クズ男に初恋を弄ばれたギャルは、誠なるハイスペック合法ショタに慰められる   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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綾香視点です


月夜に奏でる三線

水無月家の人達との食事が終わり、時刻は午後九時ごろ。私は時雨君と二人きりで一緒に縁側で御茶を(すす)っていたわ。海人君と弥生ちゃんは、御食事のときに居た(なつめ)君と(れん)ちゃんという子供達と遊んでいるみたい。

 

 

因みに御母さんと御父さんには十時頃に帰るとメールを済ませており、帰るときには水無月家の運転手さんが送迎してくれるみたい。

 

 

(本当に、至れり尽くせりよね・・・。今度また、御礼をしなくっちゃ。それにしても、松阪牛は初めて食べたけど・・・。美味しすぎたわね。それに、すき焼き用の卵も黄身がオレンジ色だったし濃厚だったわ・・・。)

 

 

そう物思いに(ふけ)る私の目の前には、涼しげな音を奏でる森林と、綺麗な夜空に真ん丸な月が浮かび上がっていた。

 

 

「涼しい風ねぇ。」

 

 

「そうですね、ここら一帯は空気が澄んでいますから。月が淀み無く見えるのでしょう。」

 

 

「御月見とかしたら、もの凄く綺麗に見えそうじゃない?」

 

 

「えぇ。実際に月見をする場として、此処の縁側はよく水無月家の方々が使われているのですよ。」

 

 

「そういえば、日本神話には月の神様が居るのよね?たしか、月読命(つくよみのみこと)さんっていう神様の。たしか、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)さんの子供だったっけ?」

 

 

その私の言葉に頷きながら、時雨君は更に詳しく説明をしてくれる。その姿はまるで、日本神話を専攻している博士のようだわ。

 

 

「そうですね。正確に申し上げるなら、黄泉の国の穢れを堕とした際に伊弉諾尊(いざなぎのみこと)様が右目を洗われた際に生まれた神様ですね。ですが・・・月読命様は、謎多き神様でもあるのですよ。」

 

 

「そうなの?たしか天照大御神さんと須佐之男命さんの三人で、セットにされてる印象が強いけど・・・?」

 

 

「それは否めませんが、事実として月読命様に関する記述は少ないのが現状です。一説では、月読命様は須佐之男命様と同一人物とされているとか。」

 

 

その言葉に私が首を傾げていると、時雨君が追加で説明をしてくれる。

 

 

「例えば、五穀を司る女神である大宜都比売神(おおげつひめのかみ)を殺したのは、古事記では須佐之男命様とされていますが、日本書紀では月読命様とされていますからね。」

 

 

「えっ!?何で殺されちゃったの!?」

 

 

「なんでも、彼等をもてなす際に食物を己が身の口や臀部から出してしまったからという逸話だった気がします。」

 

 

その説明に私は呆然としてしまったわ。なんというか、いろんな神様がこの国には居るのね・・・。流石は、八百万の神々が居るとまで言われるだけのことはあるわ・・・。そして、ふと何気無い疑問が私の頭の中を占める。

 

 

「・・・そういえば、神様って見えないのよね?」

 

 

「左様ですね。」

 

 

「じゃあ、どうやって日本人は神様なんて概念を作ったのかしら?」

 

 

そう。そもそも人は神様を見た事が無い。私の御祖父ちゃんや御祖母ちゃんはキリスト教を信仰しているけど、キリスト教にはイエス・キリストっていう教祖様が存在している。けれども、日本の神道文化には明確な教祖は存在しないとお父さんは言っていたわ。

 

 

私のその言葉に時雨君達は首を傾げていたけれど、やがて私に向かって一つの持論を伝えてくれた。その内容は、とても納得できる説だったわ。

 

 

「恐らくは・・・。恐怖心を無くす為でしょうね。」

 

 

「恐怖心を無くす?」

 

 

「はい。今でこそ地震などの自然災害には、理論的な仕組みによって引き起こされるものだと確立がされました。しかし、科学が発展していない時代では未知の現象であったことは確かでしょう。だからこそ、人々は神という存在を作り上げた。少しでも、自然災害という未知なる存在の原因を可視化する為に・・・。あくまでも、私の持論ですがね。」

 

 

「なるほど・・・。昔の人達なりに、恐怖を克服しようとしていたのね・・・。」

 

 

「そうですね。しかし、その心得があったおかげで神という存在が生まれたと思うと感慨深いですね。」

 

 

そう穏やかに笑う彼の横顔が青白い月明かりに照らされ始め、夜風に吹かれた黒曜石のような色をしたミディアムヘアがサラサラと揺れる。そんな髪を掻き揚げる彼の表情は儚げで、指の爪先で触れてしまえばシャボン玉のように消えてしまうんじゃないかと思うくらいに美しいものだったわ。

 

 

そんな彼の顔を照らす月を見ながらポツリと呟くと、彼は何故か頬を桃色に染めてしまったわ。

 

 

「月が綺麗ね・・・。」

 

 

「・・・綾香さん、意味を分かった上で仰られていますか?」

 

 

「え?ど、どういう意味?月が綺麗って、神道系における特殊な単語だったりするの?」

 

 

「いえ・・・、そういう訳ではありませんが・・・。」

 

 

そう言いながらも体を落ち着かないように揺らす時雨君は、何かを思い出したように顔を上げ始めたわ。

 

 

「そういえば綾香さん。この前の件なのですが・・・。」

 

 

「え?この前の件って?」

 

 

「・・・連絡先を交換した時に交わした、約束の件です。三線(さんしん)を貴方に聴かせるという約束だったではないですか。」

 

 

そんな彼の言葉に、私は御弁当をリベンジした日の事を思い出す。たしかに、連絡先を交換した時に三線を聴かせてくれるって約束してくれてたわね。

 

 

「・・・もしかして、聴かせてくれるの?」

 

 

「えぇ、約束ですから。少々お待ちください、自室から三線を御持ち致しますので。」

 

 

そう言いながら、時雨君は縁側から立ち上がって自室に向かってしまう。・・・そうして、数分が経った頃に時雨君は再び縁側に来てくれたわ。そんな彼の腕には、メッセージアプリにアイコンに写されていたのと同じ三線が抱えられていた。

 

 

「これが・・・、三線なのね。」

 

 

「はい、この三線は爺様から父に。父から私へと、代々受け渡されてきたものなのです。」

 

 

そう言いながらも愛おしそうに三線を撫でる時雨君は、本当に幸せそうな顔をしていたわ。それに、時雨君の持っている三線は、新品同様っていう訳じゃなかったけど代々受け渡されてきた割には、もの凄く綺麗な状態だった。

 

 

「・・・それでは、奏でさせていただきますね。」

 

 

そう言うと、綺麗な満月が浮かび上がる夜空に綺麗な弦の音が響き渡り始めたわ。その音色は静かに・・・儚い音色を奏でつつも耳に響き渡る不思議な音をしていた。

 

 

そんな音をしばらく聞いていると、時雨君の傍に何かの影が降り立ったわ。それは、数羽の小さな(ふくろう)さん達だった。そんな梟さんは、目を細めて時雨君の演奏に聞き入りながら伴奏を奏でるかのような鳴き声を上げていたわ。

 

 

風に吹かれてサラサラと擦れ合う葉の音色、慎ましげに響く梟さん達の鳴き声、儚くもスッと耳に入って来る時雨君の三線の音。正にここら一帯は、時雨君と自然豊かな動植物が奏でるオーケストラ会場と化していたわ。

 

 

「綺麗な音色やねぇ・・・。」

 

 

「邪魔するぜ。」

 

 

その囁き声に振り向くと、そこには棗君と蓮ちゃんを抱っこしている海人君と弥生ちゃんが居たわ。

 

 

「二人とも・・・。なんと言うか、子持ちの夫婦みたいな絵図らになってるわよ。」

 

 

私の言葉に海人君は顔を真っ赤にし、弥生ちゃんも困った様な笑みを浮かべつつも私の背中をバシバシ叩いてきたわ。

 

 

「も、もぅ~!あんまり揶揄わんといてぇやぁ~!」

 

 

「フフッ。ご、ごめんなさい。」

 

 

そう言いながらも、私達五人は静かに時雨君の奏でる音色に耳を傾け始める。この幻想的な時間を、私は生涯忘れる事は無いのだろうなと思いながら・・・。

 

 

そうして、楽しい時間は過ぎていき御暇する時間になる。海人君と弥生ちゃんは時雨君の家で御泊りしていくらしい。

 

 

時雨君は私を家まで送ってくれるらしく、そんな私が時雨君と玄関に向かい靴を履いていると、時雨君の親戚の人達も御見送りに来てくれたわ。

 

 

「お嬢ちゃん、また来てくれよな。」

 

 

「綺麗な御目のお姉ちゃん、また来てね!!」

 

 

「今度は、蓮と棗とも遊ぼうね!!」

 

 

「いつでも来なさい。そなたは儂等にとっては最早、家族同然なんじゃからのぅ。」

 

 

そう温かい言葉を掛けてくれる方々に、私は自然と目頭が熱くなってしまう。そんな中、翡翠さんが私達の目の前に立って話し掛けてくれた。

 

 

「時雨。しっかり綾香さんを、御自宅まで送り届けるようにね。」

 

 

「はい、承知いたしました。」

 

 

「それから、綾香さん。今日は楽しい時間を、君の御陰で送る事が出来たよ。我が家を代表して、少しばかりの御礼の品を渡したい。」

 

 

その言葉と共に、翡翠さんは私に綺麗な紙袋を渡してくれた。その紙袋に私が首を傾げていると、時雨君が袋の中身を教えてくれたわ。

 

 

「先日、御約束をしていたでしょう?天然香料の香水を御譲りすると。」

 

 

その言葉に私は慌ててしまうが、翡翠さんは穏やかな笑みを携えたまま頭を振ってくれたわ。

 

 

「え・・・えぇ!?も、もしかしてあのときの事!?じょ、冗談だと思ってたのに・・・。」

 

 

「気にしなくても構わないよ。時雨からは聞いているかもしれないけれど、謂わば試供品の様なものだからね。是非とも使って、感想を聴かせてくれると私も嬉しいんだ。」

 

 

「わ、分かりました・・・。あ!れ、連絡先とか交換しておいた方が良いですか!?」

 

 

「あぁ、そうだね。どうせなら、家族のグループチャットに招待しておこう。それで構わないかな。」

 

 

「は、はい!!・・・そ、それでは失礼します。今日は、有難うございました。」

 

 

そう言うと、私は時雨君と森林を抜けた敷地内の出口で待機されている車の中に乗って、我が家に帰る事になる。車の中で失礼だとは思いつつも、紙袋の中をそっと覗き込むと、袋の中には八つの香水が入っていたわ。

 

 

「こ、こんなに頂いて良いのかしら・・・。一つだけでも、数万円越えなんでしょ?」

 

 

「いえ。父上からすれば、近い内に発売する新商品の意見を、真っ先に聞く事が出来る良い機会と捉えられたのでしょう。まさに、願ったり叶ったりといった感じでしょうね。」

 

 

「これ・・・数としては八つ入ってるんだけど、もしかして家族全員分を二種類づつって事かしら?」

 

 

「はい。男性用の香水も入っていますからね、晴斗さんにも御使いになれらるように仰ってください。」

 

 

「わ、分かったわ・・・。」

 

 

そう言っていると、いつの間にか車窓からは私の家が見えてきたわ。そして、そんな家の前では御母さんがキョロキョロと心配そうに辺りを見渡していた。

 

 

車が家の前で停止すると、御母さんは安心したような顔で駆け寄ってきた。

 

 

「綾香、お帰りなさい!!どうだった!?」

 

 

「お、御母さんただいま・・・。うん・・・あとで色々話すけど、水無月家の人達は皆良い人達だったよ。」

 

 

「そう・・・。何か粗相をしていないか、心配だったのよ・・・。あら、時雨君じゃない!もしかして、送って来てくれたの!?」

 

 

その御母さんの言葉に、時雨君は穏やかに笑いながらペコリと頭を下げてくれた。

 

 

「こんばんは、クレアさん。今宵は長らく娘さんを御預かりしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

 

 

「大丈夫よ~。寧ろ、御夕飯まで御相伴に預かったみたいで・・・。娘がそちらの御両親に、何か粗相をしなかったかしら・・・?」

 

 

「いえいえ。両親も、綾香さんと相見える事を心待ちにしておりましたし、我が親族の方々ともすぐに打ち解けられましたよ。」

 

 

「そう、良かったわ・・・。今日は色々と有り難うね。」

 

 

その言葉に時雨君は穏やかに微笑むと、私の方を向き直って笑いかけてくれた。そんな彼の表情にドキドキしながらも、私も彼に笑いかける。

 

 

「それでは、綾香さん。また明日会いましょう。」

 

 

「えぇ、また明日ね。」

 

 

その言葉に一礼すると、時雨君は車に乗り込んで帰っていく。そんな彼の乗る車を見ながら、私の心はポカポカと温かくなっていくのだった。




次回、試験開始です。
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