奇跡の魔法は何も起こさない   作:葉洩 陽透

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鐘の音がした。

セイア:先攻・ターン0

場:なし

シールド:5

マナ:0

手札:5

 

ククイ:後攻・ターン0

場:なし

シールド:5

マナ:0

手札:5

 

「私のターン、マナをチャージし、ターンエンド」

 

セイア:先攻・ターン0→1

場:なし

シールド:5

マナ:0→1

手札:5→4

 

 前にも言ったかもしれないが、TCGにおいて手札は大事な要素だ。手札がなければドローしたカードをそのままボード、つまり場に出さないといけない。それは臨機応変な対応ができないということである。

 手札枯渇を恐れて1ターン目は何もしない。速攻型と防御型と技術型のデッキでない限り、取るべき方法だ。

 

 ククイのターンになった。

 

「ターン……ドロー。マナ、チャージ」

 

ククイ:後攻・ターン0→1

場:なし

シールド:5

マナ:0→1

手札:5→6→5

 

 短く単語を区切る喋り方。大人しく可愛い声。小さなお口で小さい声だが、聞き取りやすい。身体に沁み渡るような清涼感がある。どちらかというと、神聖。心が洗われるような感慨を覚える。そんな声音。容姿と相まって、どこかの天使がカードゲームをしているような感慨になる。

 

「『教会の鐘』、セット」

 

 鐘の音がした。

 

ククイ:後攻・ターン1

場:なし→『教会の鐘』

シールド:5

マナ:1→0(1)

手札:5→4

〔神聖礼拝〕:0

 

『教会の鐘』

分類:コンテナカード

属性:聖

性質:施設

コスト:1→1.5

スキル:【修道院】【神聖の鐘】【不戦の誓い】

 

【修道院】

トリガー:[自分のターン終了時]

効果:〈〔神聖礼拝〕を+1する〉

 

【神聖の鐘】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]

効果:〈自分のバトルエリアにセットされている属性・聖のコンテナカードのコストを+0.5する〉

 

【不戦の誓い】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]

効果:〈このカードはアタックできない〉

 

 教会が立ち上がる。小さな塔に鐘を讃えた教会。そこでは、鐘が響き渡る。塔頂には十字架。まさしくキリスト教のような感じ。ついでに、この世界にもイエス様はいらっしゃった訳だが、歴史はほとんどカードで塗り替わっていた。それはまた別の話。またの機会に語ろう。

 しかし、教会か……。なんか、結婚式を思い出した。前世ではなく、今世の両親の再婚。一度離婚して、また同じ人と結ばれる。いいねぇ。俺の相手は、どうせ男しかいないだろう。それはそれで嫌なので、修道院に行きたい所存です。

 

 とまぁ、個人的な話を置いておいて、カードのスキルを見てみよう。

 後者2つは解る。【神聖の鐘】は相打ちを防ぐためのもので、【不戦の誓い】はデメリットスキル。デメリットスキルとは、カード自体が強くなりすぎるのを防ぐためのもの。この2つだけを見ても解らない。

 最後、最初の1つ。【修道院】。これの意味が解らない。なんだ? 〔神聖礼拝〕って? どんなものかさっぱりだ。元々のDDDにはないもの。どう解釈すればいいのか不明。デメリットスキルと釣り合っていないような気がする。逆に言えば、デメリットスキルに見合った効果を持っているとも言える。〔神聖礼拝〕が。

 当然だが、どれも初見のスキルだ。初っ端からこれだと戦いにくい。

 

 最初に行動するプレイヤーには3種類いると俺は思っている。スキル【速攻】でシールドを削る速攻型。スキル【ガード】で守りを固め、最後に高コストのカードでトドメを刺す防御型。そして、スキルなしのコンテナカードで次のターンから有益なスキルを使い相手を窮地に陥れる技術型。

 しかし、ククイはそのどれでもないと思う。つまり、普通のデッキではないことが伺える。それは〔神聖礼拝〕にも関わってくるのだろう。

 俺はめちゃくちゃTCGに疎いので、こんな考察しかできない。情けない。

 ついでに俺は3種類の型にはまらない。つまり、何も考えていない。その場しのぎと転生特典に頼ったプレイ。つまり、ノリと勢いだけでここまで生きてこられた。いまだに信じられない。

 

 話が逸れた。端的に言うと、ククイのプレイスタイルが〔神聖礼拝〕に依存していると考えることができる。勘もそう告げている。この数値を増やしてしまうかどうかが、勝敗の鍵を握ると考えていいだろう。……おそらく。

 

「ターン……エンド。〔神聖礼拝〕、ぷらすいち」

 

ククイ:後攻・ターン1

場:『教会の鐘』

シールド:5

マナ:0(1)

手札:4

〔神聖礼拝〕:0→1

 

 ククイのターンが終わった。速攻型のような激烈なスタートではなく、防御型のような攻めにくいような息苦しさもない。技術型のような予測不能な出だしでもない。冷たいイメージのある大人しさだ。嵐の前の静けさと言えるだろう。

 

 結局、〔神聖礼拝〕についてはわからなかった。これで勝てるのか?

 

 ここは勘に従おう。

 

 それよりもククイの「ぷらすいち」と言ったのが可愛かった。

 2次元の時もアニメキャラ特有の可愛さがあったが、3次元になった今も可愛い。幼女趣味はないつもりだが、目の保養・耳の癒しになる。汚いおっさんとカードゲームするよりこっちのほうが断然よい。まぁ、大人とカードゲームしたことは両親と学校の先生くらいしか記憶にないが。

 

「私のターン、ドローして、マナをチャージします」

 

セイア:先攻・ターン1→2

場:なし

シールド:5

マナ:1→2

手札:4→5→4

 

 悩む。相手がどのような手段を持っているか不明だ。情報が欲しい。

 情報を得るには、守勢でなく攻勢でこそだ。叩けば何かしらの反応が返ってくるのが戦いというものである。相手ターン中にセットできるスキルもあるし、そうでなくてもシールドアタックは情報が得られやすい。アタック時に何かしらアクションできる効果のカードを持っているか、それは大きな情報アドバンテージとなる。知らんけど。誘拐前に学校の友達から聞いた内容だ。

 

 ここは、行動あるのみ、かな?

 

「『魔術師の鷹』をセットします」

 

セイア:先攻・ターン2

場:なし→『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:2→1(2)

手札:4→3

 

『魔術師の鷹』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:鳥類

コスト:1

スキル:【速攻】

 

 鷹が空を舞う。空に輪を描いてゆうゆうとしている。呑気なものだ。

 

「『魔術師の鷹』でシールドアタック」

 

 滑空する鷹。そのまま突っ込み、シールドを1枚破壊する。その破片がククイを襲う。ククイは何も反応しない。危ない! と思った。しかし、一切のシールドがククイに当たることはなく、後ろの地面に深々と刺さるだけ。そして、消える。たとえ、破片が当たったとしても顔色一つ変えなかったかもしれない。それぐらいに、ククイは大人しかった。

 

ククイ:後攻・ターン1

場:『教会の鐘』

シールド:5→4

マナ:0(1)

手札:4→5

〔神聖礼拝〕:1

 

 破壊されたシールドカードは手札に加えられる。手札アドバンテージを得る。

 

 ……シールドアタック時、すんでで、右端のシールドを選びそうになった。しかし、右から2番目に変更。転生特典〝なんか鋭い勘〟が原因だ。なんか嫌な感じ、というか負ける予感がしたというか、右端を選んでいたら速攻で負けていただろう。それくらいやばいカードだということ。残りの4枚からも嫌な予感がする。

 この感覚は以前もあった。経験から、おそらく【Sトリガー】だと判断する。

 

【Sトリガー】

トリガー:[このスキルがシールドエリアから手札に直接移動した時]

効果:〈マナ消費なく、このカードをバトルエリアにセットできる〉

 

 シールドを破壊すると発動するスキル。他のスキルが一緒にセットされていることが基本で、セットされていない場合は、高コストのコンテナカード。特にスキル【ガード】持ちが多い印象だ。

 ククイのシールドがどうなのかは不明。勘が告げているのは、危険信号。しかし、情報がない。情報がなければ対策ができない。対策ができなければ負ける。

 前世でダブルDを最後まで視聴していれば、問題なかったのだろう。ククイがどんなカードを使い、どんなスキルを持っているか。転生特典以上の転生チートになったのだろう。主人公最強もので、無双できたかもしれない。

 

 俺の転生チートは転生特典だけ。これだけでは、優位性を保てない。まぁ、ないものねだりと言えばそうなのだが。それでも隣の芝生は青く見えるものだ。

 

 手札を見る。1枚減るしスキル欄が1つ埋まる。しかし、今は情報が欲しい。〝なんか鋭い勘〟の根拠を手に入れたい。勘だよりだと以前、痛い目を見た。やはり裏付けは大事。直感も大事だが、それを補強する証拠も必要。行動の指針となる。

 手札のこのカードは使った方がよいだろう。しかし、今ではない。手札が枯渇してしまう可能性があるからだ。次のターンに使おう。

 

「ターンエンド」

「ターン……ドロー。マナ、チャージ」

 

ククイ:後攻・ターン1→2

場:『教会の鐘』

シールド:4

マナ:0(1)→1→2

手札:5→6→5

〔神聖礼拝〕:1

 

 さて、ククイはどう出るか? 情報を雄弁に語るのはターン行動中のときだ。つまり、相手のターンは相手の情報を得やすい。どんな行動でも情報になるのだ。

 たとえば、マナをチャージするだけでターンエンドする場合、手札に有益なカードがなかったとか、ボード・アドバンテージより手札アドバンテージの方を優先したとか。何かを優先した結果の行動からデッキ編成を垣間見えることもある。重要なのだ。目を光らせておかないといけない。

 

 お手並み拝見だ。

 

「『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』、セット」

 

 二体の幼い天使が飛び出してきた。幼稚園年少組くらいの見た目。正確には違うが、キューピットのような天使だ。どちらも金髪クルクルヘアー。白い古代ギリシア風の服装。可愛らしい。少年か少女かわからない。天使って性別あったかな? 絵画にする時に、モデルとして若い男か女で描かれる事が多い。本来は性別はなかった気がする。……おそらく。

 

ククイ:後攻・ターン2

場:『教会の鐘』→『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:4

マナ:2→0(2)

手札:5→3

〔神聖礼拝〕:1

 

『幼い天使アレフ』

分類:コンテナカード

属性:聖

性質:天使

コスト:1→1.5

スキル:なし

 

『幼い天使ベート』

分類:コンテナカード

属性:聖

性質:天使

コスト:1→1.5

スキル:なし

 

 2ターン目のククイの初動はそんな感じ。そして、

 

「ターン……エンド。〔神聖礼拝〕、ぷらすいち」

 

ククイ:後攻・ターン2

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:4

マナ:0(2)

手札:3

〔神聖礼拝〕:1→2

 

 静かにターンが終了される。

 

 ……なるほど。つまり、ククイのデッキは基本、技術型に寄っていると考えていいだろう。速攻型・防御型・技術型以外のデッキスタイルを特殊型と呼ぶのなら、ククイのは特殊型の技術型ベース。スキル欄が空のカードを1ターンに2枚出した。それが技術型の基本的な出だしだ。

 ……もちろん、速攻型とか防御型とか技術型とか特殊型とかに、それぞれ他の言い方があるのかもしれない。世界の命運を握る事ができるため、DDD専門の学問分野が多い。俺はニワカなので知らない。独断と偏見、あとはここで積んだ経験だけ。

 重要なのは、試合に勝つこと。試合を俺有利の状況で円滑に進めること。そのために、情報は必要なのだ。

 

「私のターン、ドロー。マナをチャージ」

 

セイア:先攻・ターン2→3

場:『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:1(2)→2→3

手札:3→4→3

 

 やはり、情報が欲しい。あのシールドでデッキの方向性がわかる気がするのだ。行動あるのみだ。

 手札を1枚抜く。

 

「『看破の魔術手稿』を『魔術師の鷹』にセットします」

 

セイア:先攻・ターン3

場:『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:3→2(3)

手札:3→2

 

『看破の魔術手稿』

分類:スキルカード

属性:魔

性質:魔導書

コスト:1

スキル:【看破】

 

『魔術師の鷹』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:鳥類

コスト:1

スキル:【速攻】→【速攻】【看破】

 

【看破】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈敵のシールドを1枚閲覧できる〉

 

 このスキルは敵のシールドを1枚だけ見るカード。あまり使い所がないスキルではある。転生特典〝なんか鋭い勘〟の根拠とするには十分だろう。ついでに、相手はシールドの内容を見ることができない。また、閲覧したカードは元の場所に戻せる。というか同じ場所に戻す。【Sトリガー】が発動してほしくないタイミングで使用するといいかもしれない。1枚だけでも知っていれば対策や行動計画が立てやすい。しかし、今回は勘の根拠探しだ。情報戦。

 当然覗き見するのは、先程アタックしかけた右端のカード。嫌な予感のするシールドカード。TCGガントレットの選択画面から伏せられたカードの詳細情報が表示された。

 

『福音』

分類:スキルカード

属性:聖

性質:奇跡

コスト:10

スキル:【Sトリガー】【福音】

 

【福音】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈〔神聖礼拝〕を+10する〉

 

 だから、〔神聖礼拝〕って何?

 

セイア:先攻・ターン3

場:『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:2(3)

手札:2

 

ククイ:後攻・ターン2

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:4

マナ:0(2)

手札:3

〔神聖礼拝〕:2

 

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