少年:先攻・ターン6
場:『炎の精霊イフリート』
シールド:0
マナ:0(5)
手札:0
『炎の精霊イフリート』
分類:コンテナカード
属性:火
性質:精霊
コスト:7
スキル:【ガード】【連撃】【太古の炎信仰】
【太古の炎信仰】
トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]
効果:〈このカードはスキル効果によって破壊されない〉
セイア:後攻・ターン5
場:『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』
シールド:0
マナ:2(7)
手札:0
初見のスキルである。が、似たようなのは見たことある。スキルでの破壊を無効にするスキルだ。つまり、この場では『死の魔術師グノーシス』のスキル【仇討ち】が発動しても破壊されない、ということだ。倒すにはそのカードのコスト以上のコンテナカードでアタックするという正攻法と、カードを対象にせずスキルをスキル効果の対象にしてスキルを除去する方法が考えられる。どちらも手札にない。
さらに、コストが7。現在、自分のバトルエリアで最大なのは『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』だけ。それもコスト6。
つまり、次のターンが来たら、……終わる。
スキル【ガード】を「セットされたと見なしている」カード『死の魔術師グノーシス』。グノーシス破壊後、スキル【連撃】で、シールドなしのフィールドに何をアタックするかなんて決まっている。そう、プレイヤーだ。ダイレクトアタックだ。
逆転。逆転の逆転だ。
まさか、そう来るとは。これはたまげた。逆転も逆転だ。たぶん最後に引いたのが、『命の灯火』で、それを待っていたのだろう。
このTCG、DDDのマナ上限は7。最大の戦力が今その場にいる。もちろん、特殊な方法で、7より大きいカードを出すことは可能だ。しかし、普通に戦って出せる最大の戦力が、今目の前にいる。
まさしく、炎。
燃えたぎった。溶岩ではない。家屋が燃えている。という訳でもない。
そう、純粋な炎。それが前にいた。綺麗な炎だ。炎が人型になっているような気もするが、熱でうまく見えない。
この炎に抱かれるのなら、死んでもいいかもしれない。そう、思えるほど、純粋だった。
「オレはターンを終了する!」
スキル【速攻】持ちではない。これで【速攻】持ちだったら、脅威だ。いや、今でも充分脅威だが。それでも〝切り札〟と呼べるだろう。少年の〝切り札〟の1つ。
……もう諦めてもいいのではないのだろうか?
生きた所で、意味はない。それで言うと死ぬことにも意味はない。どちらを見出せるかどうかの話。
……どうすべきか。迷う。ここで迷わない人間は「人」と呼べるだろうか?
これは本当に死ぬ以外の選択肢が見つからない。希望の道筋が考えられない。勘も次のターンで終わることを告げている。
そんな絶望。
そう、絶望。
なのに。
「……なんで、笑ってんだよ?」
え?
少年が声を出した。こちらを責めるように、宥めるように、しかし、はっきりと問うた。
俺は頬を触った。確かに口角が上がっている。笑っている。炎を見て、死ぬかもしれない状況で、笑っている。
なぜ?
……。
…………。
わかっている。わかっているんだ。
俺はずっと誤魔化し続けていた。それでも、本当に、俺はどうしようもないほど。
「……楽しいから」
「え……?」
「俺……カードゲームなんて、あまり好きじゃなかった。だけど、ここに来てから、命の賭けをしながら、でも嫌いだって思いながら、でも、そうじゃなかった」
「……」
「やっぱり、というか、一度ハマったもんな」
前世の時に、ニワカ程度だが、ハマったのは事実だ。その後、中学で止めたが、それでもあの頃の気持ちは再燃しやすい。
「俺は、カードゲームが、どうも、好きらしい」
満面の笑みを向ける。少年は呆ける。
「たとえ、それが、賭け事が好きだったからの、影響かもしれない」
そうだろう。賭け事自体は30代になっても嫌いではなかった。ガチャなんて最たる例だ。だから、そこから好きになっていったのかもしれない。
「俺が狂っているだけかもしれない」
事実、俺は狂っているだろう。正気じゃない。正気だったら、叫んで転んで、不審死するわ。それぐらい、この環境は、狂っている。人の死を正しく伝えていない。
「でも!」
カードの組み合わせを考えるのが好き。戦法を選ぶのが好き。相手と戦ってどう反応するかどう応えてくれるか待つのが好き。苦境に立たされたら立たされた分、どう乗り切るか考えてしまう。考えるのが楽しい。
俺はデッキとともにあった。この世界の住人はそうだ。俺もそうだ。誰もがそうだ。
つまり、誰もがカードを、カードゲームを、そしてこのDDDを!
「だから、本当の意味で嫌いになんて、なれないんだよ! ドロー!」
セイア:後攻・ターン5→6
場:『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』
シールド:0
マナ:2(7)→7
手札:0→1
足りない。まだ切り札は出ていない。今回のゲームで、マナにも墓地にもシールドにもバトルエリアにも手札にも、俺の切り札は出ていない!
「コスト3のスキルカード『血の魔法』を『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』にセット!」
セイア:後攻・ターン6
場:『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』
シールド:0
マナ:7→4(7)
手札:1→0→5
『血の魔法』
分類:スキルカード
属性:魔
性質:魔法
コスト:3
スキル:【血の魔法】
『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』
分類:コンテナカード
属性:魔
性質:兵器
コスト:6
スキル:【Sトリガー】【即死】→【Sトリガー】【即死】【血の魔法】
【血の魔法】
トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]
効果:〈5枚ドローする。ターン終了時、自分の手札を5枚捨てる〉
5枚ドローできるカード。デメリットとしてはターン終了時5枚捨てなければならない点。このときは、デメリットにすらならない。
5枚のカードを凝視。
有益なカードは……来ていない。まだ〝切り札〟はない。
「まだまだぁ! 『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』で『炎の精霊イフリート』にアタック!」
コスト6の『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』とコスト7の『炎の精霊イフリート』ではまず勝ち目はない。しかし、
「『死の魔術師グノーシス』のスキル【遺産相続】で1枚ドロー!」
自分のコンテナカードが破壊されることで1枚ドローできるスキル。
セイア:後攻・ターン6
場:『アーネンヘルトの無反動迎撃魔砲』『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』→『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』
シールド:0
マナ:4(7)
手札:5→6
……。…………。まだまだぁ!?
「『魔法騎士モージ』でアタック!」
当然コスト4とコスト7の【ガード】付きカードでは勝ち目がない。
「『死の魔術師グノーシス』のスキル【遺産相続】で1枚ドロー!」
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』『魔法騎士モージ』→『死の魔術師グノーシス』
シールド:0
マナ:4(7)
手札:6→7
しかし、この場を直接解決できるカードはない。来ていない。
「『魔術師の鷹』をバトルエリアにセットし、『魔術師の鷹』に『魔術師達の黄昏』をセットする!」
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』→『死の魔術師グノーシス』『魔術師の鷹』
シールド:0
マナ:4(7)→3(7)→0(7)→7
手札:7→6→5
『魔術師達の黄昏』
分類:スキルカード
属性:魔
性質:自然
コスト:3
スキル:【黄昏】【自壊】
『魔術師の鷹』
分類:コンテナカード
属性:魔
性質:鳥類
コスト:1
スキル:【速攻】→【速攻】【黄昏】【老衰】
【黄昏】
トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]
効果:〈マナを全て回復する〉
【老衰】
トリガー:[このスキルがセットされたターンの終了時]
効果:〈マナを全て破壊する〉
これはリスキーだが、今はやるべきだ。これをしておかないとセットできないし、これから引き出すためにもマナがないといけない。そもそも次のターンで終わる。このターンで終わる。勘が告げている。
「マナが全回復! そして、『魔術師の鷹』でアタック! 墓地に送られることで、1枚ドロー!」
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』『魔術師の鷹』→『死の魔術師グノーシス』
シールド:0
マナ:7
手札:5→6
来てくれ! 来い! 俺の〝切り札〟!?
手札を見る。
……。
…………。
切り札、とは。何か?
俺のデッキには、複数の「切り札」と呼べるものが存在する。『死の魔術師グノーシス』も俺の切り札の1つ。強いからな。
じゃあ、強ければ、〝切り札〟なのか?
いや、強くてもいいが、どんな状況でも勝ちに繋げられるカード。それが「切り札」だ。という者もいる。
確かに、理にかなっているし、納得感がある。カードゲーム、いやカードゲームに関わらず、全てのゲームが勝たなければ意味がないものばかりだ。勝つことを目標にしているのだから。
でも、俺は、こう思う。
来て欲しい時に、来てくれる。それが〝切り札〟だ。
「『魔女キルケー』召喚!」
魅惑の美少女が現れた。漆黒のドレスに、純白の肌。黒いツヤのある長い髪。穏やかな波のような曲線。まさしく圧倒的強者のオーラ。
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』→『死の魔術師グノーシス』『魔女キルケー』
シールド:0
マナ:7→0(7)
手札:6→5
『魔女キルケー』
分類:コンテナカード
属性:魔
性質:魔女
コスト:7
スキル:【冥府の死霊占い】【伝説の島アイアイエー】【キュケオーン】
【冥府の死霊占い】
トリガー:[自分のターン開始時]
効果:〈マナ消費なく、墓地からカードを1枚バトルエリアにセットできる〉
【伝説の島アイアイエー】
トリガー:[バトルエリアに『アイアイエー島』がセットされている時]
効果:〈このカードと『アイアイエー島』を除く自分のコンテナカードにスキル【ガード】がセットされていると見なすことができる〉
【キュケオーン】
トリガー:[自分のターン終了時]
効果:〈マナを全て回復する〉
このカードは〝切り札〟ではない。そして、俺のデッキに〝切り札〟は存在しない。
手札は5枚もあって、デッキは合計で40枚あって、残りの山札は……数えてないや。確か、20枚以下かな。
このカード、この手札では、現状を解決できない。俺の、負けだ。
……。
…………。
でも、楽しかった。それで充分だ。清々しさすらある。ここまで頑張って、考えて、博打をして、それで負けた。なんか久しぶりに気持ちが良かった。こんな感情、前世でも数回あるかないかだった。
最初の頃は元気だった少年も、今や意気消沈している。これから人を殺すと理解しているのだろう。すまねぇ。そして、落ち込んでくれてありがとう。俺が殺していった子供達の表情を思い出す。こんな気持ちだったのだろうか。震えながらも笑って感謝。納得だ。怖いけど、嬉しい。
少年は主人公みたいな活躍をした。
速攻型の戦術で上手く行き、しかし、逆転されて、窮地に立たされる。けど、最後には逆転し返して、勝つ。
まさしく、少年は主人公みたいだった。
そういえば、この世界の主人公は、どこにいるのだろうか?
確か赤髪で、ボサボサしている少年だった気がする。
……まさかな。
「……少年」
「……え?」
「……お前の名前を教えてくれ?」
「……アツキ。ヒノアツキ」
「……どんな漢字?」
「……火炎の火に野原の野。温度の温に糸へんで己。火野温紀」
あ、主人公の名前だった。まさしくダブルDの主人公。確か記憶喪失な過去があって、それで、……ああ、アニメ馬鹿にしすぎて、最後まで見ていなかったのが悔やまれる。
この主人公が、どういった軌跡を描くのか、直接見れないのが残念だ。
「いい名前だ。まさしく火属性の君に適した名前だ」
「……お前は?」
「……ん?」
「お前の名前は?」
「……俺の名前は、今魔世明。今は今で魔は魔法の魔。世界の世に明らか」
「そうか、お前もいい名前だ」
そうか? 俺はあまりそう思っていない。けど、両親が付けた名前だから気にいってはいる。
本当は名前を名乗る気はなかった。少年の罪悪感が増すだけだ。俺は毎回、対戦相手の名前を訊いていた。全員の名前を覚えている。生きたら、その子達の外の家族に報告する義務が、大人の俺にある。だから、訊いた。当然、苦しくなった。
しかし、それも無意味になってしまった。解放されるとも言う。
「私の……いや、俺のターンを、終了する」
ターン終了時のスキル効果は、以下。
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』『魔女キルケー』
シールド:0
マナ:0(7)→0(スキル【老衰】により)
手札:5→0(スキル【血の魔法】により)
ターンエンド。それで、『魔術師達の黄昏』のスキル【黄昏】のデメリットスキルで、マナを全て墓地に捨てた。本当に、何もできなくなった。手札もスキル【血の魔法】でちょうどなくなった。可能性は潰えた。
さてと、炎は熱いだろうか? それとも痛いだろうか? あれだけの高火力だ。きっと意識が「痛い」と感じる前に殺してくれるだろう。
「オレのターン……ドロー」
少年の最後のターンが始まった。
アツキ:先攻・ターン6→7
場:『炎の精霊イフリート』
シールド:0
マナ:0(5)→5
手札:0→1
「マナを、チャージ、する」
ん? 今更マナをチャージするのか?
アツキ:先攻・ターン7
場:『炎の精霊イフリート』
シールド:0
マナ:5→6
手札:1→0
「『炎の精霊イフリート』で『死の魔術師グノーシス』を破壊」
死の魔術師が無惨にも焼き殺される。燃え尽きた。
セイア:後攻・ターン6
場:『死の魔術師グノーシス』『魔女キルケー』→『魔女キルケー』
シールド:0
マナ:0
手札:0
あとは、ダイレクトアタックを待つだけ。そう、これで終わり。死ぬ。救われるんだ。俺の罪ごと燃やして浄化してくれ。
少年には悪いことをした。罪悪感を残して、引き摺っていかないといいのだが。
まぁ、人生、長い。俺は今世を含めて40年生きたが、それでもいい出会いというのはあった。それで、きっと、報われる日が来るだろう。きっと。
少年が口を開いた。俺は目を瞑った。
「ターンエンド」
…………え
え
アツキ:先攻・ターン7
場:『炎の精霊イフリート』
シールド:0
マナ:6
手札:0
セイア:後攻・ターン6
場:『魔女キルケー』
シールド:0
マナ:0
手札:0