奇跡の魔法は何も起こさない   作:葉洩 陽透

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戦いとは情報のやりとりだ

セイア:先攻・ターン3

場:『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:2(3)

手札:2

 

ククイ:後攻・ターン2

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:4

マナ:0(2)

手札:3

〔神聖礼拝〕:2

 

 ここでも〔神聖礼拝〕。勘の通り、〔神聖礼拝〕が今回のゲームで重要なキーワードを持つことが判った。そもそもスキル【Sトリガー】持ちが1枚入っているのは気を付けなければならない。

 しかし、やはり安全材料としてシールド1枚覗き見るのと手札1枚スキル欄1つは大きかったか。これも含めてデメリットと考えてよいかもしれない。情報戦の痛手。これが仇となるか、ならないか。勘的にはそうはならないと告げている。まぁ、あてになるときとならないときの差が大きいので、あまり信用はしていない。

 

「『魔術師の鷹』で……」

 

 シールドアタックをしたい。バトルエリアにあるカードには【ガード】持ちはいない。そもそも、コストが1.5になっているので、アタックしたら破壊される。ただの自滅。無意味だ。当然シールドアタックになる。

 が、選べない。〝なんか鋭い勘〟が告げてくる。どのシールドを選んでも、負けが確定するぞ、って。一つずつTCGガントレットで選択候補をなぞる。その中で左端が一番怖い。

 

 けれど、それでもシールドアタックしなければ相手を倒せない訳で、それが早いか遅いかだけの話。

 勇気を出す。TCGガントレットの画面をタップする。

 

「シールドアタック」

 

 当然だが、右端と左端は避けた。明らかな地雷を踏み抜く気はないし、直感を蔑ろにする勇気もない。勘は信用していないが、あてにはしている。行動する時は一定の根拠を探すが。

 シールドが割れる。ククイに破片が降り注ぐ。大量にだ。今度はもろに破片を浴びるだろう。怪我をするはず。しかし、その破片は途中でゆっくりと止まった。ククイの眼前に刃先が向けられているのに、ククイはそのままの表情。特に怯えや恐れはない。自然体。

 そして、破片がゆっくりと動き出し、1枚のカードへと集まる。ククイの左手にカードが握られた。

 

「【Sトリガー】」

「! やはりか!」

 

 シールド5枚の内2枚が【Sトリガー】とは運が良い。運命力の差を改めて実感する。

 まぁ、俺のデッキには【Sトリガー】1枚だけなのだが……。出産時からデッキが変わっていないので、これもまた運命力なのだろう。とほほ。

 

「『福音』、『幼い天使アレフ』、セット」

 

 え

 

ククイ:後攻・ターン2

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:4→3

マナ:0(2)

手札:3→4→3

〔神聖礼拝〕:2→12

 

『幼い天使アレフ』

分類:コンテナカード

属性:聖

性質:天使

コスト:1.5

スキル:なし→【Sトリガー】【福音】

 

 は? 【Sトリガー】持ちが2枚ではなく、【Sトリガー】持ちの同名カードが2枚?

 

 デッキは40枚が上限だ。それ以下で組んでもゲームはできるが、特別な理由がない限り、40枚未満のデッキで戦わない。

 ……まぁ、ここでは、裕福でない子もいたから40枚揃えられないデッキもあった。最悪な場合は、15枚切っていた。最初のシールド展開で山札から5枚シールドエリアにセットし、山札上から5枚手札にする。これで10枚。毎ターンドローで必ず5ターン以内で負ける。そんな子もいた。不憫とか憐れとか、思ってはいけないのはわかる。それでも類似の感情を覚えた。

 

 話を戻す。

 デッキに同名カードは4枚まで入れることができる。『福音』が2枚シールドに入っている確率は、順番を無視して、約0.0009~0.0584%。ガチャに例えると、7千以上回しても出てこない可能性が高い。最悪50万回引いても出ないこともある。

 

 しかし、〔神聖礼拝〕。

 冷静になって、考察する。DDDに元々ない。ということは、枠外変数、というやつか? 確か、授業でかすかに習った記憶がある。

 枠外変数とは、基本のルールにない変数を設定し、その値によってスキル効果が変わるカードと併用することで柔軟かつ強力なデッキを編成できるもの。

 枠外変数の値を条件にすることで、低コストで強いスキルを持つカードをセットしてもゲームバランスは崩れない。枠外の変数を別個で設定することで、敵からの干渉を防ぎ、自分のプレイを維持できる。

 そんなことを学んだ気がする。ちょっと記憶が怪しい。

 今更だが、学校で算数・国語・英語など以外にDDDの授業があるのは違和感がある。これはやはり異世界出身だからだろうか?

 

「ターン、エンド」

 

 何にしろ、このターンで俺にできることはなくなった。

 

「ターン……ドロー。マナ、チャージ」

 

 ククイの小さい声が響く。広い空間で距離も離れているが、静かなので、集中して耳を傾ければ、はっきりと聴こえる。相手の声色も情報の一つだ。表情も情報だ。プレイヤーが発する全てがゲーム勝利へ必要な情報を与えてくれる。だから、集中する。だから、疲れる。疲労が溜まって、集中力を欠いたとき敗北へと誘われる。

 

ククイ:後攻・ターン2→3

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:3

マナ:0(2)→2→3

手札:3→4→3

〔神聖礼拝〕:12

 

「ターン……エンド。〔神聖礼拝〕、ぷらすいち」

「え」

 

ククイ:後攻・ターン3

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:3

マナ:3

手札:3

〔神聖礼拝〕:12→13

 

 これでターンエンドである。場に【ガード】持ちがいない。そもそもスキルなしが2枚に重要なのか重要でないのか不明なカードが1枚。

 対するこちらは、『魔術師の鷹』のみ。【ガード】持ちはいない。いや、【ガード】持ちだったとしても、コストが1.5になったコンテナカードならコスト1を破壊でき、自分のカードは相打ちにならない。

 なんでシールドアタックしないんだ。不明だ。2体のセット硬直はすでに解けている。シールドとはいわず、バトルエリアにある『魔術師の鷹』くらいは破壊しても良いのではないだろうか?

 バトルエリアに何もセットしない理由はわかる。手札枯渇を恐れているとか、手札事故で出せるカードがなかったとか、いくらでも考えられる。

 

 しかし、アタックしない理由がわからない。

 

 もうすでに3ターン目。俺が速攻型ならすでに瞬殺圏内だ。3、4ターン目ぐらいから戦局が大きく変わるというのに、何もしない。せめて【ガード】持ちがいれば話も変わってくるが、それもない。

 

 なんか調子が狂う。もしかして盤外戦術として狙っているのだろうか? それなら天才を超えて、もはや人間ではない。

 

「…………ドロー。早く」

 

 凛として小さい、可愛らしい声が向けられた。顔を上げると、ククイがこちらを見ていた。無表情で自然体な佇まいは変わらないが、どこかむすっとしている。純粋な感情がある。表情と声にはあまり変化はないが、それでもそう感じた。

 

 俺は慌てる。

 

「ご、ごめん、ククイちゃん」

「? ククイ? だれ?」

 

 あ、咄嗟に口から出てしまった。まぁ、いっか。問われて冷静になる。

 

「えっと……991番だから、ククイちゃん。いい名前でしょ?」

「……ん」

 

 お? 会話が成り立っている。気に入っているような気がする。

 

「……ドロー。早く」

「あ、はい、すみません……ドロー」

 

 対戦する時はなるべく考える時間を短縮しよう。いたずらに相手を待たせたら、マナー違反だ。

 

セイア:先攻・ターン3→4

場:『魔術師の鷹』

シールド:5

マナ:2(3)→3

手札:2→3

 

「マナをチャージして、『ファウスト博士』をセット」

 

セイア:先攻・ターン4

場:『魔術師の鷹』→『魔術師の鷹』『ファウスト博士』

シールド:5

マナ:3→4→3(4)

手札:3→2→1→2

 

『ファウスト博士』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:魔術師

コスト:1

スキル:【祝福されし幸福な戯曲】

 

【祝福されし幸福な戯曲】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈山札からコンテナカード『メフィストフェレス』を手札に加えることができる〉

 

 意地の悪そうな魔術師が現れた。この世の全てに絶望しきった顔。悪魔とでも契約しそうな顔である。

 

 特定のカードのみを引き寄せる探索スキル。その分コストが低い。

 デッキの中身を見たので、自動でシャッフルされる。自分で手札を繰らなくてよいのがTCGガントレットの有益な点でもある。煩わしいだけでなく、不正行為も実行できるからだ。

 

 そして、引き寄せた件のカードだが。

 

『メフィストフェレス』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:悪魔

コスト:5

スキル:【嘘つき】【光を愛せざるもの】【悪臭を愛するもの】

 

【嘘つき】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈敵のバトルエリアにセットされたコンテナカードを1枚自分のバトルエリアにセットしてもよい〉

 

【光を愛せざるもの】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈自分のマナエリアにセットされたカードの枚数分、山札上からドローする。このカードが破壊された時、手札から5枚カードを墓地にセットする〉

 

【悪臭を愛するもの】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈墓地からカードを1枚手札に加える〉

 

 強力なドロー効果のスキルと、敵のバトルエリアにあるカードを奪うスキル。墓地からカードを取り寄せるスキルとよりどりみどり。

 これを1コストで引き寄せることができるのだ。万々歳である。次のターンにセットできるのだ。

 

「そして、『善なる魔女ロジェスティラ』をセット」

 

セイア:先攻・ターン4

場:『魔術師の鷹』『ファウスト博士』→『魔術師の鷹』『ファウスト博士』『善なる魔女ロジェスティラ』

シールド:5

マナ:3(4)→0(4)

手札:2→1→3→5

 

『善なる魔女ロジェスティラ』

分類:コンテナカード

属性:魔

性質:魔女

コスト:3

スキル:【恵みの雨】【贈り物】【援助者】

 

【恵みの雨】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈2枚ドローする〉

 

【贈り物】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされた時]

効果:〈デッキから2枚カードを手札に加えることができる〉

 

【援助者】

トリガー:[このスキルがバトルエリアにセットされている時]

効果:〈マナを1つ消費することで、デッキからコスト1のカードをバトルエリアにセットできる〉

 

 ドロースキルと探索スキル。そして、デッキから直接場に出せるスキルを持つ。まぁ、【援助者】は次のターンから本領発揮する。現在はマナが全て消費されているから。

 なにはともあれ、一気に手札が潤沢になる。

 

「そして、『魔術師の鷹』でシールドアタック!」

 

 右端と左端は避ける。が

 

「────【Sトリガー】」

「!?」

 

 うそやん。【Sトリガー】3枚目やん。

 

「『福音』、『幼い天使ベート』、セット」

 

 うそやん。『福音』3枚目やん。確率、0.0006~0.0292。1万5千回回しても手に入らない。さらに、76万回回しても手に入らないこともある。そんな確率。それを引き当てているのだ。

 

ククイ:後攻・ターン3

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:3→2

マナ:3

手札:3→4→3

〔神聖礼拝〕:13→23

 

『幼い天使ベート』

分類:コンテナカード

属性:聖

性質:天使

コスト:1.5

スキル:なし→【Sトリガー】【福音】

 

 ククイちゃんの運命力どうなってる??

 

セイア:先攻・ターン4

場:『魔術師の鷹』『ファウスト博士』『善なる魔女ロジェスティラ』

シールド:5

マナ:0(4)

手札:5

 

ククイ:後攻・ターン3

場:『教会の鐘』『幼い天使アレフ』『幼い天使ベート』

シールド:2

マナ:3

手札:3

〔神聖礼拝〕:23

 

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