奇跡の魔法は何も起こさない   作:葉洩 陽透

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接待カードゲームは興醒めだ。そう、興醒めだ……

「ターン、エンド」

 

 アツキがそう言った。火野温紀。そうアツキが言った。

 

「ぁ……な、なんで……」

「……ドローしろよ」

「ぇ、ぃや……どうして」

「オレはターンエンドした。だから、お前の……セイアのターンだ」

 

 苛ついた。

 

「意味わかんねぇよ!? お前! 俺を殺せただろ!? どうしてトドメを刺さなかった!?」

「……へへへ、今更だけど、一人称と口調が変わっているぜ」

「そんなことはどうでもいいんだよ!?」

 

 怒りが湧く。なんか知らんが怒りが湧く。当然だ。汚されたのだ。俺の覚悟と、良い試合を。

 

「お前! お前! ……お前!?」

「オレは『お前』じゃねぇ。アツキだ」

「アツキぃ! お前! 意味わかんねぇよ……」

 

 ふっと笑うアツキ。その顔は哀愁を感じた。黙るしかなかった。

 

「ちょっと、嫌になっちまったんだよ」

「……はぁ?」

「カードは、殺し殺されの道具じゃない」

 

 その通りだ。カードは純粋に楽しんでこそ、その真価をはっきする。そう思う。

 

「オレは、外では結構なカードバトラーだったんだぜ? 幼稚園でも小学校でも負け知らず。強いって言われて、オレも強いって思ってた!」

 

 そうなんだ。でも、主人公だから、それくらいどうってことないのだろう。ホビーアニメの主人公は強い方が人気が出る。

 

「カードゲームは、楽しんでやらなくちゃいけないんだ」

「……それが、どう、関係、するんだよ……?」

 

 へへ、と主人公君。笑ってる場合じゃない。最初に見たハイライトの消えた目ではない。今まで人を殺してきた人の顔ではなくなった。それでも悲しそうに笑っている。平気そうにしているが、諦観している。

 

「オレは、このゲーム、心から楽しめなかった」

 

 そりゃそうだ。人の生死がかかっているんだ。それも、どちらか一方は確実に死ぬ。楽しめた方がどうかしている。頭が狂っている証拠だ。

 

「でも、セイアは、このゲーム、楽しめただろ?」

「っ!? でも、それは、あ、だから、その」

「言い訳しなくていい。事実だろ?」

 

 真剣なアツキの声。黙ってしまう。そして、自然と頷いてしまう。アツキが朗らかに笑った。綺麗な微笑みだった。

 

「それが羨ましかった。オレには、到底できそうにない」

「……できなくて当然だ。俺が異常なだけだ」

「でも、そう言ったセイアに生き残って欲しいと思ったんだよ。どんな時でも楽しめる人間に」

「!? ……俺は認めねぇ! お前がスキップしたんだ! 俺もこのターンスキップする!」

「残念だけど。オレは先攻だ。ドローカードも結構ある。たぶん、先にデッキが尽きると思う。デッキが尽きた方が負けだぜ。基本ルールだ」

 

 デッキが尽きたら、カードを山札からドローできなければ、試合が終了し、ゲームに負ける。それがDDDのルール。ローカルルールでは墓地のカードをデッキに加えて続けるというのがあるが、ここでは基本ルールが適用されている。

 

「そ、そんなのやってみないとわかんねぇだろ!? というか俺の方が墓地にカードが多い。計算すると俺の方が早く尽きる! 俺が死ぬ! お前は生きろ! 俺を殺してくれ!?」

「それでも」

 

 セイアに殺して欲しんだ

 

 

 

 それは、どういう意図で言ったのか本当の意味ではわからない。しかし、こう言いたいのは伝わった。

 

 俺の意思で、俺が、セイアとして、殺して欲しんだ、と。アツキは死にたい訳ではない。アツキは明らかに生きたいだろう。それでも、俺を殺すより、自分の死を選んだ。選ぼうとしている。その意志は強いし、何があっても止まらないだろう。どういう手を使ってでも死にに行くだろう。それでも、自死より殺される方を選びたい。そういった願い。

 それは一体、どれだけ勇気がいることなのだろうか? 俺にはわからない。人によっては我儘だとのたまうのだろう。情けないと言うだろう。俺はどれが正しいかわからない。

 

「……ドロー」

 

アツキ:先攻・ターン7

場:『炎の精霊イフリート』

シールド:0

マナ:6

手札:0

 

セイア:後攻・ターン6→7

場:『魔女キルケー』

シールド:0

マナ:0

手札:0→1

 

「『魔女キルケー』で『炎の精霊イフリート』を破壊」

 

アツキ:先攻・ターン7

場:『炎の精霊イフリート』→なし

シールド:0

マナ:6

手札:0

 

セイア:後攻・ターン7

場:『魔女キルケー』→なし

シールド:0

マナ:0

手札:1

 

 マナはない。バトルエリアにもカードはない。チャージしても手札がない。ないないづくし。そもそもコスト1のカードが手札にない。だから

 

「セット、『何もない空虚で零無な魔法物体』」

 

セイア:後攻・ターン7

場:なし→『何もない空虚で零無な魔法物体』

シールド:0

マナ:0

手札:1→0

 

 そのまま出す。出せるのが俺のデッキの悪いところ。

 

『何もない空虚で零無な魔法物体』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:魔力物体

コスト:0

スキル:なし

 

 このコンテナ『何もない空虚で無零な魔法物体』はコスト0で最強のカードだ。なんてったって、スキル欄が全て空白なのだから。どうカスタマイズしても良い。無限の可能性を秘めた、そんなコンテナカードだ。

 見た目は、ない。そこに、何かあるのはわかる。それが角の取れた立方体をしているのもわかる。けれど、見えない。密度がない。空虚で零無なのだ。

 

「『何もない空虚で無零な魔法物体』でダイレクトアタック」

 

セイア:後攻・ターン7

場:『何もない空虚で零無な魔法物体』→なし

シールド:0

マナ:0

手札:0

 

 ふわり、と幽霊のように、物体がアツキを襲う。アツキに物体が当たる。コスト0のコンテナカード『何も無い空虚で零無な魔法物体』は破壊された。アツキはふっとばされる。ゴロゴロと転がされ、審判の傍に止まる。そして、

 

「あれ? オレ、生きて」

 

 瞬間、胸から刃物が突き出る。審判が刃物で刺したのだ。

 

「ごめん……俺は卑怯者だ」

 

 コスト0のカードは珍しい。闇のゲームでは、コスト1以上のダイレクトアタックは、プレイヤーが死ぬ。それだけで死ぬ。コストが高ければ死体すら残らず。実際に最初の頃、見た。

 しかし、コスト0でダイレクトアタックしたら、死ななかった。どうしてかは原因不明だと。おそらくプレイヤーのコストが0.5くらいだとか。審判や監視員の大人の話を盗み聞いた限りでは。呆然とした記憶がある。コスト0のカードはダイレクトアタックで破壊されるのだ。最初の頃は審判が慌てていたのに溜飲を下げた。

 しかし、それでも、現実は非情で、審判の手によって、敗者は殺されることになった。

 

 トドメを刺せなかった。他人に任せた。それが罪悪感を伴うとわかっていながら、俺は毎回そうするしかできなかった。

 俺は卑怯者だ。

 

「ぁ……」

 

 アツキが何か言っている。が、ここからだと聞き取れない。そのまま審判が大穴へとアツキを落とした。そう、まるでゴミをゴミ箱に放り込むように、捨てた。

 

 何気なく、山札の上からカードを捲った。

 

『奇跡の魔法』

種類:スキルカード

属性:魔

種別:魔法

コスト:0

スキル:【奇跡の魔法】

 

【奇跡の魔法】

トリガー:[このスキルがデッキに入っている限り]

効果:〈奇跡が起こる〉

 

 お守り代わりにいつも入れていたカードだった。不思議な世界だ。不思議なことが起きてもいいだろ。

 

 奇跡の魔法、なんてない。あるのは条件付きで、意味が薄い、ありがたがっているが、ささいな、つまらない、何もない、勘違い、そんな奇跡のような何か。つまり、奇跡なんてない。

 もし、今まさに奇跡が起きているのなら、そんなものなくて良い。俺が生きてるだけの奇跡なんてくそったれだ。

 

 そう、そんな奇跡なら、ない方がマシだ。

 

アツキ:先攻・ターン7

場:なし

シールド:0

マナ:6

手札:0

 

セイア:後攻・ターン7

場:なし

シールド:0

マナ:0

手札:0

 

勝者:セイア

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 その後、俺は元の独房へと戻された。

 ガチャンと檻が閉まる音。監視員が遠ざかり、席に着く音。蛍光灯のじりじりという音。

 

 併設されたトイレに向かう。水洗ではない。ぼっとん便所。糞尿の臭いがする。床に空いた穴。背もたれもない。そこの穴に顔をツッコむ。

 

「おえ……おえぇおぇえおええええ」

 

 殺した。直接手を下さなかったが、殺したのは事実。強制されて行ったとしても、俺が殺した。それも覚悟なく、相手の意思も尊重せず、殺したんだ。主人公を、生きたいがために、殺したんだ。

 

 もう一度吐いた。

 

 ゴロンと転がる。トイレの穴を顔の横にしながら、天井を見る。見上げてみればなんか酸っぱい。胃液の味。口から胃酸が垂れる。涎として。

 

 

 

 この世界は、前世で視聴したTCG販促用ホビーアニメ『Destiny Duel』の世界。

 アニメでは、熱いバトル・固い友情・勧善懲悪なストーリーが放送されていた。

 現実はどうだ? ここは地獄か? なぜアニメとここまで違うのか?

 

 エセ関西弁の神様に『Destiny Duel』の世界だと教えられた。また、アニメで見た学校や社会制度など、共通点も多かった。だから、似ている世界だとは思う。

 もしかして、ホビーアニメの世界ではないのかもしれない。神様が間違えて違う世界に送ったのだ。めちゃくちゃ似ているカードゲーム世界に。きっと。だから、あいつ、アツキは主人公じゃない。きっと。

 

 火野温紀。

 赤髪の火属性デッキを操る主人公。まだ拙い所がありながらも、主人公としての力があった。記憶喪失という設定であったが、そんな境遇にも折れずに立ち向かう姿勢があった、とネタバレサイトに書いていた。事実、途中まで見た中では、俺もそう思った。

 ストーリーを全部見ていなかった。これは俺の落ち度。もしかしたら、続きで、主人公の過去が明らかになり、それが、今回みたいな実験施設に誘拐された、という話で、記憶喪失は、その時のもので。

 そう、まさしく今回のようなことがあって、記憶を失って、日常生活に戻る。刃を胸から生やしても、記憶を失っても、生きて、日常に戻る。

 

 そんな幻想を抱いてしまう。

 

 わかっている。俺が殺した。間違いようがない。審判の長い剣は確かにアツキの心臓あたりを捕らえていた。そうでなくても、あんな箇所に刺さったのだ。出血多量で死ぬ。

 希望を捨ててはいけないとか誰かが言っていたが、無理だ。あんな姿を見せられて、あっさりとゴミ箱に行く生ゴミのように捨てられて。

 

「ゔ」

 

 トイレに顔を突っ込んだ。吐いた。

 




今回、賛否両論ありそう……
補足というか、ちょろっと雑談します

本作は、とあるTCG小説に感化され衝動的に書きました
題名は言えないのですが、ハーメルン作品です
プレイ描写とゲームの駆け引きが秀逸で脳を焼かれました

しかし、困ったことに私はニワカ
雰囲気で楽しめるけど、描くのは難しいのでは? と思った。思ったが、衝動とは怖いもので、描いてしまって投稿してしまった

さて、アツキの今回の行動
前提として極限状態というのがあります。冷静に判断できません
いや、だからこそその本質が現れたのかもしれません

私が危惧する所は、アツキがセイアに〝生きる〟という罪を背負わせた、というだけで完結することです
物語は続きます。それと同様に物語の中の登場人物にも未来があります
アツキは、〝生きる〟ことと〝未来〟を天秤にかけたのです

以上、一人語りでした。次回は20:00に投稿予約しております
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