空想少女のヒーローアカデミア   作:いぬはいぬ

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入学試験

 2月26日。いずくんがトレーニングを始めて約10か月が経ち、とうとう今日が受験当日です。今日も寒いですね、手足が冷えますし調子も崩れるので寒いのは嫌いです。

 それ自体は別にいいのですが、いずくんが来ません。遅刻で受験できないなんて笑い話にもならないので、できれば急いで来てほしいものです。

 

「ゆめちゃん! ごめん、待たせちゃって! オー師匠と色々あって」

「話は後で聞きます。ほら、急ぎますよ」

 

 2人で走って地下鉄に乗り込みました。まったく、なぜ朝っぱらから走らなければならないのでしょう。いずくんのせいです。まぁこれに乗れなかったらだいぶ危うかったですが、乗れたので良しとしましょう。

 ですが、それはそれとして。

 

「ゆめちゃん、大丈夫──じゃなさそうだね」

「平気です……」

「ほら、こっち来て。僕が壁になるなら」

「ありがとうございます……」

 

 いずくんが作ってくれたスペースに身体を滑り込ませ、電車の壁に寄り掛かります。背後は壁で正面にはいずくん、これで多少マシにはなりました。まったく、なんでこんなに人が多いんですか。遠方から来る受験者はこの路線使わなくても行けるはずなんですが。あぁ、気持ち悪い。

 地下鉄を乗り継いで約40分、降りたらまた走ってなんとか目的地の雄英高校にたどり着きました。20分前をギリギリと表現するかはやや意見が分かれるところです。

 

「間に合ったぁー……」

「はぁー。疲れました」

 

 こんなに真面目に走ったのいつぶりでしょうか。満員電車のダメージも相まってもうしんどいです。仲良く肩でしていた息を整えて、校門をくぐると校舎を見上げます。

 しかしまぁ、やっぱり大きいですねこの校舎。全面ガラス張りの狂気じみた構造はどうかと思いますけど。そんな事を思いながら横並びで歩いていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

「泡沫ァ! なんでてめェがここに居やがる!」

「おや、爆豪さん。この前のカレー美味しかったですよ、ありがとうございます」

「俺じゃなくてババァに直接言えや!」

 

 そこに居たのは目つきと口と態度が悪いもう1人の幼馴染。まぁその辺りを直せと言うつもりは別にありませんが。

 相変わらずビビり散らかしているいずくんを脇目に、爆豪さんは肩を怒らせながらこちらに近づいてきます。

 

「まさかクソデクのお守りか? 舐めてんのか! あぁ!?」 

「あまり騒ぐものではありませんよ。そのあたりはまぁ、結果が示すでしょう」

 

 手伝えるものなら手伝いますが、受験でそれは無理でしょう。それに、どちらかと言えば普段は私がいずくんに迷惑をかけてますし。いや本当に申し訳ないです。

 私の言葉に爆豪さんは舌打ちして校舎に向かっていきました。もの凄くいずくんを睨みながら。こっちもこっちで相変わらずですね。昔は、2人の関係もここまで酷くなかったと思うんですけど。

 

「私たちも行きましょうか」

「あ、うん」

 

 気を取り直して歩き出そうとして──いずくんがすっ転びかけて、そのまま空中に浮きました。

 

「うわぁっ!? え? えぇぇぇぇ!?」

「大丈夫?」

 

 声をかけてきたのは茶髪の女子。いずくんを掴んで地面に下ろし、その子は両手を合わせながら朗らかな笑みを向けます。

 

「私の〝個性〟。ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

 その人は言葉が出ずに固まるいずくん相手に一方的に話し、お互い頑張ろうと言い残して校舎に向かっていきました。私以外の女の子とまともに話せないのも相変わらずなんですね、いずくん。

 結局一言も言えないままその子が去った後、いずくんはようやくフリーズ状態から復帰します。なんですか、なんだか嬉しそうですね。

 

「ほら、いい加減行きますよ」

「あ、ちょ!? ゆめちゃんなんか怒ってる!?」

「怒ってません」

 

 いずくんの手を掴んで引っ張っていきます。いずくんがなんか言ってますし、爆豪さんからの一連の流れで周囲の視線を集めていますが知ったことではありません。これ以上ここで時間を潰していたら間に合わなくなってしまいます。

 

「なぁ、あれ付き合ってんのかな」

「知らねぇよ。なんであんなかわいい子があんな気弱で地味そうなのと一緒に居るんだ。世の中理不尽だぜ」

 

 うざ。好き勝手に言うものです。

 やっと会場に着き、いずくんとは一旦お別れです。自分の番号が書かれた席に座ってようやく落ち着ける、わけもありません。人が多すぎて酔いそうです。もうちょっと密度下げません? 倍率300倍とはいえこの密集具合は辛いものがあります。

 そんなこんなで時間になり、壇上に現れたのはやたらと派手な格好をした金髪の男性。首に嵌めてあるアレは一体なんなんでしょうか。

 

「受験生のリスナー! 今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!」

「うるさ……」

 

 無駄にハイテンションでデカい声を響かせる男に思わず顔をしかめました。頭痛が悪化するので止めていただきたいものです。

 ──あー、誰でしたっけこの人、見覚えというか聞き覚えがある気がします。たしか、なんとかマイク? いずくんがよく聞いてるラジオの人だと思います。

 推定マイクさんはこのノリのまま説明を始めるようです。当然と言えば当然ですが、それに応える人はいません。虚しくならないんですかねこれ。あと声量下げてください。

 説明によると10分間の模擬市街地演習をやらされるそうです。まぁこれは入試要項通りですが、演習場には3種類の仮想敵が多数配置してあるからそれをぶっ壊して点数を稼げ、ということらしいです。それと1体点数にならないお邪魔虫がいるとか。まぁ、この内容なら大丈夫ですかね。

 後さっきいずくんに突っかかってた眼鏡、あなた顔覚えましたからね。

 

「俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校〝校訓〟をプレゼントしよう。──かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った! 『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!! 〝更に向こうへ(Plus Ultra)〟!! それでは皆、良い受難を!」

 

 人生の不幸を乗り越える、ですか。それはそれは結構なことです、私には無理でしょうね。

 それはともかく、ようやくすし詰め状態から解放されました。頭痛と気持ち悪さで始める前からもうしんどいです。

 指定されたバスに乗り込み、座席でぐったりしていると隣に座っていた人が話しかけてきました。

 

「大丈夫? 具合悪そうだけど」

 

 ちらりと横目で確認すると、そこに居たのはピンク色の髪と肌の女子。癖毛の髪からは角のようなものが覗いています。

 今は余裕がないので、人の相手とかしたくないんですけどね。

 

「……少し、人酔いしただけです。お気遣いなく」

「あー、そっか。人多かったもんね。そうだ、席代わるよ。窓側の方が楽でしょ?」

 

 人の話を聞いていない? いえ、代わってくれるならありがたい話ではありますけど。

 立ち上がったその人に促されて席を交換し、壁に寄り掛かるように座り直します。

 

「すみません。ありがとうございます」

「気にしないでいいって」

 

 笑顔が眩しいです。朝の茶髪の人といい、世の中にはいい人もいるものですね。こういう人たちがヒーローになるんでしょうか。

 寄り掛かっていた壁から体を起こし、きちんと目線を合わせます。

 

「泡沫夢望です。名前、聞いてもいいですか?」

「あたしは芦戸三奈! よろしくね、泡沫」

 

 人好きのする快活な笑み。芦戸さんはきっといい家庭で育ったのでしょうね。良いことです。

 バスに揺られながら休んでいる間、芦戸さんはしきりにこちらを気にかけていました。余裕があるのか、物好きなのか。いずれにせよ変な人です。

 そうしている間に目的地に着いたらしく、バスが停車しました。降りると目の前には巨大な門と壁、その奥に見えるビル群。この演習場かなり大きくないですか? 雄英の敷地内ですよね? この規模の施設が複数収まるってどうなってるんですかこの学校。

 

「それじゃ、お互い頑張ろうね!」

「はい。合格できるといいですね」

 

 芦戸さんと別れ、人の少ない後方で試験開始の合図を待ちます。しかしいずくんは大丈夫でしょうか。一応〝個性〟を使える段階まではきたと言っていましたが。

 もっとも、今は調子が良くないので人より自分の心配をした方がいいのかもしれませんが。

 

『ハイスタートー!』

 

 はい? 今スタートって言いました? ああ、門開いてますね。仮にも試験をそんな軽いノリで始めることあります?

 

『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?」

 

 左様でございますか。じゃあやりましょうか、めんどうですが。

 走り出す参加者たちを見送りつつ〝個性〟を発動させます。イメージするのは箒、空を飛ぶ魔女の箒。ええ、()()()()()()()()()()

 

「さて、行きましょう」

 

 手にした箒に横向きに腰掛けて宙に浮き、他の参加者たちを文字通り飛び越えていきます。見た限り私より足が速そうなのはいません、これは勝ちましたかね。私としては芦戸さんが勝ち残ってくれると嬉しいのですが。

 市街地を進んでいけば目標の仮想敵が見えました。1と2の数字が書かれたロボが複数、それでは小手調べといきましょう。

 

「小鳥の囀り」

 

 2つの雪色の光球を周囲に浮かべ、撃ち出された光が仮想敵を破壊していきます。囀り程度で壊れるとは思ったより脆いですね、これは楽ができそうです。銃火器も積んでいるようですが撃ってくる気配はありません。

 

「んー……」

 

 しかし、なぜヒーローはわざわざ技名を叫ぶのでしょうか。前にいずくんとこの話をしたときは、その方がイメージしやすいとか味方との連携とかなんとか言っていた記憶があります。実際に試した感想としては特に意味は感じませんが。

 まぁそれはいいです。箒に腰掛けたまま視界に入ったロボを撃ち抜くだけの単純作業。3Pは他と比べれば少々頑丈ですが誤差の範囲です。こんな簡単でいいんですかね。

 

「この辺りはもういませんか」

 

 周囲には無残に転がる残骸ばかりで動いているロボはいません。一旦高度を上げて目標を探します。どうもある程度固まっているらしく配置にはムラがあるようです。

 上空から見下ろすと地上は混戦状態で、悠々とロボを片付けていく人もいれば敗走する人もいます。遠巻きに見ているだけの人は受けたものの無理だと諦めたんですかね。まぁ攻撃能力のない〝個性〟では不利ですよねぇ、この試験。

 

「最低限の戦闘能力もない人は要らないってことでしょうか」

 

 それはそれでどうなんですかね。別に(ヴィラン)と殴り合うだけがヒーローでもないでしょうに。別段、私が気にするような事でもありませんが。

 再び降下して点数を稼ぎに行きます。射線上に人がいないかだけ気を付けましょう。うっかり当ててしまったら笑えません。

 

「そういえば0Pを見かけませんね。どこにいるんでしょうか。──ん?」

 

 ビルが揺れてません? 地震? いえ、違いますね。前方で地面が爆発して何か出てきました。

 

「わーお。大きいですねぇ」

 

 試験終了まで後2、3分といったところで姿を現したのは例の0Pのお邪魔虫。なるほど、これは回避推奨と言われるわけです。ビルより大きいとかどうやってこんなの格納してたんですかね。

 0Pは近くにあったビルをアームで軽く粉砕し、そのまま前進してきます。地上では受験者たちが我先にと逃げ惑っていました。こういうのを蜘蛛の子を散らすって言うんでしょうね。

 

「さて、私はどうしましょうか」

 

 違和感。何かを見落としているような、そんな感じ。そもそも何を意図してこの0Pは配置されたんでしょうか。受験生の基礎性能を見たいだけであれば、点数にもならない回避推奨のギミックなど不要なはずです。何か別の、私たちには知らされていない評価項目が存在する……?

 

「おや、芦戸さん?」

 

 0Pから逃げる集団の奥、芦戸さんが受験生の1人に肩を貸しながら逃げようとしていました。遠目ではよく分かりませんが、足でもやられたんでしょうか。こんな状況でも人助けとは筋金入りです。……ん? こんな状況? 人助け?

 いえ、そんな事よりこのままだと追いつかれますね。試験で死人を出すなんてさすがにないと思いますが、芦戸さんには良くしてもらいました。その分のお礼くらいはしましょう。

 高度を下げながら芦戸さんに近づいていけば当然、向こうも私に気付きます。

 

「さっきぶりですね、芦戸さん」

「泡沫! ちょうど良かった、この人運ぶの手伝って欲しいんだけど!」

「あ、それは無理です。(コレ)は私しか運べないので。代わりと言ってはなんですが、あっちをなんとかしてきます」

「え!? あっちってあんな大きいのの相手するつもり? 本気!?」

「余裕ですよ」

 

 まぁまぁ、任せてください。呼び止めようとする芦戸さんの声を聞き流しながら0Pに接近します。

 向こうの間合いに入ったのか、私に向かって腕を伸ばしてきました。随分と容赦ないですね、こんなのぶつけられたら死ぬと思うんですが。

 

「おお怖い怖い」

 

 とはいえ、当たらなければ問題はありません。するりと躱せば巨大なアームがビルに突き刺さりました。

 ちょうどいいと半壊したビルに降り立ち、箒を消します。停止したアームの装甲板に触れながら0Pを見上げると、もう片方のアームを振り下ろそうとしていました。他のロボと違って本当に容赦のない。

 ですがまぁ、

 

「──()()()()()()()()

 

 

 

 試験終了後。私は校舎から出てくる人たちを眺めながらいずくんを待っていました。帰路につく彼らには満足げな表情の人もいれば悔しそうに俯く人、空元気で笑う人、涙を浮かべている人もいます。この中からたった36人しか合格できないわけですが、いずくんはどうですかね。

 

「はぁー。疲れましたねぇ」

 

 まぁとりあえず、これでやるべき事は終わりました。結局何点稼いだんでしたっけね、途中から数えるのがめんどうになっていたので把握していません。試験そのものは退屈な的当てゲームでしたが、最後の0Pで逃げる他の受験生の驚く顔が見れたので良しとしましょう。終了後にえらくハイテンションな芦戸さんに絡まれて大変でしたけど。陽の者は怖いですね。

 それはともかく、いずくんが一向に出てきません。なんならメッセージを送っても既読が付きません。何かあったんでしょうか。

 

「あ、おーい! そこの白髪の人ー!」

「ん?」

 

 誰か呼びました? 私を? 誰が? 周囲を見渡すと見覚えのある女子がこちらに走り寄ってきます。朝の茶髪の人です。

 

「あの! 朝一緒に居ましたよね……!? あのモサモサの髪の、地味めな人と!」

「ええ、まぁ、あの時はありがとうございました。何かご用ですか?」

「あえっと、その! 救けてくれてありがとうって伝えてください! それだけです!」

「──えーっと? ちょっと何があったか説明してくれません?」

 

 妙なハイテンションでそんな事を言われても何がなんだか分かりません。

 茶髪の人──麗日お茶子さんだそうです──から話を聞けば、例の0Pに襲われて動けなくなっていたところをいずくんに救けられたのだとか。またやったんですね、いずくん。

 しかも0Pを()()()()()()反動で両足と右腕を骨折したそうです。ちょっと何を言ってるのか分かりません。つまり、八木さんの言っていた通り〝個性〟を使えるようにはなったものの、まるで制御できていないってことですか? なにやってるんですか、あの人。しばいてやりましょうか。

 ……まぁ言い訳は後で聞くとして、意図せずしていずくんの居場所が分かりました。試験終了後は治癒の〝個性〟で怪我を治してもらい、そのまま搬送されていったそうです。つまりまだ学校の中、恐らく医務室あたりにいるはずです。

 

「でね、『ポイントは分けられないし、分ける必要もない』って言われたんよ! これってそういうことなんかな!?」

「さぁ、それはなんとも言えませんが」

 

 驚くべきことに麗日さんは試験後、いずくんに自分の持ち点を分けようと直談判に行ったのだとか。凄まじい行動力です。で、返答がこれだそうですが、普通に考えればリップサービスの類。ですがもしかしたら、と言ったところでしょうか。しかしずっとテンション高いままですね、そろそろ落ち着いてもいいと思うんですが。

 話している間にそこそこ経ちましたが、スマホを確認するも未だいずくんからの連絡はなし。これはもう探しに行った方が早いですかね。そこでふと麗日さんも携帯──なんと珍しいことに折りたたみ式です──を見てヤバいと言わんばかりの顔になっていました。

 

「そろそろ帰らんとまずい! それじゃ、また4月に会おうね!」

「はい。またお会いしましょう」

 

 合格していれば、ですけど。まぁ野暮なことは言いません。手を振りながら去って行く麗日さんを見送り、ちょうどその直後に通知がきました。惜しかったですね、もう少し早ければ直接話ができたというのに。

 まぁ仕方がありません。ずいぶんと待たされて、ようやくいずくんが出てきます。何やらお疲れのようですが、見た限りでは体に問題はなさそうです。

 

「あ、ゆめちゃん。ごめん、心配させて」

「まったくです。あの0Pをぶっ飛ばして大怪我したそうですね?」

「なんで知ってるの!?」

 

 驚くいずくんに先ほどの話をします。しかし後先考えずに飛び出して大怪我なんて、本当にバカなんですから。ほんと、まったく、ほんとうにもう。

 

「ああそれと伝言です。『救けてくれてありがとう。また4月に会おう』だそうです」

「──っぁ、うん。また、会いたいね」

「そうですねぇ」

 

 でも、と言葉を続けたいずくんの顔には涙が浮かんでいて、心底悔しそうに拳を握り締めていました。

 

「僕……全然ダメだった! 1Pも取れなくて、〝個性〟も一度使っただけで手も足も壊して……! 何も、何も……!」

「んーそれなんですが、まだ可能性はあると思いますよ」

「──っえ?」

「考えたんです。あの0Pがどういう目的で置かれたのか、あの試験がどういう意図で設計されたのか。雄英側が見たかったもの、選考基準。多分、いずくんの行動は無駄ではなかったと思います」

 

 私としては怪我してまでやらないでほしいですけど。まぁ、これは私のわがままです。

 思うに、彼らが見たかったのは基礎能力とヒーローとして行動できているかの二点。恐らく麗日さんを救けようとしたいずくんや、他の受験生を見捨てなかった芦戸さんの行動は加点対象のはずです。気になるのは減点はされるかどうかですね。0Pから尻尾巻いて逃げた受験生や、殴り倒したはいいもののほぼ自爆同然の行動だったいずくんはどう評価されるでしょうか。

 もし雄英が戦闘力偏重主義であれば0Pを0Pとして出す意味がありません。それこそ50や100あたりにでも設定するでしょう。それに雄英体育祭のヒーロー科生徒がもっと直接戦闘に向いた〝個性〟に偏るはずです。

 

「──とまぁ、そんな感じの予想をしてみたわけです。答え合わせは来週になりますし、今日は帰りましょう」

「うん。ありがとう、ゆめちゃん。僕──ヒーローになれてたかな」

「少なくとも麗日さんは感謝していましたし、そうなんじゃないですか」

「そっか」

 

 いずくんの手を握って歩き出します。まだ俯いたままですが、先ほどよりは表情が明るくなりました。気休め程度にはなったでしょうか?

 どのみちもうやれることもありませんし、雄英がいずくんを高く買ってくれるよう祈りましょう。

 

 

 

 入試から1週間後、合否通知が届きました。はてさて、結果は如何に。

 中身を確認すると紙と一緒に空中投影装置が入っています。たかが合否通知でこんなの使うんですか? とりあえず起動しましょうか。

 

『私が投影された!!!』

「うるさ……」

 

 うるさ。

 は? どうしてオールマイトが出てくるんです?

 いきなり顔面ドアップで現れた筋骨隆々の男。間違いなくこの国で、あるいは世界で最も有名な人物が映し出されています。

 

『なぜ私がここに居るかって!? それは! 私が今年の春から雄英の教師をすることになったからさ!』

 

 思考を先読みするんじゃあないですよ、映像記録の分際で。あと声がデカいです、これ音量調整とかできないんですか。

 

『早速だが、合否発表だ! 筆記は少々ケアレスミスが気になるが、点数は問題なし。見直しは大切だぞ! 泡沫少女。そして実技だが、敵P(ヴィランポイント)が61点、これだけでも上位の成績だがそれだけじゃない! あの場での受験生(きみたち)の行動を審査するもう一つの評価項目、救助P(レスキューポイント)35点! 首席合格こそ他に譲ったが、実技では君がトップ。これは胸を張っていい結果だ。──来いよ、雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

 ふむ。まぁ予想が当たったということですかね。レスキューPとやらがどう採点されているのか不明ですが、まぁレスキューというぐらいですから恐らくそういうことでしょう。

 しかし些か点数を稼ぎ過ぎたようです。首席ではないそうなので、厄介事を押し付けられる心配はしなくても良さそうですが。

 

『──あ、そうだ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 思い出したかのようにそう言って、よく聞く高笑いを最後の映像は停止しました。いずくんも合格ですか、それはなによりです。しかしそれって言っていいんですかね。

 

「 ──ん?」

 

 いえ、待ってください。どうしてオールマイトが私といずくんの関係を知っているんですか? 身辺調査? 全員はやってられないはずですし、合格者だけ? 映像を撮って発送する以上期間は数日しかないはずです。そんなバカな。

 

「んー。考えても分かりませんし、この件は保留ですね」

 

 しかし、実技だけとはいえ私がトップとは。私なんて精々半年の付け焼刃だというのに、それより上がいないとは正直驚きです。〝個性〟の練習ができる人なんてそうそういないにしても、私よりヒーローになりたかった人も、私よりヒーローになるべきだった人もいたでしょうに。

 そういう人たちが落ちて私なんかが受かったのであれば、なんとも現実というのは無情です。まぁ、世の中そんなものなんでしょうけど。

 

「ですがとりあえず、良かったです。ハッピーエンドなんて、物語の中だけだと思ってましたけど」

 

 ベッドに倒れ込んで伸びをします。思い返せばヴィランに襲われたと思ったら師ができて、ないと思っていた〝個性(ちから)〟も実は強力なものを持っていて、努力の末に目標達成なんてそれこそ物語のようです。さすがにご都合が過ぎるというものでしょう。事実は小説より奇なりとはいいますけど。

 もっとも、実際はエンドどころかここからが始まりなわけですが。とりあえず早急に〝個性〟の制御を覚えてもらわないと、いずくんの体にも私の精神衛生にもよくありません。ていうかそうです、八木さんと連絡が取れないのはなんなんですかね。次会ったら蹴りいれてやりましょうか。

 

「あ、いずくん」

 

 スマホに着信、いずくんからです。ひっくり返っていたホホジロザメのぬいぐるみを抱き寄せながら電話に出ます。

 

「いずくん? 結果きまし──」

『ゆめちゃん! 受かってた……! 僕受かってたよぉ……!』

 

 すごい声が聞こえてきました。これ絶対泣いてますよ。

 

「おめでとうございます。とりあえず落ち着きましょう?」

『うん……!』

 

 いずくんが嬉し泣きしながら話してくれた内容を整理すると、合否発表はいずくんもオールマイトだったこと、麗日さんの直談判の映像を見せてもらったこと、救助P(レスキューポイント)60点で無事合格したことは分かりました。憧れの人に合格だと言ってもらえてさぞ嬉しかったことでしょう。

 しかし0P撃破は同じなのにこの点数差は一体なんでしょうか。ビルですか? 0Pをバラす時にビルをダメにしたのがNGでした? そんな厳しいことあります? もしくは知ってる相手だから助けただけなのを見抜かれたとか。そりゃヒーローは本来誰でも助けるものなんでしょうけど。

 まぁ、いいです。合格はしてるんですから点数なんてさして重要ではありません。いずくんも一通り話して泣いて落ち着いたようですし、そろそろお開きにしましょう。

 

『──そういえば、ゆめちゃんはご飯食べた?』

 

 そう思っていると、落ち着いたいずくんが思い出したように聞いてきました。

 

「……まだですね」

『ちゃんと食べてね。一食ぐらい抜いてもいいとか、考えちゃダメだからね』

「はい……」

 

 バレてます。仕方ないんですよ、買い置きのパンはもうないですし冷蔵庫の中身もろくに入ってないんです。つまり買いに行かなければなりません。めんどうくさいです。

 

『それじゃ。おやすみ、ゆめちゃん』

「おやすみなさい」

 

 電話を切ります。はぁ、いずくんに言われたのであれば仕方がありません。ちょっと買いに行きましょうか。おや?

 

「爆豪さんがかけてくるとは珍しいですね」

 

 不在着信、いずくんと話してる時にきたみたいです。なんの用でしょうか? 普段は生存確認のメッセージしか送ってこないというのに。とりあえず折り返しましょうか

 

「爆豪さん? どうかしましたか?」

『泡沫、おまえ実技何点だ』

 

 声が一段と低いです。これ相当きてるやつですね。

 

「えーと、96点ですね」

『やっぱりてめェか……! いいか泡沫! ()()()()()()()()()()()()()()()()から、覚悟しとけ……! デクが落ちてようが辞退なんかするんじゃねぇぞ!』

 

 切れました。あといずくん受かってますよ。まぁ、らしいというかなんというか、相変わらず勝ちへの執念がすごいですね。私にはさっぱり理解できませんけど。

 そういえば爆豪さんは何点なんでしょうか。聞いてみましょうか。メッセージを送って、抱いていたぬいぐるみを脇に置いてベッドから立ち上がります。

 

「あーと、シュシュは──ああ、ありました」

 

 いずくんから貰った今年の──年を越してるので正確には去年ですが──誕生日プレゼント。いずくんのセンスって感じはあまりしないので、恐らく引子おばさんが入れ知恵したんでしょう。

 まぁ私としては結構気に入っているのでいいのですが。さっと髪をまとめて、ローポニーにしておしまい。いやはや、楽でいいですね。

 

「さて、仕方ないので行きましょう」

 

 スマホを手に取るといつの間にか返事が返ってきていたようで、91点とだけ書かれていました。割と僅差ですね、爆豪さんにレスキューPがあるとも思えないので、恐らく50機弱は破壊していると思われます。頑張りすぎですね。

 買い物をしてシャワーを浴びて、めんどうくさい。本当に、生きるというのはめんどうです。

 

 

 




夢望による個性解説。
空想
 頭の中で描いたイメージを現実に出力できます。
 性能や強度、持続時間はイメージの強固さと投入したエネルギー量に依存します。
小鳥の囀り
 魔法使いの魔力砲的なアレです。光と言いつつ実態は水鉄砲みたいなものなんですがね。
魔女の箒
 箒は空を飛ぶものです。当たり前ですよね。
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