翌朝
生徒会室にて
「…えーっと誘導するなら何処が…、あっこことかどうだ?」
「いやー胡桃それは厳しいぞ、そこだと連中がすぐ戻ってこれる。やるならすぐに戻れないような道路誘導しないと」
「あーそれもそうか…くぁー難しいぜぇ…」
外の惨状とは裏腹に快晴とも言えるな日差しが窓から差し込む中、生徒会室ではいよいよ校門前の彼らの誘導作戦兼外部探索を明日に決定したことで、椎名達がそれに向けた準備に慌ただしく追われていた。
そんな生徒たちを横目に見つめていた慈は、昨日目にした緊急避難マニュアルのことが忘れられず上の空状態になっていた。
ー…はぁ……あのマニュアルをみてから…全然頭から離れられない…ー
流石に全部は見れなかったものの結局見れる範囲まであまりの胸糞さに吐きそうになりながら目を通した慈だったが、やはりその内容はまるで感染パンデミックを予見したかのような対応策ばかり。
もちろんこんなことを生徒たちに、ましてや重要な外部探索権感染者の誘導作戦を控えているのに言えるはずもなく、あのあと戻った後は適当な理由で誤魔化し書類も自分のデスクに突っ込む形で隠したらしい。
ー結局読めるところまで読んだけど……、やっぱりこの騒動を予見したかのような内容………けど到底こんなの今のみんなには…ー
するとあまり浮かない表情をしていたのに気づいたのか、外部探索に向けた物資やらの準備をしていた椎名が大丈夫ですか?と覗き込むように尋ねる。
当然あんなことを言えない慈は、何でもないから大丈夫だと笑顔を作りながら誤魔化していき、それを聞いた椎名はそうですか…と少し気にしながらも胡桃達に呼ばれたためそちらの方へと向かっていく。
「…?佐倉先生、どうされましたか?なんだか浮かばれない表情してますけど…」
「あっえっ!ううん!何でもない!ちょっと考え事してて…!」
「…?それならいいんですけど…」
「お~い椎名、ちょっと確認してほしいことがあるからこっち来てくれ」
「はーい、今いきます…!」
なんとか誤魔化せたことに安堵の表情を浮かべる慈だったが、いつまでも隠していた所で解決する問題かと言われるとそんなことはないため、いずれかは話さないと…と内心思う。
…が自分でさえ耐えるので精一杯な内容だったのにまだ幼い彼女達にそれを見せても大丈夫なのだろうか…、最悪の場合内部崩壊をするのでは…と思うとどう切り出していいか分からずに1人悩んでしまう。
「はぁ…」
ーとりあえず誤魔化せた…でもいつかはこれを話さないと……でも……これを話したことで…取り返しのつかないことになったら………はぁ…ー
…とまあそんなことを悩んでいる間にも時間は刻々と過ぎていき昼過ぎ、お昼ゴハンを挟む形でみんなの協力のもと外部探索兼誘導作戦の準備が整った。
みんなの聞く準備が整ったことを確認すると椎名が軽く咳払いしつつ、今回の外部探索兼誘導作戦の主な流れを説明し始める。
「…コホン、皆さん揃ってるので…明日決行予定の外部探索及び誘導作戦に関しての説明を行います」
現状恐らく町の感染者のほとんどが学校校門近くのお弁当屋に停めてあった商用バンの盗難防止アラームに引き寄せられており、あのまま放っておけばもしアラームが鳴り止んだ場合、下手をすればあの大群が…仮にそうでなくても一部の感染者が押し寄せて来かねない。
そのためそうなる前に椎名が盗難防止アラームに負けないミニパトのサイレンや銃声で誘導、感染者が戻りにくいような場所に誘導したタイミングで別の車の盗難防止アラームを作動。
そっちに注意がいったタイミングで全速力でその場を離脱、駐在所へ先に向かっていた胡桃たちと合流するといった流れだ。
「まず誘導作戦ですが、それは事前に話した通り私がパトカーと銃声を駆使して誘導、連中を別の戻ってきにくい場所まで誘導したらそこでまた別の盗難防止アラームのを作動。注意がそちらに向いたら離脱、巡ヶ丘西駐在所で待ってる皆さんと合流します」
「そこは一緒ってとこか…、ちなみに誘導場所は私と椎名、あと貴依で決めてるぜ。探すのと誘導ルート策定は骨が折れそうだったけど…」
ちなみに別ルートで行く予定の慈達に関してだが最初こそは全員で行こうと考えていたものの、慈の愛車であるミニクーパーは最大4人乗車。
5人乗ろうと思えば乗れなくはないが移動中の食料なども積み込まないといけないためそれ以上乗り込むことは厳しいそうだ。
とはいえ流石に誰かを置いていくわけにはいかないためどうしたものかと考えていた所、悠里曰く慈が職員室でハイエースタイプのキャンピングカーに乗っていた教師の車の鍵を見つけたことで事なきを得たらしい。
「…あと私らの移動手段だけど、流石にめぐねえの車だと乗りきれねーよな…移動中の食料も乗せないといけないし…」
「あっそれなら…佐倉先生が職員室でハイエースタイプのキャンピングカーに乗ってる先生の車の鍵を見つけたって」
「マジか、あの体育の先生のか?そりゃありがたい、それなら誰かが留守番しなくても済みそうだ」
まあせっかく慈のミニクーパーを動かしたのにまた車を動かし直さないといけないのは尺だが、この後胡桃と椎名が再度取りに行ってくれるとのことなのでその心配はいらないだろう。
「えっでも昨日くるみちゃんとしーちゃんがせっかく取りに行ってくれたのに…、なんか勿体ないような…」
「まあまた私と雨宮で取りに行けばいいさ、ってか取りに行く前に気づけば良かったな…」汗
「それは言えてますね……」汗
ちなみにめぐねえがハイエースタイプのキャンピングカーの車のキーを見つけたのは緊急避難マニュアルに関して他にもないか探している際にたまたま見つけて、今日それに関して胡桃達が話していた際にそのことを思い出したから…
結果的には良かったのか…?とあまり喜べない苦笑いを浮かべていた慈だったが、悟られないように気持ちをなんとか入れ替えると椎名に対して本当に駐在所で落ち合うので問題ないかと念押しするように尋ねていく。
「でも凄いよめぐねえ、たまたまってもタイミングよくその車のキー見つけるなんて」
「だからめぐねえじゃなくて佐倉先生…」
ーいっ言えない…あの緊急避難マニュアルに関係した書類探しててたまたま見つけたなんて…ー
「…コホン、ところで雨宮さん。何度も確認するようで申し訳ないんですけど、本当に合流地点は駐在所でいいんですね?」
もちろんそれで…というか他に方法が見つからない以上やるしかないため、それで問題ない旨を先生に伝えていき、それを聞いた慈も無理はしないように…と念押ししながら会話を終えていく。
「…はい、他に手がない以上やるしかないかと…」
「……分かりました、でも無理は絶対しちゃ駄目ですからね?いいですか?」
「分かってます、佐倉先生」
その後はキャンピングカーを取りに椎名と胡桃が再び1階へと向かい、それが済んで戻ってくると長期の遠征に備えて英気を養うために慈が寝るまでと夕食以外は自由時間を設定。
当然娯楽と言ってもやれることは限られてはいるものの読書をしたり生徒会室に置いてあったトランプなどで楽しんだりと、和気あいあいとしながら過ごしていくのであった。
学校の生存組が外部探索などに向けての準備を整えつつある頃、巡ヶ丘市内某所ではショッピングモールに取り残された圭の親友、美紀を助け出すために美乃里達がリバーシティ・トロンへ向けて車を走らせていた。
…が相変わらず道は各所で寸断されており、感染者こそいないもののパンデミック騒動初期に放棄された車で塞がれているお陰で平時のルートでは行くことが不可能になっていた。
また行き止まり…思うように進めない現状に、美乃里含め車内いたメンバー達は少しげんなりとした表情を浮かべていく。
「…また行き止まり…コレで何回目よ…」
「普通ならリバーシティトロンまでなら三十分で着くんですけど……」
「るーもう、疲れたのだぁ…」
「全然着く兆しが見えない…ですね……」ハァ
ショッピングモールこそは途中家と家の合間から見えてこそはいるのだが、肝心のその場所には着く兆しが全く見えず先ほどから遠回り気味の迂回をしているようにも感じていた。
すでにリバーシティトロンに向けて出発してから1日、ふとガソリン計に視線を落とした美乃里は満タン近くまであった燃料が残り半分になっていることに気づく。
「…ってやば…燃料がもう半分…、まあでもそうか…物資と人フルに載せてる状態ならそうなるのも無理はないか……」
ひとまず休憩がてら燃料も補給したいため何処かいい感じの場所はないか…と辺りをキョロキョロ探してみると、ふと視線の先にガソリンスタンドが目にはいる。
「…とりあえず休憩がてら燃料も補給したいから…何処かいい感じの場所…ってお?あれは…」
基本こういった騒動は真っ先にガソリンスタンドに人が押し寄せてあっという間に空になるのがオチ。しかし今回のパンデミック騒動は急な展開の連続だったため、ゆっくり入れられるような時間があるはずもない。
つまりスタンドに燃料がのこっている可能性が充分あり得るため、美乃里は3人に休憩がてらガソリンを補給する旨を伝えていく。
ーガソリンスタンド…見たところ押し寄せた形跡はない……ってことはガソリンが残ってるかも…!ー
「3人ともごめん、休憩がてら給油もしたいからあそこのスタンドで小休憩挟むよ」
「わかりました…!」
「りょーかいです」
「は~いなのだ」
その後スタンドの空いているスペースにパトカーを突っ込ませると優乃や瑠璃、圭の3人に周辺警戒を頼みつつ自身は給油機が動くかどうかの確認を行う。
「んじゃ周辺警戒お願い、私は給油機が動くか見てくるね」
ーさてと…出来れば動いて欲しいんだけど……っとー
すると辛うじてこのガソリンスタンドに電気は来ていたようで、いつもより明らかに動きは鈍いが動作することは確認できたため、心のなかでひそかにガッツポーズしながら給油口の蓋とキャップを空けていき、ノズルを給油口に突っ込み車に腹一杯ガソリンを飲ませていく。
ーおっ!これ電気来てる…!いつもより弱々しいけど…これならガソリンを入れられる…!(内心ガッツポーズ)ー
とはいえ現状でこれだけ電力供給が弱まっているということは電気がこなるくなるのも時間の問題とも言える、恐らく町中の電線が軒並み使えなくなっているか…発電所が感染者の襲撃や燃料不足で機能出来なくなっている線が有力だろう。
もし停電して機械を使った方法で吸い上げが出来なくなった場合のことも考えて、他の方法で吸い上げるしかない…そんなことを思いながら美乃里は満タンになった給油口のキャップを閉めていく。
ーけど現状これだけ電力供給が弱まってるってことは…町中の電線が軒並み使えなくなっているか…発電所が何らかの理由で機能出来てないかの2択…どのみちこれからは他の方法で抜き取るしかないか…ー
ちなみに災害時、機械による吸い上げが出来なくなった場合は「非常用自家発電機で計量機を動かす」または「専用の手動式・可搬式緊急ポンプを地下タンクの点検口(検尺口)に直接挿入して引き上げる」の2択が主な手法となっている。
…がもちろん素人がするのは危険なので、そういったのはスタンドのスタッフに任せましょう。
とまあそんな豆知識を言っている間に給油をし終えた美乃里は車内や車外で警戒している優乃達に終わったから出発するよーと声をかけなが運転席に乗り込む。
「よーし、こんなものかな。んじゃそろそろ出発するわよー」
「わかりました」
「はい!」
「はーいなのだ」
その後再び走り出したエクストレイルは、目的地のリバーシティ・トロンへ向けて相変わらず遠回りの迂回を挟みながらも徐々に近づくように走り続けていくのであった。
それから少し経ち、日が落ちていることや電気がいよいよ来なくなったお陰もあってか、辺りが炎が各所で上がっている以外真っ暗な暗闇に包まれた巡ヶ丘市内。
そんな町中を真っ暗な学校校舎屋上から眺めていた椎名は、目が冴えて寝付けない状況にため息を零していた。
「はぁ…眠れない…」
明日に備えて早く寝ないといけないのにそのことを思うと目が冴えて逆に眠ることが出来ずにいるらしく、こうしてみんなを起こさないように1人屋上に上がって気分転換に風邪にあたっているらしい。
「明日のことを考えると寝ないといけないんだけど……かえって眠れないっていうか……」
みんなには大丈夫だと答えたものの、やはりあの感染者の大群を一気に引き受けるとなれば、まだまだ経験の浅い女子高生である彼女にとっては、いくらガンマニアだとはいえど怖いものがある。
とはいえ彼女の視線の先、バッテリーが上がったことで盗難防止アラームが鳴りやんだ商用バンに相変わらず群がる感染者を放置すれば、またあの時みたいなことになりかねない。
それに銃が扱えてそれなり動けるのは自分以外いない…、怖くてもやるしかないというのが現実だ。
ーみんなには大丈夫って言ったけど…やっぱ怖いっていうか……でも、アレを放置するわけには……それに銃を扱えて動けるのは自分しか…ー
腹を括るしかない…そう自分に言い聞かせながら、流石にそろそろ寝ないと明日に支障をきたすため、1人屋上を後にした椎名はパジャマがわりの体操服姿で階段を降りていき、寝室である資料室へと戻っていくのであった。
ー腹を括れ自分…!大丈夫落ち着いてやれば出来る…何の問題もない…!ー
「……とりあえずそろそろ寝ないと…流石にこれ以上は起きてられないし…」