突然駆け出した美乃里は一心不乱に人混みをかけ分けるように走りながら声が聞こえてきた方向に走り続けていく。
するとしばらくすると目の前に1人の小学生の低学年らしき少女と、男性であろう民間人の姿が目に留まる。
「きゃぁぁぁ!!?」
「逃げろ!!早く!!」
「はぁ…!!はぁ…!!」
普通に考えればへたり込んでいる少女に声をかけているようにも見えるが、よくよく確認してみると男性の服装はボロボロの上に血だらけ…動きも明らかにおかしい。
なによりへたり込んでいる少女が怯えたように男性の顔を見ている時点で、普通ではないのは明らかだろう。
「…ひぃ……こっ来ないで……」
「……アレか…!」
ー明らかに様子がおかしい…ってかあの男の人服装ボロボロだし血だらけじゃない…まさか…!ー
実際美乃里の思った通りよろけながら少女に近づいていたと思った男性は、突然大きなうめき声を上げながら襲いかかろうとする。
だがその前に間一髪間に合った美乃里によって背後から強烈なタックルと蹴り飛ばされたお陰で、あらぬ方向へと弾き飛ばされた。
「ゔぁぁぁぁ!!」
「っひ!?」
「おらっ…!!」ドス
自分が弾き飛ばした男性の確認はほどほどにしつつ、彼女は少女の元に駆け寄っていき視線を合わせるようにしゃがみながら優しく話しかける。
最初こそびっくりしていた少女だったが、服装から警察官ということに気づいて安心したのだろう。
先ほどの怖い経験が響いてか涙を思いっきり流しながら美乃里の胸元に飛び込むように抱きついた。
「…(チラッ)ねぇ君、大丈夫?怪我とか…」
「………うぅ…うわぁぁんん!!」ギュ
「っと…!ふふ…、もう大丈夫だからね?お姉さんが居るから」
とまあそんな感じで周りの喧騒とは裏腹に2人は抱き合いながら地面に膝をついていたわけだが、その動きが完全に裏目へと出てしまうことになろうとはこの時の美乃里は気づきもしなかった。
ついさっき突き飛ばされ地面に倒れていた男性、頭から倒れているため普通ならすぐには動けないはず、しかし何故が何事もなかったように起き上がる。
「………」
その顔は明らかに生気を感じられず目は白く濁っており、顔色の黒めという明らかに体調が悪いどころの状態ではない。
だが足取りはふらつきながらもしっかり動いており、美乃里の背後から気づかれないように微かなうめき声と共にゆっくりと歩み寄っていく。
「ゔぅ……」
しかし距離をどんどん詰められていることに美乃里は気づいておらず、相変わらず助けた少女を安心させるように頭を撫で続けていた。
このままでは無防備に彼女が襲われる…そう思った直後、大きな叫び声と共に先輩警察官がその男性に殴りかかる。
「……ほんとぉ?瑠璃のこと一人に…しない?」
「うん♪本当本当っ、というか瑠璃ちゃんって言うんだ。いい名前d…『おらぁぁぁぁ!!ドス!!』」
殴られた男性は美乃里がタックルした時よりも勢いよく吹き飛んでしまい、警察車両のドアに頭からクリーンヒットしながら倒れ込む。
一瞬声に驚きながら先輩の方に視線を向けた2人だったが、美乃里が吹き飛ばされた男性を見るや状況をようやく理解したらしい。
「!?せっ先輩…いきなr……あっ…」
「そーいうこった、ったく人の心配する前に自分の心配しろよな。危うくお前が第二のアイツになるとこだったぞ」
「……すっ…すみません…」
だが結果的には2人とも助かったため、咄嗟に殴ったお陰で痛む右手を抑えながらとりあえず車に戻ろうと先輩警察官は口にしていく。
…がその背後から近寄る無数の影に気付いた美乃里が危険を知らせようと、思わず声を上げる。
「いってー、咄嗟に拳で殴ったから手が痛いのなんの…。まあ2人共無事だし結果オーライか、とりあえず車に…『ゔぁぁぁ』」
「っ!?先輩!!後ろ!!」
当然先輩も美乃里の声に気づいて慌てて後ろを振り返ったのだがその時点では時すでに遅し、何処からともなく現れた彼らの集団に襲われてしまう。
幸いにも美乃里と瑠璃と名乗った少女には目もくれて居ないものの、多数に襲われたせいで反撃もままならない先輩はそのまま崩れるように倒れてしまう。
「っ!?なっなんだお前r…『ゔぅぁぁぁ!!』うおっ!?」ドス!!
「せっ先輩!!」
もちろん助けようと立ち上がって駆け寄ろうとした美乃里だったが、先輩に群がる彼らの後ろから押し寄せる彼らの大群に思わず足がすくんでしまった。
「いっ今助けn……『ゔぅぁ゙ぁ゙ぁ゙!!』っひ…!?」
ーなっなにあの数……、あんなたくさんの奴らに襲われたら……ー
しかしかといって先輩を置いて逃げるなど彼女の心が許すはずもなく、なんとか助けようと懐から警棒を取り出そうと右手をかけようとする。
…が直後先輩の力強い一言を耳にした瞬間、そのうごきが一瞬止まってしまった。
ーどっどうしよう…、でってもこのまま先輩を見捨てるなんてことは……とっとりあえず追い払って…ー
「美乃里!俺のことはいいから逃げろ!!」
恐らくこの数はどうにもならないということ、そして自分は助からないと判断したのだろう。ならばまだターゲットになっていない2人だけでも逃がしたほうが賢明なのも確か。
しかし自分のせいでこうなってしまった自覚があるためそんなことはできないと反論する美乃里だったが、犬死にしたいのかという先輩の強い言葉に言い返せずにいた。
「ゔぅぁ゙ぁ」
「どうせこれじゃ俺は助からん…!!ならせめてその子とお前だけでも……」
「そっそんなこと…!!いくらなんでも無理ですよ!!元はと言えば私のせいd…」
「馬鹿野郎…!!俺みてぇに犬死してぇか!」
「っひ…?!」
だがその後安心させるように笑みを見せながら、あとは任せたと口にしていくと馬乗りになった彼らが次々と噛みつき始めていく。
「…心配すんな、お前ならきっとやってける。その子、頼んだぞ」
「ヴァぁぁぁぁ!!」ガブっ
当然先輩は苦しそうな声を上げて、その様子を美乃里はあ然としながら見ていたものの、こちらにターゲットを変えた彼らに気付くとごめんと口にしながら少女を抱きかかえる。
「あ゙…がぁ゙ぁ゙ぁ゙…!!?」
「せん…ぱ……『ヴヴ……』………ごめん」ダッ
少女は先輩が襲われた光景を目撃したことで恐怖のあまり呆然としていたが、美乃里はお構いなく抱きかかえたまま走り続け車の元へと戻っていく。
幸い彼らは足が遅いお陰で走り続ければ距離があっという間に開いたため、少女を落ち着いて乗せる余裕は確保出来た。
「はぁ…はぁ…!!」
ー連中…足が遅いっぽい…、数は多いけど…距離さえ取れれば…ー
「おっお姉…ちゃん……」
「…とりあえず助手席に、…時間がないから」
少女を乗せてシートベルトをしたことを確認すると後ろをちらっと見てゆっくりと距離を詰めてくる彼らの様子を確認。
一瞬先輩らしき…いやだったものが見えたような気がしたが、あまり見たら平然さを保てなくなりそうだったので直視せずにエクストレイルの運転席に滑り込むように乗り込む。
「……これでおっけ…(ボム)……」チラッ
「ゔぁぁあ……」
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙…」
「先輩……っ…!」ボムっ
その後エンジンがすでにかかっていたためギアをドライブに叩き込むとアクセルを踏み込んで急発進。混乱状態の検問所を逃げるように後にしていき、市街地へと放置者や逃げ惑う民間人の合間を縫いながら走り去っていく。
ゴクン
ギャァァァ!!
しかし2人が去った後も混乱は収まるどころを知らず、これ以上の悪化を阻止するために検問所の後方にいた警察は封鎖用として工事会社から徴収したブルドーザーでの民衆や彼らの排除を決定。
当然自分たちでは操縦出来ないため、業者の運転手に依頼するわけだが、民間人ごと吹き飛ばしていいという指示には流石のドライバーも困惑していた。
「ほっ…本当にそんなことを…」
だが警察官のセリフから察するに本気なのは間違いないようで、責任はすべて自分たちが取るからやってくれ…と言われたブルドーザーのドライバーは恐る恐る遙か先でバリケードを突破しようと試みる市民やそれを襲う彼らの姿を見つめていく。
「責任はすべて我々が取ります!!やってください!!」
「マジか……」
そんなことを知らない市民たちは彼らをなんとか避けながらバリケードを突破して安全な地帯へと向かおうとしていた訳だが、突如響き渡るエンジンの始動音に気づきそちらへと視線を向ける。
するとあろうことはそこには道中の彼らや車を弾き飛ばしながら狂ったように作業員が操縦する2台のブルドーザーが迫ってきており、これには突破しようとしていた市民は完全にそれどころではなくなってしまう。
「……」ブロン!!
キュルルるる!!
ガガガガガ!!
「クソッタレがぁぁぁ!!」
誰がどう見ても見捨てられたと言わざる終えない状況、検問所の先頭にいた人たちは慌てて後方からやってくる人たちに引き返せと忠告。
当然道には彼らがうようよといるため、ほとんどの人たちは敷き詰められるように止まっていた車の屋根を伝うように来た道を慌てて戻っていく。
「ちきしょう!!むこうの連中、俺達のことを見捨てやがった!!」
「戻れー!!こっちに来ると潰されるぞー!!」
もちろんそれが目的であり、無線で話していた警察官は橋の中ほどまで進んだらブルドーザーを戻すように指示しつつ、そこに入ってきた市民は無警告で撃てとも命令する。
「そうだ!!橋の中ほどまで来たらブルドーザーを戻せ!!そこに入った市民は無警告で撃つ!!」
もはや正気とはいえない状況だがこうなってしまった以上検問所を死守するためにはなりふり構っていられないのも確か。
しかしそんなドタバタする警察官たちの背後で西署の署長は無言で拳銃をこめかみに当てると発砲、驚いて視線を向ける警察官を後ろめに崩れるように倒れ込んでしまう。
「……」
ダァン!!
「…!?」
その際彼の家族だろうか?同じ年代の女性と若そうな小さな女の子と一緒に写った写真がひらりと、血痕の上に舞い落ちる。
だがその動きによって混乱が悪化した巡ヶ丘橋一帯は感染のスピードが更に加速、じわじわの広がりだった市内の状況は一気に悪化していき、終末世界へと駆け足で突き進んでいくのであった。
登場車種
トヨタ T31 エクストレイル
巡ヶ丘西署の多目的パトカーとして使われているSUV、元々は神奈川県の主要な警察署で使われていたが配置転換に、伴い巡ヶ丘西署へ配属された経緯を持つ。
美乃里と瑠璃と呼ばれる少女が巡ヶ丘橋検問所から逃げる際に使った車であり、しばらくの間終末した世界を共に走ることに。