妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
コウヨウは第八層のボスを倒そうとダンジョンに向かった。あの後何回か【楓の木】達からイベントの話をされたが、理由を付けて首を横に振った。
みんなはコウヨウが現実世界で家事などしている間にボスを突破したらしく、今度手伝うと言われたのだが、正直イベントを断っておいてここに誘うのは何とも言えない。だが、1人でも心許ないのは確かなので誰か誘おうか迷っていた。
「コウヨウさん? 奇遇ですね」
「え? ミザリーさん?」
彼が出会ったのは【炎帝の国】のトップ3の中に入る実力者ミザリー。こうして会うのは珍しいとコウヨウは彼女に伝えたが、彼女は散歩をしていたと言う。
「第九層までは行けたのですが、予定が合わず……」
「えっと……ギルド全員で第九層探索する予定が合わないからここにいるって認識ですかね?」
「そうです。コウヨウさんは?」
「俺はまだ第九層に行ってないので今からボスを倒そうかと……」
「コウヨウさんが行ってないのは珍しいですね……【楓の木】のみなさんは?」
「俺だけ予定が合わなくて……」
お互いがみんなの予定の調節を大変に思っていた。コウヨウは1人だけなので良かったが、これがギルド逆なら何とも言えない。【炎帝の国】は大規模なのでもっと大変だろう。
「それなら一緒に行きませんか?」
「ボス攻略ですか?」
「はい。私なんかで良ければですけど」
「ミザリーさんが良いです。お願いします」
コウヨウは割と本気で言ったつもりである。彼は【炎帝の国】のギルドマスターを倒した男であるが、別に簡単に勝てる相手とは思っていない。1人1人に対して本気で戦略を立てないと勝てない相手であると考えるほど尊敬や敬意はある。
ミザリーはギルドマスターのミィより実力が低いが、それでも後方支援のプレイヤーではトッププレイヤーな事に変わりは一切ない。
そういう意味では彼女に伝えたコウヨウだが、彼女は少し顔を赤らめて照れた。貴方が良いと言われれば誰でもそんな反応するに決まっている。だが、彼女には愛すべきトラッパーがいるので正気に戻った。
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「それは俺のセリフです。それじゃあ準備して行きましょう」
かくして、最高の後方支援と最強の二刀流が手を組んだ事を、知る人はいなかった。
☆
「【ホーリーランス】!!」
「【呪斬】!!」
コウヨウと組んだ聖女は、何故か攻撃の手を緩めなかった。彼と組むと何故か分からないが【ヒール】を使えないからだ。いや、使わせてくれないというのが正しいか……コウヨウはいまだにあまりダメージはなく、魔法を斬ったり、回避したりしてボスを斬り刻んでいた。勿論ボスの特徴的な攻撃である酸素を無くす泡を浴びてはいるコウヨウだが……
「酸素なんか無くても死なねぇだろ」
「いや死にますよね!?」
「ゲームですからね。本気で殺しには来ないでしょ?」
多少息苦しさがあっても斬り刻むのがコウヨウ。それでもボスはかなり強くなっているらしく、半分くらいのHPしか削れてなかった。
「コウヨウさんでも半分ですか……これは少し骨が折れそうですね」
「仕方ないので本気出します?」
「え?」
まだ本気じゃないのかとミザリーは思ったが、このままでも勝てそうである。だが、他ギルドとして他プレイヤーの実力は見たいのはあったので、聞いてみた。
「すぐに終わらせるので内緒にしててくれれば良いですよ。まぁ、知ってるかもしれませんが」
「そ、それじゃあ……内緒にするので……良いですか?」
「ムサシ、【剣豪の帰還】【宮本武蔵】」
そういうと、ムサシがコウヨウの姿に変わる。髪は白くなり、ポニーテールある事に変わりは無いが、髪は首筋を隠すくらいまで伸びていた。眼は青眼に輝いて、刀は2つ。
「こ、コウヨウさんが……2人……」
ミザリーは彼の姿を見て可憐にも感じ、同時に得体の知れない寒気に襲われた。コウヨウであってコウヨウでは無い姿を見ているからか、あるいはとてつもなく感じ取れる強者の雰囲気か、どちらかは分からないが、このテイムモンスターとコウヨウは絶対今自分達が戦っているモンスターを倒すと確信が持てた。
「んじゃ、一撃で決めるかツルギ」
『そうだな、後ムサシで良いぞ』
コウヨウはムサシの真の名を呼びながら最強テイムモンスターと会話をしていた。しかしながらミザリーにはわかる、もうすでにこのボス攻略は終わったのだと。
2人のコウヨウが刀を抜いてボスモンスターにそれを向ける……だけだった。モンスターの身体から突如として刀で斬られた大きな跡がエフェクトとして発生して、そのまま何もなく、粒子となった。因みにコウヨウ達はいつの間にやらモンスターがいた背後側に位置しており、刀はしまっている。
「【真空波】」
「【二天一流】」
「か、刀を……向けただけで……そしてただモンスターの後ろに回っただけで……」
「【真空刃】はムサシしか使えないみたいですね。【ウィンドカッター】の上位みたいな感じです。俺は無理なので【二天一流】で」
「貴方には……本気で勝てる気がしませんね……次のイベントに出てほしくは無いです……」
「俺出ませんよ?」
「え?」
ミザリーは敵にしたく無いと言う意味で伝えただけなのだが、コウヨウは本気でイベントに出ないと彼女に伝えた。第九層の休憩所で2人は座りながらその話をする。
「人を殺すのが嫌ですか……何となく分かります」
「みんなはもうゲームで慣れてるから何も思ってないと俺は思いますけど……俺はやっぱり嫌ですね」
ミザリー曰く、全プレイヤーが対人戦を好いているわけでは無いと答えた。どんなにトッププレイヤーでも、初めは人に攻撃することも躊躇うプレイヤーはいたはずだとも。だが、それを乗り越えた……なんて言うのもアレだが、そう言った事をしなければトッププレイヤーにはなれないはずである。
「でも俺そんなに対人戦やってないんですよね」
だが、コウヨウからすれば対人戦なんてまともにやったのはギルド対抗戦のみである。第二回の時は本気で自己防衛として斬ってた……というかコウヨウが斬ったわけでは無いのだ。
「全部このムサシことツルギが斬ってくれたんですよね」
「るん♪」
「えぇ……もしかして第二回ってあの噂の……?」
「噂?」
「るん♪ ってしたイベントだね」
「ムサシ一旦ストップ」
ミザリーがゲームを始めたのはコウヨウよりは先だが、第二回イベントで聞いた参加者の言葉が気になっていた。
──二刀流の刀使いで釣りをしている男に仲間10人が一撃で倒された。
「それどころか、刀も抜いていないのに仲間が粒子になって消えたと……あの時は都市伝説かと思いましたよ」
「ああ、ムサシが消えながら斬ってくれた時か」
「そうして貴方と初めて対峙したのはあのギルド対抗戦の時でした」
あの時かとコウヨウは笑う。ミィと対峙して平凡な人間だと嘘つきやがったな。なんて怒りに身を任せて斬り刻んだあの日。コウヨウは紛れもなく有名人になった。
ミザリーが闘志を燃やしていたのはミィと同じ【楓の木】のメイプルと【集う聖剣】のペイン。そのプレイヤーを本気で倒そうとロックオンしていた。だが、そんな事を忘れるどころか目的のプレイヤーを倒す前に、全く見ず知らずのコウヨウにみんな斬られた。
「俺はあの時ミザリーさんを斬ってませんけど?」
「確かにそうですけど、私達に絶望を与えたのは……メイプルさんでも、サリーさんでも、ペインさんでも無いです。他でも無い貴方がいたからです」
その後、彼の活躍は耳どころか身体で覚えさせられた。ミィを斬り、ペインを斬り、メイプルも斬り、モンスターも斬る。上位ギルド全てのプレイヤーがたった1人のプレイヤーに恐怖した。助けて貰った方が多いが、そんな話を聞くとやはり戦いたくは無いのだ。
「でも、ミィは貴方を次のイベントで本気で倒そうとしてます」
「嫌なこった……ですね」
「人殺しという言葉を言われてしまっては何も言い返せないのは事実……ですが、もし宜しければミィ達の想いを叶えてあげてはくれませんか?」
「想いですか?」
「みなさんはコウヨウさんと戦いたいんですよ」
正直斬られ役をしに行くようなものだがとミザリーは苦笑するが、それでもみんな、コウヨウと戦ったプレイヤーはいつか必ずアイツに一撃を与えんと考える人が多いのだ。
「想いですか……想い……重たい……」
「無理にとは言いませんが、ミィがコウヨウさんと戦った後は絶対楽しかったと言ってくるので……」
「楽しいんですかね?」
「分かりません」
「私は楽しいぞ」
「お前は黙っとれ」
「というかなんでテイムモンスターがそんなに喋るんですか???」
彼女のツッコミを笑って返した後、少し考えてコウヨウはミザリーに言った。
「ミザリーさん、俺と決闘してくれませんか?」
「え?」
「本当に俺と戦って、楽しいのか検証しましょう」
「それは……ええ、分かりました。直接お相手した事はないので、私も気になってはいたところです」
「んじゃ、10秒後に」
「はい」
そして、何か大切なものを思い出すべくしてコウヨウはミザリーと決闘をするのだが……
「どうして……30秒も持たないの……??」
「レリフルとやりますか?」
「どんな姿になっても一撃でやられてしまうのですが……」
「それじゃあ行きますわよ!!」
コウヨウがどんな手を使っても試合時間が1分も持たないミザリーが頭を抱えて戦略を練り尽くす事になるのはすぐの話である。
「ミィ! コウヨウさんに勝てません!!」
「なにがあったんだ!?」
「コウヨウさんが……1人でも強すぎます!!」
「お前……コウヨウとタイマンしたのか!? 羨ましいぞ!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!? あの人敵に回られたらまずいですって!!」
「コウヨウ……ミザリーでさえも……許せん!」
「話聞いてました!? ミィでも無理ですよ!?」
「決めた、私はコウヨウの敵に回ってやるからな!」
「お願いですからやめてください!?」
結果彼女はギルドマスターに泣きついたのだが、マスターはコウヨウに闘争心を燃やすだけである。
「主、なんかるん♪ ってする事が起きそう」
「なんでお前それ気に入ってんの??」