空想少女のヒーローアカデミア   作:いぬはいぬ

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転機

 私としては、これからもいずくんとののんびりした生活が続いていくものだと思っていました。が、突然状況が変わりました。

 きっかけは恐らく、いずくんともう1人の幼馴染が犯罪者(ヴィラン)に襲われたことです。これ自体は2人とも怪我はなかったのでまぁとりあえずいい──よくはないですが──として、この数日後からなぜかトレーニングを始めたのです。

 一体何があったのかと話を聞けば、鍛えてくれる師ができたのだと。ご丁寧に用意されたトレーニングメニューや1日のスケジュールが書かれた紙を見せられました。

 

「その人が言ってくれたんだ。『君はヒーローになれる』って」

「──なるほど」

 

 そう語るいずくんの表情はとても嬉しそうで、楽しげで、こんな生き生きとしたいずくんを見たのは初めてかもしれません。今のいずくんは憧れながらも諦めていた以前とは違い、本気で雄英合格を、ヒーローを目指して努力していました。それ自体は恐らく良いことだと思います。

 ですが、私としてはどうにも騙されているんじゃないかという気がしてなりません。甘言でいずくんを誑かして弄んでいるとしたら、許せませんよね。

 

「いずくん。その師匠とやらに会ってみたいのですが、構いませんか?」

「あ、うん。分かった。ちょっと聞いてみるね」

 

 さて、そんなやり取りから10日。忙しいとかなんとかで随分と待たされましたが、ようやく約束の日が来ました。

 指定場所の海浜公園、という名のゴミの不法投棄場に足を運べば、いずくんがせっせとゴミを運び出しています。なんでもヒーローとしての最初の奉仕活動兼トレーニングだそうです。……やっぱりこれ騙されてません? 都合よく使われている気しかしません。こんな辺鄙な浜辺を片付けて、何か利益があるとも思えませんが。

 

「あの人ですね」

 

 まぁそれは今からはっきりさせるとして、件の人物を見つけました。金髪の痩せこけた男性が1人、浜辺に繋がる階段に腰を下ろしています。

 向こうも私に気づいたのか、片手を上げて手招きしてきました。近づいて改めて見ると随分と細いですね、少なくとも健康的な成人男性には見えません。そういう〝個性〟という可能性もあるので下手なことも言えないのですが。

 

「やあ、初めまして。君が緑谷しょ──くんが言っていた子だね」

「どうも。泡沫夢望(うたかたゆめみ)です。お好きなように呼んでください」

「私は八木。緑谷、くんから聞いているとは思うけど、彼の師匠をさせてもらっているよ」

 

 八木と名乗った男性の隣、少し距離を離して座ります。ゴミ捨て場に視線を向ければ、いずくんも私に気づいたようです。大きく手を振っていたので私も軽く振り返しておきました。──随分と楽しそうです。

 さて、それではやりましょうか。

 

()()()()から大体の話は聞きましたが、あなたは本当にヒーローになれると思っているんですか?」

「それは緑谷くんの今後の努力次第だね。ただ、私は彼なら成し遂げられると信じているよ」

「〝個性〟がなくても?」

「ああ、そうだね。確かに〝個性(ちから)〟もなしにヒーローをやれるとは私も思っていないし、他者に対してそんな無責任な言葉は絶対に言えない」

 

 少なくとも現実は見えているようで何よりです。ここで為せば成るとか言い出したら対応を考えなければなりませんでした。

 

「なら、どうして緑谷さんにあんな事を言ったんですか」

「結論から言えば、()()()()()()()()()()()()()。ただし、今はまだ使えないけどね」

 

 おっと。いきなり話が怪しくなってきました。やっぱりコイツ詐欺師の類なんじゃないですか? 

 

「どういう意味です?」

「まず、泡沫くんはどうやって〝無個性〟だと診断するかは知っているかい?」

「〝個性〟がなかった場合でしょう?」

「少し違う。〝個性〟が確認できなかった場合だよ。つまり、〝個性〟があってもなんらかの理由でそれが分からなかった場合、その人は〝無個性〟だと診断されることになる」

「緑谷さんもそのパターンだと」

「その通り。彼の〝個性〟は身体強化──いや、超パワーと表現するべきかな。今の緑谷くんではとても扱いきれない強力な〝個性〟だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ふむ。それっぽい理屈ではあります。なぜコイツがそんな事を知っているのか、という点に目を瞑ればですが。

 それに、基本的に〝個性〟は親から子へ引き継がれていくものです。引子おばさんは物を引き寄せる〝個性〟ですし、いずくんのお父さんは火を吹く〝個性〟だと昔聞いた覚えがあります。だとすればどこから生えてきたんです? その増強型〝個性〟は。

 

「妙ですね。仮に緑谷さんに〝個性〟があるとしても、それが増強型〝個性〟になる道理がないのですが」

「尤もな疑問だね。けど〝個性〟なんて元々分からないことの方が多い。隔世遺伝も考えられるし、両親の〝個性〟とは類似点のない〝個性〟が発現することもないわけじゃない。そもそも第一世代の親は皆〝無個性〟だったわけだしね」

 

 んー、あらかじめ準備をしていたような回答ですね。臭い、臭いですが言っている内容自体はそれっぽいのが厄介です。めんどうくさい。

 

「それが本当の話だとして、どうやって調べたんです」

「私の友人に科学者がいてね。──私ね、この前のヘドロヴィラン事件の時その場にいたんだ。たとえ無力でも、人を救けようと駆け出した緑谷くんを見て彼ならばと、そう思ったんだよ」

 

 そう言って、ゴミ掃除をしているいずくんに視線を向けたこの人の目はとても真っ直ぐで。さっきの言葉は本心から出た言葉なんだろうと感じました。話は明らかに胡散臭いですが、この人自体はそう悪い人でもないのかもしれません。

 ですが私は、あの日のいずくんの行動を肯定したくはなくて。

 

「……ただのバカですよ。きっと早死にするでしょうね」

「だからこそ、力を付ける必要があるとは思わないかい?」

「…………」

 

 どうなんでしょうか。確かに力があればできる事は増えますし、もしもの時のリスクも減るのでしょう。それこそオールマイトのような圧倒的な力があれば、どんな無茶も通せるでしょう。これは意味のない想定ですが。

 ですが、多少力があるだけのヒーローが無謀の結果引退しなければならないほどの負傷をしたり、あるいは死んでしまったりなんていうのはそこまで珍しい話でもありません。メディアはそういった事があっても名誉の負傷だの殉職だのと報じるばかりです。それがさも素晴らしいものであるかのように。

 

「──ああ、そっか。私は嫌なんですね」

「泡沫くん?」

 

 いずくんがそうなるのが。ヒーローになって、私ではない誰かを救けて、そしていなくなってしまうかもしれないのが。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 心のどこかで安心していたんです。いずくんには才能がないからヒーローにはなれなくて、だからそうはならないって思っていました。

 でも、違ったんです。いずくんはそんなの関係なく飛び出して行ってしまう、そんな人間だと私はよく知っていたはずなのに。そんな人だからこそ、私は今ここにいるというのに。

 

「八木さん、ここからの話は緑谷さんには言わないでください」

「ん? ああ、分かった。約束するよ」

 

 頷きましたね、言質取りましたよ。いずくんに伝えたら容赦しませんからね。

 

「私は、緑谷さんにヒーローになって欲しくないです。無茶をしないでほしいですし、怪我をしてほしくないですし、ましてや死んでほしくないです」

「それは……むしろ、彼に直接伝えるべきじゃないかな」

「ダメですよ。ヒーローはいず、緑谷さんがずっとなりたかった、叶えたかった夢なんです。それを私が邪魔するなんて、そんなのは絶対にダメです」

 

 そんな権利は私にはないんです。ただでさえ私はいずくんの負担になっていて、いつも迷惑をかけているのに。挙句私が嫌だから諦めてほしいなんて、そんなこと言えるはずありません。

 

「泡沫くん。確かにヒーローは怪我なんて当たり前だし、無茶をせねばならない状況などしょっちゅうある。力及ばず命を落とすことも、勿論ある」

「…………」

 

 八木さんの言葉には妙な実感が籠っていました。この人は、元はプロのヒーローか何かだったのでしょうか。何かしらがあって引退した後、いずくんを見つけた、とか。

 

「八木さんは、何をしていた人なんですか?」

「私かい? ()()、しがない事務員をしているよ」

 

 今は、ですか。どうやら触れられたくないようです。

 

「君は緑谷くんを心配しているんだろう? その気持ちは、想いは決して間違いじゃない。だから言いたい事はきちんと伝えなさい。──そして、できれば彼を支えてあげてほしい。それは緑谷くんにとって大きな力になるはずだ」

 

 無理にとは言わないけどね、と八木さんは笑います。

 私は、どうすればいいのでしょうか。どうするべきでしょうか。分かりません。息が苦しいです。ああ、よくないですねこれは。

 これ以上この場に居たくなくて、私は胸を押さえるように服の襟を掴みながら立ち上がりました。

 

「──少し、考えます。では」

「ああ、待ちなさい。顔色が良くない、落ち着いてからの方が──」

「大丈夫です。失礼します」

 

 呼び止める声を遮ってこの場を去ります。……追いかけては、来ていませんね。

 

「はぁ。とりあえず、いずくんが帰ってくるのを待ちましょうか」

 

 この辺りで一緒にお昼でも食べようと思っていたのですが、まぁいいです。引子おばさんは家にいるでしょうか。

 結局、当初の目的も中途半端です。ですがまぁ、あの人はとりあえず様子見でいい、と思います。話は些か……いえ、大分怪しいものがありますが、話していて嫌な感じはしませんでした。今すぐにどうこうする必要はないでしょう。

 

 

 

「緑谷少年、一旦休憩にしよう」

「あ、はい! あの、ゆめちゃんは先に帰ったんですか?」

 

 夢望が去った後。八木に呼び止められ、出久は手渡されたペットボトルを受け取りながら問いかける。2人並んで階段に腰掛け、見渡す限りのゴミの山を眺めていた。

 

「ああ、どうやら気分が優れない様子だったよ。帰れない程じゃないとは思うが」

「ゆめちゃんは昔から体調を崩しやすいんです。本当にダメな時は僕かお母さんに連絡してくるので大丈夫、だとは思うんですけど」

 

 スマホを取り出し、出久はトークアプリを開いた。通知は1件、先に帰るという夢望のメッセージ。それに対する返事と体調を気遣う内容のメッセージを送信し、スマホをポケットにしまう。

 

「そうか。泡沫少女、ほんの少し話しただけだが優しくていい子じゃないか。いい幼馴染を持ったね。──あの子かい? 君が言っていた救けたい人というのは」

「はい。ゆめちゃんは、こんな僕をヒーローだって言ってくれたんです。でも、ゆめちゃんは昔も今もずっと苦しんでいて……いつか、ゆめちゃんが前を向いて、心の底から笑えるようにできればって思ってます」

 

 どうすればいいかはまだ分かりませんけど、と自信なさげに俯く出久の頭に手を置き、八木は歯を見せて笑みを浮かべる。

 

「それなら、まずは君が笑っていなさい。自分が笑えないようじゃ他人を笑顔になんてできないからね」

「──はい!」

「ヨシ! じゃあ掃除を再開しようか。のんびりしている時間はないぞ、少年! ただし、くれぐれも怪我はしないようにな」

「はい!」

 

 威勢のいい返事と共に立ち上がり、出久は再びゴミ山と対峙するのであった。

 

 

 

 いずくんがトレーニングを始めてから数か月。暑い日々が続いていて非常にしんどいです。

 それはさておき、結局あれからいずくんには何も言えていません。多分、それでいいんだと思います。うまく雄英に合格できればいずくんが夢に近づけてよし、ダメだったとしてもやるだけやった結果なら受け入れやすいでしょう。

 私はいずくんの応援と、受験勉強に付き合うくらいしかできませんから。普段迷惑をかけている分、少しは役に立ちましょう。

 

『え!? ゆめちゃんもヒーロー科受験するの!?』

『はい。そういうわけなので、これからもよろしくお願いしますね』

 

 そして、当初の予定とはややズレますが、私も雄英を受けることにしました。ええ、いずくんが無茶するのが嫌なら私も傍にいればいいんですよ。八木さんも支えてあげてほしいと──あれはそういう意味ではないでしょうけど──言っていましたし。

 

『ということで、将来はいずくんの事務所で雇ってください。いやはや、これで私の将来も安泰ですね。悩みの種が一つ減りました』

『えぇ……ゆめちゃんはそれでいいの?』

『逆に聞きたいのですが、私が普通に学校に行って卒業して、就職して仕事している姿を想像できますか?』

『それは、まぁ、うん。あんまり想像、できないかな……うん』

『でしょう?』

『胸張って言う事じゃないと思うなぁ』

 

 今までは無用の長物でしたが、無駄にスペックの高い体に生んでくれた点に関してはあの人に感謝してもいいです。調べた限りでは実技試験はロボット相手に何かする内容らしいので、私の〝個性〟ならまぁ問題はないでしょう。

 

「あー。そろそろ時間ですね」

 

 ベッドから体を起こし、抱いていたホホジロザメの特大サイズぬいぐるみを脇に置きます。去年いずくんから貰ったプレゼントですが、私としては結構気に入っています。サメってかわいいですよね。

 それはさておき、今日は7月15日、つまりいずくんの誕生日です。当人はそんなの関係ないとばかりに今日もトレーニングの真っ最中ですが。

 誕生日といえばプレゼントを渡す丁度いい機会なわけです。何がいいかと色々考えて、一応用意はしました。喜んでもらえるかは分かりませんけど。今更ですが、いささか重いプレゼントになってしまったような気がします。

 よし行こうと気合を入れて立ち上がると、急にふらりときて視界が暗くなりました。

 

「──おっと」

 

 いつもの立ちくらみが。すぐに不調を引き起こすこの身体は本当にどうにかならないものでしょうか。さっきは感謝してもいいと言いましたがやっぱりなしですね、プラマイで考えるとマイナスの方が大きいです。

 立ちくらみくらいならまぁ別にいいですけど、片頭痛は本当に死にたくなるので勘弁してほしいものです。

 思考がそれました。そんな事は別にどうでもいいんです。いずくんの家に行きましょう。必要な物を持って自室を出るとリビングを通り、

 

 ──なんで私ばっかりいつもいつも! あんたがいるから!

 ──ごめんなさい、お母さ、ごめんなさい、ごめん、なさい

 ──あんたなんか生まなきゃ良かったのよ! あんたさえいなければ──!

 

 小さな女の子があの人に何度も足蹴りにされていました。女の子は泣きながら許しを請い、身を縮こまらせて──いえ、いいえ、これは幻です、今ここにあの人はいません。

 

「ッ──」

 

 呼吸が乱れて、立っていられなくて、膝から崩れ落ちるように倒れました。息が吸えなくて、動悸がして、苦しくて、体が動かなくて、苦しくて苦しくて──

 

「──はぁ、はぁ、はぁーーー。大丈夫、大丈夫です」

 

 頭を振って幻を消し去ります。大丈夫、こんなのもう慣れたものです。もう終わったことです。だから、大丈夫なんです。そう自分に言い聞かせるように繰り返して、ふらつく足取りで逃げるように家を出ます。

 家を離れてしばらく歩き、ようやく平静を取り戻しました。……そういえば、最近あの人を見ませんね。いた形跡はあるので死んではいないのでしょうが。まぁ、どうでもいいことです。

 

「ええ、()()()()()()んです。そんな事よりいずくん、頑張ってますよねぇ」

 

 ちょくちょく見に行っていますが、着実にゴミは減っています。まだ始めて数か月ですが、どちらかといえば細かったいずくんの身体に筋肉が付いていっているのも分かります。ハードなトレーニングと寝不足のせいか勉強の方がやや不安ですが、こちらは私でも多少手伝えますし。

 八木さんと出会っていずくんは確実に変わりました。それは幼馴染としても喜ぶべきなのでしょう。ですが、どうにも何か隠し事をされています。それも八木さんだけではなくいずくんにも。あの2人の間に()()()()()()()()()()()()のは間違いありません。恐らくは〝個性〟絡み、あの時の話に嘘か意図的に話していない情報があるはずです。そしてそれをいずくんも知っている。まぁ元々胡散臭い話でしたし、そういう事もあるでしょう。ですが、いずくんに隠し事をされるというのはなんとも言えない気分です。

 あれから何度か会っていますが、八木さん自体は話していて嫌な感じはしませんし、いずくんも信頼しているようなので、とりあえず信用してもいいとは思っています。約束も守ってくれているようですし。それに、恐らくあの人は嘘が下手です。うまくつついて誘導してやればそのうちボロを出すでしょう。これはいずくんにも言えますけど。

 

「問題は、そうまでして知る必要があるか、ですが」

 

 いずくんが理由もなく私に隠し事をするとは思えません。つまり言えない理由があるはずです。それが何かは分かりませんが、私は無理に聞き出すより信じて待つべきではないでしょうか。

 そう思うのですが、ええ、まぁ、やはり、嫌なものは嫌です。……本当にどうしようもないですね、あなたは。きっとあの人に似たのでしょう。死ねばいいのに。

 ──やめましょう。今日はいずくんの誕生日なんですから、笑顔でお祝いしましょう。

 

「いらっしゃい。夢望ちゃん」

「お邪魔します」

 

 しばらく歩いていずくんの住むアパート? マンション? どっちなのかはよく知りませんが、とにかく着きました。引子おばさんに出迎えられて中に入ると料理の途中だったようです。

 

「夢望ちゃん、顔色が良くないわよ。具合、良くないんでしょう」

「いえ、大丈夫です。なんともないので」

「そう……。とりあえず、ソファーが空いてるから休んでて。おばさんは夕飯の準備しちゃうからね」

 

 いずくんはまだ戻っていないようですし、おばさんの手伝いをするつもりだったのですが。半ば無理やり横にされてしまいました。まぁ、申し訳ないですが、ご厚意に甘えましょうか。本当に、大丈夫なんですけどね。

 ちらっと台所を覗いた感じ、メインはいずくんの好きなかつ丼、後はサラダと豚汁、ケーキといったところでしょうか。私にはよく分かりませんが、丼に乗っているのがいいらしいです。

 そんなこんなでもうすぐ完成といった頃、丁度いずくんが帰ってきました。今は挨拶もそこそこに脱衣所に向かい、シャワーを浴びています。

 

「出久、お誕生日おめでとう」

「おめでとうございます」

「──うん。ありがとう」

 

 準備も終わり、3人で食卓を囲みます。いずくんは嬉しそうにはにかみながらかつ丼を食べていました。やっぱり、引子おばさんの料理は美味しいですね。

 その後はホールケーキを食べて、とりあえずは終わりです。私もあまり長居するわけにもいかないのでやる事をやって撤収しましょう。

 いずくんの部屋にお邪魔して、隣に座って紙袋からプレゼントの箱を取り出します。

 

「というわけで。はい、プレゼントです」

「ゆめちゃんってこういう時結構雑だよね。開けてもいい?」

「どうぞ」

 

 押し付けるように渡すとなぜかディスられました。改まって渡すのも恥ずかしいじゃないですか、言わせないでくださいよ。

 梱包紙を外して箱を開封し、いずくんが私のプレゼントを取り出します。──喜んでくれるでしょうか。

 

「キーホルダー?」

「はい。時々行くアクセサリーショップがありまして、そこで作ってもらいました。身に付けるものだと邪魔になると思ったのでキーホルダーで」

「これって花だよね。えっと、確か──」

「ペンタスです。花弁の部分に嵌っているのはルビーとブルートパーズですね」

 

 ペンタスの花を模ったアクセサリー、花言葉は……いえ、これを言う必要はありません。気づいても気づかなくてもいい、これはその程度のものです。

 あまり質の良い石を使えなかったのが気になるところではありますが、値段の都合で妥協せざるを得ませんでした。残念ですが仕方がありません。

 

「まぁ、なんというか、お守り代わりだと思ってどこかに付けるでも飾るでもご自由に」

「──うん。ありがとう、大切にするね」

 

 キーホルダーを見つめ、顔を上げるといずくんは笑ってくれました。ああ、良かったです。

 

「実はもう一つあるんですよ。左手、出してくれませんか?」

「え? あ、うん。どうぞ」

 

 ポケットに入れていたプレゼントを取り出し、差し出された左腕に巻き付けます。

 

「もう一つ、お守りです。受験、合格するといいですね」

 

 ほどけないようにきちんと結んで、これで良し。

 

「ミサンガ──ゆめちゃんが編んだの?」

「はい。お守りなんていくつあってもいいですからね」

 

 手編みのミサンガ。作ってもらったものだけだと味気ないと思って後から編んだのですが、そこそこよくできたと思います。これなら身に付けていても邪魔になりませんしね。

 

「そっか。これも大切にするね」

「そっちは別にそんな大事にするものでもないですが。切れて効果を発揮するものですし」

 

 むしろ切れた後はさっさと処分しないといけないらしいです。まぁ、別に本気で効果があると信じているわけではありませんが。いいんですよ、こういうのは気持ちと気分です。多分。

 いずくんはキーホルダーとミサンガを嬉しそうに眺めた後、愛用のリュックにキーホルダーを付けていました。

 

「本当にありがとう。僕、絶対合格するから」

「ええ、頑張ってくださいね」

 

 さて、渡すものも渡しましたし。帰りたくなくなる前に帰りましょうか。

 

「それでは、私は帰りますね」

「あ、うん。送ってくよ」

「大丈夫です。いずくん忙しいでしょう? 受験勉強まで手が回ってないみたいですし」 

「うっ……そこはほら、気合でなんとかするから」

「なりませんよ。ほら、私に構うよりやる事があるでしょう」

 

 苦い顔をするいずくんを横目に引子おばさんに挨拶をし、玄関に向かいます。

 

「それではまた週末に」

「うん。気をつけて帰ってね」

 

 いずくんに見送られながら家を出ます。扉が閉まるその瞬間まで、いずくんは心配そうに私を見ていました。

 

「はぁ……」

 

 明日も学校です。めんどうくさいです、帰りたくないです。別に勉強なんて学校じゃなくてもできるじゃないですか、何故わざわざ登校しなければならないのでしょうか。それがなければいずくんの家に──いえ、迷惑になるのでやりませんけど。

 

「……帰りましょう」

 

 忌々しいあの家に。高校を卒業したらあんな家さっさと出て行ってやります。まぁもっとも、それまで生きていれば、の話ですが。

 

 

 




オールマイトの説明は校長の入れ知恵。
実際の所、あの世界の無個性は推定無個性なので絶対ないとは言い切れないんですよね。
少なくとも本編時期には個性因子を直接観測できるようになってるようですけど。
その個性因子もふんわり説明で具体的な詳細は不明ですし。
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