祝・追放100回記念 9巻   作:高見南純平

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第446話

 王城の外階段。

 大理石を削ったような白亜の段を下りた先で、セオリアは立ち止まり、深く息を吐いた。玉座の間で全てを告げ、王と王子に真実を打ち明けた後だった。心のどこかで何かがようやくほどけた気がして、静かに自分を見つめ直していた。

 

 その背にはララクとゼマが寄り添うように並んでいた。二人とも言葉少なに、けれど確かに彼女を支えている。

 

 今はただ、王都を覆った嵐の爪痕がすべてを物語っていた。崩れ落ちた硝子の街並み、ひび割れた舗道、沈んだ地盤。かつて透明な輝きを放っていたガラス製の都は、傷だらけで無残な姿をさらしている。

 

 だがその中で、人々は休むことなく動いていた。兵士たちが声を掛け合い、瓦礫を担ぎ出し、崩れた壁を支え直す。そこには王子の側近、ティラノとタンバリィの姿もある。

 

 短髪のティラノは汗に濡れた額をぬぐいながら声を張った。

「何か困ったことがあったらすぐ言ってくれ。(ここで成果あげて、少しでも王の怒りを和らげないとな)」

 その必死な表情は、戦場で剣を振るう時以上に切実だった。

 

 一方で、釣り自慢のタンバリィは破損した倉庫の整理にあたりながらも、笑みを浮かべる余裕を見せる。

「食料は私に任せて。直伝技で大漁してくるから」

 口調は軽やかだが、その目は本気だった。混乱の只中でも、空気を和らげようとする気遣いが見え隠れしていた。

 

 セオリアはその姿を見つめながら、瞳を細めた。

 崩れた街路の脇では、人間と人魚や魚人が協力していた。年老いた女性が瓦礫の中で落とし物を探していれば、人魚が水底に潜り、きらりと光る装飾品を拾い上げて渡す。反対に、瓦礫で傷を負った魚人の若者を、人間の医者が手際よく治療している。互いの力を差し出し合い、支え合う光景が、傷だらけの街に新しい息吹を与えていた。

 

 ル・マリネ──陸と海がつながり、誕生したこの国。

 過激派の怒りと海神の降臨による破壊活動によっていまは傷ついているが、それでもなお人々はともに生きる道を選び続けていた。

 

 そんな景色を見つめながら、セオリアは口を開いた。

 

「私さ、これから王都にも顔を出すことにするよ。育てた果物をおろしに来たり。……私、あの子がなんで、この場所に帰りたかったのか、少し理解できたから」

 

 その横顔は、悲しみを抱えながらも新たな未来へ歩み出そうとする静かな決意を湛えていた。

 

「髪は切るの?」 

 

 ゼマにそう問われてセオリアはふと髪へと手をやった。背を覆う長い後ろ髪が、風にさらりと流れる。

 

「……今はまだ、あの子の影を残していたい。だけどいつか、私の人生を歩みたい。……そう望んでいるような気がしたから」

 

 その声音には決意が宿り、同時にどこか寂しさも混じっていた。けれど確かに前を見ようとする強さがあった。彼女が一歩を進みだす姿に、ララクとゼマは互いに顔を見合わせ、胸の奥でほっと息をつく。

 

 その空気をやわらげるように、ララクが額を軽く叩きながら思い出す。

 

「っあ、色んなことがありすぎて後まわしになっていましたけど、クエスト報告をギルドにしてません」

 

「そうじゃん。報酬貰ってないじゃん。っあ、桃は貰ったけど。またくいてぇ────ー」

 

「あなたたちには箱であげるよ。自慢の桃を」

 

 その申し出に、ララクは姿勢を正し、改めて尋ねた。

 

「……それじゃあ今更ですけど、クエストは成功でいいですよね?」

 

 セオリアは静かに、しかしはっきりとうなずいた。

 

「あぁ否定する余地がないね。ララク、ゼマ。あなたたちのおかげで、私は救われた」

 

 その言葉に、風が一層やわらかく頬を撫で、瓦礫に囲まれた王都に、少しずつ未来へ進む空気が満ちていった。

 

 セオリアはうなずきながらも、表情にはまだ硬さが残っていた。満面の笑みには届かない。けれど、その赤い瞳はふと傾いたようにやわらぎ、光を含んでわずかに笑っているように見えた。

 

 そのささやかな変化を見逃さず、ララクは胸の奥で満足げにうなずいた。確かな報酬を貰ったと、冒険者としての生きがいを感じるのだった。

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