金砂城の審神者は、にっかり青江のことが好きである。
10年前。沙央が審神者に就任した日に、彼はやって来た。
ホラーやオカルトや民俗学が大好きな沙央は、にっかりと仲良くなり、恋愛関係に至る。
4年前、沙央は、にっかりから一点もののブレスレットをもらった。
「御守りだよ」
彼は、優しくそう囁く。
「ありがとう…………」
沙央は、困り笑いみたいな表情で、心底喜んだ。まあ、前髪でよく見えないのだが。
おそるおそる、にっかりの腕を引いて、自分より3cm低い身長の彼を抱き締める。にっかりも、沙央を抱き締め返した。
「今度、一緒に海に行こう」
「ああ、いいよ」
それは、沙央の最上級の愛情表現である。
「俺は、あんまり……いや、なんでもない…………」
あんまり、一緒にいられないけど。人間は、すぐに死ぬから。
翌日。沙央とにっかり青江は、海へ向かった。
半袖のチャイナ服の主。軽装の刀。
「綺麗だな、海!」
「うん」
晴れ空の下。青い海の、寄せては返す波の音は心地好い。
ここは、いつか沙央が還る場所。身内に、死んだら海洋散骨するように遺書を残している。
沙央とにっかりは手を繋いで、裸足になって足首を海水に浸した。
「冷たい」
「そうだね」
「……にっかり、錆びない!?」
「平気だよ」
「ほんとに?!」
「本当に」
ほっと胸を撫で下ろす沙央。
「……愛してるから、置いて行かないでよね」
「置いて行かないよ」
審神者は、にっかりの手に指を絡ませた。
「約束破ったら、呪うからな!」
「ふふ。分かったよ」
にっかりは、空いている手で、そっと主の頬に手を添える。
「にっかり?」
「口吸いしたら怒るかい?」
「えっ!? 誰に?!」
「君に決まってるだろう」
「唇は、まだダメ! 頬にお願いします!」
「分かった」
にっかりは、沙央の頬に口付けた。
「はわわ……」
「可愛いね」
「しょうがないじゃん! 俺、キスしたことねぇわよ!」
沙央は、パンロマンティック・アセクシャルである。恋人はいたことがあるが、性的惹かれを経験したことはないし、そういう行為をしたこともない。
「ま、まあ、にっかりとならね。軽いキスくらいならね。いずれね」
「ふふ。ありがとう」
「お前、調子に乗るなよ!」
「乗ってないよ」
くすくすと笑うにっかり。
「どこまでも道連れにしてやる!」
「それは、望むところだね」
その後。ふたりは、金砂城へ帰った。
沙央は、その日の出来事を、いつも通りに13歳の頃からつけている日記に綴る。
最後の一文は、祈りだった。
愛しいお前を、100年先まで道連れに。
そして、現在。
沙央は、日記を閉じて、「あと90年かぁ」と呟いた。