壮麗たる花園   作:猫間黄泉

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一片。求めた平和

 大人達が皆して言う、この町の楽園(エデン)にまつわる言い伝え。

 

紫苑(シオン)彼岸花(リコリス)花一華(アネモネ)。この偉大なる英雄3人を称え、ここを楽園(エデン)とす。魂の光り輝くこの場所が、私達に平和をもたらさん」

 

 この言い伝えを聞いた、当時子供だった私は、全く理解出来なかった。文面だけ見たら、理解できない要素はないと言う程に単純だ。ただ、私が理解出来なかった要因、それは……「平和をもたらさん」――この言葉だ。

 

 それもそう、この言い伝えを聞いた時には、既に楽園(エデン)は存在しており、村は平和だったからだ。英雄達の名前が花に例えられ、伏せられていることから、この言い伝えは英雄が生まれる前に作られた予言だと言う事が分かる。

 

 当時の私からしたら、今がその「平和」がもたらされた時代だと思うのが普通だろう。

 

 でも、今なら分かる。これは平和なんかじゃない。

 

 ()()()()()()

 

 私は目を瞑り、静寂に耳を傾ける……意識は天に昇り、私の頭には女の人の声が入って――

 

 ――約130年前、この世界には3人の()()と呼ばれる人間が居た。彼らは、生まれつき神からの加護を持ち、憎悪(ぞうお)に立ち向かう力が与えられている。華葬者(フローリスト)、昔の人達はそう呼んでいた。

 

 憎悪――ここでは悪感情によって暴走した人間を指す。

 

 悪感情に支配され、憎悪と化した人間を葬る者。残酷だが、仕方の無い事。

 

 ただの憎悪と化した人間は、通常の人間ではどうしようもないほどの力を持つ化け物(モンスター)になる。そんな憎悪に立ち向かう力を持つのが英雄達。

 

 理解してもらえたかな……ちょっと不安だなぁ。でも、大丈夫。あなたならきっと、この造された安寧を覆してくれるから――

 

 ごめんね、そろそろ本題に入ろっか。これからあなたが追憶する出来事は……エミリー、ハテリア、サミネール。3人の英雄達が、楽園(エデン)を作る物語。

 

「一片。求めた平和――」

 

 130年前……僻地にある村「ライヒェ」では、とある予言が(まこと)になろうとしていた。

 

 英雄の1人、ハテリアは言う。「いつまで経っても、人間を殺すのは気が引ける……」

 

 それに続いて同じく英雄の1人、サミネールが言う。「人間って……見た目はただの化け物でしょ? それに、憎悪に成り変わった人間を解放するには、殺すしかないのよ」

 

 そう言って、サミネールは憎悪を手に掛ける。

 

 私は言う。「まぁまぁ……サミちゃんくらい割り切っていないと、華葬者なんてやって行けないのも事実だし……」

 

 そんな事を言う私も、ハテリア君と同じだ。いくら見た目が変わろうと、どれだけ正当な理由が出来ようと、憎悪の元は人間。簡単に殺すのは気が引ける。

 

 でも、私達は英雄。村を守る為には、私達がなんとかしないと。

 

 村の人達に、憎悪はどうにも出来ない。フローラ(英雄の母)の加護を得て、花の力を使える私達にしか……憎悪は殺せない。

 

 そんな事を考えていた私に、ハテリアは返す。「それはそうだけどさぁ……やっぱり、僕はサミネールのようには割り切れないや」

 

 すると、割り込むようにサミネールが入って来て……「ちょっと、ごちゃごちゃ言ってないで早く対処しなさいよ」そう言うと、ハテリアは「はは、ごめんよサミネール。さ、行こうかエミリー」と言って、私の前を行く。

 

 その言葉に、私も後を追う。

 

 憎悪を砕く。この感覚が、私達を締め付ける。

 

 ――崩れかけた花弁(かべん)を、優しく抱擁するように……憎悪を看取った。

 

 花弁は私の胸で跡形もなく消え去り、化け物と化した人間が、唯一見せる人間だった痕跡(あかし)、「血」だけを残していった。

 

 この工程を繰り返す度、私は瞳に涙を映す。心臓が締め付けられて、その場に残された血を見る。そして、私が人間を殺したという事実に押し付けられて……涙は流している、はずなのに。その感情は罪悪感とぶつかり合って相殺され、虚無になる。

 

 私達英雄が出来ること、それは……憎悪と化した人間を、人間として死なせること。彼らを人間に戻すことは出来ない。でも――私達なら、彼らを()()()()()看取ることが出来る。

 

 私達だって、殺さずに済むのならそうしている。だけど……化け物になって、最愛の人を自分の手で殺す。そんな胸糞悪い話を、何度も……何度も聞いてきた。だから、一刻も早く彼らを殺してあげるのが……

 

 私達、華葬者(フローリスト)運命(さだめ)なんだ。

 

 ――次の日、村は朱に染まった。

 

 村の方から走って来る人達を見て、「一体何があったの……?」

 

 私がそう呟くと、村の人達の声……慟哭が聞こえてきた。

 

「終焉の日だ……! 予言者様の示した日だ……!」

 

「早く村から逃げろ!」

 

「華葬者達はまだか!?」

 

「フローラ様……! どうかライヒェをお救いください……!」

 

 そう言って、村から逃げていく人達。私達3人は、村の方を見た。すると……赤く燃え盛り、憎悪が(うごめ)くライヒェが目に入った。

 

 隣を見ると……唖然としたハテリアと、目から光が消えたサミネールが映った。

 

「ハテリア君……? サミちゃん……?」

 

 私がそう名前を呼ぶと、2人はこう返した。

 

「大丈夫」って。

 

 私は2人の安否を聞いた訳ではないのに、そう返した。そこまで動揺している理由も、私には分かる。もちろん、ライヒェは私達華葬者全員の故郷だということもあるけど、何より……2人にはライヒェを強く想う理由があるから。

 

 ――ハテリア。彼は幼い頃から村の人達が大好きで、村1番の有名人だった。彼は昔、私にこう話してくれた。

 

「僕は村の人達が大好きだ。それに、村の人達が好きなように……同じくらいライヒェが好きだ。こんな形にはなったけど、僕はこの力で、ライヒェを守ることができて嬉しい」

 

 ハテリア君は英雄に相応しい心を持つ存在なんだって、実感した。

 

 ――サミネール。彼女は3年前に、憎悪の手によって姉を亡くした。彼女は元々穏やかな性格だったが、この1件から全くの別人になったかのように豹変し、今では少し当たりの強い性格になっている。私は最近、彼女に話を聞く事に成功した。

 

「……別に、私は村の人達が嫌いな訳じゃないし。ただ……『お前がお姉を殺した』って言われてから、人間ってこういう生き物なんだなって実感しただけ。ま、そんな事を言ってた奴らも……私の手で華葬したけど」

 

 サミちゃんは辛い事を経験しながらも、前を向ける強い子だ。

 

 そんな2人に比べて、私には悪に立ち向かう勇気なんてない。

 

「エミ……ー……」

 

「エミリー……」

 

 私を呼ぶハテリア君の声、それに気付き私は意識を戻す。

 

「エミリー、行こう。僕達で村を守るんだ」

 

 そう言って、私の手を引くハテリア。すると、サミネールの声が聞こえてきた。

 

「エミリーあんた、この状況で動けないっていうの!?」

 

 村で無数の憎悪を相手しながら私に呼びかけるサミちゃんの背中には、怒りと悲しみが渦巻いているように見えた。

 

「ごめんなさい……私……」私は慌てて返す。

 

 私は2人と一緒に憎悪と対峙する。目に見える憎悪はざっと100を超える。こんなの相手出来るわけ――

 

「エミリー、あれをやろう。いいか?」

 

 ハテリアは私にそう問いかける。あれ……恐らく楽園位相の事だろう。

 

楽園位相(エデンループ)。私達華葬者3人が犠牲になる代わりに、楽園を作り上げるという物。華葬者にはフローラの魂が混合している。それを利用して、この地にフローラの意識を埋め込み、憎悪を抑え込む事が出来る。

 

 私は聞く。「サミちゃんは……」少し食い気味に、サミネールは言う。「村が守れるなら、私はなんだってする」

 

 そのサミネールの言葉に、私はハテリアに身を堕として――

 

 私を中心に、2人は私を挟み込む。地に付けたその手は、白く光り輝いて――

 

 紫がかった白い髪が靡き……村へと救いをもたらす。

 

 黄金色の英雄は、仲間に愁いの目を見せた。

 

 波に打たれ、流れに身を任せる私は、記憶を遺した。

 

 村は光り輝いて、空は蒼く染まって行く。

 

 憎悪は解放されて、その姿をヒトに戻した。

 

 ――楽園(エデン)が誕生した。

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