる。

 

「ラストスパートにしよう、このひと泳ぎを」

 

 シーサーペントが低く唸るように声をあげ、ララクの目的は明確になった。わらわらと教徒たちが阻む。海中で生活する者たち、タコやイカ、エビの魚人、そして人魚族は、槍だけでなく巨大なハンマーや棍棒、鉤鎖など多彩な武器を携えて立ち塞がる。水中で振り回される武器は、時折衝撃で砕け、金属の破片が小さく弾ける。

 

 だが、シーサーペントの圧倒的な存在感の前では、彼らの勇気も虚しく弾き飛ばされる。尾を振れば水圧でハンマーも槍も弾き飛び、口を開けば渦巻く水流が魚人たちを翻弄する。尾先が柱や瓦礫に触れれば、道を塞ぐ武器や防具は破壊され、砕けた破片が水中で舞う。タコ族の長い触手に巻き付かれそうになっても、尾の一振りで絡みを切り裂き、イカやエビの魚人も棍棒や槍を押し流される。

 

「くっ、外来者めぇ! 負けるかぁあ!」

 

 叫ぶシャークス族の男たちも、尾の一撃で背後に飛ばされ、渦巻きの中で必死に泳ぐしかない。人魚族の女性たちは三又槍を振るうが、シーサーペントの巨体の鱗や尾の圧力に弾き飛ばされ、水中で身を翻すしかない。

 

 ララクはその巨体の背に身を預け、尻尾で生まれる波を利用してどんどん前進する。柱や瓦礫を避けつつ、水圧と流れを読みながら、教徒たちを容赦なく吹き飛ばしていく。水中で巻き起こる渦と破壊の連鎖、砕ける武器の音が響く中、シーサーペントは途切れることなく、祠の存在する奥へと突き進んでいった。

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