祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第441話

 私がハピナと似だしてから、少し時が経っていた。

 

 その日は私とハピナ、そして母の3人で、近くの海を泳いでいた。海水浴ではない。母が持ち出した大きな網を広げ、食料を確保するための漁だった。

 

「もーと、もーと離れてね~」

 

 指示をする母が網の右端をしっかりと握り、私とハピナは左端を持って海中に広げていく。青い水面が太陽を反射してきらめき、網の縄がその光を受けて白く光った。私たちが泳ぐたびに小さな気泡が尾から弾け、すぐに浮き上がっていく。

 

「私、海好き~」

 

 誰にも聞かれていないのに、私は思わず声を上げていた。潮の香りが鼻に抜け、体を包む水の感触がすべすべとして気持ちいい。尾びれを大きく動かせば、波の抵抗がぐっと伝わり、身体ごと押し流される。重さを感じない海の中では、自分が魚になったみたいに自由だった。

 

「はい、セオちゃん集中だよ。食べ物確保なんだから」

 

 ハピナが少し頬を膨らませ、こちらを睨む。彼女の桃色の髪が水の中でふわりと広がり、光を吸いこんで揺れているのが綺麗だった。私は笑ってごまかしながらも、彼女の言葉に従い視線を網に戻した。

 

 私とハピナの姿は、この時もまだそっくりだった。あの日以来、母に特に怒られることもなく、私は調子に乗って魔液スプレーを常用するようになっていた。髪が元の紺色に戻らなくなったのは、いつからだっただろう。以前は時間が経てば自然と地の色が浮かんでいたのに、気づけば桃色が完全に定着してしまっていた。

 

 説明書を早々に失くしてしまったのが、まずかったのだと思う。他の色にも染められなくなり、母と同じオレンジ色を試すことはできなかった。そこは少し残念だった。

 

 それでも、私にとっては結果的に良かった。元の色はそこまで気に入っていなかったし、何よりずっとハピナと同じ髪でいられることが、どうしようもなく嬉しかったから。

 

 水面下で潮の流れに身を任せながら、私は目を細めて周囲を探した。水の透明度は高く、光が揺らめき、砂の粒子がふわりと舞う。小さな気泡が頬をくすぐり、ハピナと母も同じように水中で注意深く周囲を見渡している。

 

「ん……あれ?」

 

 目の端に、かすかな影が揺れた。光の屈折で波打つその姿は、ただの魚影ではない。近づいてみると、赤い鱗のヒカリカマス、淡い青緑のアオサギウオ、縞模様のクロタテガミ、透明なガラスヒラメが入り混じった大群が、水深の少し深い場所で静かに泳いでいた。

 

「すごい……いろんな種類が混ざってる!」

 

 ハピナの声が耳に届き、胸の奥がわくわくと高鳴るのを感じた。混群――異なる魚たちが集まって泳ぐ光景は、水中の小さな祭りのようだった。

 

 私は小さく息を整え、指先で水をかき分けながら位置を調整する。ここでスキルの出番だ。

 

「おめめ、閉じてよ~ 【音爆弾・ラララ】」

 

【音爆弾ラ】

効果…… 爆音を強く発生させる音爆弾を生成して射出する。

 

私はこれを3つ複合させたスキルを発動した。今だったらレベルも少し上がってるし1つで十分かもしれない。

 

 手元から、橙色の音符の形をした音爆弾が水中に飛び出す。ぷくりと泡のように広がるその音符は、波に揺られて光を反射し、まぶしい橙色の光を放ちながら爆音を発した。混群の魚たちはその音に驚き、方向を変え始める。魚たちは私の放った音符に誘導されるように、一斉に泳ぐ方向を変えていく。

 

そして私たちは、水の抵抗を感じながらも、3人で力を合わせてさらに網を広げる。音符型の音爆弾から伝わる衝撃で魚たちは泳ぐ速度を落とし、私たちの網へと自然に導かれていく。

 

 少しずつ魚群を押し込みながら網を引き上げる。潮の香りと波の音が混じり、魚たちの跳ねる水音が耳に届く。捕獲した混群は大小さまざま、赤や青、透明の魚たちが入り混じり、海の豊かさをそのまま抱えているかのようだった。

 

 浜に着く頃には、私もハピナも母も水しぶきに濡れ、息を弾ませながらも満足そうに笑い合った。

 

「これで家に籠れるね」と母は安堵していた。私たちが群れを狙ったのには理由がある。普段から釣りもするし、食料の確保も兼ねていたのだ。海面は荒れ、風にあおられて小波が跳ねる。空は灰色に覆われ、遠くにはうねる白波が見える。海の匂いが鼻をつき、潮の味が唇に残る。私たちは濡れた網の端を握りながら、体をしっかり固定しつつ波に揺られていた。

 

「台風何かこわくなーーーい!」と私は網の端を持ちながら叫んだ。この頃の私は、無邪気というより普通にうるさかった。風に負けまいと声を張り上げ、波しぶきが顔にかかるのも気にしなかった。

 

「……魚、いっぱい、食べる」とハピナはたどたどしく言った。頬を赤くしながらも、目は真剣に網に向かっていた。

 

嵐の時期になると、私たちはいつも備えていた。私と母にとっては、特に嫌な時期でもなく、自然の営みに従って大人しくするのが当たり前だった。潮の香りに混ざる雨粒の匂い、波音にかき消される小さな声、海の深い青の色味が荒れる空と混ざって、不思議な静けさを作り出していく時期だ。

 

だけどハピナにとっては違った。もっと早く気がついてあげられれば、何かが変わったのかもしれない。嵐が離島に近づく中、ハピナは少し体調を崩したようだった。肩が小さく震え、呼吸もいつもより少し浅くなっている気がした。波の揺れに顔をしかめる様子を見て、胸の奥に小さな不安が生まれた。

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