「うぉあ!?」
「わわっ…!?」
キィィィ!!
角を曲がろうとした際に、突如として死角から現れた少女にぶつかりそうになった美乃里は咄嗟のフルブレーキングでパトカーを急停車、乗っている人が大変なことになりかけたもののなんとかぶつからずに済んだ。
危なかった…内心そんなこと思いながらも、ハッとした表情で優や瑠璃に怪我がないかと確認するように尋ねていく。
「はぁ……セーフ、なんとかぶつからずに…って2人共大丈夫!?」
「はっはい…、いきなりの急停車でびっくりしました…けど…」
「飛び出るかと思ったー…」
2人が無事なことを確認して安堵しかけた美乃里だったが、そういえばぶつかりそうになった子の方は大丈夫なのだろうか…とハッとした表情を浮かべながら慌てて飛び降りるように車外へと降り立つ。
ぶつかった感覚はないことや向こうも咄嗟に回避してくれたのは一瞬だが見ていたため、大丈夫だとは思うがそれでも念のためということがあるのだろう。
「良かった…、ってそういえばぶつかりそうになった子の方も見ないと…!当たった感覚はないから大丈夫だとは思うけど…!」ボムッ
すると美乃里の予想通りぶつかりそうになった少女、茶髪のセミロングに制服に身を包んだ女子高生っぽい子は車に当たらないように避けた際に尻もちついた程度で、見たところ当たってはなさそうに見えた。
とはいえ避ける際に怪我をしている可能性も充分にあり得るため、大丈夫かと尋ねようとした彼女だったが、ふと着ている制服に目が留まる。
「いてて…」
ー良かった…尻もちついてるけど…当たってはなさそう、後は避ける時に怪我をしてるかどうか…ー
「えっと…大丈……夫?」
色こそ違うものの落ち着いたカーキ(深緑)のセーラー襟に、ハイウエストのサスペンダー付きスカートは自分の妹であり巡ヶ丘学院高等学校に通う丈槍由紀の制服に似てることに気づいたらしい。
いや正確にはの制服であることには間違いなく、確か学年によって制服の色が違うって話をしてたっけ…と美乃里は内心そんなことを思う。
ー…この制服…、色こそ違うけど…由紀と同じ制服っぽい…。いや、確か制服の色が学年によって違うって話を……ってことはこの娘が着てる制服は間違いなく巡ヶ丘学院高等学校の…ー
だがその間にも美乃里が身につけている警察官の格好やパトカーを見て安堵しきったのか、ぶつかりそうになったことなど吹っ飛んだ少女は、目に涙を浮かべながら助けてください…!といきなりそんなことを口にしながら胸元に飛び込んできた。
「……あっ……たっ…助けてください…!!」ガバっ
「うわっ!?」
いきなりの出来語だったため思わずよろけそうになりかけたもののなんとか美乃里は踏ん張ったお陰で倒れずに済んだものの、少女はそんなことお構いなしと言わんばかりにこの場にいない親友を助けてくれませんかと少し乱し気味に頼み込む。
「…親友が…私の大切な友達が…!!」
「……」
もちろん騒ぎを聞きつけた瑠璃や優もどうしたのかと車から飛び降りるように駆け寄ってきたのだが、美乃里はそのなかで近寄ってくる足音とうめき声が聞こえてきたことを見逃さなかった。
「みっ美乃里さんどうしたんです!?なんかその子結構乱れてますけど…」
「お姉ちゃん大丈夫なのだー?」
「あっ2人共実は……(うめき声)…っ」
まあどのみちこんな安全を確保できないような場所で離すにはリスクが生じるようなものなので、美乃里は2人に感染者が近寄ってくる足音聞こえるから移動するよと促しながら、少女にも詳しい話は後で聞くからついてくるように促していく。
いきなりの提案なので素直についてくるかは心配ではあったものの、警察官の格好をしていたお陰が少女は疑うことなく彼女の後を追い始める。
「2人共移動するから車に戻って、たぶん連中が寄ってきてる」
「あっはい!分かりました…!瑠璃ちゃんこっちに…」
「はーいなのだ」
「貴方も詳しい話は後で聞くから私についてきて、ここじゃゆっくり話せなさそうだから」
「はっ…はい!」
その後3人が車に乗ったことを確認すると周辺警戒をほどほどに挟みながら運転席に飛び乗った美乃里は、運転席ドアを閉めると即座にブレーキペダルを踏みながらドライブにギアを叩き込みながら発進。
少しホイルスピン気味に出発したエクストレイルは、感染者がやってくる前に新たに出会った女子高生を乗せて走り去っていくのであった。
ギャァァァ
それと同時刻、巡ヶ丘学院高等学校の2階部分。本来であるなら多くの生徒たちでにぎわっていた廊下や教室は、今はその面影を残すことなくボロボロに朽ち果てており、ところどころ血痕などや死体も確認出来る。
そんな廊下を西階段部分から覗くように伺っていた椎名と胡桃は、感染者がいないことを確認するとそのまま一階部分へと足を進めていく。
「……」
「…ぱっと見いなさそう…か?」
「ですね…、とりあえず一階に降りましょう。二階には今のところ用はありませんし」
やはり盗難防止アラームによって学校内にいたほとんどの感染者が釣られて出ていったらしく、騒動当日の状況とは見違えるほど静まり返り、感染者の姿も亡骸以外今のところ確認出来ない。
とはいえだからといって油断出来ない状況にはかわりないため、階段をゆっくり…足音を立てずに降りながら、近接用の武器をそれぞれ構えながら、角のたびにクリアリングしながら一歩ずつ降りていた。
「…っても油断はできねーか…、はぐれてる奴もいるかもしれねーし」
「はい…、いつどころから出てくるかもわかりませんから…。それにできる限り奇襲だけは避けたいですし…」
実際そのお陰もあって一階に降りてから廊下をチラリを椎名が確認した際、一人…いや一体ボロボロで血まみれ…血相が悪い人間が唸り声を上げながらいったりきたりしているが確認出来た。
予想通り…そう呟きながらシャベルを構えた胡桃だったが、椎名に近接で仕留める練習をしたいので自分にやらせてほしいと止められる。
「……ゔゔぁ…」
「やっぱりいたか…、ここはさっと片付け…」
「あっ胡桃さん、アイツ私に仕留めさせてもらえませんか?近接戦の練習したいので…」
とはいえ椎名には距離を空けた状態で仕留められる銃を持っているため、無理矢理近接戦で仕留める必要はなく、銃でぱっと仕留めればいいようにも思える。
…が銃を撃てば銃声が響くため、サプレッサーがない状況で変に音を響かせば感染者が押し寄せてくる可能性が充分にあり得る、なので近接で仕留められる練習を今ここでしておきたいというのがあるのだろう。
そう尋ねられた胡桃も確かにそれもそうだなと答えながら了承しつつも、椎名に対して近接武器で連中を仕留めるなら何処を突く?と逆に質問していく。
「まあそれもそうだな…、これから先銃ばっか使えるシチュエーションじゃないだろうし…けど椎名、何処を仕留めるのか分かってるのか?」
もちろんガンマニアということもあってCQCといった近接格闘術などの知識もそれなりにあり、ゾンビ物ものくアニメや映画などで見ていたため、脳天をぶち抜けばいいんですよね…と答えながらサバイバルナイフに棒をつけた即席槍を構える。
…がそれでは耐久性に問題があるということで胡桃からダメ出しを喰らってしまい、それよりもこれを使ったほうがいいと野球バットを手渡した。
「あっえっ…脳天か首元…ですよね?それならこの槍が……」
「あほう、そんな即席槍じゃ耐久性に不安あるだろ。使うならこっちのほうがいいぜ」
「…これは…野球バット…ですか?」
確かに即席槍よりも野球バットの方が耐久に優れる上に、ある程度勢いがあれば身体が腐食して脆くなっている感染者をフルスイングで仕留めやすい。
もちろん適当に振るだけで倒せるというわけではないため、せっかくだから教えてやると口にしながら、胡桃が椎名へとレクチャーしていく。
「あぁ、そっちのほうが即席槍よりも耐久あるだろうしリーチも取れる。…けど刃物じゃないから適当に振ってたら返り討ちにあうぞ、ちょうどいいしやり方教えるわ」
「あっはい…」
その後倒し方を教えてもらった椎名は、角から少しの間感染者の動きを監視しつつ、タイミングを見計らって意を決しながらゆっくりと足音をできる限り立てずに接近。
胡桃もサポート出来るように続く形で歩き出すとシャベルを構えながら後を追いながら、他に感染者がいないか入念にクリアリングする。
「…ふぅ…、それじゃ…いきますよ…」
「あぁ、サポートは任せとけ」
やはり盗難防止アラームが外で鳴り響いてるお陰かかなり接近しても感染者がこちらに気付くことは一切なく、必中の間合いまで近づくとバットを静かに…だが確実に握りしめていく。
それから深呼吸をして心を落ち着かせると、意を決した表情を浮かべながらバットを振りかざし、野球選手ほどではないものの、かなり強烈なフルスイングを顔面目掛けてかました。
「…ふぅ…、っ!」ブン!!
当然気づくこともない感染者は避ける素振りすら見せずにバットが背後から顔面横に直撃、そのままの勢いでバランスを崩しながら吹き飛ばされ、廊下の壁に激しく叩きつけられる。
その際頭を激しく壁に打ち付けたことが致命傷になったのか、苦しそうなうめき声を混じらせながら感染者はズルズルと崩れ落ちながらへたり込むのであった。
ゴンッ!!
「あ゙あ゙っ…!!」
なんとか初めて近接で仕留められた椎名であったものの、流石にバットだけだと少ししんどかったらしく今度学校に釘があればそれでゾンビ物定番の釘バットでも作ろうかな…と呟く。
その間にも彼女が倒した感染者がちゃんと息絶えているかの確認と念には念をということで、胡桃がシャベルで首元を一突きする。
「はぁ…はぁ…、なんとか倒せた……。でも素のバットじゃ少ししんどいかも…ゾンビ物の釘バットとかの方が無難…かな?」
「よっと…(グサッ)、よしちゃんと息絶えてるな…。まぁアレだけふっ飛ばされれば大丈夫だとは思うが…」
もちろんこの後は椎名の乗ってきたパトカーから装備やら何やら回収するだけ…なのだが、それと同時に遠征に出るにあたって胡桃達が利用する慈のミニクーパーも移動させるようだ。
現在教職員用の駐車場に止まっているため、感染者がほとんどいない今を利用してミニパトが止まっている裏口に車を移動させておくつもりらしい。
「さてと…後は椎名の乗ってきたミニパトから装備回収するのと…めぐねえの車も移動させないといけないのか…」
「ですね、…あっ車の移動なら私がやりましょうか。運転ならコツは分かるので」
「だな、私が乗ってもいいがぶつけたらめぐねえに申し訳ないし。あっならついでに運転の仕方だけでも教えてくれないか?」
「分かりました」
とはいえほとんどの感染者が盗難防止アラームが鳴り響く車につられているお陰で先ほど仕留めた一体以外は校舎内に残っていなかったらしく、慈のミニクーパーが止まっている場所までは問題なく到着。
その後慣れた手つきで椎名が運転席に、胡桃が助手席に乗り込むと椎名が車の運転方法に関して簡単にだがレクチャーをしていく。
「よっと…、まずエンジンかける時は左側にあゆブレーキペダルを踏んだ状態でギアがパーキングに入ってくることを確認してください。基本パーキングかニュートラルに入ってないとエンジンは始動しないので」
「なるほどな…エンジンかけるときはギアがパーキングかニュートラルに入ってることを…」
「まあだいたいパーキングで駆けるとは思うので、ニュートラルは無視しても大丈夫だとは思います」
エンジンのかけ方を教えながらエンジンを始動、その後ドライブにギアを入れながら車をゆっくり発進させた椎名は表を避けるかたちで校舎裏の通りを横切りながらミニパトの元へと車を走らせる。
キュルルル
ブオン
「んでエンジンかけたら前に発進するときはドライブに、後ろに下がる時はリバースに入れてください。あっあと低速で走るなら平地とかはアクセル踏まなくてもオートマとかは勝手に惰性で走ってくれるので、変にアクセル踏まない方がいいかもです」
「おっおう…、なんか聞けば聞くほど難しいな……」
椎名の説明を聞いていた胡桃は運転が難しそうに感じていたらしいが、そりゃ教習所にすらいってない上に車の知識がゲームでしかない女子高生が説明だけを聞いて運転出来るようになれば誰だって苦労はしないだろう。
とはいえ今無理に走れるようになる必要はないため、ゆっくり練習していけばいいんじゃないと椎名は口にしつつ、ミニパトの横にミニクーパーを止めていく。
「まあ今無理に慣れる必要はないとは思いますよっ、ゆっくり練習していけばいいとは思うので」
「それもそうか…っとこの辺か、あのミニパトだろ?椎名が乗ってきたのって」
「はい、うちの駐在所にあった奴を拝借したので」
その後ミニクーパーを施錠し周囲に感染者がいないことを確認しつつ、ミニパトの助手席ドアを空けた椎名はここにきた直後に持ち出せなかった食料や弾薬の入ったリュックや、当初の目的だったトランシーバーを回収していく。
ゴトッ
「っと…弾薬と食料の入ったバックに…、あーこれこれトランシーバーっ。これが必要なのよ」
こうして目的のものを回収した2人は再びきた道を戻りながらついでに二階に散らばっている感染者の亡骸を慈たちにも手伝ってもらってある程度片付けるか…、そんなことを話しながら三階で待っている慈達の元へと戻っていくのであった。
「とりあえず戻りましょうか」
「だな、…っとついでだし二階に放置してる感染者の山も片付けるか?」
「ですね…放置してても衛生上よろしくないですし…、先生たちにも手伝ってもらって…」
「そうするか、とりあえず三階に戻るぞ」
「はい」