アビドスのロレンス   作:チチメカ

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弩級の難産、ド難産でした。


第十五話:陽動

立ち直ったロレンスが、戦場に舞い戻ってかけられた最初の一言は、歓声であった。

押され気味であったが、これなら勝てるぞと、少女達は口々に声をあげてロレンスら一行の帰りを歓迎した。そうして、すぐに指揮を始める。

 

「ふむ…相手は並のPMCでは無さそうだが…」

 

ロレンスは一度高台から現状を俯瞰していた。

 

敵は異様なまでに装備を揃えている様であった。最新型の小銃に、最新の戦車、そして新型のロボット兵装、今まで傭兵稼業で見た事ないほど潤沢な装備である。マトモな正面衝突ではまず勝てないだろう。

しかし。

 

「遊撃隊A、前方10m前進。アリ君、彼らの支援をしてあげなさい。遊撃隊Bは、Aの攻撃の後、5分遅れて右翼の塹壕から敵陣に浸透しなさい。ウマル君、遊撃隊の細かな指揮は君に任せる。できるね?」

 

「大丈夫っス!」

 

対処可能。

ロレンスは少しの交戦の末、答えをそう導いた。

実際、先ほどまでの拮抗の理由は言ってしまえば将兵の不足によるものであった。この時期に拠点を攻めてくる奴などいないという甘い考えによって、ほぼ将を務める上層部を抜き取って、D.Uに赴いたのだから、これはロレンスの算段の甘さからきたものである。

 

しかし、それでも日頃の生徒達の訓練や拠点の要塞化、単純な地の利によって、基本装備において優位がある敵に対して、拮抗まで持ち込んでいるのだから、やはり彼女達の力は凄い。そんなことを考えながらも、ロレンスは少し違和感を抱いていた。

 

「敵はヒラ押しにこだわっている…?」

 

キヴォトスは基本的に決戦至上主義的な観念が蔓延っている。しかし、戦略ではなく、戦術レベルにおいては流石に戦いの『色』と言ったものが現れる。いわゆる『ドクトリン』と呼ばれるものである。

 

シャハーダ学院設立委員会は騎兵による機動力を重視した戦術を使用している訳だが、今回は拠点防衛ということもあり、このドクトリンは使用できていない。では、相手はどうであろうか。

 

ロレンスはそれが見えなかった。

ただのヒラ押しではないか。

何か、目的があるのだろうか。

 

「…アティク君、指揮を任せられるかな?」

 

「っうえ?私…?!」

 

「うむ、少し気になることがあってだね。アーファ君、アティク君の支援をお願いするよ。では。」

 

通信を切り、高台から降りる。

ロレンスはもう一度トランシーバーに口を近づける。

 

「スンナ君、聞こえるかね?」

 

「え!あ、はい!聞こえてます!」

 

「君の後方部隊を数名引き連れて私と合流してくれたまえ、もしかすれば正面の敵は陽動の可能性がある」

 

「り、了解です!おい、お前ら!先生っとこ行くぞ!」

 

しばらくすれば十人ほどの小部隊が形成される。皆連戦続きだと言うのに、目にはまだ力強い意志がある。

 

ロレンスは勘繰っていた。

もしや、あれらの敵は陽動なのではと。

 

そもそも、何故相手はこちらを攻撃しに来たのであろうか。報復であろうか。確かに、我々は多くの企業や組織に対して依頼という形で攻撃を行い、ヘイトを買っている。

 

では、やはり報復か?

 

だが、そうではないであろう。

報復であるなら、より執念を持ち、計画を立てて攻撃をするであろう。そもそも、突然ミサイルや高射砲を使って攻撃すれば、こんなに戦闘が長引くこともなかったはずだ。潤沢な装備を持った戦闘特化の集団が考えつかないわけがない。

 

では何故か。

 

考えつくは、そもそも現状自体が計画通りであるということだ。

 

戦地から後方の居住区。現在最も政治的な拠点である中央テント。出張以前は私の仕事場であった場所である。

 

拠点に近づく。

 

我々は走る。最前線とは違う空気。

しかし、そんな前方から突然銃声がした。

弾丸は私の右頬を擦り、生徒の脳天に当たる。

全くもって遺憾であるが、予想は的中した。

 

 

 

 

 

目の前にいたのは明らかに先ほどの敵等とは異なる風貌。白を基調とした戦闘服とガスマスクをセットした少女達。

 

 

 

 

ロレンスは少女に告げる。

 

「何故ここにいる」

 

「……」

 

ロレンスが目の前の少女を見る。

 

「君達は何処に所属している」

 

「……答えるとでも」

 

「いや?君達は答えないだろう」

 

右手を挙げる。合図だ。

刹那、少女達に無数の弾丸が頭蓋へ撃ちこまれる。ガスマスクには穴が空き、力無く彼女達は地に伏せる事になる。

音は極力少なくする為に、消音器を付けた銃を使用した。敵の仲間には音は聞こえてないだろう。

 

「先生、無事ですか?」

 

「問題ない、先を急ごう」

 

テントの周囲には既には数人の人影があった。

幾つかの書類…そして、男物の背広を持ち出そうとしている瞬間だ。

 

書類類は理解できる。

しかし、何故私の背広を?

 

考えていても埒は空かない。

ロレンスは指示を送る。夜闇に乗じての奇襲、我々の得意技だ。

 

スンナ率いる遊撃隊は少し遠回りに、散らばったテントを障害物、影としてゆっくりとだが迅速に敵を包囲する。

 

ロレンスはそれを横目に、少しでも全体を見渡せる岩の上へと足を運ぶ。

それらは順調に見えた。

 

しかし、それは敵の指揮官と思われる少女の一言で、打ち砕かれた。

 

「…違和感がありますね」

 

少女は、ガスマスクの傷と砂塵で掠れたレンズ越しに、そう発した。見にくかったのであろうか、少女はガスマスクを取り外す。

 

生徒であった。

 

黒の髪、紫色のヘイローと目は、その時、確かに、ロレンスの黒い眼を捉えていた。

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