空想少女のヒーローアカデミア   作:いぬはいぬ

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体育祭 閉幕

 試合終了後。爆豪と泡沫の2人は医務室に運ばれ、波乱に満ちた体育祭は爆豪の優勝で決着となった。後は2人の治療後、表彰式をして本日は終わりである。

 一方の観戦席では、2人の試合を見届けた緑谷が激しい後悔に苛まれ、内心で頭を抱えていた。

 

(僕のせいだ……)

 

 自分が安易にあんな事を言わなければ、棄権させていればと、緑谷の中でグルグルと思考が空転する。隣でその様子を見ていて心配になり、麗日は緑谷の肩に手を置きながら声をかけた。

 

「デクくん、大丈夫?」

「へ!? あ、何? いや、大丈夫、うん」

「そうは見えんけど」

 

 困ったように眉尻を下げる麗日に、緑谷は取り繕うように顔を上げる。心配させたくないのが半分、もう半分はどう言えばいいか分からなかったからだ。

 決勝戦の思いがけない結末に、他の者たちも何とも言えない空気に包まれている。そんな中、峰田は誰に話しかけるでもなく呟いた。

 

「なんであそこでリタイアしちまったんだろうな、泡沫」

「動揺、してたように見えたわ。多分、爆豪ちゃんの血まみれの手を見て」

 

 それに反応した蛙吹の言葉に周囲の関心が集まる。尾白は少し前の逃走騒動を思い返し、緑谷の方に視線を向けた。

 

「緑谷と轟の時といい、泡沫さんは戦うの向いてないのかもね……」

「あんな強いのにな。なんか勿体ねぇ」

「まあ、向き不向きはあるからなぁ」

 

 尾白の言葉に、上鳴と切島が素直な感想をこぼす。

 周囲の会話を聞いて、緑谷は無言のまま肩を跳ねさせた。罪悪感に押し潰されそうになって拳を強く握りしめる彼を、麗日はただ心配そうに見つめている。

 一方で、芦戸はやきもきしながら隣に座る葉隠に話しかけていた。

 

「この後って全員集合して表彰式まで待機だったよね。お見舞いに行く時間、ないかな?」

「あー、どうだろ。まぁでも、ほら、今じゃなくても大丈夫じゃないかな。もう終わりだし、今バタバタ押しかけるより後でゆっくりさ」

 

 不安そうな芦戸の様子に、葉隠は意識して明るく返す。彼女の言葉に芦戸も渋々ながら納得し、泡沫に会いに行くのは後にすることにした。

 

「皆さん。思うところはあるでしょうが、そろそろ移動しましょう」

 

 八百万が立ち上がりながら周囲を見渡す。今は飯田が早退していないため、副委員長を務める彼女がクラスを纏めることになる。彼女の言葉に促されて皆も立ち上がり、グラウンドへと移動を開始した。

 

 

 

「それではこれより、表彰式に移ります!」

 

 ミッドナイトの宣言と共に煙と紙吹雪が吹き出し、地面の一部がスライドして下から表彰台がせり上がってくる。3位の台に立っている轟と常闇、2位の台には泡沫、そして1位の台には全身を拘束された状態でなお暴れ続ける爆豪の姿があった。その様子はさながら猛獣のようだ。

 医務室に運ばれた2人の治療が終わったまでは良かったが、爆豪が表彰台に上がることを拒否。教師陣の説得も効果がなく、揉めに揉めた末に表彰台に括りつけられることになったのだ。

 

「ん゛ん゛──!!」

 

 コンクリートの柱に括りつけられ、マスクのような口枷と両腕を拘束具と鎖で縛られて、それでもなお抵抗を止めない爆豪。その姿に表彰台に上がっている泡沫や常闇、グラウンドに集まった他のA組の者たちも引いていた。気にしていないのは己の内に意識が向いている轟ぐらいである。

 表彰式とは思えない異様な空気の中、しかしミッドナイトは爆豪の常軌を逸した姿を意にも介さずに司会進行を続けていく。

 

「メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」

「私がメダルを持って──」

「我らがヒーローオールマイトォ!!!」

 

 スタジアムの天井から飛び降りてきたオールマイトだったが、段取りが悪かったのか台詞が被ってしまいグダグダである。着地した体勢のままオールマイトは無言でミッドナイトを見つめ、羞恥に身を震わせていた。

 誤魔化すように笑みを浮かべたミッドナイトは両手を合わせ、オールマイトも何事もなかったかのように立ち上がると彼女からメダルを受け取る。そのまま表彰台に近づいていくと、まずは常闇の首にメダルをかけた。

 

「常闇少年、おめでとう! 強いな、君は!」

「もったいないお言葉。ですが、俺は……」

「うむ。準決勝の結果、悔しかっただろう。力の差を覆すにはとにかく地力が必要だ。〝個性〟に頼りすぎずに地力を鍛え、取れる選択肢を増やせばおのずと勝機も見えてくるだろう」

「──御意」

 

 オールマイトは祝いの言葉とアドバイスを贈り、常闇を抱きしめると優しく背中を叩く。常闇も彼の言葉を真摯に受け止め、神妙な面持ちでメダルを見つめていた。

 続いて轟の前に立ってメダルを首にかけると、オールマイトは祝いの言葉と共に一つの疑問を口にする。

 

「轟少年、おめでとう。──準決勝で左側を収めてしまったのには、訳があるのかな」

「緑谷との試合できっかけを貰って……わからなくなってしまいました」

 

 そう切り出した轟は、自分もオールマイトのようなヒーローになりたかったと語りだし、

 

「俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ、駄目だと思った。清算しなきゃならないものが、まだある」

 

 自分の答えを告げた。悩んだ末に、彼は家族と向き合う道を選んだのだ。

 

「顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ、今の君ならきっと清算できる」

 

 轟の答えにオールマイトは頷いて返し、常闇にしたように抱きしめて背中を優しく叩く。彼の言葉通り、轟の表情は憑き物が落ちたかのようにどこか晴れやかなものだった。

 一方で、泡沫は轟の答えを聞いてそっと彼から視線を外し、下を向いて前髪を弄り始めていた。

 

(轟さんは、そういう道を選ぶんですね)

 

 望まれずに生まれた者と、都合のいい道具として望まれた者。理由は違えど親に振り回された者同士、泡沫は轟にどこか親近感を抱いていた。それでも導き出す結論はこうも違うのかと、言語化できない感情に苛まれていた。

 とはいえ、泡沫は別に轟を責めたいわけではない。その選択の結果として状況が好転したのなら、それは良いこと、喜ばしいことなのだから。泡沫にできることは、せいぜい上手くいくよう祈るぐらいである。

 

「さて、泡沫少女」

 

 不意に落とされた巨大な影と声に、泡沫は肩を跳ねさせる。いつの間にか目の前に立っていたオールマイトは目線を合わせるように膝を折り、その手には準優勝のメダルを携えていた。

 

「おめでとう」

「……ありがとう、ございます」

 

 消え入りそうな声で泡沫はお礼の言葉を返し、首にメダルをかけられた。オールマイトは自分に何を言うのだろうかと、泡沫は身を固くする。しかし彼は見上げるように泡沫と視線を合わせ、優しげな声音で語りかけた。

 

「色々と、思うところはあると思う。ただ、()()()()()()()

 

 その言葉に、泡沫の虚ろな瞳が揺れた。

 

「今はゆっくりと休みなさい。それからまた、頑張ろう」

「……──はい」

 

 泡沫は一言、返事をするだけで精一杯だった。ただ、その労いの言葉に()()()()ような気がして。溢れそうになった何かを誤魔化すように、目線を逸らすしかなかった。

 オールマイトは泡沫の返事に頷くと立ち上がり、爆豪の前へと移動していく。触れられるのを嫌がると緑谷経由で聞いていたため、前2人とは異なり泡沫の身体には一切触れずに。

 

「爆豪少年──っと、このままじゃあんまりか」

 

 爆豪の拘束具を見ながら思わず素で呟いてしまい、オールマイトはマスク型の口枷だけでも外そうと爆豪の後頭部に手を回した。

 

「選手宣誓の伏線回収、見事だったな」

「オールマイトォ! こんな1番、何の価値もねぇんだよ! いいからここから下ろしやがれ!!!」

 

 口枷を外されるなり怒涛の勢いで吠え掛かる爆豪。その怒気と表情による威圧をオールマイトはいつものスマイルで受け流していた。内心で顔がすげぇなんて思っていたとしても、それを知る者はいないのだ。

 

「うむ! 結果が不満だったのは分かる。だが、受け取っとけよ! 傷として、忘れぬよう!」

「要らねえっつってんだろが!!」

 

 まぁまぁと、オールマイトはなおも抵抗を続ける爆豪に無理やりメダルをかける。せめぎ合いの結果、口でメダルの紐を咥える形になった爆豪だが、不満と怒りを駄々洩れにしながらも、メダルを捨てることはしなかった。

 こうしてメダル授与が終わり、表彰台から降りたオールマイトはグラウンドに集まった1年生たちを見回した。

 

「さぁ! 今回は彼らだった!! しかし皆さん、この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い、高め合い、さらに先へと昇っていくその姿!! 次代のヒーローは確実に芽を伸ばしている!!」

 

 そしてオールマイトはスタジアムの観客や、テレビの向こうで体育祭を見ていた民衆に宣言するように語り、

 

「てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和ください! せーの──」

「プルス──」

「おつかれさまでした!!!」

 

 スタジアムに居た者たちが雄英の校訓(プルスウルトラ)を叫ぼうとして、オールマイトの声にかき消された。会場全体から当然のようにブーイングが飛び交い、オールマイトはたじろいだ様子で言い訳をしている。

 

「──ふふっ」

 

 ブーイングが響き渡るその中で一人、泡沫は小さく笑って、誤魔化すように前髪を弄っていた。

 

(ああ──いいですね。今日一日で、今のが一番面白かったです)

 

 確かにオールマイトには笑いのセンスもあるらしいと、泡沫は以前に緑谷が言っていたことを思い出していた。

 こうして、雄英体育祭は終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 教室でのホームルームも終わり、私はいずくんと家に帰ってきました。まぁ、帰るという表現は適切ではありませんが。

 

「お帰りなさい! 2人とも怪我は!? 大丈夫なの!?」

「あ、うん。大丈夫」

「私も、平気です」

 

 玄関のドアを開けるなり引子おばさんが駆け寄ってきます。返事を聞いて崩れ落ちるように座り込み、私といずくんもそれにつられてしゃがみ込むと、引子おばさんは私といずくんの背中に手を回して抱きしめてきました。

 

「良かったぁ。──本当に、心配したんだから」

「……ごめんなさい」

 

 立ち上がって手を離した引子おばさんに、いずくんは気まずそうに謝ります。私はばつが悪くそのやり取りを見ていましたが、ふと引子おばさんと目が合い、まるで顔を覗き込むように両肩に手を置かれました。

 

「夢望ちゃんも、無理してない? 頑張りすぎちゃだめよ」

「はい……いえ、私は、大丈夫です」

 

 そう、と引子おばさんは不安げな表情で顔を離しました。そしてそれを誤魔化すように笑顔を浮かべると、引子おばさんは両手を叩いて靴を脱ぐよう促します。

 

「お夕飯、準備しちゃうから。汗かいたでしょ? 先にお風呂入っちゃいなさい、沸かしてあるから」

「ん。それでは、先に入りますね」

「うん。いってらっしゃい」

 

 いずくんに一言言って、着替えとタオルを取りに向かいます。脱衣所で服を脱ぎ、両腕の包帯を外すと治癒で治った右腕と自傷してそのままの左腕が露わになりました。体のあちこちにも決勝戦でできた生傷が残っています。そして──昔に付けられた傷の跡も。

 私は体力がないので、爆破を食らって酷い有り様だった右腕を治すだけで限界でした。しかもリカバリーガールに治癒してもらう時、左腕の件や身体の虚弱さについてあれこれ小言まで言われる始末です。非常に不本意ですが、過ぎたことなのでとりあえずそれはいいでしょう。

 

「うぅ──」

 

 傷にシャワーが沁みます、痛いです。左腕は自分でやったので半分は自業自得なんですが。この状態で湯船に浸かる気にはなれないので、さっさと髪と体を洗って出るとしましょう。いずくんを待たせるのも悪いですし。

 そうしてシャワーを済ませ、寝間着のライトグレーのワンピースを着てリビングで髪を乾かします。いずくんは入れ替わりでお風呂に行き、台所では引子おばさんが夕飯の準備をしていました。

 

『それでは次のニュースです。本日の14時頃、東京都保須市にて、ヒーロー殺しステインがターボヒーローインゲニウムを襲撃、瀕死の重傷を負わせました。現在インゲニウムは病院に搬送され、一命を取り留めたとのことです』

 

 ニュースキャスターの言葉に、ふとテレビに視線を向けます。飯田さんのお兄さん、どうやら助かったようですね。兄が(ヴィラン)にやられて飯田さんが早退したと聞いた時は驚きましたが、とりあえず最悪の事態は免れたようで何よりです。

 その後もとりとめのないニュースを聞きながらドライヤーで髪を乾かし、いつもより長めのお風呂から上がったいずくんにドライヤーを渡します。珍しいこともあるものです。

 手持ち無沙汰に座っていると、スマホが振動して着信がきました。芦戸さんです。何か用でしょうか? いえ、わざわざ電話するのですから、用があるのは確定ですが。

 

『あ、泡沫。ちょっといい?』

「構いませんが、どうしたんですか?」

『明日明後日って休みでしょ? それで、良かったらなんだけど──明後日、一緒に遊ばない?』

 

 ドライヤーがうるさいのでいずくんから離れて電話に出れば、芦戸さんは遠慮がちにそんな事を言ってきます。しかし遊びの誘いとは、どうしましょうかね。

 

「2人で、ですか?」

『あ、ううん。放課後に葉隠と話しててさ。体育祭も終わったし、女子の皆で集まって遊びに行かないかって話になったんだ。で、そこにヤオモモも混ざってきて、今んとこ3人』

 

 どうやら2人きりではないようです。ちょっとびっくりしましたが、要するに全員に声をかけているという訳です。それなら納得もできます。

 

「ふむ。他の皆さんはなんと?」

『それはこの後に聞く予定。とりあえず泡沫に声を掛けたかったからさ』

 

 どうして最初に私に掛けてきたんでしょうか。よく分かりませんが、まぁいいです。

 話を聞くと、カラオケとゲーセン、ショッピングモールでお買い物をする予定だとか。あまり好きなチョイスではありませんねぇ……。

 

『ヤオモモが行ったことないって言うからさ。どうかな?』

「んー。芦戸さんは、私に来て欲しいですか?」

『そりゃ来て欲しいよ! 泡沫と一緒に遊びたいし!』

 

 なぜそこまで……? いえ、芦戸さんが妙に私に関わってくるのは前からなので今更ではありますが。んー、まぁ、そこまで言うなら、仕方がありませんね。

 

「分かりました。あなたがそう言うなら、行きます」

『ん、分かった! ありがとう泡沫! 詳しい事は後でチャットするから。それじゃ、明後日楽しみにしてるね!』

 

 通話を終了するといずくんと目が合いました。どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいでしょうか。

 

「何の話だったの?」

「明後日、女子メンバーで遊びに行くことになりました。まぁ、全員揃うかは分かりませんが」

 

 そっかと、いずくんはやっぱり嬉しそうに頷きます。だからどういう感情なんですかそれ。いいですけど別に。

 そんなやり取りをしていると、台所から出てきた引子おばさんが声を掛けてきました。

 

「お待たせ。昨日はカツ丼だったから、今日はちらし寿司にしたの。夢望ちゃんの好きなメロンもあるのよ、赤いやつ!」

「ん。ありがとう、ございます」

 

 そう言って、引子おばさんは海鮮が載ったちらし寿司をテーブルに置きました。わざわざちらし寿司用の器を使っている気合の入れようです。今日は私の好きなもの、ということでしょうか。

 それぞれの器にちらし寿司を取り分け、麦茶が入ったコップを持ってくると席に着きました。髪を乾かし終わったいずくんと一緒に席に着き、夕食を食べ始めます。

 

「どう、美味しい?」

「うん、すごく美味しいよ!」

 

 いずくんの返事を横で聞きながら私も頷きます。サーモンにマグロといくらと、結構な量の海鮮が載っています。これ一食でも結構な額でしょうに、メロンまであります。改めて考えると本当に、引子おばさんに迷惑をかけてばかりですね、私は。

 どうして赤の他人でしかない私にここまでしてくれるのか、私には分かりません。私が引子おばさんに返せるものなど何もないというのに。

 そんな私の疑問をよそに夕食も終わり、私はいずくんの部屋に戻るとベッドの上でのんびりとしていました。ちらし寿司もメロンもとても美味しかったです。やはり果物はメロンが一番ですね、間違いありません。

 普段と違う点と言えば、私がいずくんの膝の上に座って胸元に顔を埋めていることでしょうか。別に、他意はありません。ええ、ありませんよ。如何せん身長差があまりないので少々無理のある体勢ですが、そんなことは些末事です。

 

「えっと、ゆめちゃん」

「なんですか」

「体育祭、どうだった?」

 

 おずおずといった様子でいずくんが聞いてきて、見上げるように顔を上げます。あまり話したい話題ではありませんね、今は気分が良かったのですが。

 

「……別に」

「そっか。僕は──楽しかったよ、皆と競い合えて」

「それなら、良かったですね」

 

 てきとうに相槌を打って、また顔を埋めます。今日はもう疲れました、何も考えたくありません。このままゆっくりしていたいところです。

 ですが、まぁ、そうですね。

 

「いずくん。私の〝個性〟って、強いですよね」

「え? あ、うん。ゆめちゃんの空想は本当に凄い〝個性〟だよ! 発動速度や出力はもちろんゆめちゃんの発想力想像力次第でどんな状況や相手にも対応できる無限の可能性が──」

「それ止めてくださいって、昔から言ってますよね」

「ごめん」

 

 ノンブレスで思考を全て出力しようとするんじゃあないですよ。怖いですし、周囲に引かれます。あと人前でそれをやられると、単純に私が恥ずかしいです。

 しょんぼりとするいずくんはさておき、言いたいことはそこではありません。

 

「どうして、無謀だと分かっていて続けようとするのでしょうか」

 

 塩崎さんに常闇さん、麗日さんやいずくん、爆豪さんもそうです。私には、理解できません。

 皆さんも、別にバカではありません。無謀であることは理解していたはずです。その上で、続ける理由があったのだとは理解しています。納得できるかは、別ですが。

 

「それは、やっぱり意地とか。それにほら、訓練でできないと実戦でもできないって言うし」

 

 ──意地、ですか。言葉としては知っています。きっと、私にはないものです。

 

「それこそおかしな話です。実戦なら、勝ち目のない相手には退くべきですよ」

 

 USJで死にかけた私が言うんですから、間違いありません。実際に退けるかどうかはさておき、撤退の判断は適切に行うべきでしょう。

 

「でも、退けない時もあると思うんだ。そういう時の心構え、みたいな。諦めずに全力を尽くすって、大切なんじゃないかな」

「──そうですか」

 

 理屈としては、そうかもしれません。個人的にはそもそも、そんな状況まで追い込まれている時点で実質負けているようなものだとも思いますが。

 とはいえ、自分の身体を壊してまで試合に勝とうとするのは、やはり理解できません。まぁ、いずくんがおかしいのは前から知っていましたけど。

 普通の人は、崖から落ちた人間を追いかけて自分も飛び降りたりなんてしません。ただ幼馴染というだけで、何年もずっと人の世話を続けたりもしません。きっといずくんはどこかがおかしくて、だから私は今も生きています。爆豪さんもおかしい側だったのは、想定外でしたが。

 

「ごめん……」

「……何に対する謝罪ですか」

「無理させたことと、心配させたこと。あと──ミサンガ、ダメにしちゃったから」

 

 ぎゅっと、緩く回されていたいずくんの腕の力が強まりました。きっと、後悔してるんでしょう。声音だけで分かります。

 

「別に、やらされたわけではありません。いずくんが気に病む必要は、ないです」

 

 あの時、続けることを選んだのは私です。だから、いずくんの責任ではありません。ミサンガも別にいいです。あの無茶苦茶な戦い方に関しては──まぁ、自分でも分かっているでしょう。とやかくは言いません。

 そうは言っても、いずくんは気にするんでしょうが。

 

「いや、でも──」

「なら、そうですね。一つだけ、答えてください」

 

 顔を上げて、予想通りまだ続けようとするいずくんを見ます。ある意味では、丁度いいかもしれません。

 

「私にずっと、隠し事をしていますよね。去年の春から、ずっと」

「ッ──!?」

 

 私の言葉に、いずくんは分かりやすく動揺しました。露骨に視線が泳いでいます。

 

「え、あ、いや、それは、その……」

「言いたくないんですか? それとも、言えないんですか?」

「────ごめん、()()()()。でも、その、大丈夫だから! 悪い事だとか、心配させるような事じゃないから!」

 

 心底申し訳なさそうに、いずくんは断言しました。そうして、慌てて付け加えるように大丈夫だと口にします。そういう言い方だと却って怪しく聞こえますよ、嘘はついてないんでしょうけど。

 

「そうですか。なら、いいです。言えるようになったら、言ってください」

「うん。ありがとう」

 

 お礼を言ういずくんから視線を外し、身体を押すようにして一緒に横になります。長く膝の上に座られると良くないと聞きますからね。いずくんに対して横向きに座っているので、私もちょっと体に負担がきてますし。

 それはさておき、これで決まりです。約束ですし、()()()()()()()()()()()()。ええ、いずくんからは。

 とはいえ、それはまた後です。急ぎの用事ではありませんし、少し確かめたい事もあります。なにより、

 

「今日は、疲れました。もう、寝ましょう……」

「うん。おやすみ、ゆめちゃん」

 

 一度私から腕を離し、いずくんが毛布を掛けてくれます。そうしてまた、優しく抱きしめてくれました。

 本当に、今日は色々ありすぎました。今はもう、何も考えたくありません。

 

 おやすみなさい、いずくん。

 

 

 

 




お久しぶりです。
新年度になり、いきなり部署異動させられましたが生きています。
そしてようやく体育祭編が終わりました。ここまで時間がかかるとは。
ここから少しずつ変わっていく夢望を今後もよろしくお願いします。
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