空想少女のヒーローアカデミア   作:いぬはいぬ

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夢現

 一般的に、子は親に望まれて生まれてきます。望まれて、求められて、だから親は子を愛するのでしょう。あくまで一般的には、ですが。

 であれば、望まれずに生まれた子が愛されないのはある意味道理だと言えます。ならば、その子はどうすれば良かったのでしょうか。望まれずに生まれた者はどう生きればいいのでしょうか。

 ──私は、どうするべきだったのでしょうか。

 

 

 

「あー……今、何時でしょう」

 

 寒い、眠い、怠い、頭痛い、動きたくない。何もかも、全てがめんどうです。受験が終わってガス欠でも起こしましたか。まぁ、どうでもいいです。このまま朽ちてしまえばいい。

 耳鳴りが煩わしい。ぬいぐるみを抱いて、体を丸めて、どれくらいこうしているでしょう。飲まず食わずでも数日は死なないんでしたっけ。多分、いずくんか爆豪さんに見つかる方が早いでしょうね。前も、そうでしたし。

 

「いずくん……」

 

 私の呟きに応えるものはなく、ただ虚空に消えるばかりで。あぁ、声が聞きたいです。

 そんな事を思って、力の入らない体にムチを打ってスマホに手を伸ばします。ですが、ようやく手にしたスマホはいくら押しても反応がなくて。電池切れとは、間抜けですね。

 

「……もう、いいです」

 

 このまま、寝てしまいましょう。このまま目覚めなければ終われますし、もしその前にいずくんが来てくれたのなら、それでもいい。私はどちらでも構いません。

 目を閉じて、ぬいぐるみに顔を埋めて、これでもう世界には何もありません。怖いもの、嫌なもの、苦しいものもぜんぶ。とてもしずかで、すてきなせかい──

 

 

 

 ──きれい。

 走っちゃ駄目よ。──夢望は水族館、気に入った?

 うん!

 

 

 

 大丈夫? 泣いてるの?

 誰……?

 あ、僕、出久。雨降ってるのに、こんなところに居たら風邪ひいちゃうよ。帰らないの?

 ……帰れない。私、悪い子だから。私がいると、お母さんが怒るから。

 えっ……えっと、なら、そうだ。僕の家に行こう? この近くなんだ。このままじゃ風邪ひいちゃうよ。

 …………。

 

 

 

 おせーぞデク! って誰だよ、そいつ。

 ごめんかっちゃん。えっと、この子はゆめちゃんって言って、できれば仲間に入れてあげてほしいなって思って。

 ふーん。ま、いいぜ。よしおまえ、まずは〝個性〟を見せろ! 

 

 

 

 ──ゆめちゃん。

 誰ですか。

 ──ゆめちゃん……!

 なんで、起こそうとするんですか。

 ──ゆめちゃん!

 私はもう、疲れたんです。

 

「──ゆめちゃん!!!」

 

 よく知っている声がしました。体を揺する手があたたかくて、心地よくて。重い瞼を開けば、見慣れた顔が私を見つめています。

 

「……いずくん」

 

 私の呟きに、泣きそうだった表情に安堵の色が浮かびました。

 

「あ、良かった。──心配したんだよ、全然連絡付かなくて」

「すみません……」

 

 鉛のように重い身体を無理やり起こして──あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛頭痛い、気持ち悪い、吐きそう、ヤバいです。

 

「ゆめちゃん……!?」

 

 呻く私にいずくんが慌てていますが、今ちょっと余裕がないです。痛む頭を押さえながら落ち着いて呼吸をします。いずくんの前で嘔吐なんてしたらそれこそ首吊って死にますよ私は……!

 

「いずくん。水、ください」

「あ、うん! 分かった。ちょっと待ってて!」

 

 私のお願いにいずくんは急いで部屋から出ていきました。

 私だって一応、曲がりなりにも乙女です。気合いで諸々全てを捻じ伏せて平静を取り繕います。まだ少し、いえ結構怪しいですが、とにかく最悪の事態は免れました。てか声ヤバいです、枯れすぎでしょう。

 

「あー、今日何日です……?」

 

 て、そうです。スマホ使えません。仕方がないので充電します。そうしてる間にいずくんがコップを持って戻ってきました。

 

「はい、お水」

「ありがとう、ございます」

 

 頭痛薬どこにやりましたっけ。ああ、ありました。薬と一緒に受け取った水を少しずつ飲んで、とりあえずは落ち着きました。薬が効いてくれば大分マシにはなるでしょう。

 スマホの電源を入れると日付は3月11日。まぁ丸一日以上横になっていたことになります。そしていずくんからの通知がすごいです。相当心配させてしまいましたね。

 ──ん? 丸、一日以上──? 

 

「──ッ!?!??!!? いずくん! いま、ちょっと、ダメです! 出て、リビングに居てください!」

「え? あ、ちょっと──!?」

 

 うえ、騒いだせいで余計体調が。ですがそんな事はどうでもいいんです、どうせいつもの事なんですから。それより──!

 とにかくいずくんを追い出し、タオルと着替えを引っ張り出して脱衣所に直行します。シャワーを浴びて髪と体洗って、とりあえずこれで大丈夫ですかね……?

 ドライヤーは後回しに、髪はタオルでできるだけ水分を取ってリビングに向かいました。

 

「あー、えっと、お待たせしました」

「あ、うん」

 

 沈黙。気まずいです。どうしましょう、とりあえず謝りますか? お互い安物の座布団に座ったまま時間だけが経過していきます。

 先に口を開いたのは、いずくんでした。

 

「ゆめちゃん」

「はい」

「なんで、あんな状態になる前に連絡くれなかったの?」

 

 いずくんの声が低いです。これかなり怒ってます。そりゃ怒るでしょうけど。いやでも仕方なかったんですよ、これはもうそういう病気みたいなものなので。

 なんて、そんなものは単なる言い訳でしかないのですが。目を合わせるのが怖くて、視線を逸らしてしまいました。

 

「……スマホの、充電が切れていた、ので」

「そっか。──うん、分かった。じゃあとりあえず、しばらくゆめちゃんは僕の家で生活しよう? そうすればもうこんな事も起きないでしょ?」

 

 はい? 本気で言ってます?

 

「いえ、それはさすがに。引子おばさんにも迷惑がかかりますし」

「ゆめちゃん」

「はい……」

 

 無条件降伏、これは逆らったらダメです。いずくんの目が本気です。有無を言わさずに居候が決定してしまったのですが、本当に大丈夫なんでしょうか。

 悩む私を余所にいずくんが膝立ちになってこちらに近寄り、そのまま両手を背中に回して抱きしめてきました。

 

「いずくん?」

「──遅くなってごめん。最近はこんな事なかったから、油断してた。ゆめちゃんと連絡が付かなかった時点で、もっと早く来ればよかった」

「なんで、いずくんが謝るんですか」

 

 悪いのは私なのに。私が勝手に死のうとしただけで、いずくんは何も悪くないのに。

 いずくんの腕の力が強くなって、顔を見なくても涙を浮かべているのは分かりました。──あなたが泣かせたんですよ、夢望。

 

「ゆめちゃんを独りにしちゃダメだって、分かってたのに──」

「…………」

 

 本当にごめん、と謝るいずくんに私は何も言えなくて。どうすればいいかも分からなくて、結局されるがままになっていました。去年の春頃と比べたら随分と逞しい体になったなと、現実逃避気味に思います。

 そうしてしばらくいずくんに抱きしめられた後。私はとりあえず必要な物だけ持って、玄関で待っていたいずくんに声をかけました。

 

「お待たせしました」

「それだけでいいの?」

「足りなければ取りに来ればいいだけですし」

 

 雨降ってますね。仕方がないので〝個性〟で傘を描きます。こういう時は本当に便利ですね。

 大した距離じゃありませんし、どれくらい居るかも分かりませんしね。そもそも引子おばさんの了承は得ているのでしょうか。優しい人なので拒否はしないでしょうけど。

 まぁ数日ちゃんと生活していれば、いずくんも元に戻るでしょう。今は少し心配性になっているだけです。今までもこういう事はたまにありましたし。

 ──なんて楽観的に考えていた私が甘かったと気づいたのは、しばらく経った後のことでした。

 

 

 

 あれから、居候を始めてもう1週間以上経過していました。私がそろそろ家に戻ると言っても、いずくんにはダメだと言われます。なんなら引子おばさんも嫌な顔一つせず、むしろ喜んで泊めてくれています。あまりにもいい人です。

 春休みが終わる前には戻らないといけないと思いながら、デッサンをやめて伸びをします。一旦ここまでにしましょう。

 

「それで、〝個性〟の方は結局どうなんです?」

 

 スケッチブックと鉛筆を片付けて、ずっと気がかりだった話題を振りました。

 

「オ、師匠にはイメージトレーニングをしなさいって」

 

 てきとうですねぇ。まぁ最悪大怪我するので下手に使うわけにもいきませんが。もう少し具体的なアドバイスとかないんですかね。

 あれからようやく連絡が取れた八木さんには電話でひたすら平謝りされました。なんでも今本当に忙しくて手が離せない状況だそうです。真偽は知りませんが。

 

「イメージってどんな感じなんです? 分類的には増強型でしょう?」

「えーと、電子レンジに入れられた卵、みたいな。体がブワッとなる感じ?」

「あまり聞かない例えですね」

 

 なるほど、分かりません。タイプが違うとやっぱりダメですね。ちなみに八木さんには評判だったそうですが、本気で言っています?

 机に向かっていたいずくんは趣味のヒーローノートまとめを中断して、私に視線を向けます。

 

「そうだ。ゆめちゃんの〝個性〟はどんな感じなの?」

「んー。空に直接絵を描くような、そんな感じでしょうか」

 

 実演するように空中で指を走らせます。──はい、クマノミの完成です。2匹3匹と増やして部屋の中をグルグル泳がせればちょっとした水族館気分を味わえます。

 

「なるほど。やっぱり参考にはならないかなぁ……」

「そうでしょうね」

 

 〝個性〟をどう使っているか説明するのは存外難しいものです。手足をどう動かしているか言語化するのが難しいのと同じように。真面目にやるなら似たような〝個性〟持ちにでも聞く方が確実でしょう。残念ながら当てがありませんが。

 まぁ無い物ねだりをしても仕方がありません。いずくんは〝卵が爆発しない〟イメージをしているそうですが、個人的にはこういうイメージの仕方はあまり良くないですね。

 

「いずくん。これはあくまでも私見ですが、別のイメージに変えた方がいいと思いますよ」

「え、そうなの?」

「卵が爆発しない。つまり()()()()()()()()、なんて考えながらやっても上手くいきませんよ」

 

 それはつまり失敗のイメージが脳裏にちらついているってことですから。失敗するかもしれないと思いながらでは上手くいくはずもありません。必要なのは成功のイメージ、できるという確信です。

 なんですが、いずくんの場合〝個性〟を制御するために成功のイメージを積み上げるために〝個性〟の制御が必要というループに嵌ってしまいます。困りましたね、詰んでしまいました。

 

「普通は〝個性〟なんて失敗と成功を積み重ねながら使えるようになっていくものなんですが、いずくんの場合失敗が即大怪我に繋がるのでそういうわけにもいかないんですよねぇ」

「うん……」

 

 発現したばかりの幼少期なんてたとえ〝強個性〟でも高が知れています。多少怪我したりさせたりはありますが、大事故が起こるケースは稀です。全くない訳ではありませんが。

 通常は身体の成長と共に使い方だの加減だのを学ぶはずがいずくんはそれができなかった。この差を埋めるにはどうすればいいでしょうか。

 

「とりあえず一度成功させたいところですが。んー、難しいですねぇ」

「うん。でも、ありがとう。いい方法がないか考えてみるよ」

「そうしてください。私はいずくんが大怪我する姿なんて見たくないので」

 

 冗談めかしてそう言えば、いずくんはなんとも言えない表情で苦笑いを漏らしています。

 そんな話をしながら23匹目のクマノミを部屋に放ちますが、これだけ増やすとさすがに維持が大変です。これでも同じものをコピペしたり動きもワンパターンにしたりして手間を減らしてるんですけどね。

 

「そういえば、コスチュームは本当にあれでいいんですか? せっかく清書したというのに」

「それはごめん。でも、僕はあれがいい」

 

 そういうものでしょうか。雄英には被服控除という制度があり、必要な情報や要望を出せば学校──実質的には国ですが──と契約しているサポート会社がヒーローコスチュームをタダで用意してくれます。タダっていうところがいいですよね。

 なんですが、いずくんは引子おばさんが用意したお手製改造ジャンプスーツを使うそうです。見た目に関してはまぁ、ノーコメントで。

 

「ゆめちゃんはどんな風に要望出したの?」

「そうですねぇ──まぁ実際に見るまで秘密ということで。それなりに細かく指定したので、変なのが出てくることはないと思いますが」

 

 私の場合、素材によっては着ること自体が苦痛になってしまいますし、どうせ着るなら好みに合う衣装を着た方が多少はやる気も出るというものです。

 しかし、ヒーローって体のラインが出るスーツだったり変な格好してる人がやたらと多いですけど、アレなんなんですかね。創作のヒーローでもリスペクトしてるんですか?

 

「ゆめちゃんは絵も上手いもんね。コスチューム、楽しみにしてる」

「あまり期待されても困りますが。それに、私の絵なんて単なる手慰みですよ。大したものではありません」

 

 元々何が切っ掛けで始めたんでしたっけね。思い出せないということは大した理由ではないのでしょうが。なんにせよ、暇つぶしにはなっているんですからいいでしょう。

 

「そんな事ないよ! 僕はゆめちゃんが描く絵、好きだよ。凄く綺麗で、幻想的で」

 

 急に、いずくんが真剣な表情で言ってきて。

 

「──褒めても、何も出ませんよ」

 

 気恥ずかしくなって、目を逸らします。まったく、いずくんはこういう事平然と言う時があるんですから。好きだなんて、いえ、いずくんは私の絵が好きだと言っただけですけど。何を動揺しているんですか、私は。

 

「あ、消えた」

 

 呟くようないずくんの声。集中が乱れて、部屋を泳いでいたクマノミたちが掻き消えました。いずくんがいきなり変な事言ったせいです。

 まぁ、いいです。所詮これも暇つぶしですから。──いずくんと水族館、また行きたいですね。

 ベッドに転がるホホジロサメのぬいぐるみを抱き寄せて、少しわがままを言ってみます。

 

「いずくん、今度水族館行きません?」

「あ、うん。いいよ、行こう」

 

 あまりにもあっさりと、いずくんは嬉しそうに私のわがままを聞いてくれます。本当に、私には勿体ないぐらいによく出来た、優しい幼馴染です。

 

「あっ──そういえば、ヒーローを呼んでショーをするって宣伝してた水族館があったような。ちょっと待って」

 

 思い出したようにそう言って、隣に来たいずくんはしばしスマホを弄った後その画面を見せてくれました。

 

「ここなんだけど、どうかな?」

「ふむ」

 

 まだ行ったことのない水族館。隣の県ですが、このくらいの距離なら行けますね。ヒーローショーにはあまり興味はありませんが、私の趣味に付き合わせるばかりでは悪いですし好都合でしょう。

 

「いいですね。それでは、ここで決まりということで」

「うん。いつがいい?」

「人が少ない日。と言っても、春休み中ではいつ行っても大して変わりませんか」

 

 ならいつでもいいです。やはり水族館は学校サボって平日に行くのが一番ですね、間違いありません。どうせ学校なんて行っても行かなくても大して変わりませんし。とはいえ、高校からはそうも言ってられませんが。めんどうですねぇ。

 少し空いていたいずくんとの距離を詰めるように身を寄せます。

 

「あった、波乗りヒーロースウェルのイルカショーだって! どんなのだろう──!」

「行く前から楽しそうですね」

 

 既に私よりいずくんの方が楽しみにしています。瞳を輝かせるいずくんの肩にもたれ掛かりながら、水族館のホームページを眺める。──そんな夢のような時間。

 

 

 




どうしたら読んでくれる人が増えるだろうか。小説は難しい。
夢望は経歴上いくつものデバフが常時かかってます。だから個性とスペックを盛る必要があったんですね。
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