クズ男に初恋を弄ばれたギャルは、誠なるハイスペック合法ショタに慰められる 作:雨を呼ぶてるてる坊主
御昼休みが始まり、生徒会室を出た私と綾香さんは植物園に向かいながら他愛ない会話をしていました。
「それにしても、凄かったわね!スポーツテスト!!」
「そうですね。皆さん不純な動機があったとはいえ、御互いに全力を尽くし合えたと思います。これを通じて、協調性なども育まれた事でしょう。」
「けど、落としどころが良かったわよね。賭けの結果。」
「そうですね。どちらか一方のクラスが、食券を貰えないとなると不公平になってしまいますからね。まぁ、終わり良ければ全て良しという奴です。」
そう話していると、植物園が見えてきました。そこには、生徒指導の先生もいらっしゃいました。そんな彼は強面な風貌ですが、花を愛する心優しい先生なのです。
「おう!生徒会長様に・・・。たしか、桐野綾香だったか。ここで弁当を食うのか?」
そう破顔一笑する先生は、生徒の皆さんからは「鬼軍曹」や「地獄から這い上がりし獄卒」などと
「はい。あの・・・御邪魔でしたか?」
私がそう聞くと、先生は豪快に笑いながら答えてくれます。
「いやいや、気にすんな!!ちょうど、花の手入れが終わったところだったしな!!・・・それにしても、珍しい組み合わせだな。桐野、不躾な質問かもしれんが近藤とは食わんのか?」
その言葉に、私と綾香さんは思わず顔を見合わせて困った様な笑みを浮かべます。すると先生は何かを察してくださったのか、頭を下げてくれました。
「あ~・・・すまんな。踏み込み過ぎた。」
そう謝罪をする彼に、綾香さんは慌てて手を振ります。
「い、いえ!大丈夫です!!」
「まぁ、何か困った事があったなら生徒会だけじゃなくて先生達にも話してくれよ!!生徒の守秘義務は負ってやるからな!!」
そう豪快に笑うと、彼は植物園から出て行かれました。そんな彼の後姿を見ながら、私達は顔を見合わせて苦笑いしてしまいます。
「何と言うか、思ったよりノリの良い先生ね。」
「そうですね。強面ですが、優しい先生ですよ。とはいえ、怒られた時はとても恐ろしいのですが・・・。」
「あぁ・・・、確かにそうね。」
そう笑うと、綾香さんはお弁当箱を広げてくれます。その中には、ひじき煮や鮭の塩焼きなど私の好きな献立が並んでいました。
「わぁ・・・。美味しそうです!私の好きな物が色とりどりと並んでいます!」
「そ、そう?御口に合えば良いんだけど・・・。」
そう謙遜する彼女の声を聞きながら、私は鮭の身を解して口に運びます。すると私の口の中で身は柔らかく崩れ、程よい塩気が口内を刺激します。
「美味しいです・・・。鮭は良い塩梅で塩気が効いていて、白米が進みますね。ひじきも甘く煮られており、私の好みの味です。」
「本当!?良かったわ・・・。」
そうホッとする綾香さんも、お弁当を食べ始めます。しばらく、お互い無言で食べ勧めていると植物園の上から何羽かの
「ふふっ、可愛いわね。・・・そういえば、雀って御米を食べるんだったっけ?」
「えぇ。正確には生米ですね。炊いた御米を食べてしまうと、
「なるほど・・・。それにしても、時雨君の所に甘えてるみたいに寄って来てるわ。動物は本能で人の優しさを見抜くっていうし、時雨君の優しさが分かるのね。」
そう言いながら、綾香さんは微笑ましそうに見てきます。
「撫でてあげたいけど・・・。野生の鳥は、触ったら危ないのよね・・・。」
「えぇ、残念ですが・・・。何らかの、病原体を保有している可能性がありますから・・・。」
「そうよね・・・。ごめんなさいね、雀ちゃん。御飯はあげられないの・・・。」
彼女がそう言うと、雀達は首を傾げた後に飛び去って行きました。そんな雀達を見ながら、彼女がふと話し始めます。
「そういえば昔、幼稚園で日本昔話を読んだ話を思い出したわ。たしか・・・、雀と
「あぁ、スズメとツバメの事ですかね?母君が危篤になったと凶報が入った際に、妹であるスズメは脇目も振らず飛んで行き親の最期に立ち会えたのに対し、姉であるツバメは化粧をして着飾った為に看取る事ができなかったのですよね。」
「そうそう。それで神様に呼び出された結果、ツバメは虫しか食べる事ができないのに対して、スズメは穀物を食べる事ができるようになったのよね。」
「ですが・・・物語だけを見るとスズメが善人のように書かれていますが、実際には穀物を食べるスズメが害鳥とされており、害虫を食してくれるツバメが益鳥とされているのが何とも言えませんよね。まぁ、近年ではスズメを益鳥としている事も有りますが・・・。」
「そうよねぇ・・・。」
そうこう話していると、お昼休憩が終わる鐘が鳴り始めます。その音に私達は重たい腰を上げて教室に向かおうとしますが、綾香さんが私の袖を引っ張ってきました。
「あ、あの・・・。時雨君、ちょっと良い?」
「はい?如何なさいましたか?」
そう私が訪ねると、綾香さんは頬を少し染めながら気まずそうに話そうとしてきます。そんな彼女の様子に私は何事かと気を張ってしまいますが、彼女の口から出た言葉に拍子抜けしてしまいました。
「あの・・・。連絡先交換しない?」
「え・・・?連絡先ですか・・・。」
彼女の言葉に、私はハッとしてしまいます。確かに、彼女と知り合ってから数日しか経っていませんが、未だに連絡先を交換していない事に気付きました。
「確かに・・・連絡先を交換していませんでしたね。」
「え、えぇ。その・・・朝の登校の時間とか、お昼ご飯のリクエストとかも聞きたかったりする事も有るし・・・。駄目・・・かしら?」
そう聞いてくる彼女は、少し不安そうな顔をしていらっしゃいます。そんな彼女の眼差しに断る事など出来はしませんし、そもそも断る理由もありませんので私はそれを了承します。
「構いませんよ。寧ろ、私の方から申し上げるべき事でしたね。」
「き、気にしないで!!えぇと、今スマホは持ってる?」
「あ、はい。ですが、連絡先の交換方法が分からなくて・・・。」
そう言いながら携帯端末を出す私に、彼女は不思議そうに首を傾げます。
「え?でも、海人君や弥生ちゃんとは連絡先を交換してるんでしょ?」
「それが・・・。どうも私は機械に弱くて、今まで海人に設定をしてもらっていたんです。」
私が苦笑いしながら申し上げると、彼女は納得した様に笑い返してくれました。
「じゃあ、連絡アプリのホーム画面からQRコードを出してみて。ここのアイコンをタップするの。」
その彼女の指示通りにすると、QRコードが表示されます。すると彼女は、QRコードを携帯のカメラで撮影しました。すると、私の携帯の画面に彼女の連絡先と思われるアイコンが表示されました。そのアイコンは、澄み切った橙色の飲み物の底に黒い何かが沈んでいる物でした。
「あの・・・。この写真に写っている飲み物は?黒い沈殿物が写っているのですが・・・。」
私のその言葉に、彼女は呆気に取られた顔をするとクスクス笑い始めます。
「フフッ。く、黒い沈殿物って・・・。タピオカよ、マンゴーミルク味のね。飲んだことない?」
彼女のその言葉に、私は先日テレビで取り上げられていた事を思い出します。なんでも「映え」・・・などという言葉が、飛び交っていましたね。それの事でしょうか?
「はい。以前、茶の間のテレビで紹介されていたのを拝見致しましたが、飲みに行く機会が無く・・・。海人と弥生は、既に飲んだ事があるそうですが・・・。」
私が自らの無知を晒した事に赤面していると、彼女が突然提案を持ちかけてきました。
「じゃあ、今度一緒に飲みに行ってみる?」
「え?」
「今度の休日、良かったら一緒に出掛けない?勿論、時雨君が暇だったらの話なんだけど・・・。」
その言葉に、私は目を丸くして聞き返してしまいます。
「あの・・・、宜しいのですか?私は"たぴおか"なる物を飲んだ事はありませんし、飲みに行った先で作法を間違えて綾香さんにお恥ずかしい思いをさせてしまっては・・・。」
その言葉に、彼女は
「フッ!フフフッ!そ・・・、そんなに緊張しなくて大丈夫よ!高級料亭に行くんじゃないんだから!!」
「さ、左様ですか。」
「そうよ!タピオカは誰であろうと、気を張らずに楽しく飲めるのよ!それにしても、タピオカは初体験なのね・・・。なんだか嬉しいわ。貴方の初めての体験を、私が独占できるみたいで。」
「ほ、本当に大丈夫ですよね?お手柔らかにお願いしますよ?」
「大丈夫よ!じゃあ何時集合かは、今日さっそく夜に連絡し合いましょ!」
そう言うと、彼女は私の手を取って歩き始めます。その横顔は、とても煌びやかで喜色満面という言葉が似合っていました。そして、廊下を歩いているときに彼女が何気ない疑問を飛ばします。
「そういえば、貴方のアイコンって楽器なのね。あのアイコンは、三味線かしら?」
「三味線ではなく、三線ですね。個人的に三線の方が柔らかな音色が響くので、私の好みなんですよ。」
「な、成程。何と言うか・・・、良い意味で期待を裏切らないアイコンね。」
そう苦笑いする彼女に、私もつられて笑顔を浮かべてしまいます。
「そうですね・・・。今度、よろしければ演奏してみましょうか?」
「え!?いいの?・・・じゃあ、今度機会があれば聴かせてくれる?」
「はい、お任せください。」
そう笑い合いながら私達は教室へと歩を進めて行きます。それにしても、海人と弥生以外の生徒と連絡先を交換したのは初めてですね。やはり、彼女の存在のお陰で私の中で何かが変わろうとしているようです。
(この先も、彼女と友愛を育んでいける事を切に願いましょうか・・・。)
そう思いながら、私は教室に入り午後からの授業の準備をします。そんな私の心は、自分でも気付かない程の僅かさでありながら、温もりを感じ続けていたのでした。