つまり、この世界は架空のTCG販促用アニメの世界だということだ。それが現実になった。ただそれだけ。アニメでは死体も何もなかった。リアリティはなかった。それでも、現実は非情である。日常はなかったかのように存在している。いや、存在しているよな? 空想の概念とかではなくて。
闇のカード使いと、主人公達の熱き戦い。それも真実だろう。ライバル達との共闘、仲間意識、そして友情。それも事実だろう。悪いことをしたものが正義の味方に倒される勧善懲悪。それも事実だろう。
しかし、俺の見るこの世界は、ひどく濁って見えた。味にすると苦いし、酸っぱい。血と胃酸のハーモニー。かろうじて狂っていないのは、俺の精神年齢が高いからだろうか? 転生者万歳である。くそったれ。
この世界はカードで運命が変わる。それすなわち、人生が変わる。
生死を賭けたり、自由を賭けたり、色々。
公には禁止され、健全なプレイが表では行われているが、裏に入れば闇。
檻の外で犯罪組織の構成員が喋っている。監視目的にいるのだろうが、子供だけなので舐めている。まぁ、逃げ出すことができないのはここ1年理解させられた。それに今は囚人は俺のみ。悲しいことに同居人は消えた。死んだとも言う。
「天使実験はまだやるのか?」
「ああ、そうらしい。上は成功すると思ってる」
「でも、首だけ重ねても意味ないよな……史実では共食いさせたとかでしょ?」
「まぁ、何か考えがあってのことだろう」
まったくろくでもない。
俺はこの独房に入れられた頃を思い出す。
何人か人がいて、同じ牢屋に入れられて、励ましあった。
誘拐された時は、流石の転生した俺でも心細かったため、安心した。
誘拐は誘拐だ。カードバトルとは関係ない。ただ暴力的で物理的な行動。
その後、俺達は何日か一緒に過ごし、名前を教え合って、家族の話もした。
1週間後、悪夢が始まった。
昨日まで仲間だと思っていた相手と生死を賭けたバトルをしないといけなくなった。
殺される恐怖、殺してしまう恐怖。どれも嫌だった。嫌とかそんな次元ではなかった。ただひたすら、救いがない戦い。
まぁ、もう諦めたが。
最近はゲームに呼ばれない。前のゲーム、アツキを殺したゲームからおおよそ1ヶ月くらい経っている気がする。前までは1日に倒れるまでやらされたが、それも減った。どうも子供の数が減ったようだ。食事が不味くてしかたない。もう俺くらいしか生き残っていないのではないだろうか。
俺はここでは番号で呼ばれる。というか全員番号だ。番号で識別される。感情なんてものも消え失せてしまう。
327番。それが俺の番号だ。ここではそれが名前だ。セイア、今魔世明は死んでいる。
外が騒がしくなった。耳を傾ける。
「新しいガキが入った! 牢屋に入れろ!」
「はっ! って、その子ですか??」
「そ、その子って、確か……」
「つべこべ言わず! さっさと入れろ!」
そうして、大人二人がヘコヘコと俺の前を横切る。その時、子供の顔が見えた。
背中に流れる長い白髪。白の服装と白い肌。そこにアクセントを付ける赤眼。神秘的な少女。ひと目で誰か判った。
原作ヒロインの一人。ククイ。その後、
通り過ぎて、目は合わなかったが、確かにそうだと思った。奥の檻の開く音がして、閉まった。大人しく、わめきもせず、静かに入ったようだ。
原作を思い出す。
たしか、ククイは実験体という設定だった。国立Death Destiny Duel開発研究所、通称DDD研究所。そこが叡智を結集して作り上げた人造人間。培養液で生まれ、感情を知らず、DDDのことだけを教えられて、食事はまずいものだけ。感情という感情を抹殺された者。
原作では、研究所の所長を主人公が倒して、解放される。保護されるが、DDDのことしか頭に浮かばないキャラクターだった。そして、闇のゲームをする。
闇のゲームとは、ゲームの結果によって死んだり世界が滅びたりすること。普通は映像的なエフェクトだけが表示されるが、闇のゲームのエフェクトは実体を持ち、シールドの破片やコンテナカード同士の戦闘余波は死に繋がる。そして、ダイレクトアタックは死そのもの。
しかし、俺の場合は特殊。
コスト0のコンテナのダイレクトアタックは、どうも死なないらしい。コスト1からのコンテナは死に直結するというのに。コストが高いコンテナのダイレクトアタックは肉片すら残さないというのに。
俺達は自分の試合以外はここに容れられている。だから、他の対戦者の対戦内容は知らない。誰が死んだかは、帰って来る者を見れば判るが。そのたびに、すすり泣く子供の声が聴こえたものだ。今はそれすらない静かなプライベートルームだ。胸糞わるい。
ともかく、ここは最悪である。俺は不貞寝した。自分がどうなるかなんて勘でしかわからない。強い肉体も強い頭脳も強いカードもない。〝なんか凄いカード〟と〝なんか鋭い勘〟で生き残っているようなものだ。〝なんか可愛い容姿〟はまったく使い道がない。少なくともここでは。
まぁ、カードは使えれば強いっちゃ強いが……まぁ、勘だよりである。考えても頭ミジンコじゃ、効率的なのか必勝法なのかすらわからん。
悲しいね。
「おい! 飯だ!」
監視員のおっちゃんが怒鳴り、檻の狭い小さい扉を開ける。流石の小柄な俺でも通れない。そして、そこからレーションを投げられる。チッ。今日は一番不味いのだ。あのボソボソした黒い小麦を固めて棒状にしたもの。最初の頃はよく吐いていた。それぐらい不味い。しかし、食べないと生きていけないため、無理矢理流し込む。水は一応ペットボトルに入れてくれるので、そこは感謝。
いや、感謝する所ないな。
「そういえば、おっちゃん」
「話しかけるな!」
「さっきの子は新しい子?」
「だから! 話しかけるな! 喋るな!」
檻越しに話しかけるが、これじゃ情報収集もできやしない。粘る。
「名前は?」
「……はぁ……番号しか知らん」
「それでもいいよ。何番?」
「……991番」
ククイだ。番号から取られた名前。味気ない。しかし、特徴的な名前。
「おっちゃん! ありがと!」
「……」
唾をかけられた。おっちゃんは立ち去った。檻から出たらコロしてやる。私は考えに没頭する。
八治ククイ。
苗字のハ治は、引き取ってくれた博士の苗字からだった気がする。細かい所は忘れたがたぶんそう。
しかし、違和感があるのは、「ククイ」と名付けた人だ。
そういえば、ククイ本人が「ククイ」と名乗ったという記述がどこかにあった気がする。つまり、誰かが名付けたのだ。
研究所の研究員か? いや、ここにそんな寄り添うような人間はいない。じゃあ、天使実験の子供達か? しかし、俺以外残っていない。俺が名付けたのか? いや、俺がいたことで発生したズレ? もしかして、俺って元々生まれる予定の子供の精神を乗っ取ったのか? まぁ、殺しは今更なので仕方ないが、そうすると俺が名付け親だったかもしれないのか? それとも、俺が殺したやつの中にあいつの名付け親がいたのかもしれない。思い当たる子供の顔が浮かび、それらが全て死に顔で首だけの姿だったのを思い出し、レーションを吐きそうになる。水を飲む。噎せた。
まぁ、考えても意味ないことだ。ストレスはなるべく溜めないようにしよう。それだけだ。
飯を食って寝る。それだけだ。掛け布団も敷き布団も枕もない固いベッドで横になる。簡易トイレの流れない臭いが苦しい。
そんな中で、眠りについた。
~~~~~
1週間後のことだ。ククイが檻に入れられて、1週間後。
再びゲーム会場に連れてこられた。セイちゃんです。拘束していた縄が外され、いつも通り、大人しく、台に立つ。相手はまだ来ていないらしい。後ろで監視員のおっちゃんがもう一人の女性監視員とコソコソ話。
「そろそろあいつも終わりかなぁ」
「まぁ、前回も相手のお情けで勝ったようなものだしね。実力はあまりない」
「それに今回は、ボスお気に入りの子だしな。最高傑作って言ってたよな?」
「この実験も今回で最後になりそうよね」
「子供もあいつらだけになったしな」
聞こえてますよ、お二人さん。
そんなコソコソ話も、審判が入ってきたと同時になくなった。
審判は3人。1人は審判台に。もう2人はプレイヤーの後ろ。ついでに監視員は出ていく。プレイヤー以外はかなり距離を取っていて、安全地帯である。シールドの破片も、コンテナカードのアタックも届かない。自分たちだけ安全を確保するとか大人として情けなくないんですかねぇ? こどもの権利を知らんのか?
「これより、327番と991番との試合を行う。第1024回人工天使降臨実験、開始」
顔を前に戻す。すると、やはりというか、ヒロイン。ククイが向こう岸の台に立っていた。
さてどうするか?
ククイの実力は、ある程度知っている。戦術とかカードの種類とか細かい所は忘れた、というかネタバレサイトでストーリーだけ見た。DDDで主人公と最後まで対等だった。それくらい強い。
ここで諦めると、俺は死ぬことになる。いやはや、一度死んだ身。若い子に譲りましょうよ。いやいや、死ぬのは嫌です。勘弁してくだーさい。
……ここまで来て死んだら、殺したやつらに面目が立たない。ある意味開き直る俺がいる。そして、嫌悪感が襲う。
かと言って、俺が勝つと、ククイが死ぬ。おそらく天使降臨の材料にされる。もしかしたら人造人間ということで生かされる未来もあるかもしれないが、リスクがある。原作崩壊もいいところだ。第一期の敵。第二期の味方。ネタバレサイトです、すみません。
ククイがいないと、第二期で、世界滅亡を企む宗教団体『希望の滅び』との勝負に勝てないらしい。具体的には知らないが、確かククイが善戦して、主人公を助けた、とかなんとか。本人は無自覚にバトルしていたらしい、とサイトに書いてあった。
第二期の敵『希望の滅び』は、その名の通り、世界を滅ぼすことを考えているやばい奴らのことだ。ククイが俺とのゲームで負けると、世界が滅亡し、結局俺も死ぬ。
じゃあ、この状況どうすればいいねんって感じ。
まぁ、そもそも主人公も死んでいる可能性があるし。というか殺したし。いや、まだ主人公とは限らない。いや、火野温紀という珍しい名前はそうそういないだろう。赤髪火属性。
どうでもよいが、この世界の住人は色々な髪色をしている。青やら赤やら黄色やら。それが違和感なく存在している。不思議だ。白髪はアルビノだと考えればいいが、誘拐される前にいた学校では結構の数がアルビノになる。しかし、そんな話は聞いていない。アルビノだったら日光とか紫外線とか普通の人よりもダメージを受けるとか聞いたことあるが、学校の友だちはそういう感じは受けなかった。
賽が投げられそうになる。瞬間、これしかない! と思い、俺は大声を出した。
みんながみんな俺を見る。それでも俺は発狂したように叫び、転び、地面にのたうち周り、狂ったように見せる。審判が来た。
「試合前に狂ったか……これも実力。殺してしまおう」
「はい、すみませんでした。正気に戻りました」
「……では、試合を始めよう。1024回人工天使降臨実験、開始」
慣れてやがる。いつも通り、なんてないように、刃物を取り出した。怖い。人間のクズほど怖いものはない。
こんな所で死ぬ訳にも行かないし、何より無様な死に方になる。やだよ。戦わずに死ぬなんて。狂死なんてサイテー。
サイコロが舞う。もう試合をするしかないのか。延期くらいならしてもいいじゃないか、と思ったが現実はそう簡単にことが運ぶようにできていない。この1年で知った事実。いや、前世でもそうだった。31年だ。
俺の先攻になった。
セイア:先攻・ターン0
場:なし
シールド:5
マナ:0
手札:5
ククイ:後攻・ターン0
場:なし
シールド:5
マナ:0
手札:5