奇跡の魔法は何も起こさない   作:葉洩 陽透

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何も起きない素敵な魔法

少年:先攻・ターン2

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』

シールド:5

マナ:0(2)

手札:3

 

セイア:後攻・ターン2

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『盾の老魔術師ヒスラー』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:0(2)

手札:2

 

 まだ俺のターンである。

 

「『魔術師を敬愛する公爵夫人』でシールドアタックします」

「クッ!?」

 

少年:先攻・ターン2

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』

シールド:5→4

マナ:0(2)

手札:3→4

 

 無視するとは、と言った感じで、扇子を掲げトランプの兵隊達の指揮をとる。トランプの兵隊は駆け足で敵陣に向かい、シールドを破壊。シールドが割れる。こうやって、相手が無視しているのを良いことに、少しずつ嫌がらせをするのが、ゲームのコツらしい。知らんが。誘拐前に友達と会話した時の記憶。

 

 さっきまで時間稼ぎがどうこう言ってただろ、と思われる方。仕方ないんだ。これは俺の問題だ。

 もし。もしも、地震が来なかった場合、何もせずに死ぬのは嫌だ。前世と同じだ。意味のない死を経験したくない。

 けれど、俺は前世で30年生きた。目の前の少年は今世と同い年くらいだろう。10年しか生きていない。そんな少年の未来を奪って良いのか?

 

 葛藤の中で、悩んでいる中で、プレイする。当然、方針や考え方がどうしてもブレる。将棋やチェスではプレイヤーの精神状態が盤面に出やすいとか話を聞いた。情けない。

 

「ターン……エンド」

「オレのターン! ドロー」

 

少年:先攻・ターン2→3

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』

シールド:4

マナ:0(2)→2

手札:4→5

 

 考えている少年。俺の現状と自分の現状を見比べて精査している。戦力を見誤れば、死へと繋がる。真剣。特に俺は今まで体験したことのない、コスト0の脅威を持っている。少年がそれに気付いているかはわからない。けれど、きっと、大丈夫。何が大丈夫かって? ……なんだろうな? 言っておいて俺もわかんねぇ。

 

「マナをチャージ。そして、『夢炎のトウカ』をセット!」

 

少年:先攻・ターン3

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』→『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:2→3→1(3)

手札:5→4→3

 

『夢炎のトウカ』

分類:コンテナカード

属性:火

性質:火人

コスト:2

スキル:【予知夢】【夢炎の終焉】

 

【予知夢】

トリガー:[ターン終了時]

効果:〈1枚ドローする〉

 

【夢炎の終焉】

トリガー:[このカードが破壊された時]

効果:〈自分の手札を1枚破壊する〉

 

 強スキルで低コストなの来た!

 

 眠そうな枕を持った少女が現れた。パジャマ姿。うとうとしている。可愛い。それでも、炎のオーラが舞っている。臨戦態勢。心なしか俺を睨んでいる。

 

 TCGにおいて手札の枚数は可能性の数だ。

 手札がなければデッキから毎ターンドローするカードをそのまま使うしかない。マナにカードを置くのを含めると、一切行動ができなくなる。そのため、【予知夢】というスキルは強力なのだ。ターン終了時に1枚ドローできるというのは、プレイヤーにとってありがたい。それも2コストで主なデメリットもなさそうだ。

 

 スキル【夢炎の終焉】は聞いたことがないが、効果を見るとデメリットスキルのようだ。

 デメリットスキルとは、所持者に不利益を齎すスキルのこと。強力なスキルを所持するカードに一緒にセットされていることが多い。

 しかし、このままでは俺がコスト2以上のカードを出した時、すぐに破壊され【夢炎の終焉】が発動してしまい、折角の手札ドローの効果が活かされない。

 

 どうするのだろうか?

 

「そして、『イグニス・ストゥディウス』に『炎の盾』をセットする!」

 

少年:先攻・ターン3

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:1(3)→0(3)

手札:3→2

 

『炎の盾』

分類:スキルカード

属性:火

性質:防具

コスト:1

スキル:【ガード】

 

『イグニス・ストゥディウス』

種類:コンテナカード

属性:火

分類:火人

コスト:2

スキル:【追撃】【恩恵】→【追撃】【恩恵】【ガード】

 

 ストゥディウスが一歩前に出て、盾となる。心なしか炎の体が薄く広がっているような気がする。

 

 なるほど、これならすぐに破壊されるということもないだろう。【ガード】持ちは【ガード】持ち以外のカードにアタックできないようなスキル。それをスキルカードとしてコスト2のコンテナカードにセットした。

 手順を見ると、熟練されていた。ずっと前から考えていたパターンなのだろう。つまり、少年はかなりの使い手だ。

 

 今までここで1年間戦ってきたが、可哀想な事に俺より弱い相手ばかりだった。マナに置くのを出し惜しみしたり、かと言って、いたずらに手札からポンポンとカードを使って、手札切れを起こしたり。そして、死んでいった。

 可愛そうだと思っていられるほど、余裕はなかった。客観的になると、無念だっただろうと思う。

 対戦表がどうなっているのか不明だが、少年はここまで勝ち残ってきた猛者だ。他の人の戦闘を見ることはできないので、わからないが、考えて立ち向かってきたのだろう。

 基本、ここでの生活は、独房暮らし。最初は十数人で一緒に同じ檻に入れられていたが、殺したので、今は独り。隙間風がないのに寒く感じる牢屋だ。

 

「そして! 『イグニス・ストゥディウス』で『盾の老魔術師ヒスラー』にアタック!」

 

セイア:後攻・ターン2

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『盾の老魔術師ヒスラー』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:0(2)

手札:2

 

『盾の老魔術師ヒスラー』

種類:コンテナカード

属性:魔

分類:魔術師

コスト:1

スキル:【ガード】【お守り】→【ガード】

 

 コスト2とコスト1の競合。普通ならコスト1のヒスラーが破壊される。スキル【お守り】がなければ。

 スキル【お守り】がアンセットされた。炎を吐く火人。その炎に包まれるヒスラー。しかし、お守りが輝き、炎が消える。お守りは消えた。『イグニス・ストゥディウス』はコスト2なので破壊されない。

 

「続いて! 『火の玉コロガシ』で『盾の老魔術師ヒスラー』にアタック!」

 

 コスト1の『火の玉コロガシ』とコスト1の『盾の老魔術師ヒスラー』との相打ち。

 昆虫から火の玉が出る。ヒスラーへ向かう。ヒスラーも魔法を飛ばす。しかし、炎に包まれ、黒焦げの老人になった。魔法陣が『火の玉コロガシ』の下に現れ、光の柱が立ち上り、コロガシは、消える。ヒスラーの死骸も光の粒子になって、消えた。

 

 破壊とは、その場その場で意味が異なる。

 バトルエリアにあるカードが「破壊」されるとは、墓地に送られることを示す。墓地とは、言葉通り墓地。墓地エリア。セメタリーエリアとも言う。このエリアに配置されると、戦いに直接的な貢献ができなくなる。そう考えて欲しい。墓地にセットされたカードは当然アタックできないし、正規の方法でバトルエリアやマナエリアなどにセットできない。

 今回は『盾の老魔術師ヒスラー』と『老魔術師のお守り』が墓地に送られる。相手の墓地は『火の玉コロガシ』のみが送られる。コンテナカードが破壊されたらセットされたスキルカードはアンセットされて同じようにセメタリーエリアにセットされる。

 

少年:先攻・ターン3

場:『火の玉コロガシ』『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』→『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:0(3)

手札:2

 

セイア:後攻・ターン2

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『盾の老魔術師ヒスラー』『零無の魔人ヌル』→『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:0(2)

手札:2

 

「ターン終了! この時、スキル【予知夢】でカードを1枚ドローする!」

 

少年:先攻・ターン3

場:『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:0(3)

手札:2→3

 

 ターン終了時効果の処理を終え、ターンが俺に渡される。

 

「おr……私のターン、ドローします」

 

 まぁた、お口が悪うございますことよ。家に帰った時に叱られる。うちの家庭教師と両親は厳しいからな。優しいけど怖いのだ。今の内から治しておかないと、普段でも使ってしまうからな。……まぁ、もし帰れたら、の話だが。

 

セイア:後攻・ターン2→3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:0(2)→2

手札:2→3

 

 良いのが出ない。この場にふさわしいカードがない。

 

 俺のデッキはデフォルトのまま。つまり、出産時に母から一緒に生まれたカードのみ。40枚。これを40枚上限のデッキに組んで戦っている。ついでに、出産時に出て来るカード枚数は個々人で違うらしい。

 本来であれば今年10歳の誕生日にデッキの組み方や戦術・戦略の立て方を教えられ、新しいカードや男爵家に伝わるカードを貰う事ができたのだが、それがない。

 お父様、どうして10歳の誕生日なのですか? 基本的なルールは学校で習いますが、どうして家では教えて下さいませんでしたの? 前世のニワカ知識だけでは苦しいですわ。

 

「……マナをチャージ」

 

セイア:後攻・ターン3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:2→3

手札:3→2

 

「スキルカード『グローアの魔力増強薬』を『魔術師を敬愛する公爵夫人』にセット」

 

セイア:後攻・ターン3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:3→0(3)→2(5)

手札:2→1

 

『グローアの魔力増強薬』

分類:スキルカード

属性:魔

性質:魔法薬

コスト:3

スキル:【マナ中補充】

 

『魔術師を敬愛する公爵夫人』

種類:コンテナカード

属性:魔

分類:貴族

コスト:1

スキル:なし→【マナ中補充】

 

【マナ中補充】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈山札上から2枚カードをマナエリアにセットする〉

 

 デメリットと呼べるものがないこのスキルカード。有益。次のターンからコスト5のカードが使えるようになる。

 

 公爵夫人に薬物が投与される。魔力増強薬。プレイヤーのマナが補充されるので、プレイヤーに注射器が刺さるのが正しい気がするが、エフェクトと実体の兼ね合いか? よくわからない。公爵夫人はラリった。

 

「そして、コスト0のスキルカード『何も起きない素敵な魔法』を『零無の魔人ヌル』にセット」

「はぁ!? ヌルは3つスキルが入っている! もうスキルをセットできないはずだ!」

 

 いちいちツッコむな。こっちもわかっている。

 

「スキルカード『何も起きない素敵な魔法』のスキル欄は空欄です」

「はぁ……? ……ホントだ。こんなカード見たことも聞いたこともない。どうして存在してるんだ?」

 

 TCGガントレットの画面を睨む少年。TCGガントレットには、相手がバトルエリアに出したカードの効果を閲覧できる機能がある。驚愕の顔。それもそうだ。スキルカードなのにスキルなしなのだから。

 

セイア:後攻・ターン3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:2(5)

手札:1→0→1

 

『零無の魔人ヌル』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:魔人

コスト:0

スキル:【魔人の気紛れ】【魔人の喜び】【魔人の叫び】

 

『何も起きない素敵な魔法』

分類:スキルカード

属性:魔

性質:魔法

コスト:0

スキル:なし

 

【魔人の気紛れ】

トリガー:[このカードにスキルカードがセットされた時]

効果:〈手札を全てデッキに加え、シャッフルする。その後、1枚ドローする〉

 

「『零無の魔人ヌル』にスキルカードがセットされたので、【魔人の気紛れ】が発動」

 

 さて、せーの! ランダム、ランダムぅ~

 

 自動シャッフルされるデッキ。この瞬間だけがTCGで好きな場面だ。つまり、ガチャ。博打。賭け事。

 

 しかし、考えて使わないといけない。スキル【魔人の気紛れ】は手札が1枚以下の時じゃないと手札が減る。そこは気を付けた。

 シャッフルが終わり、カードが1枚出て来る。

 

「さてと……なるほどね」

 

 手札は1枚なので、行動すると次のターン、何もできなくなる。しかし、ここでガードしないとシールドが0枚になる。よって、出すしかない。

 

「『魔法の盾』を『魔術師を敬愛する公爵夫人』にセット」

 

セイア:後攻・ターン3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:2(5)→1(5)

手札:1→0

 

『魔法の盾』

分類:スキルカード

属性:魔

性質:魔道具

コスト:1

スキル:【魔法の盾】

 

『魔術師を敬愛する公爵夫人』

種類:コンテナカード

属性:魔

分類:貴族

コスト:1

スキル:【マナ中補充】→【マナ中補充】【魔法の盾】【ガード】

 

【魔法の盾】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]

効果:〈このカードにスキル【ガード】がセットされる〉

 

 スキル【魔法の盾】とは、つまるところスキル【ガード】の下位互換。デメリットはスキル欄がもう1つ埋まってしまうこと。なぜにこんなスキルが存在するのか不明。

 どうでもよいが、カードとスキル名が一致した場合、「同名スキル」と言ったりする。

 

「ターン、エンド」

 

 これで耐えてみせる!

 

「オレのターン! ドロー!」

 

 ちらりとドローカードを見る少年。苦い顔をした。しかし、どうも悪いカードを引いたという訳ではなさそうだ。

 

少年:先攻・ターン3→4

場:『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:0(3)→3

手札:3→4

 

「マナをチャージ」

 

少年:先攻・ターン4

場:『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』

シールド:4

マナ:3→4

手札:4→3

 

「そして、マナを4つ消費する!」

 

 マナ消費を一気に行った。大盤振る舞い。

 コスト4以上のカードはゲーム展開を変えるものが多い。コスト4がゲームの節目となる、と言われている。つまり、ここから強力なカードがでてくる。

 

「セット! 疾くと燃え広がれ! 『炎の妖精サラマンダー』!」

 

少年:先攻・ターン4

場:『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』→『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』『炎の妖精サラマンダー』

シールド:4

マナ:4→0(4)

手札:3→2

 

『炎の妖精サラマンダー』

分類:コンテナカード

属性:火

性質:妖精

コスト:4

スキル:【速攻】【連撃】

 

【連撃】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]

効果:〈このカードは、1ターンで2回アタックできる〉

 

 終わった。奇跡が起こらなければ、このターンで終わるだろう。

 俺のシールドは3枚。場には【ガード】持ちが1体。それもコスト1。『夢炎のトウカ』が【ガード】持ちを破壊し、【追撃】持ちの『イグニス・ストゥディウス』がシールドを2枚破壊し、【連撃】持ちの『炎の妖精サラマンダー』がシールド1枚とダイレクトアタックし、少年が勝利する。俺が負ける。

 

 そう、奇跡が起こらなければ……。

 

少年:先攻・ターン4

場:『イグニス・ストゥディウス』『夢炎のトウカ』『炎の妖精サラマンダー』

シールド:4

マナ:0(4)

手札:2

 

セイア:後攻・ターン3

場:『魔術師を敬愛する公爵夫人』『零無の魔人ヌル』

シールド:3

マナ:0(5)

手札:0

 

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