祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第440話

私たちとハピナの生活は、私の髪が彼女と同じくらいの長さになるまで続いていった。伸びた前髪はさすがに視界の邪魔になったから、母に切ってもらった。ハピナの髪も伸びていったけれど、彼女は長いままが気に入っているようで、この島に来た時と変わらず背中まで垂れるシェルピンクのロングを維持していた。その髪を毎日2つに結ぶのが、すっかり彼女の習慣になっていた。

 

「ハピナ、これで真似できるよね?」

「……良い長さだね。でも、本当にやるの? 絶対に怒られるよ」

 

リビングの鏡の前で並んで座り、私たちは小声で笑い合った。母はちょうど外出中で、果物を売る商人との取引に出ていた。家は決して広くはないから、母の目を盗むのは難しい。だから私は、この日をずっと待っていた。髪が伸びて、母が家にいないその瞬間を。

 

「あったりまえじゃん。っふふ、これの出番が来ましたな~」

 

そう言って私は、棚に隠していた小瓶を取り出した。商店でこっそり買った魔液スプレーだ。ショッキングピンクの液体が透けて見えていて、見るからに母に見つかれば叱られる代物だった。

 

「覚悟があるなら、手伝うよ」

 

ハピナは少し眉を寄せながらも、しっかりとした声で言った。最初はのんびり屋に見えたけれど、暮らしていくうちに彼女が冷静で頼れる一面を持っていることを知った。けれど、同時に子供らしい無邪気さもあって、こういういたずらには結局付き合ってくれるのだった。

 

彼女はスプレーを手に取り、私の髪に向かって噴射した。

 

シュウッ、と小気味よい音が響く。すぐに鮮やかなピンクが紺色の髪に広がり、鏡の中の私はみるみる別人のように変わっていった。その色は派手すぎるくらいだったけれど、不思議と胸が高鳴って仕方なかった。

 

私は彼女になりたかった。ただ単純に、大好きだったから。初めてできた友達で、姉妹みたいな存在で。好きな人に近づきたい、憧れをなぞりたい。思春期に入る前の、根拠のない純粋な無謀さが、私を突き動かしていた。

 

最初にスプレーをかけたとき、私の髪はまだまだらにしか染まっていなかった。紺色とピンクがまだら模様のように混ざり合い、光に照らすと濁った色合いが浮き出して、どう見ても不自然だった。

 

「ちょっとまだ足りないね」

 

ハピナはそう言うと、もう一度シュッと音を立ててスプレーを噴きかけた。霧状の液体が髪にしっとりと広がり、甘い薬草のような香りが部屋に漂う。ピンクのしずくが髪をつたって、床に小さな点々を作った。私は思わず首をすくめたが、彼女は真剣な表情のまま、指先で丁寧に髪を梳き、液体を根元までなじませていった。

 

時間が経つにつれて、紺色がだんだんと薄れていき、鮮やかなピンクが全体に広がっていった。光の角度を変えるたびに髪がふわりと揺れ、均一に染まった色がきらめくように映る。

 

「ここまできたら、パーフェクトに似せましょうね~」

 

ハピナはブラシを手に取り、私の髪をゆっくりとかし始めた。ひっかかりを確かめながら、根元から毛先へと滑らせるたびに、さらさらとした音がして、ピンク色がより一層輝いていく。

 

「この辺、もう少し整えた方がいいね」

「ん、痛っ……でも大丈夫」

 

軽く引っかかる部分をほぐしながら、彼女は器用にブラシを動かした。やがて髪は柔らかくまとまり、彼女の背中にだらんと伸びるロングヘアと瓜二つになっていった。

 

ハピナは満足そうに小さくうなずき、髪ゴムで私の後ろ髪を二つに分けて結ってくれた。鏡の中に並んだ姿は、写し鏡のようだった。

 

「っへ、えへへ。似てる~」

「セオちゃんは美人ですなぁ~」

「あんたのほうでしょ」

 

笑い合いながら、私はハピナの頬をむぎゅっとつまんだ。ぷにっとした感触が心地よくて、彼女が少し拗ねた顔をするのが可笑しかった。私は少し丸みのある彼女の顔が好きだった。私はちょっと、面長な気がしてる。

 

服も同じワンピースに着替えると、瞳の色も含めて、顔の形以外はほとんどそっくりになった。並んで鏡を覗き込むと、違いを探すのが難しいほどだった。

 

そんなふうにして遊んでいたら、扉の開く音がして、私たちはびくりと肩を跳ねさせた。母が帰ってきたのだ。振り返ると、母とばっちり目が合った。

 

「あらら。私、双子を産んだ覚えはないんだけどな~」

 

のんきにそう言って笑う母を見て、胸の中の緊張が一気に抜けた。

母は1人で私を育ててくれたこともあって、子育ての仕方が、もしかしたら世間とずれていたのかもしれない。特に怒られた記憶もない。あとは、出産の話もたまーにしてくれた。(逆子のまま生まれたんだよ~、セオは)と笑っていたっけ。

 

私が髪を染めた日、ハピナは見た目も気持ちも、より深いところまで近づいた気がした。鏡の中に並んだ2人の姿は、その絆を映すように見えた。

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