主人公をからかいに行くか。   作:正気 零

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プロローグ
匂わせ初登場


 

 転生というのは人生のやり直しという考えが多いと思う。もちろん僕もそちら側。恥の多い人生を過ごしている自覚がある僕もそれを望んでいた。

 前世が冴えない野郎でも、転生した今世なら以前よりも上手くやれる。

 転生を題材にした多くの作品じゃ転生して記憶持ちでチートまで持ってるというなかなか好待遇だからそう期待してたところもある。

 少なくとも僕はそういう期待をしていた。

 そして転生後の今世、尾陰(おかげ)いのりとしての人生の最中、チートを持っていることに気づいたのは三十歳前半に差し掛かったときだった。

 こんな女らしい名前だが、男である。

 

 転生した世界は、前世と似通った現代。というか生まれ直しかと思うほどに前世に似ている世界だった。都市には摩天楼が立ち並び、スマホを叩けばなんでも知れる。

 現代日本に生まれ直した。

 

 転生直後は奮闘したものである。と言っても特に何を成し遂げたことなどないが。なんせ開拓され尽くした現代日本、特に知識なんて蓄えてない凡人が知識チートをできるはずもなく。幼い頃は早熟っぷりから周りに天才ともてはやされ汚らしく気持ちよくなるくらいしかできない。高校生になればそんなアドバンテージもないに等しく、流石に前世は超えたいから大学受験を張り切った。

 ただ、人はどんなに時間が与えられても変わらないものである。どんなに時間が与えられようとも、僕という人間は惰性に使い切るだろう。そんなわけで、前世よりちょっとマシという程度の人生を過ごした。

 

 そしてこの世界には前世とは異なることが一つだけ存在する。地名も国名も常識も同一の世界で、一つだけ異なるもの。

 

 

 超獣。そして都市を包み込む霧。

 

 現代における科学研究の発展とともに、世界各地で未知領域への探究が盛んに行われていたが、ある事故により異界と現実世界が接続される事態*1が発生した。異界から流入した霧状の煙*2は、初めは物理的影響*3を及ぼさないことから無害と考えられていた。しかし、その霧を媒介として異界の存在である怪物が出現したことから、人々はこれを「超獣」*4と呼ぶようになった。——Mikipediaから抜粋。

 

 超獣に対抗するため、研究過程で得たものや霧から流用して超獣対処処理班なる組織が結成。霧は影響を受けずその場にとどまるので包まれた都市は隔離。人と霧の共生のため現在も処理班による超獣殲滅が続いている。

 

 

 簡単に言えば怪獣が現れる日本だった。そして処理班などと飾り気がないが、姿形はまるでヒーローとかにしか見えない。

 転生直後はそのヒーローになろうと思ったが才能も資格もなく虚しく散り、しかし諦められられずに僕はその都市へ移住した。

 なんでまだ人が住んでるんだよと思ったけれど、都市一つが消失による経済損失の方がでかいとかなんとか。詳しいことは知らん。 

 それが、三十代になったあたり。

 

 煙に接触した瞬間に、己のチートに気づいた。

 

 ヒーローやる年齢でもないし、上手くいかないことばかりに荒みきっていた僕は一つその時に決めたのだ。こんな物語のような世界なのだから、その世界で僕は主人公になれそうにないのだから。

 主人公みたいなやつをからかおう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超獣対処処理班。通称処理班。国営組織であるそれにも下っ端というのは存在する。新人処理員は一人の先輩と共に超獣処理に向かっていた。

 

「超獣っていうともっとでかいの想像してたんスけど。五六(いつむ)先輩」

「わかるよ〜、この仕事に就けるとテレビで見るようなでっかいの想像するよね」

 

 私もそうだった。と短い金髪を揺らしながら先輩、数引五六(かずびきいつむ)は共感した。仕事のため、処理対象を端末で確認する。人より小さい、ダンゴムシと猪が合わさったような写真が映った。しょぼい見た目に新人、八川唯人(はちかわゆいと)は辟易する。新人の仕事はそんなものだよと五六は笑った。

 

「だいたいね八川。これだって立派な仕事だ。超高速でタイヤが転がって突進してくると考えてみ? すごい怪我するよ」

「といってもね五六先輩。やる気ってあるじゃん、俺テレビで見たヒーローみたくなりたいのに…」

「はいぐちぐち言わん。男の子でしょ」

 

 私だってでかいのなんか戦ったことないよ…と言葉をこぼす。

 超獣は大小様々に霧の中から現れる。討伐してしばらくすれば死体が霧となり、また怪獣は循環していく。土地を捨てることもできないので共生していくしかないのだ。

 

「でもなぁー。てか昇進とかってどうなの先輩。俺ギドリックみたくなりたいんだけど」

「ビッグネームじゃん。強かったら昇進できんじゃない。はい以上〜」

 

 たわいもない話をしながら都市の路地裏を進む。都市開発や超獣対策、被害などで増築を繰り返された住宅街は迷いやすい道をしていた。スマホの案内片手に、建物で日陰になっている暗い道を進む。人が通ってないのがよくわかる、手入れされていない曲がりくねった道だった。

 

 そして、少し開けた空き地にくだんの猪が現れる。ダンゴムシのような外骨格と、猪の筋肉がめだつ濃い茶色の昆虫のような見た目だ。

 

「んじゃ、初仕事だしね。がんばんな」

「うぃ〜」

 

 後輩の背中を叩き先輩が下がり、腕を回しながら八川が前に出る。

 腹のベルトを叩き、すかさず拳を上げてポーズを取る。

 

「変身!」

 

 どこか作業着のような面影残る、白灰色のツナギのような服に包まれる。見た目こそ作業員じみているが、処理班に支給される最初の装備である。装着は一瞬でできて量産型ゆえにカスタマイズも豊富。

 五六は頭に手をやりながら、ポーズも言葉もいらないよ…とぼやいた。浮き足立っている後輩に頭を悩ませているようだった。件の後輩は慣れない変身の高揚感に無鉄砲に笑っている。五六は肩をすくめた。

 処理班には特殊な装置が渡され、それらを使い超人的な身体能力を得る。使いこなし昇進するほどに使用者個人に合わせて改良されていき、最上位の者はさながらヒーローのような見た目になっていた。八川のそれは、最初期に渡されるタイプそのもの。

 

「おっしゃ。俺の昇進一歩目にしてくれるぜダンゴムシ!」

 

 掲げていた腕を脇にしまい、軽やかにかけていく。超獣も接近に気付き、体を丸めた。そんなこと構わないというように八川は拳を振り抜き外骨格に当てる。

 

「〜〜っ、てぇ〜〜!」

 

 どちらかの音か知らないがピシッと罅の入る音がした。

 アホだ…と何度目かのため息。しかし五六のスマホは後輩を捉えていた。報告用にね、写真いるもんね。と誰かに言い訳するように独り言を呟く。

 その間も拳を何度か一点に叩き込み、ついには外骨格を砕く。ひび割れて中身が露出する光景に、八川は息を荒げながら笑った。足を止める瞬間を狙い柔らかい内側の肉を狙い打つ。超獣はそして動かなくなった。

 難ありながらも、八川は初仕事で個人で怪獣を撃破した。倒れた超獣を前に立つ八川は少し体が震えている。そして声を上げた。

 

「〜っ、よっしゃぁあ!!」

「はーい初討伐おめでと〜」

 

 見てたか俺の戦い振りをと五六に詰め寄る八川。近い近いっ…と五六は赤くなりながらたどたどしく感想を述べる。興奮している八川はそのことに全く気づいていないようだった。

 そこにもう一匹、超獣が現れた。同個体だ。猪のような見た目なのだから、集団で出現したのかも知れない。

 助け舟を見つけたように、あっ! と五六は大きく声を上げて、ほんのり赤い顔のまま乱暴に言う。

 

「今度は私がやってやる! そこで見てろ後輩!」

「ダメそうなら手伝いますから言ってください!」

 

 舐めんな! と返して同じようにベルトのバックルを叩く。同じようなツナギ。しかし、八川のものとは違いところどころにプロテクターのようなものがあり、ベースカラーより少し濃いラインが入って、手には柄の長いハンマーが握られていた。

 突進する超獣にハンマーを野球バットのように引き、そして抜く。振り抜けたハンマーには体液や肉片が付き、抜かれた対象は何度か地面を跳ねて飛んでいった。外骨格は完全に砕けている。

 はんっと嘲笑するように鼻を鳴らす。大したことなかったなと言うようだった。

 ハンマーを地面につけて、後輩に顔を向ける。どうだいと聞く表情に後輩は答えた。

 

「…えぇ…こわパイセン…」

「はぁああああ!?」

「てかハンマーって。相手は畜生ですよ?」

「超獣だろが!」

 

 互いに首根っこを掴み揺らし合い、やいのやいのと騒ぐ。かたや素手がロマン。かたや道具ロマン。

 その格好でハンマーとか現場作業員じゃん。と後輩の言によりどんどんと言い合いはヒートアップしていく。

 そこに足音が聞こえた。

 変身による身体能力の向上により、言い合いの最中でも微かな音を捉え素早く視線を向ける。

 

 元々暗い道の先、正気のない不気味な人間の顔が一つ暗闇に浮かんでいた。

 

 足音。どうやら進んできたそれは、猪の額に人間の顔がある超獣。再び足音。身体は先ほど倒した超獣と同じような猪にダンゴムシとは思えない角ばった装甲。その全長は高さが4メートルはありそうな、巨体だった。

 額の人間の目と猪の目が見下ろす形で向けられ、目線に二人は固まる。

 超獣は四足歩行の方後脚を蹴るように地面を擦り、突進の準備をする。それを認識した瞬間に五六と八川は背を向けて走り出した。

 

「やばいやばいやばいッ! あんな巨大なの無理だよ!」

「パイセン! あれ倒さなねえんすか!?」

「巨大な奴と戦ったことないって言ったろ! てかあれ多分レベル3だ! てか区分間違ってるだろ行政のクソ野郎!」

 

 超獣には危険度に応じてレベル別に分けられる。同数値かそれ以下ならば対応が可能として、行政がレベルを分けて仕事を課している。

 処理班の標準、五六などがレベル2。処理班の下っ端や新人、八川などはレベル1、一般人ならばレベル0、五六のみたてでは巨体をもつあの超獣はレベル3。対応外だ。

 みたての数値とはいえ、先輩の言に八川は息を呑んだ。

 

 行きに使った、暗く曲がりくねった道を走る。ある程度進んだのちに、背後から物凄い轟音が響いた。

 八川はスマホで応援を呼びながら背後に目を向けて。

 

「まさかっ、直進してきてる…ッ!?」

 

 息を切らしながらつぶやいた。

 鉄筋を削り、コンクリートを削り、角ばった外骨格と超獣特有の暴力的な身体能力により真っ直ぐと向かってきている。それを示すように、どんどんと音が近づいてきているようだった。

 

 住宅地は都市開発や増築の影響で地域により大きさや種類がまちまち。今走っている住宅地は団地であり、超獣対策に建物の柱が何本か消えようと完全に崩れないようになっている。それが幸いにも道を塞ぐことをなくしていた。

 すぐ背後の道、壁が爆発して巨大な物質が通り過ぎる。

 走りながら後ろを見ると、建物にめり込んだ体を起こし、こちらに向けて地面を削り助走に備えていた。

 

 直後、突然背中を衝撃が襲い、肺の空気が抜ける。

 

 それと同時に背後から爆音。押された衝撃により地面に転がり土を食らった。他にふしながら音源を見れば、大型超獣が建物に体を丸めながら埋めている。突進形態のときダンゴムシのように丸まって突進する。その形態だろう。

 こんな時に、猪の子供の近くには親がいるから危ないなどと、地元の親父の言葉を思い出していた。

 

 先輩の姿がない。

 

「先輩!? どこですか先輩!?」

 

 答え合わせをするように、超獣は建物から体を引き抜く。瓦礫の奥には五六が力無く倒れていた。変身により頑強な体になっているが、どこまで耐えられたものかはわからない。

 

「…五六先輩……」

 

 地に伏してる場合でもなく、起きあがろうと地面を探ると何かに当たる。先輩のハンマーだ。

 やっぱ、素手の方がいいよ…。先輩…。

 重いハンマーは走りずらかったろうと、八川は思った。でも、とそれを手元に寄せて、立ち上がる。

 

 息を吐いて気持ちを整えて。

 超獣は身を震わせて、瓦礫を払っていた。そして四つの目で八川を捕捉し、足で地面を削りながら助走の準備をする。短距離だからか、身を屈めていた。好都合だと八川はこぼして、数瞬。

 

 地面を削り、コンクリートや土を巻き上げながら発進する。それに合わせて、ハンマーを高く掲げながら向かってくる左側に避ける。

 

 掲げたハンマーは身を低くした超獣の目の高さにちょうど当たり、突進してきたスピードも相まって目を潰した。

 グチュリと生々しい感覚が手に伝わることを、ハンマーと一緒に放り、五六の元へ急行する。

 

「先輩ッ! 大丈夫っすか!? 先輩!」

「…かっ、こ、イイじゃんか」

 

 横抱きにしながら体を支える。

 

「…こっから、どう…すんの。ヒーロー…」

「…はは。ノープランです。先輩」

 

 超獣は振り向く。猪は片目から血を流し、額の顔は苦痛と憤怒に歪んでいた。血走る目は震えながらも正確に獲物を捉えている。

 

「…はぁ」

 

 ため息をついた。逃げられないだろう突進がくる。五六先輩を置いていけばまだ可能性はあるだろうが、それは夢を捨てると同義でできやしない。

 五六はどう思ったか、瞳を震わせていた。

 

 横抱きにした体を寄せて、抱き合うような形になる。

 突撃用意をする恐ろしい顔を五六から隠すように寄せた。

 

 そして地面が爆発し、超獣の姿がブレる。姿が消えるようなスピードでの突進に目を瞑ることもできずに、走馬灯からか引き延ばされた目線でそれを見た。

 

「やあ。なんだか困っていそうだね」

 

 それは視界に突然現れた。追突するそれを片足を上げて、足裏でそれを抑えて、超獣の突進は完全に止まっていた。止められた本人は怒りと疑問に進まない地面を蹴り続けている。

 止めた男は、両手をポケットに入れてすました顔で苦労もなさそうに抑えていた。

 

 男の出立ちはボサボサとした髪を後ろで雑に結び、伸び放題になったそれが片方の目元を隠している。黒いシャツにくたびれた上着を羽織り、膝ほどの短パンとつっかけを履いていた。超獣が起こす暴風が持ち上げたのか、鈍色の棒状のネックレスが妙に目に残る。

 そう言った、どうにも超獣対処には向かない格好であった。

 

「助けてあげようか」

 

 声色が立場を語るようだった。己の立場が有利であるコトを知っている者の、余裕の声音。

 

「おっお願いします! そいつを——」

 

「いいよ」

 

 疑念も疑いもあったが、状況をどうにかできるわけない考えを投げて叫ぶ。言い終わるよりも早く了承が返り、男はひょいと小石でも蹴るように抑えていた足を動かした。

 まるでその動作にあわないように超獣は飛ばされ、巨大な体躯は横たわる。すかさず男は両手を出し、両手をゆっくりと合わせた。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと手のひらと手のひらを近づける。

 超獣は歪んでいく。獣の鳴き声が散漫した。それすら気に留めることなく、手のひらがとうとう合わさる。その場には圧縮機に全身を潰されたようにペチャンコな肉片が残った。

 

「…いやぁ、強かったね。あれ」

 

 手をぷらぷらと揺らして振り返り、汗もかく様子なく頭を掻きながらわざとらしい言い方をする男。

 やれやれと言ったように目を細める男に何を言うこともできずに八川は口を開けたまま呆けている。

 

「…何者ですか、あなた」

 

 未だ抱き寄せられた格好のまま、顔を向けて鼻を啜りながら五六は問うた。なんで喋れてるんだろうと八川が疑問に思うと、そういえばスーツって治癒機能あったなと納得する。

 

「そんなに睨まないでくれよ。…こわい」

 

 どうやら睨んでいるらしい五六の目線に、これまたわざとらしく薄く笑いながら肩をすくめる。どうだかっと五六はこぼし、なんだか険悪な雰囲気が立ち込める。

 

「ああ、名乗ってなかったね。僕は尾陰(おかげ)いのり。これでいいかい」

「よくない」

 

 即答された否定に、困ったように眉を寄せてありゃりゃと尾陰は言葉を濁す。

 

「この地域は超獣が出るから市民の方には避難義務があります。避難していない場合、一般の方なら罰則として罰金、そうでなくともそんな力を承認なしに所持しているなら逮捕です」

 

 行政は変身の力やそのほかを管理して処理班に与えている。行政の管理下に置かれない力は不安因子として、治安維持の延長で逮捕することになっている。

 先輩は震えながらも務めて規則に従っている。

 

「あー、それは困ったな。僕は最近ここいらに越してきたばかりでさ。あんまり都合が分かってなかったよ。すまない」

 

 以外にも男は素直に頭を下げた。下げたと言っても、すこし頭を傾けた程度だけれど。

 その謝罪を、五六と八川は見つめる。

 

「…早いね。あんまりのんびりできなそうだ」

 

 どこかを見ながらそう呟くと。

 

 数秒も立たず、あたりにヘリコプターのプロペラ音が立ち込め、サーチライトが探すようにあたりを照らし回っていた。建物の中に押し込まれるようにいたこともあり、サーチライトは僕らを発見できていない。それでも超獣の異常な死体は捉えたようで、縄が垂れると同時に重装備の軍人のような格好をした人が何人か降りてくる。レベル4の処理班特務‘掃除屋’だ。応援は確かに呼んだけれど、過剰戦力な気もした。

 一瞬そちらに目をやり、再び目線を戻すと尾陰と名乗った男はすでにそこにはいなかった。

 

「それじゃあね」

 

 姿もないのに、声だけが聞こえた。

 やがて建物に倒れる二人を掃除屋が発見し、八川の初任務は終了した。

 




 はっはーって笑わせようと思ったけど忍野メメになるからやめた。
 八川くんは普通の体格に脳筋思想を兼ね備えた黒髪黒目の男の子。数引ちゃんは一般的な体型に筋肉質なプリン頭で三白眼の女の子。
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