妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
「とりあえずメイプルは【身捧ぐ慈愛】、ユイとマイはカナデとイズさんのバフマシマシにして……あれ、俺は?」
「まだ言ってるの……コウヨウは待機だよ待機!!」
流石にボスまで一撃必殺されてしまっては【楓の木】でパーティを組んだ意味がなくなる。サリーは後衛のカナデとイズにコウヨウを見張る指示をして大人しくさせた。
部屋に入ると、ボスは魔法使いと剣士。背中合わせの2人のモンスターはこちらを向き、それと同時に水とマグマが滝となり出てくる。開始早々、5つの魔法陣から出て来たのは激流。
「【天王の玉座】」
メイプルはユイとマイを守るためにガードし、カスミやサリーは攻撃を避けるが、カナデとイズに激流が襲いかかる。
「メイプル! カナデとイズさんが……!?」
「海の支配なら負けんぞ」
サリーが気づくが、その激流はコウヨウが発した【海皇】の津波によって相殺された。何事もなかったかのように後衛で腕を組みながら仁王立ちをするコウヨウと、守ってくれたことにお礼を言うカナデとイズ。
「コウヨウ前出ないでって言って……いや、出てはいないか……」
「みんなを守って何が悪い」
「流石兄さん、まさか後衛でも活躍出来るなんて」
「ありがとう、コウヨウ君」
「笑わせるな、魔法なんて出来てこれと【多重水弾】くらいだ。それよりもあの剣士……ちょっとだけ強そうだな」
「それでもちょっとなんだね」
「ムサシ……宮本武蔵には勝てんよ」
「コウヨウ君の言葉に偽りはないとして……こっちは足場が厄介ね……少し整えるわ」
「兄さんなら【浮遊】で爆速出来るけど、今回ばかりは兄さんに頼らずやりたい……あれ? 兄さんどこ行ったの??」
「よう、剣士。俺とやらねぇか?」
「「コウヨウ(お兄ちゃん)待機って言ったよね!?」」
「ちょっとタイマンしたいから我慢してくれ」
「おいアイツ頭打ったのか!? 前のコウヨウだったら約束くらいは守って……いや、前のイベント普通に喧嘩してたな……」
人の言うことを聞かない人間が普通にいた。というかコウヨウは昔と違いすぎる。彼が竜戦士の前に空を飛びながら行くと、モンスターも翼で空を飛んだ。
「魔法使いは任せたぞ」
その一言と共に、雷を纏った大剣を振り下ろす竜戦士。それをコウヨウは左片手の刀で止める。彼が右手で刀を振り下ろすとモンスターは身を翻して避ける。そこからの打ち合いは15合程。コウヨウにとっては珍しい長期戦であった。
「助けてー、倒せないんだけどー」
「やる気無さそうに聞こえるけど多分兄さんでも少し苦戦してる……のかな?? これはもしかしたら僕達で魔法使いを倒さないといけないかもね」
「全く……でも、確かに少し嫌な予感がする。コウヨウが何を考えて突っ込んで行ったのかは知らないけど、私達で魔法使いを倒した方が効率はいいかも」
「そうと決まれば俺達はあの魔法使いをやるぞ!」
サリーの予想とクロムの合図で足場を気にしながら魔法使いに攻撃を仕掛けるメンバー。
「「【挑発】!」」
「フェイ【アイテム強化】」
クロムとメイプルが魔法使いを呼び、イズがユイとマイにバフをかける下準備をする。ユイとマイは自分達が倒して見せると伝えて、サリーはその助けになるために氷で足場を作る。
「「行きます!!」」
ユイとマイが魔法使いに対してしっかりと【ダブルストライク】をぶちかます瞬間……
「今!!」
「え? 師匠……?」
コウヨウも良いタイミングで竜戦士をぶった斬った。そうしてここのボスは同時にHPを0にして粒子になり消えていった。
「ナイスー。上手くいったねー」
「ありがとう、ユイ、マイ」
「はい! こちらこそバフをありがとうございます! ね、ユイ……ユイ??」
ダンジョンを攻略してメイプル達がユイとマイに声をかけるが、返事をしたのはマイだけで、ユイはどこかへ行ってしまった。ふと見ると、コウヨウの元に一目散にかけていったのでサリーは【超加速】をして突っ込んで行った。
(師匠の行動が意味のあるものなら……確かめようかな……)
「ユイこら待て!!」
あまりの速さにメイプルとマイはついて行けないので苦笑いしてコウヨウがいるところとは逆のみんなの元に向かった。
「サリーも大変だなぁ。ね、カスミ」
「まぁ……そうだな」
(ユイめ……コウヨウにまた近づいて……)
サリーはコウヨウと会話をする瞬間のユイを目で捉えていた。ウワキハゼッタイ許さない主義のサリーと、コウヨウにかつてキスをしたユイ。何も起こらない訳がなく……
「師匠ー」
「ユイ? どうしたよ」
「師匠、何であの時手を抜いていたんですか?」
(え? どういう事?)
「ほう、何でわかった?」
(え? 本当なの?)
ユイがコウヨウに伝えた言葉はサリーにとっては意味不明な言葉である。コウヨウが、彼が明らかに手を抜いていたと指摘するユイは真剣な眼で彼を見ていた。コウヨウが否定せずにユイに理由を尋ねるとユイは口を開く。
「さっき戦ったワイバーンはボスの一歩前の実力です。ただ、アレを一撃で倒してボスを簡単に倒せないとは思いません。最悪でも3撃あれば師匠は充分です」
「他は?」
「師匠があの竜剣士から攻撃を受けて、攻撃パターンを読んだとしても、私達よりも速く倒しているはずです。空飛べるなら地形云々ありませんし」
「他は?」
「師匠は良い人です。私達のために戦ってくれますが暴走はしません。サリーさんやメイプルさんが割と真剣に師匠に考えを伝えたのに途中から意見を変える人間ではないはずです。怒ってない限り」
「他……」
「師匠、結論言います。私達と師匠がわざと息を合わせながらモンスターを倒さなないといけなかった理由は何ですか?」
『他は?』botは通用しない。ユイに全てを見抜かれていたことに心から驚きを隠せないコウヨウ。仕方がない、内緒だと伝えてユイに答えを示した。
「恐らく……あのモンスターは同時撃破だ」
「同時撃破……?」
「俺は後衛にいるふりをしてこっそりムサシ……ツルギの一太刀を食らわせた。あの竜騎士にな」
そしたら面白いことが分かったと彼は伝える。HPが一瞬半分まで消えすぐに一瞬で完全回復をしたのだ。足場をどうにかしようと悩んでいた【楓の木】はそれを見ていない。そこでコウヨウは考えた。片方は自分がやろうと。
「恐らくあの魔法使いが回復担当なんだろうな。魔法使いからやっても良かったが、距離が少し遠すぎたし、一撃で剣士倒しても蘇生とかされたら面倒だ。しかも……」
「俺があの竜騎士を認めたのは一応事実だ」
そう言って2割程減ったHPをユイに見せて笑う。対してユイはコウヨウの眼と考えに対して驚いた。あの一瞬で同時撃破も視野に入れながら、魔法使いと竜騎士の攻撃パターンを読み、それを口にせずユイとマイに花を持たせた影の実力者であるコウヨウに対してである。
「俺はもうほとんど一撃二撃でやらかしてしまうからな。メイプル達が満足に遊べない。だからボスくらいは任せて、雑魚処理をしようとしていたんだが……流石に第十層、どうにもそうはいかなくなるみたいだ」
「師匠……貴方はやはり自分の強さに飽きたと申しますか?」
「なんで武士みたいな言葉なのかはさておいて……まぁ、そうだな……」
——あぁ、つまらぬ。口惜しかりき次第ぞ……
「これは割と答えにはなってるな」
(コウヨウ……確かに……今の私達やモンスターじゃ相手にならない……か……)
正直コウヨウからすれば最近暇つぶしが増えたと思う。【魔王】を倒すと言った手前褒められた事では無いのは分かっていた。ただ、自分はステータスだけ見ればシャレにならない事を把握して、【楓の木】の一致団結ややる気を削ぐプレイヤーとして負い目を感じていたのも事実である。そんな彼に対してユイは……
——ズドォォォン!!
「ユイ!? コウヨウさんに何してんの!?」
「へぇ……知らなかったな。矢とかならばすり抜けるんだが、大槌で叩き込まれた時はまるでドラム缶風呂に入ってる感じで首だけ大槌から出るんだな」
「へぇ……怒らないんですね」
「油断した……今のは見えなかったぞ」
全力で持っていた大槌をコウヨウに叩き込んだ。パーティを組んでいるので直接ダメージは入らないが、ユイのあまりにも急すぎる不意打ちに対して、コウヨウは咄嗟に【無双転生】を発動した。いや、発動してしまった。
「お前が俺に意味もなく暴力を振るう訳ないだろ。メイプルやサリーよりも短い期間ではあるが、ずっと一緒に師弟関係組んでたんだからわかるよ」
「私がなぜこんな事をしたのか……分かりますか?」
「俺がまた弱音吐いたからか?」
「そうです。それに追加して師匠に伝えたい事があります」
「なんだよ?」
「私が貴方を超えるので、コウヨウさんは自分が強いとか驕らなくて大丈夫です。あなたが神でも悪魔でも、龍でも剣豪でも、どんな強さを誇っていても……私は絶対それを破壊します。1人にはしませんよ」
完全なる宣戦布告である。コウヨウ以外の【楓の木】メンバーは先程ボスを倒したことなど忘れている勢いで、ユイの宣言に驚いていた。ただ1人、コウヨウだけは少し口を緩めてニヤけていた。
「マイは良いのか? 姉妹だろ?」
「私は私です。お姉ちゃんは関係ありません。誰が何を思っても、何を言っても、私の覚悟は……貴方を超えたい覚悟は揺るぎません」
「私は絶対、師匠を超えます。そうすれば貴方は私より強くならなければならない。貴方を楽しませられるのは私だけ……そうすれば貴方は私だけを見てくれる」
「いや、なんか怖いわ。念のため聞くが……何故お前は……ユイはそこまで俺を見る?」
「言ったでしょう? 私は貴方を愛しているからです」
「好きだからこそ、貴方の隣に立ちたい。愛しているからこそ、貴方に勝ちたい。コウヨウさんを思えば思うほど、私はそのチートじみたステータスと、努力で底上げしたプレイヤースキルをボッコボコにしてぐっちゃぐちゃにして蹂躙したいんです」
「おいコラカナデ、テメェまたユイに訳わからねぇ本を……いやあの顔は読ませてねぇな……」
「私の本心です」
「くっそ……それだけはユイの口から聞きたくなかった……」
とは言ってもコウヨウは笑っていた。仕方ねぇなと一言ユイに伝えて大槌から身体を出す。
「ユイ、これ持ってろ」
「これは……ムサシの指輪……?」
そうして、【天下無双の指輪】をユイにぶん投げたコウヨウはそのまま大声で叫ぶ。
「ユイ、テメェに果し状を仕掛ける。ムサシはいらん、俺の、俺だけの全力で、喧嘩を申し込む」
「第十層に上がってから探索前に決闘だ。はなっから容赦はしねぇし、勝っても負けても恨みはねぇぞ」
「分かりました。その喧嘩、私が買わせてもらいます!」
こうして急に始まったコウヨウとユイの喧嘩……つまりは決闘が始まる。
(私は……コウヨウのなんなんだろう……)
対してそれを聞いていたサリーだけ決闘よりも大事な事を考えていたのだった。
次回、最強の師弟喧嘩