ガレージで優に拳銃の扱い方などを教え終わった美乃里は閉ざされたシャッターを開けるために近くへと歩み寄る、…が流石に援護なしでは挟んだ先の外が見えないシャッターを開けるにはリスクがあるため、優に開けてもらいながら自分はカバー出来る態勢を取ることに。
慎重に歩み寄る形でシャッターの近くに近づいた優は、慣れないが弾数が多いということでメインとして扱うことにした89式小銃を構えた美乃里とアイコンタクトを交わしながらしゃがみながら取っ手部を握っていく。
「…」チラッ
「…こっちはいいよ…」
「はい…」
開ける際が無防備になるためシャッターを上げた瞬間に襲われるのでは…そんな恐怖に駆られながらも、ここを開けなければ外に出ることが出来ないため、少し間を空ける形で覚悟を決めた優は力の限り一気にシャッターを持ち上げた。
ー……このシャッターだと外の様子が分からない…もし開けた瞬間に奴らがいたら……、けど開けないと…何も始まらない…ー
「やるしかないか…よっと!」
ガララ
だが幸いにも勢いよく開けたお陰で、シャッターは大きな音を立てながら勢いよくオープン。開けた先に感染者がいた場合のことを踏まえ躓きそうになりながらも慌てて後退した優は、隠れるように美乃里の背後へとつく。
そんな彼を横目に美乃里はシャッターが開いたことによって差し込む日差しの光に目がくらみそうになりながらも、すぐに撃てる態勢を取る。
「うぉあ…!?」ドタバタ
「……っまぶし…!?」
ー暗闇に目が慣れてたから…けどこれぐらいならなんとか…!ー
しかし今回は運が良かったらしく、シャッターを開けた目の前の住宅街の通りには感染者らしい姿は確認出来ず、特徴的なうめき声も聞こえないことから音によってきそうな周囲にいないらしい。
それを確認した美乃里は思わずため息を零しながら安堵の表情を浮かべ、優も襲われる心配がなくなったことで緊張の糸がほぐれたのか、思わず地面に尻もちをついてしまう。
ー……いない、それに周囲から寄ってくるような声も足音も聞こえない……ふぅ…とりあえず安全ってことか…ー
「…優君、とりあえずは大丈夫そう」
「そうですか…はぁぁ良かった……」ヘナヘナ
しかし安心してる余裕はなく、周囲に感染者がいないのなら今のうちに出なければならず、完全にいないとも限らないため変に屯して見つかる前に行動しなければならない。
なのでへたり込んでいる優を優しく…だが急がせるように立たせると車に乗り込むように指示、助手席に乗り込んだことを確認すると自身も運転席へと乗り込む。
「けどあんまりモタモタは出来ないかも、完全にいないとも限らないから。ほら優君立って」
「うおっと…!?」
「とりあえず先に助手席に乗って、その後私も乗るから」
「あっ…はい!」ボム
ボムッ
ちなみに瑠璃は既に後部座席に乗っており、2人が乗り込んでくると外の様子はどうだったかなどを尋ねてくる。
今のところは問題ない旨を伝えながら、この状況下なので万が一のことも兼ね、シートベルトをするように促しながらギアをドライブに叩き込み、その後既にエンジンが始動していたエクストレイルをガレージの外へと出していく。
「おかえりなのだー、外はどうだったのだ?」
「今のところは大丈夫、あーそれとるーちゃんもシートベルト。この状況だけど万が一のこともあるから」
「はーいなのだ」
「とりあえず一旦車出すね」
「了解です」
ブロロロロ
だがそのまま家を後にするわけではないようでガレージから車を出すと一旦停車、周りに改めて感染者がいないことを確認すると飛び降りるように美乃里は下車。
戸締りも兼ねて優家のガレージシャッターを勢いよく下ろして閉じていき、彼から預かった鍵を鍵穴に挿して施錠していく。
キキッ
「っと、2人共車内で待ってて。すぐ戻るから」
「はーい」
「気をつけて」
「ええっ(ボム)よっと…!」
ガララ
当然この行為は万が一戻ってきた際に籠城先として再度使えるようにするためであり、誰かに侵入されて荒らされては困るので、多少のリスクを取っても施錠をしておきたいというところだろう。
…まあそれ以外にも持ち出せない優の家族が眠る仏壇が無法者に荒らされないようにするためという理由もあるが…
そんなことを話している間にも施錠を済ませた美乃里は再びエクストレイルの運転席に滑り込むように乗り込んでいき、ドアを閉めながらシートベルトを慣れた手つきで下ろす。
「これでよし……!」
ボム
「ただいま!…一応施錠してきた…!」
「あっありがとうございます…、すみませんわざわざこんなことを…」
「いいのよっ、戻ってきた時に使えるようにしたいし…何より持ち出せない優くんの家族が眠ってる仏壇を荒らされたくないから…」
そうこうしてようやく出発の準備が整った3人は、優の家に別れを告げながら美乃里や瑠璃が行きたいと口を揃えて言っていた私立巡ヶ丘学院高等学校へ向けて短いようで長い旅へと出発していくのであった。
「よしみんないいわね?出発するわよ」
「はーいなのだ!」
「はっはい…!」
ブロロロロ…
美乃里達が私立巡ヶ丘学院高等学校へ向けて出発したのと同時刻、その学校の3階生徒会室では椎名達が今後どうするかについて議論していた。
…まあその内容というのは言わずがもなが学校の校門付近で爆音の盗難防止アラームを鳴らす車によってたかる感染者をどうするかであり、胡桃が腕を組みながらとんでもない置き土産が出来たもんだと愚痴をこぼす。
「しっかしまぁ…とんでもない置き土産が出来たもんだ…、アレだけの奴らが近くにたむろするとは…」
感染者こそ学校から離すという点では良かったものの、近くで高校周囲の感染者を集めてしまってはそれこそ外部へ出ることが不可能になってしまう。
今でこそ学校の備蓄でなんとかなっているものの、いずれは尽きてしまう上に、万が一盗難防止アラームが止まりアレだけの感染者がこちらに押し寄せてこられてはそれこそ本末転倒といってもいい。
そのためどうにかしてあの感染者の山を学校から出来るだけ遠くに離すか、もしくは処理するかの二択な訳だが……
…まああんな数処理しようにも人も装備も足りない上、変に戦闘して体力を消耗してはそれこそ返り討ちに遭ってしまい奴らの仲間入りになるのは目に見えること。
なので必然的に遠くへ誘導するという選択肢しかないわけだが、問題はどうやって誘導するかということでこうして話し合っているらしい。
「あのまま盗難防止アラームが止まるまで放置でもいいんですが…、万が一それであの数がこっちに来られたら…」
「かと言って処理しようにもアレは無理あるんじゃないか?装備も人も足りないぞ、いやあっても微妙だけど」
「となると必然的に何処かに誘導するしか…、でもその方法を…」
すると話を静かに聞いていた椎名が手を挙げる形で、それなら自分が乗ってきたパトカーを使って誘導するのはどうかと提案していく。
確かに音に引き寄せられる感染者を誘導するにあたってよく音が響くパトカーのサイレンは最適ともいえ、更に小回りの利くミニパトということも相まって、歩いて誘導するよりも確実に安全とも言える。
「あっあの…それなら私が乗ってきたパトカーを使うのはどう…でしょうか?」
「パトカーを?」
「はい、音で引き寄せられるならパトカーのサイレンを使えばアレだけの数を誘導出来るはずです。それにミニパトですから小回りも利きますし、生身で誘導するよりかははるかにいいかと…」
それを聞いた胡桃はそれしか方法はないか…と口にしていき、由紀は流石優等生…!!と言わんばかりに目を輝かせながらそんなこと口にしていく。
もちろんそれでも安全かと言われると怪しいが、それ以外手がない以上取り返しのつかない事態になる前にやるしか手立てはなく、慈も危険ではあるがやむを得ない…ということで今回は渋々賛成の立場に回った。
「おぉ!確かにそれならいいかもっ!流石優等生!!」
「いや由紀、それは優等生関係ないと思うぞ…」
「まあそれしかない状態やむを得ないですね…、先生としては賛成はしたくないですが……」
他のメンバーも他に手がない以上その手で行くしかないということで全員が賛成の立場を取り、こうして本格的な感染者誘導作戦が練られることに。
「私も賛成かしら」
「アタシもな、それ以外手はないだろうし」
「こっちも賛成だ、一刻も早く連中を遠ざけたいし」
「私もーっ!」
「ありがとうございます、なら早速その詳しい内容について……」
ひとまず椎名の案としてはこうだ、まずパトカーのサイレンをフルに活用し感染者の注意を引く形で誘導を開始。その後おまけでクラクションやら銃を乱射させながら、引き連れる形で誘導を開始。
もちろんそれだけでは分散してしまうため高校から離れた大通りまで誘導したところで適当な車の盗難防止アラームを作動。
同時にサイレンを切ることで感染者の注意をそらしてから全速力で離脱、これが上手くいけばアレだけの大群を高校から引き離せる…という訳だ。
「…というのが私の考えです」
「なるほどなぁ…確かにそれなら引き離した後も盗難防止アラームが止まらない限り連中の注意が変わることもないか…」
ちなみにその流れで駐在所にいきたいという狙いがあるらしく、感染者を上手く誘導した後には別働隊兼バックアップ要員である胡桃を乗せた慈の運転するミニクーパーと合流する流れになっているとか…
とはいえそうなると椎名が単独行動になるのは目に見えているため、先ほども言った通り一人での行動は…と慈が渋い顔で止めかけるが、椎名曰く誘導作戦となると固まって行動したほうが返って危険であると言われてしまう。
「それで感染者を上手く誘導できたらその流れで駐在所に向かうということで、皆さんとはそこで合流って形に…」
「でもそれだと椎名さんが単独行動に、せっかく丈槍さんの提案が…」
「いえ、流石に誘導作戦ってなるとむしろ固まっての行動は返って危険になりますから…」
まあ確かに固まって行動するとなると戦闘出来る人数より出来ない人数が多いため必然的にフォローする側の負担が増え、それが返って危険な状況に陥ってしまう可能性も否めない。
それなら単独で誘導したほうが他の人のカバーをしなくていいため、むしろそっちのほうが彼女の負担は少なくて済む。
出来ればその選択肢は取りたくはなかったものの、実際戦闘が出来ない自分たちでは彼女の足手まといになるのは明白であり、こちらも渋々と慈は納得していくことに。
「現状戦闘できる人より出来ない人が多い以上、カバーする人の負担が増えるとなると…」
「あー確かにそれは一理あるな、そうなるぐらいなら単独のほうが負担は少ないかもしれない」
「…その通りですね、…出来ればそれはしたくなかったのですか…止む終えませんね…」
ただだからといってその間何かしら連絡を取る手段を確保しないと何かあった際に報告やら救援をすることが出来なくなってしまうため、こちらも椎名からの提案でトランシーバーでのやりとりはどうかと言われる。
幸いミニパトの車内には緊急用のトランシーバーが1つ積み込まれており、パトカーに設置された無線機を使えばある程度離れていてもやり取りをすることは可能と言ってもいい。
「でも流石に連絡手段がその間ないのは不味いですから…トランシーバーでやり取りするのはどうでしょう?」
「トランシーバー…?」
「はいっ、それならミニパトの無線機を使えばやり取りをすることは可能です。幸い車内に緊急用のトランシーバーが積んであるので」
まあそれなら彼女の提案通り安否確認が取れるため、合流するまでわかないよりかはお互いの安心感は大きく変わってくる。
だが本当に単独でいいのか、なんなら自分が一緒についていこうか…と尋ねる胡桃だったが、そうなると慈達を護る人がいなくなってしまうため、出来ればそっちについて欲しいと依頼していく。
「…確かにトランシーバー…?でやり取り出来るのなら安否確認は出来ますね」
「けど単独でいいのか?ほらアレなら私が一緒についていって…」
「いえ、そうなると佐倉先生達を護る人が…なので胡桃さんは出来ればそちらの方に…」
確かに自分が抜けたら感染者と戦闘出来る人が現状いなくなってしまうため、誰か出来るようにさせること以外では自分がついておく必要が出てくる。
それもそうか…と納得した胡桃だったが、1人となるともし何かあっても自分たちはすぐにカバーできないし、完全に安全かと言われるとそんなことはないため本当にいいのか?と念押しするように確認していく。
「まあ確かに今の状況じゃアタシが抜けたら戦闘出来る人がいないな…、りょーかい。けどいいのか?そうなるとさっきも言った通り単独での行動、駐在所での合流ってなるともし何あってもカバーは出来ないぜ」
もちろんそれは椎名もわかっており、いつ感染者が押し寄せてくるかもわからない状況を解決出来るなら何でもやることや、単独行動は慣れていますから…そんなことを口にしながら笑みを見せる。
だがいくらかっこいいことを言っていても騒動前の彼女はガンマニアとはいえ普通の何処にでもいる女子高生、その表情は何処か冷や汗が流れているようにも見えた。
「…大丈夫…じゃないですけど、この状況を切り抜けられるなら安いもんですよ。それに皆さんと合流する前に単独行動は慣れてますから…」
その様子を見ていた慈は教師としてこのまま生徒を危険な目に合わせていいのかという気持ちで揺らいでおり、かと言って自分にはどうすることも出来ない無力さを感じているのであった。
ー…他に手がないからって…このまま生徒を危険な目に合わせていいのでしょうか…、椎名さんだって怖いはず………こんなにも無力を感じるのは初めて…ですー