昼食を食べ終え午後の授業。
本日もヒーロー基礎学の時間がやってきました。今日はなんでしょうね、とりあえずいずくんが怪我しなければなんでもいいですけど。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
いつも通り時間ピッタリに入ってきた先生。なったということは本来の予定とは違うのでしょうか。
「ハーイ! 今日は何するんですか?」
「災害水難なんでもござれ、
無駄に元気に手を上げて質問する瀬呂さんと、RESCUEと書かれたプレートを見せつけながら答える先生。前回も思いましたがそれいります?
先生の言葉に今回も大変そうだのヒーローの本分だのとクラスがにわかにざわつきますが、戦闘訓練の時と比べると随分静かです。毎回これぐらいだと頭に響かなくていいですね。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗って行く」
以上準備開始、と相澤先生はリモコンを押して壁のロッカーを引き出し、教室からさっさと退出しました。リモコン操作なら前回のオールマイトはリモコン隠し持ってたんですかね。
各々着替えを終え、指定場所へと移動します。いずくんのコスチュームは使える状態ではないのでサポート会社送りになりました。一度きりの出番で終わってしまいましたね、引子おばさんのお手製コス。
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順で二列に並ぼう!」
ホイッスルを吹きつつ元気に仕切っている飯田さん。やる気があって大変結構ですが、もっと緩くていいですよ私的には。堅苦しいのは苦手です。
こうしてバスに乗り込んだ私たちですが、
「こういうタイプだった! くそう!!!」
「意味なかったなー」
「そういうこともあります」
一般的なバスの席ではなく、電車のような長椅子タイプだったので無意味でした。
項垂れながら悔しがる飯田さんを芦戸さんが茶化すのを端の席──隣はいずくんで完璧な位置です──で眺めていると、いずくんの隣に座っていた蛙吹さんが口を開きます。
「私、思った事はなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
突然話しかけられてキョドるいずくん。相変わらずで安心感すらあります。
「あなたの〝個性〟、オールマイトに似てる」
「え!? そ、そそうかな!? いやでもあの僕はその──」
蛙吹さんの言葉にいずくんはあまりにも露骨に動揺しています。オールマイトに似ている、ですか。まぁ確かにパワーだけならそういう見方もできなくもないですが。
しかしなんでそんなに動揺しているんでしょうね? ねぇいずくん?
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねえぞ、似て非なるアレだぜ。しっかし増強型のシンプルな〝個性〟はいいな! 派手で出来る事が多い!」
肩にもたれ掛かりながらいずくんの顔を見ていると切島さんが反応し、各々の〝個性〟の話へと移っていきます。
「おれの硬化は対人じゃ強えけど如何せん地味なんだよなあ」
「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」
切島さんの言葉にいずくんがそんな事ないと褒めたり、青山さんの言葉にお腹を壊すのは良くないと芦戸さんがツッコんだり。青山さんのその自信と自己肯定感はどこから来ているのでしょうか。
「派手で強えと言ったらやっぱ爆豪と轟、後は泡沫だな」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
蛙吹さんに言われて身を乗り出しながらキレる爆豪さん。あなた本当そういうところですよ。隣の耳郎さんも迷惑そうにしています。
「泡沫はアイドル路線もいけそうだよね! 髪も眼も綺麗だし、なんか幻想的な雰囲気だし」
「確かに! もっとかわいい格好したら似合いそうじゃね!? 髪もちゃんと整えてさ」
芦戸さんの言葉に上鳴さんが同意します。綺麗、綺麗ですか。……確かに、見た目はいいんでしょうね。
私は、私が好きではありません。容姿も、性格も、何もかも。どんなに否定しても、私はあの人の……あの人と同じ……。
「……ッ」
「あれ? もしかして嫌だった? ごめん、泡沫」
「おお、なんかわりぃ」
「いえ。なんでも、ないです」
悪気があったわけでもないのに、俯く私に2人は謝ってくれて。いずくんはそっと私の手を握ってくれました。場の空気を悪くしてしまいましたね。
その後は上鳴さんが爆豪さんをクソを下水で煮込んだような性格、などという不名誉極まりない評価をしたり。それにキレた爆豪さんが噛み付いたり飯田さんに注意されたりしていましたが、最後は先生の一喝によって一瞬にして鎮火されました。躾けられた犬か何かでしょうか。
そんなこんなありつつも目的地に到着した私たちはバスを降り、これまた巨大なドーム状の施設の中に入っていきます。ほんと広いですねこの学校。
「すっげー! USJかよ!?」
入って早々目に入ったのは倒壊したビル群や山岳地帯、巨大な池とこれまた巨大なウォータースライダーのような何か。テーマパークさながらの様子に皆さんもざわついています。
「あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場。その名も
えぇ……完全に悪乗りの命名ですねこれは。
いきなり出オチをかました宇宙服のようなコスチュームを着た教師。昨日の職員室にもいましたねこの人。スペースヒーロー13号、麗日さんが好きなヒーローだそうです。
先生は13号さんに近づいて何かを話した後、こちらに向き直ります。そういえばオールマイトがいませんね。
「えー始める前にお小言を一つ二つ、三つ……四つ──」
多いですね。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の〝個性〟はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その〝個性〟でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう〝個性〟がいるでしょう」
そう切り出した13号先生は社会の危うさと個人の持つ力の危険性について語り、
「──君たちの力は人を傷つけるためでなく、救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」
そう締めくくりました。
13号先生の言葉にざわつき、拍手と喝采が送られます。本当にノリがいいですね皆さん。──人を救けるためにある、ですか。
「そんじゃあまずは──」
先生が何かを言いかけたその時、USJの中央広場に異変が起きます。空中に突然現れた黒いシミのような何かは瞬く間に範囲を広げ、中から数十人の人が出てきました。
「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ!!」
真っ先に反応したのは先生。
「なんだありゃ!? また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」
「動くな。あれは
状況を把握できていない切島さんがのんきなことを言っていますが、これマズいですね。雄英内に
クラスの皆さんが各々の反応を見せる中、前に出た先生は13号先生や上鳴さんに指示を飛ばして心配するいずくんに問題ないと返し、果敢に飛び出して行きました。
出入り口と中央広場を繋ぐ大階段を飛び降り、先生は流れるように3人の敵を片付けて戦闘へと突入します。本当にあの数を相手するつもりのようです。
「おらさっさと行くぞ」
「うわちょっ、爆豪さん」
背後から近づいてきた爆豪さんに腕を掴まれ引っ張られていきます。いずくんはまだのんきに眺めていますが、こっちは飯田さんが対応しました。
「なんです? 心配でもしてくれたんですか?」
「ちげーわボケ黙れ」
からかうように問いかけるも帰ってくるのは罵倒だけ。相変わらず素直じゃないし口が悪いです。まぁいいでしょう、いつものことです。
13号先生を先頭に出口へと走っていきますが、残念ながらそう都合よくは逃げられません。私たちに立ち塞がるように黒いシミ、モヤのようなものが現れます。
「初めまして、我々は
ご丁寧に自己紹介と目的を明かしたモヤの敵。オールマイトの殺害、その突拍子もない目的に誰もが困惑し、目の前の脅威に足を止めています。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ。ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ……それとは関係なく私の役目は──」
悠長に喋り続ける敵に痺れを切らしたのか、私の腕を掴んでいた爆豪さんと切島さんが飛び出していきました。
「その前に俺たちにやられるとは考えなかったか!?」
爆破の直撃を受けたモヤの敵ですが、煙が晴れて出てきた相手は無傷。物理は効かないと思った方がいいでしょうか。
「危ない危ない。そう、生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだ、退きなさい2人とも!」
「散らして、嬲り殺す!」
13号先生が声を上げるもすでに手遅れ。結果的に2人は13号先生の射線を塞ぐ形となり、モヤが私たちを覆うように広がっていきます。
「ゆめちゃん!」
モヤの先から聞こえるいずくんの叫び。咄嗟に光の足場で防御しますが、敵の〝個性〟は恐らくワープの類。飛ばされる先によっては詰みですね。いずくんと離れてしまったのが痛いです。
真っ黒に染まった視界が晴れた次の瞬間、
「子ども1人に情けねぇな。しっかりしろよ、大人だろ?」
私が見たのは、敵を氷漬けにした轟さんの姿でした。全員制圧しましたかね。
「仕事が早いですね。戦闘訓練の時も思いましたが手馴れています」
「おまえも居たのか。危ねぇから下がってろ」
足場を消した私を一瞥し、轟さんは氷漬けにした敵たちに向き直ります。直後に潜んでいた敵が2人、武器を手に襲いかかってきました。まだいましたか。
「なっ……」
「大丈夫ですよ。この程度であれば脅威ではありません」
再び光の足場で防御。そのまま2人まとめて囀りを浴びせて気絶させます。少々威力が過剰だったでしょうか、まぁいいです。
それを見た轟さんは凍らせた敵の1人に近づき、冷気を放出しながら右手を相手の顔面にかざします。
「なぁ、このままじゃあんたらじわじわと体が壊死していく訳なんだが。俺もヒーロー志望、そんな酷えことは
尋問、ですか。情報を引き出そうという考えでしょう。……時間が惜しいですね。
周囲を見渡す限りこの場には私と轟さんだけ。眼下には土砂に呑まれた建物が見えます、土砂崩れ想定の訓練場でしょうか。
「私は先に行きますよ」
「なっ、おい待て。訓練じゃねえんだ、危ねぇぞ」
箒に腰掛けながら声をかけると、存外慌てた様子でこっちを見ました。人の心配とかするんですね。正直ちょっと意外です。
「大丈夫ですよ。無茶をする気はありません」
そう返して高度を上げていきます。私たちがUSJ内に飛ばされたということは残りのメンバーもそうでしょう。いずくんと麗日さんに芦戸さん、爆豪さんはまぁ、自分でなんとかするでしょう。
「さて、どう動きましょうか」
中央に移動しつつ周囲を見渡していると池、水難エリアで巨大な水柱が上がりました。敵か、或いは。
「いずくん……」
目を凝らして見てみると、水柱の付近に人影が飛んでいます。いずくんと蛙吹さん、にもう1人いるように見えます。とりあえずは無事のようですね、良かったです。
着水した3人は中央広場に近づくように移動を始めました。私もそちらに近づく形で飛んでいると、真下では先生が戦闘を継続中です。こちらもまだ無事のようですね。
「気付かれてませんね。──加勢しましょうか」
先生をフリーにできればその方が楽でしょう。足元に光の足場を描き、箒を消します。これはリソースを喰い過ぎるのでよくありません。
悪趣味な手のアクセサリーを全身に付けた敵が先生に攻撃を仕掛け、先生が距離を取ったタイミング。
「ここですね」
小鳥の囀り。周囲に描いた8つの光球が光を放ち、広場にいる敵たちに砲撃を加えていきます。些か過剰なほどにぶっ放した結果地面は抉られ、殆どの敵を戦闘不能にすることができました。
「泡沫! 逃げろォ!!!」
先生の必死な叫び声。囀りの砲撃を受けても倒れなかった2人の敵、脳みそがむき出しの巨漢と手だらけ男。
手だらけの方と目があった気がして、その時ふと轟さんの言葉が脳裏をよぎります。
──あのオールマイトを殺れるっつう根拠、策ってなんだ?
次の瞬間。私が辛うじて認識できたのは、眼前に迫る真っ黒な拳だけでした。
「あ、ああ……!」
「そん、な……」
「お、おい。嘘だろ……」
水難ゾーン。連携によって
上から降り注ぐ数多の光、倒れ伏す敵たち、相澤の叫び。そして、剥き出しの脳みそと黒い肌が特徴的な巨漢の敵が泡沫を叩き落とす瞬間を。
「ゆ、めちゃ──」
言葉が出ない。何が起きたか理解できない。否、理解したくない。緑谷はまるで幽鬼のようにフラフラと岸に上がろうとして、我に返った蛙吹によって取り押さえられた。
「駄目よ、緑谷ちゃん、行っては駄目……!」
蛙吹の視線の先にいるのは、広場で狂ったように嗤う手だらけ
致命傷だ、助からない。
「ハハ──アハハハハハ! おい、見たか!
楽しげに、愉快そうに、手の形をしたマスク越しに狂気を感じさせる笑みを見せる手だらけ男。
「あんな必死に守ろうとしたおまえの大事な生徒がさぁ、こんなあっけなく死んじまったよ! なぁおい、今どんな気分なんだ!? 教えてくれよ!」
「ッ──!」
忌々しげに睨みつける相澤だが、動くことはできない。抹消は発動していた。あの巨漢の敵はあの瞬間、間違いなく〝個性〟を使えない状態だった。にも拘らずあれだけの高さの跳躍を行い、腕を雑に振っただけで泡沫の防御を粉砕し地面に叩きつけた。
(つまりは、素の身体能力であれってことだ。冗談じゃない──!)
下手をすればオールマイトに匹敵するかもしれない純粋な身体スペックの暴力。その事実が相澤から行動の選択肢を奪う。
(どうする、どうすればいい!? どうすれば──)
泡沫にまだ息はあるのか、あったとして救けられるのか。コイツを放置すれば自分を含めこの場にいる全員が殺されてしまう。だが対抗手段がない。
思考が空転し、焦りだけが積み重なっていく。そんな相澤の姿を、手だらけ男はどこか興醒めしたように眺めていた。
「おいおい無視かよ。──あっ?」
ふと視界の端、血だまりの中に沈んでいたはずのガキがもぞもぞと無様に呻いている。それに気づいた手だらけ男はそちらに視線を向け、
「んだよ、まだ生きてるのか。脳無、今度こそちゃんと殺して来い」
傍らに佇む巨漢、脳無にそう命じた。指令を受けた脳無は一度軽く跳んだだけで泡沫のすぐそばに着地し、緩慢な動きで一歩ずつ近づいていく。
無駄と理解しつつも抹消を発動させる相澤だが、その歩みを止めることはできない。守らなければならない生徒に死が近づいていくのをただ見続けることしかできなかった。
「止めッ──!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」
絶叫。次いで衝撃波が相澤と手だらけ男を襲い、
絶叫の主、緑谷が蛙吹を振り切って全力で〝個性〟を発動させたのだ。左足を粉砕して跳躍した彼は瞬きより早く脳無の下に到達し、今まさに幼馴染の命を奪わんとする敵に渾身の拳を打ち放った。
「スマァァァァアアアッシュ!!!!!」
二度目の衝撃波。吹き飛ばされないよう踏ん張りながらも驚愕の眼差しを向ける2人だが、直後に目にした光景に相澤と緑谷の表情が絶望に染まる。
右腕と左足が砕けた緑谷は地に伏しながら、脳無を見上げて声を漏らした。
「そんな……うそ、だ……」
緑谷の放ったスマッシュは確かに脳無を捉え、しかし一切のダメージを与えることはできなかった。殺しても構わない、そんな覚悟と右腕を犠牲に放った全力を受けてなお脳無はその場で悠然と立っている。まるで何事もなかったかのように。
「ハハッ、凄い威力だな。──でも残念、
手だらけ男のその言葉に相澤はハッとする。今の発言がもし〝個性〟に由来する力ならば、自分が目を閉じなければあるいは。そんなもしもが脳裏をよぎるが、全ては後の祭りだった。
「でもまぁ、努力賞だ。その無意味な蛮勇を讃えて、お前から殺してやるよ。脳無」
手だらけ男の言葉に呼応して脳無は緑谷に向き直り、片腕を振り上げる。思わず駆け出した相澤だが、何もかもが遅く、そして無力だった。
「──死ね」
まき散らされる血と肉片。囁くような、それでいてその場にいた3人の耳に確かに届いた少女の声。
「は──?」
その言葉は誰のものだったのか。爆散した際に吹き飛ばされた脳無の頭が広場にあった噴水の中に落ち、脳無が立っていたその場所に居たのは──死にかけていたはずの泡沫だった。
脳無の拳が直撃した左腕は折れて垂れ下がり、モノトーンのコスチュームも、ぼさつきながらも綺麗だった髪や色白の肌も、脳無の返り血と自身の出血で真っ赤に染まっている。
「ゆめ、ちゃ──」
言葉が出ない。今度こそ、何が起きたのか緑谷は理解できなかった。大切な幼馴染が殺されそうになって、救けようとしたけど失敗して、気付けばその幼馴染が人殺しをしていた。緑谷の精神は既に限界だった。
緑谷の声に反応するように一瞬だけ視線を向ける。次いで手だらけ男の方を見ると、泡沫は脳無の胴体に触れていた右手を男に向けた。
「次──」
その瞬間、泡沫の右手から巨大な光球が現れ、化物の絶叫のような音と共に光を放つ。手だらけ男の全身を飲み込んで余りある巨大な光線が届く寸前で、男の前に黒いモヤがあふれ出した。
「──ッグゥ!」
「黒霧!?」
間一髪、手だらけ男と光線の間に割り込んだモヤの敵、黒霧はすぐ横に出口を作り光線を逸らした。狙いも何も考えず逸らされたその光は、大階段を駆け上がるように上に逸れていく。
「うおっ!?」
逸らされた光は大階段の上から広場を覗いていた人物の1人、瀬呂の頭を掠めるように通り過ぎ、最後はUSJの壁に大穴を開けて消滅した。
「大丈夫か!?」
「し、死ぬかと思った……」
瀬呂と同様に黒霧の攻撃を回避し、大階段上に残っていた障子が駆け寄っていく。瀬呂が被っていたヘルメットのバイザーは光が掠めたことによって消し飛んでおり、もし後一瞬身体を逸らすのが遅れていたらどうなっていたかと肝を冷やしていた。
「うた、かた……?」
何事かと、黒霧にやられた13号に付き添っていた芦戸は下を覗き見る。そこで目にしたものは、まるで巨大なスプーンで抉り取ったかのように崩壊した大階段とその下、血で赤く染まった床と倒れ伏す緑谷、そして泡沫の姿だった。
「死柄木弔、ご無事ですか……」
「ああ、助かったよ黒霧」
満身創痍という状態でも手だらけ男、死柄木の身を案じる黒霧。死柄木は命を救われた礼もそこそこに、自分を殺そうとした死に体の少女を見やる。
「クソ、なんだ今のは。どう見たって死にかけのガキのどこにあんな力があるんだ」
先ほどまでの愉快そうな様子からは一変し、首をガリガリと掻きながら泡沫を睨みつけた。その様子を見ながらも、申し訳なさそうに黒霧が口を開く。
「死柄木弔。申し上げにくいのですが、13号を戦闘不能にはしたものの生徒を1人取り逃しました。どうかここは一度撤退を」
「──は? おま、おまえ! 何をやってるんだ!? クソ、クソクソクソ! どいつもこいつも役立たず共が!! どうして思い通りにならない!? 脳無! さっさと起きろ、脳無!!!」
黒霧の言葉に癇癪を起こして喚き散らし、死柄木はさらに激しく首を搔きむしった。その間に緑谷と泡沫の下まで駆け寄った相澤は信じられない光景を目にする。
「なっ!?」
噴水から脳無が顔を出す。噴水の縁に両手をかけ、這い出るように姿を現した脳無は失った下半身をあっという間に再生させ、再び立ち上がった。頭だけの状態から完全に体を復元して見せたのだ。
「そ、そんな……」
「再生……いや、これはそんなレベルじゃ──!」
緑谷と相澤の表情が再び絶望に染まる。それを見て多少なりとも溜飲が下がったのか、癇癪を収めた死柄木は脳無と黒霧を両脇に控えさせながら芝居がかった口調で話し始めた。
「そういや紹介がまだだったな、イレイザーヘッド。コイツは対平和の象徴、改人脳無。ま、そんな死にかけのガキ1人に壊されかけるとは思わなかったけどな」
まるで玩具を自慢するかのように。邪悪な笑みを浮かべて死柄木は続ける。
「今回は失敗だ。だがこのままじゃ帰れない。だからせめて、平和の象徴の矜持を少しでも──」
その言葉が続けられることはなかった。何故なら、
「DETROITOOO SMAAAAASH!!!」
オールマイトが来た。その声に即座に反応したのは2人、相澤は今度は失敗しないと抹消を発動させ、死柄木は脳無に命令を下す。
即座に前に出た脳無にオールマイトの拳が叩き込まれ、山岳ゾーンの岩壁に突き刺さった。
「オールマイト!」
「すまない、遅くなった!」
「オールマイト、駄目です! 追撃を、俺が消している間に早く!」
感極まった緑谷の声とオールマイトの謝罪。そこに相澤が焦りを見せる。即座に意図を察したオールマイトは脳無の下に跳躍し、先ほどの攻撃以降立ったまま沈黙していた泡沫の身体が揺れる。
「ッ、ゆめちゃん!」
崩れ落ちるように倒れる泡沫に向かって折れていない右足と左腕を使って跳ね、緑谷は体を滑り込ませる。
「アグッ!」
痛みに呻きながらも、頭を強打するのは回避できたと安堵した。
「ショック吸収が──!」
「チッ。邪魔だ、イレイザーヘッド!」
しかし落ち着く暇などありはしない。殴り飛ばされた脳無の異常を理解し、元凶を排除しようと死柄木が駆け出す。その背後から、1人の少年が襲いかかった。
「
「──ッ!」
回転しながら突っ込んできた爆豪が放つ特大爆破。寸でのところで回避した死柄木は大きく吹き飛ばされながらも、外見に似合わぬ身のこなしで体勢を立て直して着地した。
「アァ!? 今度は氷……!?」
そこに襲いかかるのは轟の氷結。死柄木を飲み込んだかに思えた氷塊はバラバラに崩れ去り、3人が再び仕掛けようとしたその時、天井を突き破って吹き飛ばされる脳無の姿を見る。
「ッ、ゲームオーバーか。黒霧!」
死柄木の身体をモヤが覆い、飲み込んでいく。奇しくも爆破の煙と氷によって相澤の視線が通らなくなっていた。
「逃がさん!」
「今度は殺すぞ、オールマイト……!」
脳無を撃破し、即座に踵を返して戻ってきたオールマイトだが僅かに遅い。その拳が届くよりも早く、死柄木と黒霧は姿を消した。
「く、逃がしたか!」
「オールマイト、こっちに! 泡沫を……!」
悔しさをにじませるも相澤の言葉に駆け寄っていく。
「これは……」
「できうる限りの止血はしました。お願いします」
悲痛さを感じさせる相澤の声。泡沫の姿を改めて確認し、オールマイトは言葉に詰まった。一目で致命傷だと理解できる状態。しかしすぐに笑みを浮かべると、泡沫を抱え上げて緑谷に視線を向ける。
脳無を撃破し死柄木たちは撤退したものの、USJ内にはまだ
「オール、マイト……」
「大丈夫だ、緑谷少年! 必ず救ける!」
懇願するようにオールマイトの名を呼ぶ緑谷にそう告げ、オールマイトは泡沫が開けた大穴を通って外に飛び出していく。
眼下でUSJに向かっていく教師陣の姿を見つけ、向こうはもう大丈夫だと確信したオールマイトは自分の選択が誤りではなかったとそう信じた。後はもうやるだけだ。
「泡沫少女! 頼む、頑張ってくれ! 緑谷少年を、相澤くんを、皆を悲しませないでやってくれ! 必ず救ける!! だから、もう少しだけ耐えてくれ!!!」
冷たくなっていく体温、弱くなっていく鼓動。今まさに失われようとしている命に懸命に呼びかける。
早く、早くと焦りながらオールマイトは病院へ向けて跳んだのだった。
ヒロアカのオリ主、USJで酷い目に遭いがち。脳無が序盤に出ていい強さじゃないのが悪い。
相澤先生とオールマイトが軽傷なので状況は原作よりいいです。(その場にいたメンバーの精神ダメージに目を瞑りながら)
脳無の爆散について。
夢望は個性発動に使っているエネルギーを物体に直接流すと対象が内側から爆散します。入試で0Pに使ったのもこれです。