祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第406話

「っはい、あとはクエストをこなしてよね。私だと被害増大だから」

 

セオリアは肩を竦め、指先からまだ魔力の余熱を漂わせていた。さきほどの複合音爆弾の余波が果樹園の空気を震わせ、枝葉がかすかに揺れ続けている。

 

「仕事をこなします! ゼマさん、このままだと桃すらいただけませんよ」

 

ララクは一歩踏み出し、甘い果実の香りと混じった獣の匂いを鼻に感じた。

 

「だな! 労働チャンスは逃がさない!」

 

ゼマが低く笑い、ロッドを構える。その視線の先には、あちこちの枝や幹にランブータンたちがしがみついていた。耳を押さえてうずくまる者、目を細めて枝の陰に隠れようとする者、ぐったりして尻尾だけがかろうじて揺れている者――個体数は10や20ではきかない。

 

「ギャギャッ!」

「ギャァ!」

枝葉の間から悲鳴混じりの鳴き声が響き渡る。中には耳や目を押さえながら不規則に飛び移ろうとするが、足を滑らせて下の枝にぶつかる者もいる。

 

依頼主であるセオリアの攻撃で大半は戦意を失っているが、このまま放置すれば再び動き出す可能性は高い。報酬をもらう立場として、この状況は放っておけない。

 

ララクは両手に魔力を集めた。

「【ストレングスホールド】」

 

透明な糸が蜘蛛の糸のように放たれ、複数の猿に同時に絡みつく。腕や脚、尻尾に巻きついた糸がぎゅっと締まり、「ギャギャッ!」と短い悲鳴を上げた個体が枝ごと揺らすが、やがて動きが鈍っていく。別の枝では、二匹が糸に絡まりながら互いにしがみつき、恐怖に震えていた。

 

「【刺突乱舞】!」

 

ゼマがロッドを振り抜くと、先端から連続して光の弾丸が放たれる。「ギャッ!」と声を上げた高所のランブータンが正確に撃ち抜かれ、枝の上から転げ落ちる。数匹が同時に落下し、地面に散らばる葉の上でごろんと転がった。中には驚きのあまり木の幹に自分から飛び降りる個体もいる。

 

「ギャァ…ギャ」

弱々しい鳴き声があちこちで聞こえる。狭い範囲での光弾の連射とララクの糸による拘束で、猿たちは次々と無力化されていった。果樹園の騒ぎは徐々に収まり、残るのは捕えられた数十匹のランブータンと、枝に引っかかった葉や果実だけだった。

 

こうして、抵抗する間もなく全てのランブータンは捕らえられた。

 

そしてララクは両手を前に突き出し、魔力を凝縮させる。

「【アイアンプリズン】」

 

効果……対象に合わせた鉄の織を創り出す。

 

枝葉の間や地面の上、拘束されたランブータンたちの周囲に、黒みを帯びた鉄の格子が次々と形成されていく。猿たちは「ギャギャッ!」「ギャァ!」と鳴きながら、鉄の隙間から腕を伸ばして暴れるが、格子はびくともせず、やがて観念したように動きが鈍っていった。枝葉の揺れも収まり、果樹園には鉄の檻と、怯えた鳴き声だけが残る。

 

「っお、捕縛上手だねあなたたち。はぁ、これで収穫が見込めるよ。ご苦労でした」

 

セオリアは息を吐き、ぺこりと頭を下げる。その声音は落ち着いていたが、表情はまだ硬さを残している。ただ、目元にはかすかな緩みが見え、心底助かったことを示していた。

 

「……あの、それよりも、先のスキルについてお伺いしても? 初めて聞くスキルなもので」

 

ララクは視線を輝かせ、先ほどの音爆弾を思い出している様子だった。

 

「あー、珍しいんだっけ私のスキル。見て貰った通り、色んな効果を持った音符の爆弾を作れるの。けどさモンスターにダメージを与えようと思うと、果物も爆破してしまうからさ。便利だけど不便なのよ」

 

セオリアは少し肩をすくめ、困ったように笑う。

 

「音で、レとラがあるということは……?」

 

「ドレミファソラシドだ!」

 

クイズに答えるように、ゼマは胸を張って、存在しないボタンを押す仕草をした。

 

「っま、セオリー通りだよね。つまらなくて悪いね」

 

「いやいや、その真逆ですよ! 希少スキル、しかもシリーズ化されてるなんて! ぜ、全部見たいところ……! ですが……」

 

「……さっさと、こいつらを引き渡さないとね。そしたら桃、切って提供させてもらいますよ」

 

「やりぃ! 結構期待してハードルあがってっから」

 

ゼマは片目を細めてセオリアに目配せし、足元の檻に視線を落とす。鉄格子越しにランブータンたちがじっとこちらを見上げており、その中にはまだ「ギャ…」と弱く鳴く者もいた。鉄の檻の並ぶ果樹園は、ようやく静けさを取り戻しつつあった。

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