翌日。今日はいずくんの治療もあるので、いつもより早く電車に乗りました。早ければ混雑もマシだろうと予想していたのです。──が、
「ゆめちゃん、落ち着いた?」
「むり……」
「ゆっくり休んで。まだ時間はあるから」
むしろ混んでいました。耐えきれなくなって、今は途中の駅のベンチで横になっています。気持ち悪い……頭痛い……死ぬ……。
「ごめん、なさい……」
「ゆめちゃんが謝ることじゃないよ。大丈夫」
いずくんに優しく頭を撫でられて、少し安心します。薬も効いてきたのか、体調も多少マシになってきました。本当にこの体はどうしようもないですね、忌々しい。
こうして休んだ後どうにか雄英までたどり着き、今度は校門前に群がるマスコミをどうしようか悩んでいました。
「うわぁ……」
なんですかあれ、凄い邪魔なんですけど。近づきたくないです……。
ちらりといずくんを見ると、一度深呼吸をした後覚悟を決めたように私の手を強く握ります。
「行こう、ゆめちゃん」
私の手を引きながらマスコミの群れに近づいていきます。向こうもこちらに気づいたようで、一斉に視線やらカメラやらマイクやらが向けられました。
「オールマイトの授業は──」
「あの! すみません! 僕たち急いでるので!」
いずくんは私を隠すようにマスコミを遮って、そそくさと校門をくぐります。さすがに中までは入ってこないようです。
なんか凄い頼もしかったですね。かっこいいですよ、いずくん。
「ありがとうございます。今日は厄日です」
「あはは……。大変だったね」
朝から疲れました。今日はもう帰ってもいいですか、ダメですよね、分かってますよ。めんどうくさい。
こうして学校に辿り着き、保健室の看護教諭であるリカバリーガール──おばあさんですが──に治癒してもらい、いずくんの怪我はほぼ完治しました。大した〝個性〟ですが、治すのに対象者の体力を消費してしまうのが唯一の欠点だと言えます。いえ、あと〝個性〟の発動条件も欠点かもしれません。
「いやはや、治ったのは結構ですが。あの光景はなかなか言葉にしにくいものがありますね」
「はは、僕はもう慣れたかな……」
どこか遠い目をするいずくん。そんなものに慣れないでほしいものです。いろんな意味で。ええ本当に。
私の心情はさておき。用事も済んだので教室に向かい、クラスメイトに挨拶をして時間を潰します。
「デクくん、夢望ちゃん、おはよう! 怪我治してもらったんだね、良かったぁ」
「お、おはよう。麗日さん」
「おはようございます」
麗日さんも来て、とてもいい笑顔で挨拶されました。朝から元気ですねぇ、この人は。
その後は芦戸さんが寄ってきたので軽く雑談をしていましたが、そろそろ時間ということで全員自分の席で先生が来るのを待ちます。
「おはよう。昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績見させてもらった」
先生は時間ピッタリに教室に姿を現し、昨日の戦闘訓練に関して爆豪さんといずくんに小言と励まし? の言葉をかけていました。
「さて、HRの本題だ。急で悪いが──今日は君らに学級委員長を決めてもらう」
変に勿体ぶったせいで一瞬クラス内に緊張が走りました。ですが、学級委員長という言葉を聞いた途端にクラスがざわめき、皆して自分がやりたいと主張していました。なぜ……?
「委員長、やりたいです! それ俺!」
「俺も!」
「ウチもやりたいっス」
「僕のためにあるヤツ☆」
「リーダー! やるやるー!」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!」
「俺にやらせろー! 俺にー!!」
うるさい……頭痛い……。そんな一斉に騒がないでください。
「ふぅー……」
本当にまったく、なんで私は……。
やめです。しかし、中学時代はそんな人気のあるものではなかったはずですが、何が皆さんをそんなに駆り立てているのでしょうか。謎です。いずくんも控えめに手上げてますし。
片手で頭を押さえながら様子を窺っていると、私の前に座っている飯田さんが突然立ち上がります。
「静粛にしたまえ! 他をけん引する責任重大な仕事だぞ……! やりたい者がやれるものではないだろう!!」
リーダーを決めるのであれば投票で決めるべきだという、まぁ真っ当な意見を主張していました。当人もやりたさのあまり手を上げたまま震えていましたが。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそ、ここで複数票を取った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!?」
蛙吹さんと切島さんのツッコミに反論する飯田さんですが。私が思うに、ほぼ全員が立候補者という状況で多数決が機能するかは疑問です。はっきり言うのであればしないでしょう。もうじゃんけんでもすればいいのに。
先生的には時間内に決めればいいらしいので、結局投票で決めることになりました。今回も結局飯田さんが仕切ってますし、もうあなたがやればいいんじゃないですかね。
「僕、4票──!!!?」
さて、結論から述べるのであれば。委員長はいずくんで副委員長は八百万さんになりました。いずくんに入れた2人は誰でしょうか、消去法で考えると麗日さんと飯田さん? なんで自分に入れなかったんですかねこの人。まぁいいです。
教壇に立ったいずくんは見るからに緊張していて、本当に大丈夫なのか非常に心配になります。どのみち私が入れなくてもいずくんが当選なので、まぁ頑張ってくださいとしか言えませんが。
そうして午前の授業が終わってお昼休み。いつも通りいずくんと食堂に行こうとすると、爆豪さんに声をかけられました。
「泡沫、話がある」
「今じゃないとダメですか?」
「ああ」
なら仕方がありません。いずくんたちに一言言って、爆豪さんと食堂に向かいました。
頼んだ昼食を受け取って2人で食堂の隅に移動し、向かい合って座ります
「それで、話ってなんですか?」
「てめェ、デクの〝個性〟についてどこまで知ってんだ」
ああその話かと、飲んでいた味噌汁をトレーに置き、どうしようかと思案します。隠し事をされている部分には触れなくてもいいですよね。ざっくり伝えれば十分でしょう。
「なんでも今まで発現せずに眠っていたそうですよ。体を鍛えて使えるようになったとか」
「ハッ、なんだそりゃ。昨日の話と違うじゃねぇか」
苛立ちながら吐き捨てる爆豪さん。昨日の話と違う? 何を言われたんでしょうか、気になりますね。
「なんて言われたんです?」
「人から授かった〝個性〟だとかなんとか、ふざけた事抜かしやがったんだよアイツは。──クソが、どこまで人をコケにすりゃ気が済むんだ」
早くも苛立ちが限界を超えそうになっています、相変わらず沸点が低いです。
いえ、そんな事はどうでもいいです。今なんて言いました? 人から授かった? なんですそれは。
嘘──という線はないでしょう。そんな嘘をつく理由が爆豪さんにもいずくんにもありません。となるとこれが私への隠し事の内容、と考えるのが妥当です。八木さん、でしょうね。それ以外に候補がいません。
……どうしましょうか。問い詰めますか? 吐かせようとすればすぐでしょうが、無理やりというのも……。でも、爆豪さんには言ったんですよね。私には言ってくれなかったのに。──ああ、やっぱり嫌ですね。気分が良くないです。
1人でグルグルと思考している間に爆豪さんは食べ終わったのでしょう。ガタンと乱暴に立ち上がり、苛立ちを隠さずに歩いてそのまま去って行きました。
「……やめです。とりあえず私も食べましょう」
味噌汁を飲み干して漬けマグロ丼を食べ始めます。ふむ、美味しいですねこれ。やたらとメニューが豊富な割にクオリティは高いです。しかも安い。いいですね、次はサーモンかマグロユッケにでもしましょうか。
そんな事を考えながら食べ進めていると突然、警報が鳴り響きました。
『セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。繰り返します──』
機械音声によるアナウンス。何事です?
食堂に居た誰もが困惑し、やがて我先にと出入口へ向かっていきます。あれだけの人数が一斉に動けばどうなるか、当然詰まって大惨事です。
「あーあ、どうするんですかあれ」
出入り口付近は押し合いへし合いのパニック状態、これはもう止められません。精々踏まれて死ぬ人が出ないよう祈りましょう。いずくんが巻き込まれていないといいのですが。
奥の席に座っていたので結果的に助かりました。あれに巻き込まれていたら物理的にも精神的にも死にかねません。
できる事もないので後ろから静観していると、集団の中から1人宙に浮きました。飯田さんです。恐らく麗日さんの〝個性〟で浮いたであろう彼はその状態で〝個性〟を使い、縦回転しながら出入り口の壁に衝突します。
「皆さん、大丈ー夫!!! ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません。大丈夫!!! ここは雄英! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!!」
飯田さんの言葉にパニックを起こしていた集団は落ち着きを取り戻していきます。飯田さん、凄いですね。言葉だけでこの混乱を収めてしまいました。
その後は警察も到着し、騒動は一段落。午後は残りの委員決めを行うことになりました。めんどうなのでできれば何もしたくないんですがね。
「ほら委員長、始めて」
「でっでは他の委員決めを執り行って参ります! ……けど、その前にいいですか!」
八百万さんに促されて司会進行を始めたいずくんですが、やはりガチガチに緊張していて心配になります。ほんとなんで立候補したんでしょうか。
「委員長はやっぱり、飯田君がいいと思います!」
おや、いきなりです。
「あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は、飯田君がやるのが
「俺はそれでもいいぜ! 飯田、食堂で超活躍したしな」
「ああ! それに非常口の標識みたいになってたよな」
いずくんの言葉に切島さんと上鳴さんが同調し、だんだんと見慣れつつある──これに慣れるのもどうかと思いますが──寝袋に入ったまま床に転がっていた先生が、時間がもったいないからさっさと進めろと苦情を入れます。
「委員長の指名ならば仕方あるまい! 以後はこの飯田天哉が、委員長の責務を全力で果たすことを約束します!」
そう言って立ち上がった飯田さん。指名を受けた当人は乗り気ですし、周囲も特に反対はありません。どちらかと言えば好意的と言えるでしょう。唯一八百万さんは若干不満げでしたが。まぁそうでしょうね。
「任せたぜ、非常口!」
「非常口飯田! しっかりやれよ!」
切島さんと上鳴さんに囃し立てられながらいずくんと交代した飯田さん。その後は八百万さんと共に手際よく話を進め、特にトラブルもなく委員決めは終了しました。皆さんやる気があって実にありがたいことです。おかげで私は何もせずにすみました。
──飯田さんがやるのが正しい、ですか。言いたい事は理解できます。確かに飯田さんにとってまとめ役は適職、相応しい役割なんでしょうね。そしてやる気なしの私は職なしと、実に結構なことです。
こうして本日の授業も終了し放課後、私は職員室を訪れていました。
「──という訳で、訓練場なりなんなりを使いたいのですが」
「それは構わないが、なんで緑谷じゃなくおまえが頼みに来るんだ」
非合理だとぼやく先生。
いずくんの〝個性〟制御に関して、いい加減何かしら手を打つ必要があります。そのための場所を借りようとこうして足を運んだ訳ですが、肝心のいずくんはいません。
「用事? があるそうです。そんなにかからないとは言っていましたが」
「そうか、悪いが今日は無理だ。……明後日、木曜の放課後なら枠がある。俺が見るがそれでいいな?」
「はい」
分かったと、モニターに視線を戻した先生はキーボードで何かを打ち込んでいきます。
「予約は入れておいた。用件はこれだけか?」
「はい。ありがとうございます」
「ならさっさと帰宅しろ。……気をつけてな」
「はい。それでは失礼します」
礼をして職員室から出ます。職員室内で奇怪な格好をした大人たちが並んで仕事をしている姿はなかなかにシュールですが、まぁそれはいいでしょう。いずくんなら誰がどれか分かるのでしょうが、私にはさっぱりです。
さていずくんの方はどうなったかとスマホを開くと、メッセージが届いていました。
[こっちは終わったけどどうだった?]
[木曜日に見てくれるそうです。相澤先生が]
[分かった。ありがとうゆめちゃん]
[いえ。下駄箱でいいですか?]
[うん]
やり取りを終え、昇降口に向かっていきます。わざわざ律義に待っていたらしい麗日さんと飯田さんと一緒に、今日も4人で帰ることになりました。
早くも慣れつつあるこの状況。雑談に相槌を打ちながらもふと、昼間の一件が頭をよぎりました。
どうしてマスコミが雄英の敷地内に侵入できたのか。その原因を知ったのは翌日のことです。
少しずつ伸びてとても嬉しいです。ありがとうございます。
前回書き忘れたので夢望のコスチュームについて。
夢望は聴覚と触覚の過敏を抱えているため、衣装も触覚過敏対策で細かく要望を出しています。
白基調のモノトーンのロングワンピース
ゆったりとしたシルエットで体勢や体型を隠す。
袖は手が隠れる長さのワイドスリーブ型。袖口にリボンがあり縛れば手を出せる。
黒基調のオーバーサイズ前開きフードパーカー
こちらもゆったりした印象。
フードで顔を隠したりはできるが特にギミックはなし。
厚底ブーツ
高耐久の実用的なブーツ。ついでに身長も誤魔化せる。
シュシュ
髪をまとめる為のごく普通の黒色のシュシュ。