「ちょっと待ってくれ」
一触即発の雰囲気の中、場違いのようにアティクが声を上げた。
「息子って言ってたよな?あのシャーレの先生のこと」
「そうだが?」
「私達聞いてねぇよ?!」
驚愕の声が瓦礫の中で炸裂する。ロレンスが振り返れば、全員が驚いている。そういえば、言っていなかったとロレンスは心の中で思った。実際のところ、ロレンスはシャーレの先生が自分の息子であることを言っていなかったし、それは意図的なものであった。
詰まるとこ、今までの発言は思いっきり感情に身を任せていった事故であった。
「あのだね。いや...言おうとは思っていたんだが...」
「あのじゃねぇよ!?結構大事なことだろ?!」
「そうっスよ!?ほんとに大事なことっスよ!」
「.....あまり、人に言えないことだろうけど、私達には言ってほしかった」
アティクやウマル、アリにも同じことを言われてしまう。
確かに、言ってしまえば良かったのかもしれなかったが、そうすればどこかで情報が漏れてしまう。息子の仕事に支障をきたす事を憂慮して、今まで言わなかったが、さっさと告白すればよかったのかもしれない。
どう言い訳をするか必死に考えていると。
「はぁ、はぁ、..........どういう状況.....?」
そこには銀髪の少女が立っていた。
「.....ここでお前がでてくるのか」
「えへへ、お久しぶりですね.....」
「....どうだ。アズサ」
アズサと呼ばれた少女は、いまいち状況をつかめずにいた。先生がサオリに撃たれたというところまでは知っていたが、ここまで来てみれば、その先生の父親を名乗る男が瓦礫の上でスクワッドに対峙しており、そしてなぜか多分その仲間たちに追及されている。
状況が状況である。ひとまず、アズサは謎の先生の父親を無視することにした。
「どうして、どうして....!」
「私の言った通りだったろう。トリニティにも、シャーレにも、お前の居場所はない」
冷酷な声だ。どこか哀れみすら感じる声でもある。
「私達みたいな『人殺し』を受け入れてくれる場所なんて、この世界には無いんだよ」
「どうして、先生を....!」
「そんな場所があるように見えても、全てははかなく消える.....さっきの『先生』とやらのようにな」
「それは違う」
二人の会話に混じる低い男の声。先ほどメンバーに詰められていたロレンスその人である。
「あいつは死なん。馬鹿も休み休み言いたまえ小娘」
怒りを込めた声だ。憤慨の中でどうにかして理性を保っている。
「また邪魔する気か....仕方ない。アズサともども目を覚まさせてやる」
戦闘が始まった。殺意のこもった銃撃が、まっすぐアズサとロレンスに向けられる。ロレンスは撃たれまいとすぐさま、瓦礫に身を隠し、バアス旅団のメンバーに指示を出す。
「アーファ! 弾道予測!」
「仰角二五、右舷より二発! ……着弾まで二秒!」
「上出来だ!」
銃撃を回避し、報復の準備をする。
「そこの少女!!」
「....!」
「アズサと呼ばれていた君だ!ここは一時共闘するぞ!」
先生を失ったかもしれないという怒りで、今にも突撃せんとしていたアズサの脳内に、冷静な声が響く。ロレンスは、アティクらに制圧射撃を命じて、アズサと合流した。
「...貴方は」
「ロレンスでよい。この際君の立場はどうでもいい。必要なのはスクワッドを倒すことだ」
「それは賛成する」
「では、私の指揮を受けたまえ。即興ではあるが、話の流れからして君もアリウス生徒であれば、スバルのとこへ」
「行けッ!」
私の鋭い指示に、アズサと呼ばれた少女は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐさま戦場の空気を読み取り、弾丸の雨を掻き分けて指定したポイント――瓦礫の陰へと滑り込んだ。
「アズサ! こっちです!」
「スバル.....どうして......それに、その変な腕章....」
かつての同胞の姿に驚愕するアズサだったが、積もる話を遮るように、サオリの放ったアサルトライフルの連射が彼女たちの頭上の大理石を粉砕した。
「よそ見をしている暇はないぞ! 来るッ!」
私の警告と同時、アリウススクワッドのミサキとヒヨリが左右に展開し、十字砲火の陣形を組んだ。無機質で洗練された、確実に獲物を仕留めるための死の包囲網。
「ウマル、アティク! 右翼のロケットランチャーを抑えろ! アリーとアーファは左翼の狙撃手を!」
「了解ッス! 蜂の巣にしてやるッスよ!」
「ハッハー! ぶっ飛べぇぇッ!」
ウマルの重機関銃が火を吹き、アティクが牽制のグレネードを放り投げる。巨躯から放たれる圧倒的な弾幕がミサキの射線を物理的に封じ込め、アリーの正確無比なカバーリングがヒヨリに照準を合わせる隙を与えない。その間に、ロレンスはアズサとスバルのいる前衛ラインへと駆け込んだ。
「アズサ君と言ったね。スバルから聞いた君の戦術は、我がシャハーダの『臨時学生』たちと共有した。君の得意なトラップ戦術を展開してくれ。我々が隙を作る」
「.......わかった。でも、シャハーダって……?」
「後で嫌というほど説明してやる! スバル、合わせろ!」
「はい、先生!」
スバルたち臨時学生が、一斉にサオリの死角へ向けて牽制射撃を放つ。その弾幕の隙間を縫うように、アズサが素早い身のこなしで前方に躍り出ると、床の崩落箇所に手榴弾とワイヤートラップを即席で仕掛けた。直後、前線を押し上げようと踏み込んできたサオリの足元で、強烈な爆発が巻き起こる。
「くっ.......!」
流石のサオリもこれにはたまらず、大きく後方へ跳躍して体勢を立て直した。 それを契機に、両陣営は崩落した古聖堂の柱や長椅子を盾に取り、激しい銃撃戦は一時的な膠着状態――息の詰まるような睨み合いへと移行した。
火の粉が舞い、硝煙の匂いが鼻をつく中、サオリの冷たい声が瓦礫越しに響き渡った。
「.......なぜだ。なぜお前たちは抗う。全ては虚無だというのに。アズサも、スバルも.......私達の怒りを忘れたか!」
その声には、怒りよりも深い疲弊と、理解不能なものを見るような困惑が混じっていた。
「私達には最初から何も与えられていなかった。苦痛と絶望だけが我々の真実だ。足掻いたところで、あの『先生』のように、無惨に死ぬだけだというのに……!」
「それは違う!」
沈黙を破ったのは、アズサの悲痛だが力強い叫びだった。
「先生は....この世界は苦しいことばかりじゃないって、教えてくれた!ヒヨリ達も!」
「.....アズサの言う通りです、サオリ」
スバルもまた、自身の銃を強く握り締めながら後に続く。
「私達はシャハーダ学院で、ロレンス先生から教わりました。自分の頭で考え、自分の意志で選ぶことの尊さを。....無駄なことなんて、何一つなかったんです」
「洗脳されたか、愚か者め」
サオリがギリッと歯を食いしばる音が、こちらにまで聞こえてくるようだった。
「所詮、大人など皆同じだ。我々を利用し、捨てるだけの存在.......!」
「一緒にしてもらっては困るな」
ロレンスはゆっくりと弾倉を交換しながら、冷徹に言い放った。
「マダムという教えは『支配』だ。だが、私の教育は『選択』だ。彼女たちは己の意志で私を選んだに過ぎない。.....それに、私は今、猛烈に怒っている」
私の脳裏に、血まみれで倒れていた息子の姿が過る。怒りで視界が赤く染まりそうになるのを、大人の、そして指揮官としての理性で必死に押さえ込んだ。
「我が子を傷つけられ、私の生徒たちの未来を塞ごうとする貴様らを、親として、教育者として、決して許すつもりはない」
私が静かに拳銃の撃鉄を起こしたその時だった。
耳障りな足音が、聖堂の奥深くから響き始めた。場の空気が、温度を下げたように凍りつく。
「な、なんだ....?」
アティクが怪訝そうに銃口を巡らせる。立ち込める土煙の向こう側から姿を現したのは、青白い不気味な光を放つ、古の修道服を纏った異形の集団だった。先程、地下のカタコンベで撃退したはずの「ユスティナ聖徒会」のミメシスたち。それが数十、いや数百の規模となって、地上の古聖堂跡地へと溢れ出してきたのだ。
「チッ.....マエストロとやらの差し金か、それともマダムの増援か」
ロレンスが舌打ちをしたと同時、サオリが冷酷に銃を構え直した。
「....問答は終わりだ。これで終わりだ、アズサ」
ユスティナの複製体たちが、無音のまま一斉にこちらへ向けて突撃を開始する。アリウススクワッドの四人もまた、その集団の波に合わせるように、我々を確実に屠るための包囲陣形を再構築し始めた。
「来るぞ! 総員、迎撃態勢を取れッ!」
私の号令に応じ、バアス旅団とアズサ、そして臨時生徒たちが一斉に銃火を放とうとした、まさにその瞬間だった。
空気を劈くような、異様な風切り音が空から降ってきた。それは、銃弾の比ではない。空気を切り裂きながら落下してくる、巨大な質量の音。
「.....ッ!? 先生、上空から高質量の飛翔体ッ!」
アーファの悲鳴じみた報告に、私は咄嗟に空を見上げた。遥か彼方、正義実現委員会か、あるいはゲヘナの風紀委員会が放ったものか。榴弾がこちらへ向かって落ちてくるのが見えた。
すぐさま、閃光が炸裂する。
「.....時間切れ、か」
サオリは血の滲む唇を噛み締め、忌々しげにこちらを睨みつけた。
「姫、ヒヨリ、ミサキ! 撤退するぞ!」
「ああっ、もう、やっぱりこうなる運命だったんですね......!」
「.....チッ」
「.......」
足早にスクワッドが引き上げる。すぐさまアズサがその背を追うとしたが、手をつかみ制止する。
「....!離して」
「待て、追うな。我々も消耗が激しい。これ以上の戦闘は無意味だ」
私は銃のセーフティをかけ、深く息を吐き出した。
「敵は退いた。まずは後方へ下がり、態勢を立て直す。……アズサ君と言ったね」
「……」
アズサは警戒を解かないまま、無言で私を見つめ返した。
「君も共に来たまえ。息子の……『先生』の安否も確認しなければならないし、君にはきちんとした手当てと、休息が必要だ.....といってもその様子じゃ止まる気はないか」
「......」
意志の決まった顔だ。止めなくてはならないという意思で満ちた目。ロレンスは思う。何かをする気なのだと。この覚悟の度量からして、ただ止める気ではない。これは...
「殺す気か」
「......!」
「やめたまえアズサ君。君のような少女が背負うべきではない」
「じゃあ、どうすればいい!」
「私達がいる」
アズサは見覚えのある目を見た。覚悟の決まった人間の目。しかし、その目には絶望は見えない。自分とは異なるその意思の目は、どこかシャーレの先生に似ていた。
「撤退するぞ。私たちがここにいることがバレるのはあまり好ましくはない....アズサ君、動けるかね」
「問題ない」
遠くで響く爆音とサイレンの音を聞きながら、バアス旅団はアズサを伴い、混乱を極める古聖堂跡地から静かに撤退を開始した。息子が生きていることだけを、今はただ、強く祈りながら。
普通に既存キャラのエミュがむずすぎる。これであってますか...?