時に、人はなんのために生まれるのでしょうか。なぜ生きるのでしょうか。幸せになるため? 叶えたい目標のため? あるいはもっと別に何か?
それとも、意味や理由など元からないのでしょうか。生まれたから、死なないから生きている。つまるところはただそれだけ。
であれば、なぜ死んではいけないのでしょうか。私には何も分かりません。
そもそも生まれてこなければ、こんな事を考える必要もなかったというのに。
「そういえば、いずくんはあれ貰いました? 進路の紙」
「ううん、まだだけど。……ゆめちゃんは進路、どうするの?」
「どうしましょうかねぇ」
ベッドに寝転びながら退屈しのぎに話題を振ると、机に向かい合っていたいずくんが私に視線を向けました。そしてなぜか椅子から立ち上がり、こっちに近寄るとベッドに寄り掛かるように座ります。
「僕はやっぱり、雄英受けようと思う。雄英を受けて、それで──」
言い淀んで、言葉に詰まったいずくんはそのまま俯いてしまいました。何を言おうとしたのかは、大体予想がつきますが。
「んー、なら私はいずくんと同じところでいいです。やってみたかったんですよ、一緒に登下校」
笑みを浮かべながらいずくんの緑がかった癖毛に手を伸ばします。軽く弄っていると俯いていたいずくんがこちらに視線を向けました。
「ゆめちゃんは、それでいいの? やりたい事とか、叶えたい夢とか」
「それなりに長い付き合いです、私がどういう人間かは知っているでしょう? ありませんよ、そんなものは」
「そっか。……ごめん」
悲しそうな、寂しそうな、そんな表情でいずくんは私に謝ってきて。ああ、またやっちゃいましたね。
なんでいずくんが謝るんですか、そんな顔するんですか。これはただの話のネタで、別にいずくんを困らせたかったわけではないというのに。本当にダメですね、私は。
「いずくんこそ、大丈夫なんですか? いろいろと」
「……──うん。ちゃんと、区切りはつけるから」
なんて、どう見ても大丈夫だとは思えない様子で答えるいずくんの姿が痛々しくて。
はぁー、完全に話題振りに失敗しました。バカです。
「難儀なものですね、お互いに」
なんとも言えない表情のいずくんの頭をサワサワと撫でてあげます。なりたいものがあって、叶えたい夢があって、けれどそれに手が届かないという現実があって。何もない私にはいずくんが抱える気持ちは分かりません。それが少し、残念です。
空気が重いですね。どうしましょうか、何か話題……いえ、別段無理に話す必要もないですね。こうしましょう。
「いずくん、ちょっと起こしてくれませんか?」
「え? あ、うん」
立ち上がったいずくんが、上に伸ばした私の両手を掴みます。
「ふふっ、えい♪」
「うわっ!?」
私を引っ張り起こそうとしたいずくんを逆に引き倒してやりました。そのまま逃げられないよう頭を抱え込むように両手を回します。
「ゆ、ゆめちゃん!? なにっ!? ていうかそのち、近、近いんですけど──!?」
「少し、眠くなってしまいました。引子おばさんに呼ばれるまで、ちょっとだけ寝ましょう?」
大慌てするいずくんの耳元で囁くと、顔を真っ赤にして固まってしまいました。別にこれが初めてでもない──普段は逆なのでまた違うのかもしれませんが──のにこういうところは本当にウブでかわいいですねぇ。
今日は金曜日。明日は休みで、家に帰る必要もありません。──だから、ゆっくりしてもいいですよね。
「おやすみなさい」
金魚みたいに口をパクパクしながらフリーズするいずくんを胸に抱き寄せるようにして目を閉じます。聞くところによると、男子というのは女子にこうされると嬉しいらしいです。まぁ、私の貧相な体では大してありがたみもないかもしれませんが。これに関してはどうしようもないので許してください。
しばし固まったままのいずくんでしたが、だんだん慣れてきたのか私の背中に手を回して眠る体勢に入りました。私もこうしているとあったかくて、すぐに眠気がきて、いずくんを喜ばせたくてやったというのに、私の意識はあっという間に落ちていってしまいます。
──このまま、二度と目覚めなければいいのに。
気持ちよく一眠りして、その後は引子おばさんに起こされて、いつも通り夕飯をごちそうになりました。
「いつもすみません。ごちそうになります」
「いいのよ、気にしないで。
「ありがとうございます。私は大丈夫ですよ」
昔からおばさんには良くしてもらっています。赤の他人の、厄介な子どもの私を気にかけてくれる優しい人です。いずくんの優しさもきっと引子おばさんに似たんでしょうね。
そんないずくんはどこか難しい顔をしていて、なんとなく不機嫌なような、悲しんでいるような、怒っているような、そんな雰囲気を漂わせながら私をチラチラと見ていました。……そんなに添い寝が嫌だったのでしょうか、もしくはさっきの話をまだ引きずっているとか。
おばさんも触れづらかったのでしょう。今日の夕飯はなんとも微妙な空気で終了し、食器を片付けると2人でいずくんの部屋に戻ります。
「いずくん?」
「あ、うん。何?」
ベッドに腰掛けながら隣に座るいずくんに呼びかけると、先ほどまでの雰囲気を誤魔化すように返事をされました。
「さっきから変ですけど、どうかしましたか」
「あ、えっと。……ゆめちゃん。腕、またやっちゃったんだね」
僅かに逡巡した後、発せられたその言葉に思わず目を逸らします。いずくんの視線は私の左腕に注がれていました。寝てる時に見られましたね、これは。
どうしたものかと考えているといずくんの手が私の腕にそっと添えられます。
「まだ痛い?」
「いえ、そこまでは」
「そっか。うん、でも、良かった。ちゃんと手当はしてるみたいで」
しみじみとそんな事を言われて、私はいたたまれない気持ちでまた視線を逸らします。良かった、だなんて。本心ではないでしょうに。本当は止めさせたいでしょうに。
なのにいずくんは私に寄り添って、した後に手当てをちゃんとするなら今はそれでいいと、そう言ってくれました。自分でもおかしいと分かっているコレをいずくんだけが受け入れてくれました。
「なんでも言ってね。僕も、お母さんだって力になるから。頼りないかもしれないけど、僕はゆめちゃんの味方だから」
「…………はい」
まっすぐな瞳でそう言ういずくんの優しさが嬉しくて、それに甘えるばかりで何も返せない自分が嫌で、苦しくて。私には、そこまでしてもらうだけの価値なんてないのに。
「……。ゆめちゃん、こっち来て」
されるがままにいずくんに抱きしめられます。こうしていると安心してしまって、私はまたいずくんに甘えています。
……いつも、そうです。気を遣わせて、縋って、迷惑をかけて。私はそんな私が嫌いです。
「また、ネガティブなこと考えてる」
「…………」
図星を突かれて、誤魔化すようにいずくんの肩に顔を埋めます。いずくんはそれ以上何も言わず、ただ優しく私の背中を撫でてくれました。
しばらくの間こうして抱きしめられていると、不意に手を止めたいずくんがぎゅっと腕に力を込めます。
「まだ、死にたいって思ってる?」
「……そう、ですね。否定はしません」
また、抱きしめる力が強くなりました。少し苦しいのに、それでいて心地いい不思議な感じ。
「そっか。──僕は、死んでほしくないよ」
「知ってます」
あなたが死なないでって、生きてほしいって言ってくれたから私はまだここにいますし、生きていられたんです。それだけが私が死なない理由なんです。
いずくんの背中に手を回して、抱きしめ返して。こうやって、私なんかにここまでしてくれる優しい幼馴染に縋って、私は今まで生きてきました。きっと、これからもそうで、この関係が終わった時が私が死ぬ時なんでしょう。
どのくらいこうしていたでしょうか。引子おばさんにお風呂に入るよう注意されるまで、私たちはずっと抱きしめあっていました。ドア越しに声をかけられた瞬間、我に帰ったようにいずくんが離れていってしまったのは些か残念です。
「それでは、お先にお風呂頂きますね。すぐ上がるので」
「あ、うん。ゆっくり浸かっていいんだよ?」
「お気遣いなく」
置かせてもらっている着替えを持って脱衣所に向かい、ちゃっちゃっと──髪が長いので相応に時間はかかるのですが──済ませてお風呂から上がります。シャワーならともかく湯船に浸かるとまだ痛いです。
まったく、ファンタジーよろしく体をきれいにする魔法でもあればこんな手間をかけずに済むというのに。めんどうくさい。
そんな益体もない思考をしつつ身体を拭いていると、ふと洗面台の鏡が視界に入って、
「あっ──」
あの人が──あの人と同じ白い髪、あの人と同じ紫色の眼、あの人と良く似た顔の女の子が私を見ていて、
「ッ──はぁ……これだから、鏡は嫌いなんです」
壁に寄り掛かるようにしゃがみ込み、ソレを視界から消し去ります。油断しました、気を付けていたのに。意識的に呼吸をして、乱れた息を整えて、これで大丈夫です。
いずくんを、待たせています。さっさと服を着て出ましょう、髪は後でいいです。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません。
脱衣所を出ると、いずくんはリビングでテレビを見ていました。やっていたのはいつものヒーロー報道。ホント好きですよね、それ。私には何がいいのか分かりませんが、いずくんが楽しそうならそれでいいです。
「お待たせしました。空きましたよ」
「あ、うん。それじゃあ行ってくるね」
声をかけるとソファに座っていたいずくんが立ち上がります。いつもの会話で、私たちの日常です。ええ、私はいつも通り、大丈夫です。
「ゆめちゃん?」
お風呂に行こうとしたいずくんが振り返りました。私はなぜかいずくんの服の袖を掴んでいて、顔を見られたくなくて、咄嗟にその背中に頭を押し付けます。なにしてるんでしょうね、私は。
「……なんでもないです。もう、大丈夫なので」
「いや、でも──」
「ほんとに、大丈夫なので。気にしないでください」
手を放してタオルを被り、心配するいずくんを脱衣所に押し込みます。……はぁ、こんなくだらない事で不安定になって、いずくんを心配させて、本当にダメですねあなたは。今日は特にひどいです。
まぁ、ええ、切り替えましょう。髪を乾かさないといけません。これがまた時間かかるんです、本当にめんどうくさい。あっという間に乾かしてくれるドライヤーとか作れないんですかね。
文句を言っても仕方がありませんとリビングのソファで髪を乾かしていると、いずくんの部屋から引子おばさんが出てきます。
「夢望ちゃん。お布団、出しておいたから使ってね」
「ありがとうございます」
「それと、これからも出久と仲良くしてあげてね。おやすみなさい」
「? はい。おやすみなさい」
はて。引子おばさんがあんな事言うなんて珍しいですね、夕飯の時のアレを気にしているのでしょうか。仲良くと言われても、何をどうすればいいかは分かりませんが。とりあえず、あまり迷惑をかけないようにはしたいですね。
寝室に向かったおばさんを見送って、引き続き髪を乾かしながらさして興味もないテレビを眺めます。
今日のニュースと称してヒーローの活躍を華々しく流していますが、この数の事件が今日一日で起きていると考えるとどうなんですかね。多くないですか? これでも昔より減ったというのですから正直引きます。
「ヒーロー、ヒーローですか」
いずくんの好きなもの、いずくんがなりたいもの。いつだったか、笑顔で人を救けられるような、オールマイトのような最高のヒーローに
オールマイトのようかはともかく。人を救けるのがヒーローだと言うのであれば、少なくとも、私にとっていずくんはヒーローです。弱くて、泣き虫で、小心者でも、そんないずくんが私を救ってくれたんです。あの雨の日に私を見つけて、手を引いてくれた優しいあなただから私は救われたんです。いずくんがそれをどう思っているかは分かりませんが。
──おっと、いずくんがお風呂から出てきましたね。
「早かったですね。ドライヤーはまだ空きませんよ」
「あ、うん。それは別にいいけど。お母さんは?」
「もう寝ましたよ」
隣に座るいずくんを尻目に作業を続けます。いずくんがじっとこちらを見ていて、なんともやりにくいです。
「ゆめちゃん、さっき何か──ううん、何があったの?」
「…………。本当に、なんでもありませんよ。いつもの発作、それも軽いものです。気にする必要はありません」
「気にするよ。さっきも言ったけど、苦しかったり、辛かったら言ってほしいんだ。ゆめちゃんの力になりたいから」
「……善処します」
なんとも言えないような、微妙な表情のいずくんの視線から逃れるように目を逸らします。
とは言っても、本当に大丈夫なのですが。いずくんにはいつも心配ばかりさせています。んー、大体乾きましたかね。
「いずくんの髪も乾かしてあげましょう。ほら、そっち向いてください」
「え? いやいいよ、これぐらい自分で」
「いいですから」
半ば無理やりいずくんに背中を向けさせ、ドライヤーを当てます。いつも思いますが凄い癖毛ですよねぇ、引子おばさんはストレートだというのに。私も癖毛ではありますが、ここまでじゃないです。
いずくんの髪は短いのでさしたる時間もかかりませんが、こういう時間は悪くないです。
「はい。終わりましたよ」
「うん、ありが──うわぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げながらいずくんは体を跳ねさせました。ちょっと耳に息を吹きかけただけだというのに、かわいいですねぇ。
くすくすと笑う私をジトっとした目つきで睨みつけ、いずくんは一つため息をついて私の手を引きます。
「もう。ほら、僕たちも寝よう」
「そうですね」
いずくんの部屋に入って引子おばさんが用意してくれた布団に潜り込みます。しかし、さすがにもう慣れましたが、この全体オールマイトまみれの部屋は正直どうかと思います。少なくとも眠るのにはあまり適さないでしょう。なんというか、圧があります。
「それじゃあ暗くするね。おやすみ、ゆめちゃん」
「おやすみなさい。いい夢を」
リモコン片手にベッドから顔を出すいずくんと挨拶を交わして、私たちは眠りに就きました。
眠ればまた朝が来て、一日が始まります。──そんなもの、来なくていいのに。
勢いで始めた。今は反省している。
もっと幼馴染もの増えてくださいお願いします。
泡沫夢望
誕生日:11/5
身長:160㎝
個性:空想
泡沫's髪:少しクセのある真っ白な長髪。前髪テール。自分で切ってる。
泡沫's目:紫色。実はつり目。ハイライトなし。
泡沫's顔:キレイ系。
泡沫's全身:細い。薄い。軽い。
泡沫's体調:常にどこかしら悪い。