妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
大槌使いのユイはコウヨウ好き好きLOVEちゅっちゅー人間である。最初こそ他人、本当に赤の他人だった。出会いもたまたまで、コウヨウが強かったのもたまたま。好きになったのも、たまたまである。
「はぁ……カッコいいなぁ……師匠から貰った刀……」
「ユイ? 何してるの?」
「お姉ちゃん、私、刀使いになる!」
「妹がグレた!?」
そうでは無い。ユイからしたら冗談である。たまたまコウヨウと一緒にクエストをクリアしてたら手に入れた宝箱の中に入っていた刀を貰った。その刀が黄色の持ち手で可愛さがあるが、しっかりと切れ味がある刀。普通にかっこいいと思うのは当然のことである。
【
ハッピーでラッキーな人間の手元にしか収まらない刀。【ツバメリバース】を発動可能
【ツバメリバース】
真下に刀を振った後、すぐに刀の向きを上向きに変え真上に斬り落とす。攻撃の瞬間のみSTRが100倍になる。
破格である。
「バカなの!?」
「え? どうしたのお姉ちゃん?」
「私達の大槌より強いの反則だよね!? え? 私達攻撃力つよつよで、可愛くて最高の大槌使いで、【楓の木】のマスコットキャラクターだよね!?」
「一番最後は違うんじゃない?」
「しかもずるいよ! 私持ってない!!」
「お姉ちゃんのはまだ師匠探してるよ? 私と同じような刀を見つけようとしてるんだけど……ドロップ率低すぎるから……」
「ぐっ……何も言い返せない……」
マイがツッコミ役になったのはこれが初めてである。というか、刀に対してもそうだが、そんな刀を簡単に引っ張ってくるコウヨウの運の良さ(早く自分の分も見つけてくれ)とそのレベルのクエストを一緒にクリア出来るユイの強さに改めて舌をマイた。マイだけに。
「えっ……ユイ……お姉ちゃんを捨てるの? コウヨウさんの養子になるの?」
「何言ってるの? 私達2人で一つでしょ?」
「コウヨウさんとユイで2人に一つしか聞こえないなぁ……」
「師匠は師匠だし、お姉ちゃんはお姉ちゃんだし」
ユイはあっけらかんとそう言ってるが、マイとしては正直複雑だ。実の妹に好きな人ができて、自分もその人が好きで、妹の為に一歩引いたのは別にいい。妹の幸せが姉の幸せだから。だが、妹が構ってくれないのとか自分の師匠が妹にしか構わないのはめっちゃ寂しい。
「ユイが最近コウヨウさんとばかり出掛けてるし……」
「師匠はお姉ちゃんも誘ってるじゃん。メイプルさん達と遊ぶからって断ってるのお姉ちゃんでしょ? もしかして私のため? それだったら遠慮しなくていいよ。師匠にはサリーさんがいるからもう諦めたし」
サラッと衝撃な発言をしてマイを驚かせる。なんやかんやでユイは大人だった。コウヨウ好き好きLOVEちゅっちゅーオーラを出しているふりをしながら、心の中ではサリーとコウヨウ。お互いがお互いを好いている関係が1番ユイの大好きな2人なのだ。
「良いんだ……」
「うん。でも、やっぱり師匠は大好き。だから私は私にしか出来ない事を師匠に今までのお礼として返すことにしたんだ」
「身体?」
「お姉ちゃんはなんて事言うの!?」
マイが穢れた瞬間ベスト1である。ユイは顔を赤くしながらもハッキリと否定して、マイに伝える。
「私は師匠が退屈させない様にするんだ」
「退屈?」
「師匠最強だから、やっぱりモンスター倒すのがつまらないんだって。いつかこのゲームすら楽しくなくなりそう……」
コウヨウが少しばかり呟いた事をマイに伝える。初ログインからステータスをメキメキと伸ばしていった化け物二刀流釣り師はどの層に向かってもモンスターが一撃だった。テイムモンスターのツルギくらいしか相手にならず、正直このまま【魔王】討伐の特訓だけが、このゲームの楽しみ(使命だが)になってしまっているらしく、クエストも受けたくは無いそうだ。
「もうさっさとラスボスぶっ倒してログアウトして寝たいって言ってた」
「流石コウヨウさん……」
「だから決めたんだ。私が師匠を倒して、私が頂点に上がれば、師匠は私を倒す為に強くなる。そうすれば……飽きないかなって」
「そんな無茶苦茶な……」
無謀も無謀。されどマジである。コウヨウを倒すと言うだけで倒せたら、彼は有名プレイヤーにはなっていない。最強という名もつけられていない。倒せないから、最強なのだ。それでもユイは諦めない。
「師匠が右足を一歩出した後、足の角度を斜めに曲げたら【雷加速】」
「え?」
「右足を前に出してから曲げなかったら【居合極】……実は師匠が居合する時割と左が多いんだよね、普段右利きなのにさ」
「ユイ? まるでコウヨウさんの全てを……」
「左足に関してはまだ解析がないけど、左足を一歩下げて身体を右肩前にしたら【多重水弾】か【ミラ・オリジン】の発動率が85%……」
「ユイ……もしかして……全部わかるの?
「全部じゃないよ。ただ、ある程度分かるんだ。サリーさんみたいに、モンスターやプレイヤーに対しての回避能力とか、未来予知はできないけど、師匠の動きだけは90%くらい、癖を分かってる。そして殺気もモーションも……とにかく、師匠の攻撃だったら合わせるくらいは出来るよ」
あくまでもコウヨウに対してだけだが、マイは妹を初めて恐ろしいと感じた。自分もコウヨウとは付き合いはゲームの中では長いが、コウヨウの行動は何一つとして頭に入ってない。釣りする時に椅子に座るとか、ご飯作る時は魚を塩焼きにすることが多いとか、たまに猪などのモンスターを直で噛みついて食べるくらいである。
ユイは一方で、コウヨウと会った時から師匠と呼び、彼の言葉の一言一句を深く考え、味わった。だからこそコウヨウの動きだけは分かる。
「これくらいしないと、師匠が一緒に遊んでくれなくなっちゃうし、またギルド抜けられたら嫌だから……」
一度コウヨウは自身の強さと向き合う為にギルドを抜けた。そのトラウマはユイの中にしっかりと残っている。
「お姉ちゃん、今回ばかりは私はお姉ちゃんより強くなる。お姉ちゃんの事は好きだけど、コウヨウさんのことはもっと好きだから」
そう言って、ユイはコウヨウと喧嘩を始める決意をした。
☆
「ふ、2人とも……凄すぎる……」
「お前……俺を蹴りやがったな……」
「まだ……私は……倒れてません……」
第二回戦を【楓の木】訓練所で行った。あの決闘はコウヨウの負け。ただ、武器を使った事とは別に殴り合いもユイに頼まれた。女の子を殴るのは悪さをした時だけだとコウヨウは断ったが、ダメージが無いのにユイがコウヨウの顔面に一発ビンタを入れたのもあって、やっぱりコウヨウが怒った。
訓練所に連れて行って、【コネクト】を発動。お互いにお互いの顔と腹と背中を殴り合う大喧嘩。拳と拳がぶつかると、それだけでとてつもない風圧が、訓練所に出現した。
「うわぁ……ユイもコウヨウさんも……目が本気だ……怖い……」
「その肋骨へし折ってやる」
「そのバカな頭叩き伏せてあげます」
お互い攻撃力5桁、スピードも4桁。マイには把握できないが、風圧だけは感じ取れる戦いにドン引きである。なんでマイがここにいるのかというと、ツルギの見張り役兼戦い見届け人だった。コウヨウとユイが決闘するのは知っていた。
2人が戻って来た時は【楓の木】ギルド内でたまたまマイしかおらず、マイが勝敗を聞いただけなのに第二回戦が勝手に始まったのだ。因みにお互い割と殴られて頬が赤い。それでもHPが減らないのは、コウヨウがイズから貰ったVITを底上げする貴重なポーションをこのくっだらなくても2人の命かけた出来事のせいで、ユイと2人でがぶ飲みしたせいである。後でイズに謝る事を決めた。
「師匠、退屈してないですか?」
「俺が本気でも倒しきれねぇ奴がいるのに退屈も何もあるかよ」
「ならしばらくはゲーム面白そうですね」
「全くだな……そんなつもりで言ったわけじゃ無かったが……強くなってくれて嬉しいぜ」
そう言ってユイに突っ込んでいくコウヨウ。近づいて来る右拳を左手で受け流し、その勢いでユイはジャンプしてから右足をコウヨウの顔に当てに行く。コウヨウもユイの足を左手でガードして、そのまま右足を高くあげて蹴りを入れにいくが、ユイはコウヨウの頭を両手で持って飛び箱ならぬ飛び人間をしてコウヨウの後ろに着地。
すかさずコウヨウは上げた右足を後ろにいるユイまで回して彼女の頭に狙いを定め踵落としを実行するが、動作がユイでも分かったのでそのまま逃げられた。
「ムサシ? コウヨウさんとユイがもう人間辞めてるんだけど……?」
「いいぞ主このままもっと……」
「これ以上コウヨウさんを強くしてどうするの!?」
「強くなりたいなら俺を喰ってみろ……俺もお前を噛みちぎる……!」
【無詠唱】からの【名状しがたい何か】でユイを食べようとするコウヨウ……それをユイは待っていた。
——ズバァァアアア!!
血が……飛び散った(モザイク処理)。コウヨウがスキルを斬られたのは分かった。だが、何で斬ったのか一瞬不明。されど、理解した。
「お前……大槌使いやめたのか?」
「今はお姉ちゃんとの絆より師匠との絆です!!」
「今日だけ刀使いかよ」
コウヨウが見覚えのある刀はユイの手元にあり、その刀でスキルを斬ったのだ。
「【魔法削除】ではないとスキルは斬れないと思っていたが……そういえばサリーがフレデリカさんと決闘した時【多重石弾】を斬ったと聞いたな」
サリーも確かにスキルを切っていたがコウヨウの【魔法削除】はスキルをなんでも斬れるスキル。STRに依存はするが、その分数字が高ければなんでも無効にできるのだ。今回はその逆。単純にユイが斬れるスキルを彼女は斬っただけである。
「師匠と言えば刀です」
「面白い……見よう見まねでもかかって……!?」
見よう見まねではある。ただ、ユイの刀の構えはどう見ても素人の構えではなかった。隙が……無い。
「お前……誰に教わった?」
「見よう見まねです。二刀流では無いので、どちらかというとレリフルさんとかカスミさんですけど」
そう言ってユイが走る。コウヨウは二刀で構えるが、ユイが大振りする為に振りかぶる事は全く無かった。今までの刃を持つ相手はコウヨウに突っ込んできたのもあり、隙だらけでそのまま斬れた。動かなくても爆速で斬れたのだが、そのまま鍔迫り合いの選択しかなかった。
もう片方の刀をユイの首に当てようとしたところ、それを予測されて離れられた。
「なんでだ……【雷加速】を発動出来ない……しても別に良いが……嫌な予感がする」
「どうして何もしないんですか? 二刀流なんだから早く斬ればいいんじゃないですか?」
「貴様……言ったな?」
もうそんな考えを全部捨てた。嫌な予感は全部ゴミ箱に捨てた。こいつ絶対斬ると宣言したコウヨウはムカつくと言って、あの構えをする。
「ユイ!? コウヨウさん刺激したら……【二天の無紅へ】が……」
「さぁこい師匠!!」
「絶対斬る、マジで斬る」
「いや……もしかしてわざと……?」
刀を構えたユイに対してコウヨウも二刀を頭より高く上げる。その瞬間、コウヨウを囲む様に大槌が8本地面落ちた。目の前に即死の大槌が降って来ても眉一つ動かしはしないコウヨウ。
「目眩しか?」
「フフッ、どこにいるか分かりますか? 後ろとかに隠れてしまえば全く問題無いですよね?」
「安心しろ。どこへ逃げても……この範囲は、円周上だからな!!」
「ユイ!? 無謀だよ……!?」
瞬間、コウヨウはスキル名を言わずにそのまま二刀を下ろした。大槌の円から抜けたコウヨウはそのまま刀を振り下ろしたまま動かない。
——ヒシュババババァァァァァァァ!!
8本の大槌に対して無数の斬撃エフェクトが舞い散った。全ての大槌は宙に浮いて全力で斬り刻まれるが、訓練所なので破壊は免れる。ここまでの威力があればもはや誰1人としてこの地には立っていない。
——いつから、そこにいたんだ?
コウヨウだって、ユイに刀で背中を刺されなければそう確信していたのだ。
「嘘……ユイ!?」
「大槌が宙を舞った瞬間です。少し前にこっそり一か八かで足を運んでみても、私にダメージはありませんでした」
「なるほど……大槌を盾にして範囲外に逃げたのか。確かに今のAGIなら出来るな……お前は最初から、これをなんとかするつもりはなかったんだな。寧ろ避ける気だった」
「言ったでしょう、師匠の事なら手を取る様になんでも知っています。この最強スキルは確かに広範囲で一撃必殺……でも、その範囲はこの訓練所全てとは限らない……なんとかするよりちゃんと避けるのが戦いです」
このスキルが半径1Km圏内の円周範囲なら、ユイは1Kmと1mm下がれば問題無いという事である。ユイはあの大槌大量にコウヨウを囲んで、【二天の無紅へ】の範囲を一瞬で把握した。コウヨウが斬る僅か一瞬0.01よりも早いスピードで白い線が見えたのだ。
「お前がこのスキルをみたいと言った時、俺はただ珍しいからだと思ったが、全てはこのためか」
「両方ですね。フレンドリーファイアがオフの時は範囲内で見えましたし範囲外でもみて把握しましたよ」
目を閉じて、コウヨウは笑う。確実に今回ユイがコウヨウを刺せた理由は【コネクト】によるAGIがコウヨウのスキル後に訪れた硬直を上回った事。そして、ユイが一か八かで、彼のスキルを見極めた事。
「それ以上でも、それ以下でもありませんでした……師匠。最後に言い残す事は?」
「お前が前のイベントで作ってたおにぎり……俺が食べた面だけ塩振りすぎててめっちゃしょっぱかった」
「じゃあ師匠が一生私に料理作って下さい」
「サリーがいるから嫌だ」
「じゃあ……」
——私を愛してくれない貴方なんて……この世にいらない!!
そう言って、刀を抜いた。彼らは笑いながら消えていき、ユイと共に実態をとりもどしたのであった。
「ヤンデレは流行らねぇぞ、バカ弟子」
「サリーさんの真似ですよ」
「どっちも凄かったけど……まさかユイがコウヨウさんを倒すなんて……」
「おにぎりがしょっぱくてな、悪い意味で塩を送られたよ」
「私も良い意味で塩を貰ったからね。【コネクト】が無かったら負けてたよ」