巡ヶ丘市内某所
コインパーキング付近
騒動が発生する前は様々な人たちが車を停める際に利用していたコインパーキング、しかし今は戻ることのないオーナーを永遠と待ち続ける車たちが数台止まっている程度でひっそりと静まり返っていた。
そんなコインパーキング付近の路上、路肩に寄せる形で止まっていた神奈川県警の文字が入ったパトカー(エクストレイル)の車内では、美乃里が軽く咳き込みながら車内へ視線を向けていく。
「…コホン、それじゃ改めて」
彼女の視線の先には瑠璃と優という騒動以降行動をともにする見慣れたメンバーに加え、自身の妹と色こそ違うものの同じ制服に身を包んだワインレッドの瞳で茶色の肩にかかるくらいの髪をハーフアップの少女の姿が……
先ほどぶつかりそうになりかけた出会いだった上に近くの感染者が寄ってきてきたこともあってろくに自己紹介も出来てなかったため、美乃里を皮切りに2人も少女に名前を名乗っていくことに。
「さっきはゆっくり出来なかったし、とりあえずお互いのことを知るのもかねてまずは自己紹介しましょうか。私の名前は丈槍美乃里、警察官やってるわ」
「あっ僕は高野優乃って言います、巡ヶ丘工業高校の2年生です」
「若狭瑠璃なのだー、巡ヶ丘小学校3年生なのだー」
もちろん少女もその流れに乗る形で、私立巡ヶ丘学院高等学校に通う2年生の祠堂圭だと自分の名前や学校を名乗る。
それを聞いた美乃里はやっぱり予想通り由紀と同じ学校に通ってる子だ…と内心そんなことを呟き、聞きたい気持ちをぐっと堪えつつ先ほどのことについて触れていく。
「あっえっと…私立巡ヶ丘学院高等学校2年の祠堂圭って言います…!」
ーやっぱり…由紀と同じ学校に通ってるんだ……って駄目駄目!知り合いかもわかんないし今はそんなこと聞いてる場合じゃ…ー
「圭さんね、とりあえずさっきのことについてなんだけど…」
当然彼女もそれはわかっており、まずは先ほどは取り乱してすみません…と申し訳なさそうに謝っていき、その様子をみた美乃里はとりあえず落ち着いてくれ助かった…と思いつつ、詳しいことを聞かせてくれるかと尋ねる。
もちろん彼女もそのつもりであったため、はいと答えながら先ほど乱していた際に口にしていた親友に関してとそれに至るまでの経緯を説明し始めた。
「…あっはい、…あっえっと…さっきは色々と取り乱してすみません…びっくりしました…よね?」
「ううん、全然大丈夫♪とりあえずそのお友達のことに関してお話してもらえる?」
「はっはい!…実は…」
それは今から少し前の騒動当日、いつものように学校の授業を終えた圭はクラスメイトであり親友でもある直樹美紀とともに、巡ヶ丘市内にあるショッピングモール『リバーシティ・トロン』へ訪れていた。
圭は愛用しているポータブルCDプレイヤーのカセットを、美紀は本屋で自分の好きな本を買ったりなど各々に買い物を楽しんでいた。
もちろんその日は週末金曜日ということもあってショッピングモールには仕事終わりの一般人はもちろんのこと、巡ヶ丘高校や他の高校といった学生も多く詰めかけており、いつにないほど賑わいを見せていたとか…
いつもと変わらない日々…誰もがそう思っていた最中、その日常を崩れ去る騒動が突如日本全国…いや世界中を巻き込んで発生した。
当然リバーシティ・トロンも例外ではなく店内で発生した噛みつき事件からあっという間に感染は拡大、2人もお店の外に出ようと試みたもののエレベーターやエスカレーターは使用不可能。
おまけに下の方は酷い有様ということもあって逃げることが出来ず、しばらく洋服屋の試着室で身を隠すことに。
その後は買い物途中に出会いゾンビ化した老婆から逃げてきた太郎丸と呼ばれる犬とともに生き残りグループと合流し仲間に入れてもらい、しばらくは救助が来るまで共同の避難生活を送っていた。
…がそんな生活も長くは続かず、2日ほど経ったある日リーダーのゾンビ感染と火災によって自分と親友以外は壊滅。
なんとか生き残り2人で改めて籠城生活を続けていたものの、密室空間で終わりの見えない状況に嫌気が差した圭は親友と喧嘩別れみたいな形で外へ出てしまう。
もちろんその目的は助けを求めることであり、感染者を避けながら警察署や駐屯地といった助けがいそうな場所を目指して歩いていた矢先、美乃里たちと出会ったらしい。
「…って感じです」
「なるほど…、さっき言ってた親友はその喧嘩別れしてショッピングモールに置いてきた子のことか…」
だが美乃里という警察官に出会ったことで安心した圭は、これで助けが来る…この悪夢が終わるかもしれないと安堵した表情を浮かべていく。
…しかしその光景をみた美乃里は何とも言えない表情を浮かべ、正直に言うべきか迷ったものの、ちゃんと伝えないとこの先が困るかもしれない…ってことで意を決しながら真剣な口調で圭へ話しかけた。
「でも良かった…これで美紀も助かる…、それに助けも……」
「………っ、あのね圭さん…ちゃんと聞いてほしい事があるんだけど…」
最初なんのことかさっぱりな圭はどうしたんですか?と尋ねたものの、美乃里から話を聞かされた衝撃的な言葉を耳にすると言葉を失ってしまう。
そりゃそうだ、巡ヶ丘市だけでなく日本全土…いや世界中で感染拡大を続けるこの感染症によって都市機能はほとんど麻痺。
自分が勤めていた警察署は押し寄せる感染者によってほぼ壊滅…助けが来ないなんて言われたら、それを希望にしていたのにこれからどうすればいいかなど考える余裕もない。
「…この騒動なんだけど、ここだけじゃなくて日本全土…いや世界中に広がってる」
「…え?」
「ほとんどの都市機能は麻痺、警察はもちろん自衛隊だって私の知る限り対応が追いついてなかった。…私の勤めてた警察署も…最終的には……」
せっかく頼ってくれたのにこんな有様になってごめんね…と申し訳なさそうな表情を浮かべながら謝罪を述べた美乃里に対して、少し間を空ける形で気にしないでほしい…自分を助けてくれただけでもありがたいとなんとか笑みを見せた圭はそう答えていく。
もちろんそれが無理に作った笑顔というのは美乃里もわかっていたものの、これ以上悲しい思いはさせない…と意を決する。
「ごめんね…、期待してくれたのに絶望させること…言っちゃって…」
「……あっいえ!そんな美乃里さんが気にすることじゃないですよ…!そうなった以上仕方ない…ことですし…」
ー……圭さん、……警察官の私がくよくよしててどうすんの…!根性見せなさい…!ー
当然これからの動きはそのショッピングモールに取り残されている親友、直樹美紀という女子高生を助ける以外に選択肢はない。
妹の安否も気になるもののそこにいるというのが確定で分かっているなら、襲われたり移動される前に乗り込んで助ける必要があるのは確か。
瑠璃や優乃に対して急な変更で申し訳ないが、ショッピングモールに取り残されている彼女の親友を助けに行くことを告げていく。
「……優乃くん、瑠璃ちゃん。ごめんけど予定変更、この子の親友が取り残されてるショッピングモールに行くわよ。助けを求めてる人がいるのがいるなら見過ごせない」
だが優乃も瑠璃もその判断になることは分かっていたのか、二人揃って顔を見合わせるといきましょう…!と覚悟を決めた表情を浮かべながらそう口にした。
それを聞いた圭は本当にいいのかと喜びを露にしつつ、ショッピングモールには多くの感染者がいるためかなり危険な目に遭うかもしれないということも告げる。
「……ですよね!分かりました!いきましょう!」
「るーちゃんも賛成なのだ!」
「!?いっいいんですか!?…あっでもまだショッピングモールにはあの感染者?がたくさん…、いっ今までにないほど危険な目に遭うかも…」
とはいえそんなこと今に始まったことに過ぎず、みんなで協力しあえればなんとかなりますよと話す優乃に対して、美乃里は即刻賛成してくれた2人にありがとうとお礼を述べながら早速リバーシティ・トロンへ向けて出発することに。
…がこうして次の目的地が決まった瞬間、車内に響き渡るお腹の鳴る音と共に、音がした方に視線を向けると圭が少し恥ずかしそうな表情を浮かべながらお腹を押さえていた。
「まあどうにかなりますよ、みんなで協力し合えれば!」
「…ありがとう2人共、よしっ!なら今から早速リバーシティ・トロンh…(お腹の鳴る音)ほへ?」
「…あっ…あはは…」
そういえばお店を出た今朝から何も食べてなかった…と呟いた圭に対して、美乃里は後ろの箱に入っているすぐに食べれそうな食べ物から適当に漁って、移動中に食べてていいわよと提案。
最初こそ流石に貰うのは申し訳ない、自分もある程度非常食を持っているため大丈夫だと口にした圭だったが、一緒に後部座席に座っていた瑠璃から押し付けられたことで、頂くことに。
「あっなら移動中後ろに積んでる箱で空いてるやつから好きな食べ物とって食べてていいわよ、その感じだとショッピングモール出てから何も食べてなさそうだし」
「あっいえ…!大丈夫です!一応自分も非常食もt…「はいなのだ!これ食べて!」あっえっ…ありがとう…?」
そんな2人の微笑ましい光景を横目に優乃のナビゲートを元に再び出発する形でコインパーキング付近を後にした美乃里の運転するエクストレイルは、新たな目的地であるショッピングモールへ向けて車を走らせていくのであった。
「んじゃそろそろ出発しましょうか、優乃君。ナビゲートお願い」
「分かりました」
ブロロロ
美乃里達が圭と出会い親友の美紀がいるリバーシティ・トロンへ向かい始めた日の夜。巡ヶ丘高校周辺の町はまだ機能している発電所のお陰で明かりこそ灯されているものの、それ以外は火災やところどころ停電した箇所も相まって不気味な街並みが広がっていた。
未だ学校周辺で聞こえる盗難防止アラームを横目に外に光が漏れないようにカーテンなどで覆い、LEDランタンの明かりを頼りに生徒会室で過ごしていた椎名達であったが、ふと慈が時計にやるとそろそろ寝ましょうかと提案していく。
「今日疲れたー…」
「まだアレを運ぶのはなれない…ですね」
「大丈夫か悠里、あれなら今度は無理しなくても」
「ありがとう貴依さん、でも慣れておかないとこれからがつらくなるから…」
「もうこんな時間…そろそろ寝ましょうか」
昼間は胡桃と椎名が慈の車の移動やミニパトからの装備やら通信機材の回収、その後は二階で椎名がバッタバッタ撃ち倒した感染者の遺体の処理や例の誘導作戦の準備などに追われ、気づけばあっという間に一日が終わってしまった。
「うぇ…もうこんな時間かよ…」
「なんかあっという間だな」
「確かにー、でも今日色々してたもんねー」
「まあ下の処理に加えて近いうちの出発に向けた準備もしてましたからね…」
とまあそんな感じで寝室となっている資料室にゾクゾクと向かっていた椎名達であったが、ふと慈が生徒会室で少しやることがあるから先に寝ててと告げていく。
一見すれば特に気にするでもないやり取り、しかし椎名だけは慈のわずかな雰囲気の変化に気づいたのか少し不思議そうな表情を一瞬浮かべる。
「あっそうだ、みんなは先に寝てて。私ちょっとやる事があるから」
「ほーい、でもあんま夜ふかししないようになーめぐねえ」
「そうだよ!夜ふかしはお肌に悪いし!」
「もう!めぐねえじゃなくて佐倉先生って呼んでください…!」
「…?」
だが特にその後のやり取りに変わりはないため気の所為かと割り切りながら、おやすみなさいと告げながら椎名を含めた生徒たちは生徒会室を後にした。
その後しばらくして、そっと生徒会室のドアを開けてみんなが資料室(寝室)へ戻ったことを確認した慈は、1人生徒会を後にしていき、静かな足取りでとある場所へと向かう。
ー…気の所為か…、ってか眠いからそろそろ寝よう…ー
「おやすみなさいー」
「ええっ、おやすみなさい…♪(…ボムッ)チラッ……」ガララ…
ーよしみんなちゃんと戻った…今のうちに…ーゴソゴソ
その目的地は職員室、死体こそ片付けられてある程度綺麗にされているもののあの騒動のままの状態で残されている室内に入ると、自分のデスクへ一直線に駆け寄るととある引き出しを開けていく。
「確か引き出しに…(ゴソゴソ)あっ…あった!あった…」
彼女が生徒たちに内緒にわざわざ職員室へと向かい自分のデスクから取り出したもの、それは『職員用緊急避難マニュアル』と書かれた封筒。各先生及び校長などが所持することが命じられているこの封筒は緊急時以外開封することが禁じられており、慈自身も手渡された際は校長からそう命じられていた。
「職員用緊急避難マニュアル…、確か緊急時以外は開けるなって渡された時に校長から…」
(回想)
『職員用緊急避難マニュアル…ですか?』
『あぁ、この市内の学校で各先生と一部の先生が持つようにって言われててね。もちろん緊急時以外は開けちゃ駄目だよ』
『緊急時…それはどういう…』
『まあここに書いてあることだね、校長およびその代理よりの指示があった時とA-1警報の発令時。外部よりの連絡が途絶し十日以上が経過した場合、この3つだ』
『なるほど…えっでもこのA-1警報と外部よりの連絡が途絶し十日以上が経過した場合って…』
『さぁ…、とにかく指示がない限り緊急時以外は開けちゃ駄目だよ』
「って…」
とはいえ現状が緊急事態であることには変わりないため、明けても大丈夫だよね…そう思いながら自身のデスクの引き出しからハサミを取り出すと、封筒を開けながら中身を勢いよく取り出す。
表紙こそは封筒表面と同じ職員用緊急避難マニュアルや開封に関しての条件や、A-1警報、公的機関の調査ならびに~などが書かれてはいたものの、そんなことより慈はこの状況を打破出来る情報を求め1枚目を巡っていく。
「正式な指示とかここの条件にはなってないけど…緊急事態だもん…、仕方ないよね…!(チョキチョキ)よっと…!(ゴソッ)表紙は同じ…それよりも何か情報を……!」
が巡った2枚目に書かれている文字を目の当たりにした瞬間、慈は激しいめまいや吐き気に襲われてしまい思わずデスクに片手をついてしまう。
だが決してこのタイミングで気分を悪くした訳では無い…いや正確には気分こそ悪くしたものの、純粋な体調不良ではなくそこに書かれていたものがあまりにも衝撃的なもの…だったからだ。
「…あっ……えっ……嘘……いや……」クラッ
ゴッ
そんな立ちくらみや吐き気に襲われるほどのショックを受けた彼女が目にした2枚目の表紙、そこには今回の騒動を予見したかような内容や巡ヶ丘市内の研究所からウィルス漏洩が発生した場合の初期対応。
そして非常時において多くの人命を救うためには少数の犠牲はやむを得ず、寛容といたわりの精神は美徳とならないことを心せよという言葉と共に、緊急時は生徒を見捨てて職員は地下シェルターに避難せよ…とという文言が書かれていた。
ー……そんな……じゃあ…この騒動は…偶然でもなんでもなく……ー
詳細な情報は次ページなどに記載されている…と書かれていたものの当然こんな状況の慈が見れるはずもなく、しばらく激しく襲ってくる吐き気や立ちくらみになんとか耐えるのが精一杯という状況で、次のページに進めずにしばらく立ち尽くしているのであった。
ー…嫌…こんなの……見れるわけ……、…もしかして…私も共犯……ってこと……?ー