妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
「【クインタプルスラッシュ】!!」
訓練所で軽く打ち合うというサリーの案で、寸止めノーダメージを条件に訓練していた2人。サリーの攻撃をコウヨウは普通に刀で受けた。身体で受けてはいないので、特にダメージは入っていないが、少し苦い顔をして受け止めた。
「やっぱり刃が重いな。というか幻影は?」
「なんかもう、これしか無いのが分かっちゃったから……」
「さっきのスキルキャンセルと武器の変形。取ったと思ったら実は偽物でしたのコンボは普通に騙されたけど?」
「確かに騙せた……けど……コウヨウの場合AGIが高すぎて、分身を一瞬で斬られたり、騙して後ろから斬るっていう戦略が通用しない……」
かなり朧の【黒煙】などで感覚を狂わされたが、最終的にはサリーが折れた。【楓の木】訓練所で少しだけ打ち込んで今のサリーに自身を持ってもらおうとしたコウヨウの案だが、普通に自身を失くす勢いでSAN値を削った。
「【黒煙】やら幻影スキルやらで姿消してもなんかたまに気配察知されるのに自信持てるわけないでしょ……武器も変形したりスキルキャンセルして不意打ちしてるのに……」
「なんか分かるんだよな……サリーだからかもしれん」
「ユイにだってこの前決めきれなかったんだよ!?」
「それはあの時お前のバイタルが安定しなかったからだろ」
「仮にそうでも……いや、コウヨウさぁ……この前風の噂で聞いたけど【隠密Ⅹ】のプレイヤー普通に斬ってたって聞いたけど?」
「なんかムカついて」
「普通に異常だよ? 透明人間斬ったのと同じじゃん」
クソチート扱いしてきたあの忍者の件だった。厳密に言うとどうやらあのプレイヤーは【炎帝の国】に所属していたギルドの一部であったみたいで、後日ミィと話をしていたらその男に会ったのだ。
また、勝負を仕掛けてきたので返り討ちにしてミィに説教してもらうように指示をしたので多分もう来ないはずだが……
「ムカついただけで【隠密Ⅹ】のプレイヤーは倒せないんだけど??」
「俺を倒したいならユイ呼んでこい」
「コウヨウとユイ本当に仲良いよね」
「やめろそんな濁った眼で俺を見るな。俺からしたら蛇食いやがった妹に対してビビってるから安心しろ」
「それは確かに……」
戦いながらコウヨウとサリーは探索の結果を話していたのだが、サリーからメイプルが蛇を食ったなどと衝撃な発言を聞いて笑いが止まらなかった。苦い方のだが。
「【毒性分裂体】……なんかメイプルが分裂するのは聞いたけど……カナデが大丈夫かな……」
「別にあのメイプルじみたものは爆発するだけだから大丈夫だよ? 逆になんで??」
「なんか……うん。アイツらの癖の話だから多分大丈夫だろ……」
コウヨウの言葉にサリーは同じく苦笑いをして想像する。ただでさえ毒まみれとか訳わからないプレイスタイル(ゲームも現実のベッドの話も)なので、カナデがまた大興奮してしまうのではないかと心配した。
「カナデが最近マゾっ子になってきてるんだよな」
「まぁ、たまにメイプルの前ではメスだしね」
「うちの妹が怖いんだが」
「コウヨウには私がいるから大丈夫」
「たまにお前の本の知識も混ざってんだよ反省しろ」
☆
「お、コウヨウここにいたのか」
「ミィさんお疲れ様です」
コウヨウは【魔王】のために第十層攻略をしていた時にミィと会った。マルクスとミザリーはいないが、【炎帝の国】もここまで来ていたらしい。
「せっかくだから一緒にどうだ?」
「構いません」
珍しいとミィは思った。普段なら怠いの一言で返すのに、今日は何かとやる気があるコウヨウ。どんな事情だと嫌な予感がマシマシで危険かと思いなが聞いたのだが……
「メイプルとサリーが忙しくなったので、最後くらいみんなで楽しんでゲームしようかと思いまして」
生まれて初めて疑った自分をぶん殴りたかったミィである。
「人間五十年〜♪♪ 下天のうちを比ぶれば〜♪♪ 夢幻の如くなり〜♪♪」
歴史上の書物にある歌と共にほぼ1撃でモンスターをぶった斬り続けているコウヨウに対してもはや突っ込む気持ちもなくなったミィ。しかも1番ヤバいのはテイムモンスター無しでこの立ち回り。正直自分が今からコウヨウの後ろから隙をついても絶対斬られると思わせられるほど隙が全く無い。
「な、何なんだ……昔のコウヨウよりも……いや、今までもそうだったが、今はもう誰も手をつけられないくらいのオーラがあるな……」
「ミィさん手伝って下さい」
「私いるか?」
「めっちゃいります」
「コウヨウ、お前のその強さは何だ? レベルも最大、スキルも最近見つけてないんだろう? PSを鍛えるのは分かるが、限界があるはずだ。どうやったらそこまで強くなれる?」
「ユイに負けましたけど?」
「あれはもっと意味がわからんぞ」
ミィはいよいよ耐えられなくなって聞いた。最早コウヨウの勝てるものはいないとミィは本気で思っている。正直な話をするとだ、完全不意打ちで【無詠唱】【二天の無紅へ】をかませば、回避最強のサリーどころか全てのプレイヤーすらも簡単に斬れるはず。それをしなくても隙がない強さはどこからくるのか。
「ぶっちゃけて言うと俺も分からんのです」
「はぁ?」
「最初は……レベルが上がるまではムサシと首輪で強くなりました。レベル最大になってからは多くのプレイヤーと戦って、受けの極意を身につけて強くなりました。ただ、今は全く分からないんです」
「俺が今思っているのは、宮本武蔵であるムサシことツルギのために【魔王】をぶった斬ること。それしか考えずにムサシ達と戦っているだけなんです」
だからこそ、コウヨウがみんなから恐れられてる理由が分からない。強くなった自覚も、あの受けの極意をしっかりと身につけてからはあまり無くなった。そんな話を聞いたミィは……
「そうか……お前は恐らく龍なんだな……」
「え?」
「コウヨウ、龍は何で強いと思う?」
「元々強いからでは?」
「そうだ。コウヨウも同じ。元々ゲーミングの器は最強だった。実力が追いついていなかっただけであって、身体が器に合えば、それは最強なんだよ」
結局、明確な原因や理由は分からない。ただ、そういった感覚なのだろうとミィは空想上の理論に近い事を真剣に伝えた。
「コウヨウに挑むのは神か龍に挑むのと同じくらいの覚悟がないと倒せない。お前は一度ユイとやらに負けたな。その子はどんな覚悟で来たんだ?」
「ユイは……何だか怖かったです……」
——あなたが神でも悪魔でも、龍でも剣豪でも、どんな強さを誇っていても……私は絶対それを破壊します
あの時のユイは何か違う。別に怨念が乗り移っていたとかは無いのだが、めちゃくちゃ怒ってたのは事実だった。
「怒りが人を恐怖させるってああいうことなんですね」
「お前の血が混じっているんじゃないか?」
「混じってるのは後にも先にもメイプルだけですけど」
そうじゃないとミィは言った。元々コウヨウの弟子であるユイは力の制御や、戦い方などはほぼ全てコウヨウから学んでいる。そんなコウヨウは普段は物腰柔らかな好青年で争い嫌いで釣りばかりだが、大事な人を傷つけられて怒り狂えば誰も手がつけられない暴君である。それで散ったプレイヤーやNPCは2000人を越える。
「誰かを思う怒りは自分を強くするという理論をユイはコウヨウを見て学んだから、あの強さだったんじゃないかな」
少し考える。そもそもユイは何に対して怒っていたのか、そうして考えられるのは……
「俺が……俺を傷つけたから……?」
コウヨウは優しいが故にメンタルが比較的弱い。たまに出てくる「自分はいてもいなくても良い」などの発言を今回もしたが故にユイがキレた。
「あいつ前に言ってたな……サリーを好きな俺が大好きで、俺を好きなサリーが大好きだって……」
「自分の愛した人が例え自分自身でも悪くいうのが耐えられなかったんじゃないか? だから……多分ユイの怒りの原点は大切たコウヨウやサリーを、お前達の中にある卑屈な心が傷つけるのを黙って見てはいられなかった」
「だからあいつめっちゃ怒ってたのか……」
「仲直りはしたのか?」
「いや……あまりユイと話してなくて……サリーをなんとかしようと必死だったので……」
「そういえばお前達結婚するらしいな」
数年後だとコウヨウは笑う。今はまだしないが、いつかするつもりである。
「抜け駆けは許さないんだが」
「黙れよ独り身」
流石のミィも武器持って味方のコウヨウに襲いかかった。普通に返り討ちの拳骨を喰らったのだが。
「ミィさん。俺決めました」
「顎が痛い……なんだ……?」
「ユイに告白してきます」
「バカなの……!? 痛い! 顎が……!」
「んじゃ、今日はありがとうございました。なんかスキル手に入れたんで、助かりました」
「おい待て……コウ……」
お礼を言って去ろうとするコウヨウを止めるミィだが……
——ゾクリッ……
瞬間恐怖する。あまりの恐怖に顎が痛くても武器を抜いた。呼吸を止めることしか出来ず、苦しくなる。その間約4秒程。そしてその対象は武器を全く抜いておらず、少し目を細めてミィを見ているコウヨウである。
「な……何をした……コウヨウ……」
「新しいスキルを発動しただけです……それじゃあ、また会いましょう」
そのまま走ってどこかへ行った。コウヨウが走っていくと先ほどの恐怖は消え、ミィの呼吸も落ち着いた。
「な、なんなんだ今の……まるで蛇に……いや、この世のものではない何かに睨まれたような……」
【
刀の鞘に触れた場合のみ発動する。広範囲の敵を威圧して動きを止める。威圧の強さはプレイヤーのレベルやステータスなどによって異なり、最大まで行くと動きが10秒止まる時や、武器を意図せず勝手に抜かせることがある。