妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
メイプルは最近兄の様子がおかしいとサリーに訴えた。現実世界では特に何事もなく振る舞っているが、夜な夜な隣の部屋で泣いている声が聞こえる。最初はとうとう幽霊に取り憑かれたのかと思っていたが、どうやら声の主は兄本人であるらしい。
だからこそ、メイプルはサリーにコウヨウが虐められているかや、何かあったのかと聞いてみた。
「その前になんでコウヨウが取り憑かれた確信をしてるの?」
「お兄ちゃん呪われてるし。サリーは泣いてて分からなかったと思うけど、小さい時お化け屋敷でお兄ちゃん毎回誰かと喋ってたんだよ。『お願いだから理沙を泣かせないで』って」
「やめて。いや、やめて欲しくないけどやめて」
自分のためにお願いしてくれるコウヨウは良いのだが、幽霊と会話するなと声を大にして言いたいサリー。というか恋人が幽霊と話せる程の霊感を持っていた事に驚きを隠せない。
「だから、お兄ちゃんが何かに取り憑かれて……それで泣いてるのかなって……あるいは学校で虐められてるか……」
「普通そっちが先じゃない?」
「一応お兄ちゃんに虐められてるか聞いたから大丈夫……だと思う……」
「まぁ、コウヨウなら私達以外基本礼儀正しいから仲良くし大丈夫だと思うよ」
心配するメイプルだが、サリーは原因が分かっている。それを言うかどうか迷った。正直コウヨウ自身に言って欲しいからである。テイムモンスターだった座敷わらしがなんの前触れもなく消えたと言う事実は、サリーしか知らない。
「よし決めた。お兄ちゃんを尾行しよう」
「え?」
「今日お兄ちゃんが第六層に行くって言ってたから尾行しよう。サリー」
「嫌ですけど」
「薄情だよ!?」
「お化け無理だし」
「お兄ちゃんが心配じゃないの!?」
「コウヨウは一旦浮気中」
「どういうこと!?」
メイプルに事情を伝えた方が良いのではと後悔したサリーだが、メイプルの顔を見てNOと言える勇気もなかった。
☆
「久しいわね人間」
「死んだんじゃねぇのかよ」
「私は元々死んでるわ……それで、わらしの事?」
「ああ。実は知り合い……なんだろ?」
第六層で兄を追いかけたメイプルとその後ろで死んだ目をして怯えているサリー。兄は兄で知らない女と話してるし、死んでるとか死んでないとか意味不明な会話をしていた。色々と話を盗み聞きしている中で、分かったことがある。
「わらしちゃんは……テイムモンスターじゃなかったんだ」
「そうだよ。帰ろう」
「サリーは知ってたの?」
「知ってたからカエロウ」
「これ、貴方にあげるわ」
「これは……人形?」
「わらしの器よ」
コウヨウは第六層で戦った吸血鬼から元々怨念が込められていた人形を貰った。メイプルとサリーはそれを見ながら少しだけ会話をする。
「お兄ちゃんはわらしちゃんが好きだったのかな?」
「逆だよ……わらしがコウヨウのこと好きだったんだって……ねぇ、私全部知ってるし、教えてあげるからもう逃げない?」
「守ってあげるから我慢して、黙ってた罰」
「か……え……り……た……い……」
メイプルはこの場を離れなかった。サリーは少し恨めしそうな目で彼女を見ながらも妹である彼女の心を予想して自分を納得させる。
「ちゃんと成仏はしてるから安心しなさい」
「そうか……なら少しばかり楽になる」
「貴方にはあの子よりも大切な人がいるでしょ、早く行け人間」
「まぁな……んじゃ、わらしに伝えておいてくれ。お前の事なんか、一生忘れてやらねぇってな」
「生意気……まぁ、良いわ……後、あの子のスキル使ってみて」
「え? えっと……【名状しがたい何か】」
とりあえずわらしから貰ったスキルを使ってみたコウヨウの姿が少し変わった。背は少し縮んで、髪が少し伸び、幼く小さな女の子の様な姿になったのだが、眼は赤く光り、全身から力が湧き出てくる。そして……腕がたまに化け物に変わる。
「な、なんだこれ?? こんなスキルだったか?」
「右手を前に出して」
言われた通りに右手を出すと、それは赤黒い血の色をした腕に変わる。少し全身に力を入れると、姿が変わり、全身が赤黒い人の姿になったが見た目は相変わらず化け物である。
「何これ? すげぇ気持ち悪い」
「スキルの効果。元々はあの子が倒されないようにって私があげたスキルなのよ。だから使用者によって形は変わるわ」
「デビル男みたいになるかと思った。というか吐き気する」
「呪いの一種よ、何回か使えば良くなるはず」
「やっぱり呪われてんじゃんかよ!?」
因みにデビル男になったらパクリである。そんな時、メイプルとサリーが少し離れたところで彼の姿を見て驚いていたのは言うまでもない。
結局コウヨウはただ新しいスキルとわらしの人形を持って第六層を後にしたのだった。
☆
「これがわらしの本来の姿か……普通に可愛い人形だな」
「とうとうコウヨウは人形使いにもなったのか」
「クロムさん違いますよ。これはわらし。つまりは俺の元テイムモンスターです。ただの人形なので【救いの手】で腹話術するくらいですよ……やっほー、マスター」
「コウヨウめっちゃ声似てる」
「お兄ちゃんやっぱり呪われて……」
「無いと信じたい」
「というかわらしちゃんはどうしたんだ??」
ギルドに戻ったコウヨウはクロムの問いに対してわらしについて話をした。やつは死んだ。今のテイムモンスターはムサシだけだと。最初は驚いていたメンバーだが、正直テイムモンスターと聞いても謎だった所があったりしたので、一概にわらしが本当の幽霊だったと言うコウヨウの言葉も否定出来ない。
「わらしは消えたのか?」
「はい。天に帰りました。なぁ、ムサシ」
「悲しいね……コウヨウ……私も悲しいんだ。どうしてわらし殿が、あんなに良い子なのに逝ってしまったのか……人生とはままならぬものだな若造」
「たまにお前主から俺の事若造っていうよな」
「というか相変わらずめっちゃ日本語で喋るじゃんこの刀」
「悲しいね、コウヨウ」
クロムの言葉もわかるが今はそれどころでは無いコウヨウの心。ムサシも寂しそうだが、コウヨウも寂しく感じた。それでも、彼女から貰ったスキルが少しばかりでもコウヨウの心の負担を抑えた。
「わらしのスキルは俺の手元にある分、完全に離れ離れになったわけでは無いしな」
その発言にサリーとメイプル以外の【楓の木】メンバーは耳を疑った。どう言う事かとクロムが尋ねると、コウヨウは右手を前に出してスキルを出す。それは【名状しがたい何か】、わらしが化物に変身するスキルなのだが、今回はコウヨウの右手がその化物の口に変化した。
「こう言う話です……わらしは俺の心の中に……ってどうしました?」
「いや……もう……なんか……うん」
「ツッコミが追いつかないな。この兄妹は……」
「なんで私まで巻き込まれたのカスミ!?」
お互いとうとう完全な化物になった兄妹を見ながら、カスミ達はため息を吐くのだった。
『イェーイー』
微かにコウヨウの持っていた人形が微笑んだ様な気がしたが、誰も気が付かなかったらしい。
「ちょっと吐きそう……SAN値削られる……」
「このゲームにSAN値はねぇよ!?」
コウヨウの泣く頃に