クズ男に初恋を弄ばれたギャルは、誠なるハイスペック合法ショタに慰められる   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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綾香視点です。


ギャル帰還

「ただいまー・・・。」

 

 

私はそう言うと、家の中に入る。すると私のお母さんである、桐野クレアが満面の笑みで出て来るが私の様子に気付いたのか少し落ち着いた顔に成る。

 

 

「おかえりなさい!綾香・・・!・・・綾香?どうしたの?何かあったの?」

 

 

「何でもないわよ、ちょっとお部屋に行くだけだから・・・。」

 

 

「そう・・・。落ち着いたら出てきなさい。お父さんと咲も居るわ。お部屋から出てきたらご飯にしましょうね。」

 

 

「うん・・・。」

 

 

私はそう言うと、二階の自室に上がり着替えもせずにベッドに転がる。そして、脳裏に浮かぶのは今日の出来事だった。

 

 

今日、私は幼馴染であり彼氏でもある健治に喫茶店に呼び出された。私達は校内でも有名なカップルで、皆からも「テニス部のイケメンと、金髪碧眼美少女カップル」だの「お似合いの二人」などと、もて(はや)されていた。

 

 

私が彼と付き合う事になったきっかけは、彼が学内対抗のテニスの大会で惨敗して泣き叫んだからだった。普段は肉食的な言動をする彼の弱った姿を見た私は、母性本能のような物をくすぐられて彼を慰め告白した。その結果、健治は私の告白を喜んでOKしてくれたわ。

 

 

実際私は、幼稚園の頃に私を虐めから救ってくれたヒーローのような存在である健治が大好きだったし、彼女として恥じないように努めてきたとは思う。彼も、そんな私に好意を抱いてくれていた・・・。1つネックだったのは、健治はスケベで早く肉体関係を結びたいとがっついていた所だった。

 

 

確かに、健治は筋肉質でモテる。明け透けな言い方かもしれないけど、彼に抱かれて不満を漏らさない女の子はいないと思う。それでも、私は高校生の内はそういった関係にはなりたくは無かった。

 

 

私が望む男女の関係は・・・。なんというか、こう・・・。のんびりと、日々の一つ一つの喜びを分かち合う・・・。そんな関係だったからだ。

 

 

(実際私も、悪かったとは思ってるわよ・・・。でも、そういう風に情熱的に愛し合うだけが恋人じゃ無いでしょ・・・?)

 

 

そして、今日・・・。私は喫茶店に呼び出された。その時は、あんな地獄になるだなんて考えもしなかった。最近健治はよそよそしかったし、少し冷却期間が必要だったのかな?ぐらいにしか思わなかった。

 

 

まさか、あんな地獄に叩き落とされるなんて・・・。

 

 

健治は開口一番、「浮気をしている。すまない。」と言ってきた。その言葉に、私は目の前に居る彼が何を言っているのかが分からなかった。そのまま私が沈黙していると、彼はまるで自分が被害者であるかのように語りだした。

 

 

半分意識を手放してたから断片的にしか聞こえなかったけど、『テニス部のマネージャーと付き合っている』だの『俺は二人とも愛している。』だの『俺だって、二人どっちかを選ぶなんて出来ずに苦しかった』だのと理解不能な言葉を話し続ける。

 

 

そして、ある程度彼が話し終えたところで私は堪忍袋の緒が切れて怒りをばらまいた。今思えば、お店のお客さんやマスターには迷惑だったと思う。今度、謝りに行かなくちゃ・・・。

 

 

そして、私が彼に冷水をぶちまけると彼は暫く黙った後、まるで主人に叱られた子犬の様にすごすごと喫茶店から出て行った。そして私も、まるでブリキのおもちゃの様にふらふらと街に出た。いつ、マスターにお代を渡したのかさえも覚えていない。もしかしたら、無銭飲食をしてしまったのかもしれない。

 

 

けど、そのときの私は何も考える事ができずにフラフラと街を歩いていた。すると、ボーっと歩いていたせいか運が悪かったのかは分からないけど、見るからにヤンキーと呼ばれるであろう派手な装飾品をしている3人の男達にぶつかってしまった。

 

 

男達は「何ぶつかって来てんだ!」、「骨が折れたかもなぁ!」、「治療費払え!このアマ!」、「金がねぇなら、体で払ってもらおうか!」、「本当はこんな女じゃなくて、ショタが良かったんだけどなぁ!」などと、汚らしい欲望を隠さずに私に迫ってきた。

 

 

普段の私なら、すぐに助けを呼んだのかもしれない。それでも、私の精神状態は限界で寧ろ「この3人を健治だと思って抱かれたら幸せなんじゃないのかな・・・。」等というバカげた考えまで浮かんできた。

 

 

そして、一人の男が私の腕を掴んで汚らしい欲望をぶつけ来ようとしたそのとき。聞き覚えのある幼くも落ち着いた声が聞こえてきた。その声はまるで、周囲の汚い空気を一掃してしまう程の清らかな声・・・。

 

 

「桐野さん、何をしているのですか?まだ警察の方々から補導される時間帯ではありませんが、夜道は危険ですよ。」

 

 

その声の方向を振り向くと、そこには見知った顔があった。それは、私の通っている高校の生徒会長である水無月時雨君だった。

 

 

「・・・生徒会長君?」

 

 

噂程度でしか聞いた事は無いけど、日本の大企業「水無月グループ」の御曹司で頭脳明晰で常に全国模試では上位を取り、その小さな体躯を生かした動きでバスケやサッカーでは次々と点を決める事で有名で、健治が正統派にモテる男なら、彼は女子達の母性本能をくすぐる意味でモテる噂のある子だった。

 

 

そんな彼は、私の方に近づいてくる。その瞳は冷たくも何処か温かみを感じる眼差しだった。

 

 

「桐野さん。我が校はそこまで校則には厳しくはありませんが、夜間の不純異性交遊は厳禁です。即刻、帰宅してください。」

 

 

けれども、彼が来たところでこの状況が好転するわけでもない。それに、彼は性別は男だけど女の子の様な顔をしているから、この男達の毒牙に掛かってしまうかもしれない。そう思った私は、大声を出して逃げる様に言おうとした。けれども、先程の1件がショックだったせいか、力のない声しか出ない。

 

 

「いいよ・・・。生徒会長君こそ危なくない・・・?そんな小さい体で・・・、(さら)われても知らないよ?」

 

 

彼の身長は、平均的な男子高校生にしてはかなり低い方だ。確か、彼のファンクラブの子が150.1cmって言ってたっけ・・・。しかし、そんな小さな身体から出ているとは思えない程の力強い声が彼の口から放たれる。

 

 

「桐野さん。最後通告です。彼等から離れなさい。そして、即刻家に帰りなさい。」

 

 

その声は、堂々としており一切の恐れのようなものが見えなかった。私がその立ち振る舞いにボーッとしていると、痺れを切らした男達が騒ぎ出す。

 

 

「なんだぁ?チビ助。この女の弟か?」

 

 

「この女は、今から俺らと遊ぶんだよ!殺されたくねぇなら、さっさと失せろ!!」

 

 

「というか、よくよく見たらこいつも可愛い顔してんじゃねぇか。どうだチビ助?お前も一緒に遊ぼうぜ、俺達が気持ち良いこと教えてやるからよぉ。」

 

 

「ギャハハハ!お前、ショタコンかよ!」

 

 

その言葉に、私は顔が真っ青になる。私の所為で、この小さい生徒会長が慰み者になる。それだけは絶対に嫌だった。しかし、そんな男達の下品な会話にも一切眉を動かさず彼は堂々と宣言したの。

 

 

「結構です。貴方の様な下劣な男から学ぶ事など、何一つとしてございません。しかし、このまま貴方達が黙って引き下がるとも思いません。そこで、少し条件を付けましょう。」

 

 

その言葉に、私も男達も首を傾げたわ。

 

 

(条件・・・?この子は一体、何を言い出すつもりなの?)

 

 

そして、彼が発した次の言葉に私は息を呑む事になったの。

 

 

「私を見事叩きのめし、地を這わす事ができたならあなた方の傀儡(かいらい)と成り隷属(れいぞく)する事を誓いましょう。」

 

 

傀儡・・・隷属・・・。彼の放つ言葉は、古語・・・とでもいうのかしら。とても難しい言葉だったけど、何となく意味は理解できたわ。つまり、彼は自分が負けたら彼等に一生付き従うと宣言したのだ。

 

 

その言葉に、私は一抹の不安感を覚えたわ。けれども同時に、ほんの少しだけ安心感も覚えたの。そう言い放った瞬間の彼の体は、視覚的には小さい筈なのに何処か大きくなったように錯覚したから。

 

 

そんな私の思いなど知らずに、彼を好みだと言った一番大柄な男が歩を進めたの。

 

 

「ほざいたなガキが。女の目の前で、格好付ける度胸だけは認めてやるよ。俺はな、お前みたいな自尊心の高いガキを跪かせるのが得意・・・。」

 

 

けれども、男の言葉が続く事は無かったの。なんと時雨君はものすごい速度で突進したかと思うと、掌を男の股間に叩き込んだの!女の私には分からないけど、あれは痛いんでしょうね・・・。

 

 

そして、醜くのた打ち回る大男を蔑むように見下ろしながら彼は余裕の発言をしたの。

 

 

「果し合いの最中に御託を並べるなど、愚の骨頂・・・。女性を性の捌け口にしようとする、そんな汚らわしいものは潰すに限ります。」

 

 

けれども、大男は痛みをこらえながら時雨君に突進を始めたの!そして、丸太のような太い腕で拳の連撃を始めたわ!

 

 

けれども、その光景を見て私は狐につままれたような感情になったわ。

 

 

(パンチが・・・当たってない?)

 

 

彼は、足を一歩も動かしていない。にも拘らず、大男の拳は全て空振り・・・いや、すり抜けているのだ。まるで、彼が大男の心を読んで攻撃が当たるか当たらないかのギリギリのタイミングで(かわ)しているかのように・・・。

 

 

私が呆然としていると、突然時雨君は眉一つ動かさずに大男の腕を掴んだの。まるで、「御遊びは終わりだ。」とでも言うかのように。

 

 

そして、次の瞬間!男の腕から嫌な音が響いたの!私は瞬時に目を瞑ってしまったけど、恐る恐る目を開けたわ。そして、その光景に息を呑んでしまったの。何故なら、地面にへたり込む大男の腕が有り得ない方向に捻じ曲がっていたから!

 

 

すると、時雨君はゆっくりと歩みを進めたわ。まるで、草食動物の四肢を食いちぎりなおも逃げようとする獲物をじりじり追い詰めるライオン(百獣の王)のように。そしてゆっくりと、言葉を紡ぎ始めたわ。

 

 

「男として生まれたなら・・・勝負から逃げてはなりません。もう一度、巻藁(まきわら)を打つところから出直しなさい!」

 

 

そう言うと、彼は大男の後頭部を踏んで見事ノックアウトしてしまったの!そして、残りの男達が彼に気圧されて退散すると、彼は私の方に歩み寄って来てくれた。

 

 

その姿に、私の心は高揚した。あんなに小さい彼が、大男を一人で制圧してしまったから。

 

 

「生徒・・・会長・・・君?」

 

 

私が言葉を紡ぐと、彼は先程の冷たい表情とは違い穏やかな笑みで話しかけてくれた。

 

 

「ご無事でしたか?桐野さん。」

 

 

その笑顔に、私の心臓が鳴り始める。これが、先程の戦いの高揚感なのかもっと別の物なのかは分からない。けれども、私の心臓は早鐘の様に鳴っていた。

 

 

そんな私を見ながら、時雨君は私の手を取って起き上がらせてくれた。そして、安全な場所に行こうと人通りの多いコンビニまでエスコートしてくれた。

 

 

そして、「ベンチに座っててください」と言うと彼はコンビニの中に入っていった。そして、暫くすると温かい抹茶オレを差し出してくれたわ。

 

 

「どうぞ、温まりますよ。」

 

 

その声に、私は更に体が熱くなってきた。彼の声は悪く言えば幼く子供っぽいけど、良い様に言えば相手の心を溶かしてしまう魔法のような甘い声だからだ。

 

 

「あ、ありがとう・・・。あ、あの・・・。さっきはありがとう。その・・・見た目以上に、強いのね・・・。」

 

 

「そう思われるのも無理はないでしょう、この様な体躯ですからね。」

 

 

私の言葉に苦笑する彼を見て、私は内心「しまった!」と思った。いくら可愛い系男子として女の子達から人気でも、彼がそれを良しとしてるとは思えない。私は慌てて彼に謝罪する。

 

 

「ご、ごめ・・・。そんなつもりじゃ・・・。」

 

 

「気にしないでください。私が小さいのは事実ですし、奇異の目で見られるのには慣れています。」

 

 

そう言う彼を見て、私は内心ホッとする。何故かは分からないけど、彼に嫌われたくないと思ったからだ。しかし、ここで一つ疑問が生じた。なぜ彼は、私を助けに来れたのだろう?私が襲われそうになった場所は路地裏だ。人通りも少なく、犯罪を行うにはもってこいの場所。

 

 

けれども彼は、私を助けに来てくれた。それを疑問に思い彼に質問すると彼は少し気まずそうに答えてくれたわ。

 

 

なんでも、彼もあの喫茶店に居たらしく私達の口論を聞いていたらしい。その言葉に私は、顔が赤くなる。同じ学校・・・それも、全生徒のトップともいえる生徒会長に聞かれるなんて・・・。

 

 

けれども、彼はそれ以上何も言わなかった。その態度に私は新鮮さを覚えた。普段学校で私が悩んだり悲しんだりしていると、普通の男なら「何があったの?」や「俺で良かったら話聞くよ?」などと、私を下心丸出しで慰めてくるかもしれないけど、彼はそうはしなかったわ。

 

 

「聞かないんだ・・・。何があったのか。」

 

 

私がそう言うと、彼はゆっくりと口を開いて話してくれた。

 

 

「はい。話す事で楽になる事もありますが、悲しみがぶり返す事もありますから。今のあなたは、後者でしょうからね。」

 

 

その言葉に、私は目を見開いた。この子はエスパーか何かなの?そう錯覚してしまうほどに、彼は私の心理状態を見抜いていた。その彼の態度に、私は何故か今回の件を話したくなった。彼なら、私の望む言葉を掛けてくれそうだったから。

 

 

「うん・・・。でもさ、ちょっとだけ聞いてくれる?多分話したら泣いちゃうかもしれないけど・・・。その時は慰めて欲しいわ。」

 

 

私がそう言うと、彼はゆっくりと頷いてくれた。そして、私は最初から全てを話したの。健治との出会いや、関係性。どうして彼に惚れたのかや、告白した経緯。ありとあらゆる全ての情報を喋ったわ。そんな中、私の耳に深く残った言葉。それは、私が健治に告白した時の事についての言及だった。

 

 

「女性が好いた男性に対して、愛を伝えるなどとても勇気のいる事だと思います。それをやり遂げたあなたは、凄い方だと思いますよ。」

 

 

そんな恥ずかしい台詞をサラッという彼の姿に、私の心臓は高鳴っていた。健治と付き合っていた頃、彼も歯が浮くようなセリフはよく言っていたわ。けど、彼の言葉は違う。言葉の一つ一つに、思いやりや優しさの気持ちが滲んでいた。

 

 

その言葉に、私は涙腺が緩みそうになるけど何とか堪えたわ。

 

 

「なぁに?もしかして、未だに告白は男がするものだと思ってるタイプ?」

 

 

私がそう言うと、彼はクスリと笑って答えてくれる。

 

 

「はい。これでも、古い考えの人間なので。」

 

 

その言葉に、私は心がジワリとする。古い考えの人と聞くと、私達の様な若者世代は嫌なイメージが湧くだろう。けれども、彼の古い考えはその逆だった。

 

 

その言葉には、「強き男に生まれたならば、弱者の涙を掬いあげるべし」と言えるほどの重たい響きが乗せられていたのだ。

 

 

そんな考えをごまかすかのように、私は彼の言葉に微笑んだ。

 

 

「フフッ・・・、変なの。まぁ、そんな告白も無駄だったけど・・・。まさか、告白していたときから既に二股を掛けられてたなんて・・・。本当に馬鹿らしいわ・・・。あの日、彼の為に頑張って作ったお弁当も・・・。海に行って遊んだ思い出も・・・。カップルコンテストで優勝して、お互いに喜んだ思い出も・・・。彼にとっては、取るに足らないものだったのね・・・。」

 

 

そう話しながらも、私の脳裏には健治との楽しかった思い出が蘇ってくる。けれども、それら全てが偽りの物だと自覚させられ、私は涙を流してしまう。

 

 

(駄目・・・!こんな顔見られたら、軽蔑されちゃう・・・!お願い、止まってよ・・・!)

 

 

そのとき、私の(にじ)んだ視界にハンカチが映った。顔を上げると、困ったような笑顔を浮かべる彼が差し出してくれたのだ。

 

 

私はそのハンカチを受け取ると、涙を拭き始める。彼のハンカチは、そこらのスーパーで売ってそうな物ではなく、触り心地が良くハンカチの右下の隅に小さく綺麗な鶴の刺繍が施されていた。きっと物凄い高価なものだろうに、迷いなく差し出してきてくれた彼の心に私の心は更にポカポカする。

 

 

「ありがとう・・・。優しいのね。」

 

 

私がそう言うと、彼は緩やかに首を振る。

 

 

「優しいというより・・・。貴方が悲しい顔をしていると、私も悲しくなってしまいますから・・・。」

 

 

その態度に、じんわりしてくる。私の学校の男子生徒は全員が全員じゃないし高校生らしいと言えばらしいのだが、男子達は女子の前で平然と下ネタを言うし、下品な言葉遣いをする子達が多かった。

 

 

そんな中、彼だけは違った。彼は、紳士的で男女問わず困っている人がいるなら迷わず手を差し出し助けてくれる物腰柔らかで素敵な人・・・。

 

 

「そんな恥ずかしい言葉を、サラッと言っちゃうなんて。あなたって、可愛い顔してプレイボーイね。」

 

 

そう私が冗談めかして言うと、彼はムッとした表情をする。普段からそこまで会わないし、真面目な彼とギャルグループに居る私には接点が無いから、今までは生真面目な生徒会長としか思ってなかったけど、年相応な顔を見せる彼に心がキュッとなる。

 

 

「ありがとう。貴方と話したおかげで、少し元気が出てきたわ。」

 

 

「それは何よりです。」

 

 

その笑顔がますます眩しくて、私も自然と笑顔になる。そんな私は、ふと此処で彼と別れる事に対して嫌な気持ちになった。

 

 

もっと、彼と話したい。まだ、隣にいて欲しい。そんな気持ちが湧き上がってくる。

 

 

そこで私は、彼に恐る恐る質問をする

 

 

「あの・・・。もしかして、帰る方向こっち?」

 

 

「そうですが・・・。共に帰路につきましょうか?」

 

 

そう困ったように笑う彼に、私は内心ホッとする

 

 

「御願いできるかしら・・・。その・・・、さっきみたいな人達がいたら怖いから・・・。一緒に帰ってくれる?」

 

 

その私の言葉に、彼は肯定の意を示すかのように頷き冗談を飛ばしながら、手を差し伸べてきた。その姿はさながら、お姫様を守る騎士様のようだったわ。

 

 

「分かりました。エスコートさせて頂きますね。」

 

 

「御願いできる?可愛い騎士(ナイト)様?」

 

 

「委細承知いたしました、姫様。」

 

 

私がそう言うと、彼はにこりと笑いエスコートしてくれる。そして、彼は私を気遣いながら歩いてくれた。交通量が激しい道路沿いを歩く際はさり気なく車道側を歩いてくれたり、当たり障りのない話題を振ってくれたりもした。

 

 

そうこうしている内に、私と時雨君は私の家の前に到着した。彼の声が聞き心地が良かったから、もっとお話ししたかったけど彼も早く帰らないといけないので、ここで御別れする事にする。

 

 

「じゃあ・・・。また明日、学校でね?」

 

 

私がそう家に入ろうとすると、彼が声を掛けてきた。その声に私は振り向いて、彼のルビーのように澄んだ赤い瞳を見つめる。そんな私を見ながら、彼は口籠りつつも慰めの言葉を掛けてくれた。

 

 

「私達は、過去を変える事は出来ません。ですが、これから過去を作る事は出来ます。今は、好いた人に別れを告げられて御辛い時期かもしれませんが、どうか元気を出してください。そして、今の哀しみを上書きできるほどの過去を作っていってください。きっと、あなたなら素晴らしい殿方を見つけられますから。」

 

 

その言葉に、私はまたも涙腺が緩み始める。この子の優しさは、上辺だけの優しさじゃない。心の底から他者を尊重している人にしか出せない言葉だった。

 

 

私はその言葉に礼を言って、家に入って今に至るのだが・・・。

 

 

(あぁー!もう!何でこんなに顔が熱いのよ!!)

 

 

私は私服にも着替えずに、うつ伏せのままベッドの上でバタバタ足を鳴らしていた。

 

 

(おかしいでしょ!さっき、彼氏に振られたばっかりなのに・・・!!これじゃあ、健治の事言えないじゃない!!・・・いや、違うわ!これは、吊り橋効果ってやつよ!!そうじゃなきゃ、説明が付かないわ!!)

 

 

そう心の中で叫んでいると、下の階からお母さんの呼ぶ声が聞こえる。どうやら夕御飯が出来たみたい。私は返事をすると、下の階に降りる。

 

 

1階のリビングに行くと、既にお父さん・・・桐野晴斗と妹である桐野咲が座っていた。

 

 

「お姉ちゃん遅いよ。ご飯冷めちゃうでしょー!」

 

 

そう口を尖らせる咲を、お父さんは宥めてくれる。

 

 

「落ち着きなさい咲。そんなに急がなくても、御飯は逃げないよ。」

 

 

「さぁさぁ皆、席について。今日はハンバーグよ。」

 

 

そう言いながらお母さんは、温かな湯気が立ち上るハンバーグを机の上に並べる。ウチのお母さんは純アメリカ人だからか、ハンバーグなどコッテリとした味付けの物を良く好む。にも拘らず、肌は綺麗だしスタイルは良いし本当にどうなってんの・・・?見た目20代前半にしか見えないわよ?

 

 

そして、数分が経過しそろそろ私が食べ終わろうとする頃に、咲がニヤニヤしながら私に質問を投げかけてきた。

 

 

「そういえば、お姉ちゃん。健治お兄ちゃんとは、今日もラブラブイチャイチャしてきた?」

 

 

咲は中学3年生の癖して、結構ませた性格をしている。前は私と健治の進展具合に、色々と茶々を入れてきて私が恥ずかしながら答えるのがルーティンだった。けど今となっては、その揶揄いすらも私にとっては苦痛でしかない。

 

 

「ごちそうさま・・・。」

 

 

私はそう言うと、食器を片付ける。そんな私の様子にお母さんが、優しい声で話し掛けてくる。

 

 

「綾香。冷蔵庫に挽き肉と玉ねぎがあるから、明日の健治君用のお弁当作りに使いなさい。他の食材も使って良いからねー。」

 

 

「ありがと・・・。後で作る・・・。」

 

 

お母さん、ありがとう・・・。でも、もう健治とは終わっちゃったんだよ・・・。

 

 

しかし、皆が寝静まった夜。私は台所の前で溜息を吐く事に成る。

 

 

(はぁ・・・。習慣って怖いわね・・・。)

 

 

そう溜息を吐く私の目の前には、タンパク質豊富な豆腐ハンバーグが出来上がっていた。なんと、私は無意識の内に健治の分のハンバーグを作ってしまっていたのだ。

 

 

(焼いちゃった以上、食べるしかないわね・・・。私一人のお弁当箱に入るかしら?)

 

 

そう思いながら悩んでいた私の脳内に、天啓が舞い降りたわ。

 

 

(時雨君・・・。そうよ!今日のお礼って意味を込めて、あの子に渡せばいいんだわ!・・・あの子が、御弁当を持参してたら終わりだけど・・・。)

 

 

そう考えると、私は保存用タッパーに豆腐ハンバーグを詰め込み始める。

 

 

そんな私の顔は、自然と口角が上がっていたのだった。




次回視点が戻ります。
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