妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
昔昔、かつて宮本武蔵という侍が存在した。彼は決闘約60戦無敗を誇る最強の侍であり、歴史の本にも載る人物。ただ、その人間と相見えた唯一の存在がいた事はあまり知られていないのである。
その名は夢想権之助。宮本武蔵と引き分けた唯一の人物にして、殺さずの精神で戦いを続けてきた侍の1人であり、神道夢想流杖術の流祖だ。彼は宮本武蔵に一度は決闘で敗れたものの、殺される事はなく、別の試合でお互いの身体に剣を向けて引き分けたのである。
「その時の宮本武蔵はこう言ってくれたのだ『負けた!!』ってな」
「なんで俺また拉致されてんのに講義受けてんの??」
この前、コウヨウは【魔王】に誘拐された。そして、今! また……誘拐された(お互い合意の上)。屋敷に着くなり、【魔王】がコウヨウを椅子に縛りつけ、講義を行ったのである。
「貴様には余と宮本武蔵の事を知ってもらう。ここで余を倒せる存在は宮本武蔵を連れ、弟子になった貴様しかいないのだ」
「俺がいないと第十層攻略出来ないってことか?」
そうではないと、【魔王】は告げる。一応攻略は出来るが、宮本武蔵と夢想権之助の存在は消える事がないという。攻略出来るならそれで良いのではとコウヨウは思ったのだが……
「確かに今はそれでも良い……が、余と宮本武蔵は侍としての怨念でここに転生した者。百歩譲って宮本武蔵はもしかしたらいいと思うが……余は絶対にダメだ」
「理由は?」
——怨念の女人形すらも呼び出すからだ
【魔王】の言葉にコウヨウは眼を開いて確信と絶望をした。怨念の女人形で確実にわかったからだ。
座敷わらし。元々コウヨウのテイムモンスターであり呪われた少女。それはコウヨウにとっての害悪にして頼りになる者であった。
「つまりはアレか……お前が存在するだけで、人を呪い殺すようなゲームシステムでない存在を誘き寄せるって事か……?」
「左様。だからこそ、余はここにいてはいけぬ。元々宮本武蔵を生かしたのもそのためだ。宮本武蔵の弟子であれば師を超えることだってある。1つの賭けだが、それしか方法がなかったのだ」
「ムサシにつけた呪いの首輪は……?」
コウヨウの言葉に【魔王】は笑う。
——余は……我々を倒すものを待っていただけだからな。それがその証よ……
「だから……」
「ちょっと待て。お前がムサシに対して全てを滅ぼす存在だの言ってたのは……」
「余の存在で、いつか人が朽ちる。それを余は感じていたのだ」
「じゃあムサシをモンスターにしたのは?」
「それくらいしないと奴は諦めずに自ら来るだろう。お互いが害なすものなのにも関わらずな」
「なぁ、まさか俺が最近体調悪い理由って……」
「貴様に我らの怨念が身体に黙り込んでしまっているからだ。身体だけにな」
「お前今すぐにぶっ殺して良いか?」
コウヨウはかなり頭を回した。それくらい彼の言葉からとんでもない事実が発されたのだ。
ムサシも【魔王】もどちらも敵であったと。結局はコウヨウが倒さないと、別のプレイヤーが大変な事になるのだ。だから、【魔王】夢想権之助は元々どちらも倒せるプレイヤーを探していた。宮本武蔵は少しばかり大切な記憶を無くし使命を覚えてなかった。
「怖気付いたか?」
「まぁな……本気でやべえ事実聞いてるから……ただそうだなぁ……おい、この拘束解いたら面白いものを見せてやる」
「面白い物……? 逃げる気か?」
「そんな気はねぇよ。あっても変な穴からここにワープしてきたんだから出口の道わからんて」
コウヨウの言葉にそれもそうかと拘束を外して、彼を自由にした。そしてコウヨウが出したのは……
「木刀か……床に置いて何をする気だ?」
「なんかモンスターか木偶の坊とか出せるか?」
コウヨウの注文に一応出せると木の形をした黒い影のような物を出した【魔王】が一瞬で表情を変えた。
——話は分かった、テメェらは絶対ぶっ倒す事にするわ
それを言う直前か、それと同時か、いつ斬ったのかわからない。だが、コウヨウは木刀を床に置いた状態で、正座をし、膝を立てて中腰になるその一瞬の隙に木刀で影を斬った。叩くではなく確実に斬撃ダメージを与えた。
「だから……お前も鍛えとけ」
「ほう……この場合余は強くなってはいけないのではないか?」
「並のモンスターじゃ飽きるからな。最後のボスだろ? せいぜい俺を楽しませてくれ。ムサシも権之助もまとめて斬るのはこの俺だ」
別に誰かがアンラッキーになるからでも、コイツらがいたらやばいからでもなかった。なんとなく、コウヨウはコイツらを斬りたかったのだ。
「最強の剣豪とそいつに相打ちかました剣豪……面白そうだ……俺が斬りてぇ……あぁ……楽しみだ……!!」
「そうか……やはりお前は武士の心がある。実力がある。宮本武蔵が……奴が貴様にずっと付いていた理由がようやくわかった……怨念によって強気になってるところもあるが……」
「その心技体を見るに、貴様は時代が違えば最強の武士だったんだろうな」
「だが、気をつけろ……宮本武蔵は確かに貴様の味方だが、余達の力がいつか、怨念で貴様に災いをもたらしてしまう事があると」
「最悪があっても、眼を覚ましてお前を斬りにいくぜ」
ならばと、コウヨウに対して【魔王】はいくつかの物を渡す。
「いつかお前が余を倒しに来る時に使え。その時は最強を掲げて貴様に挑む」
「なら貰っとく。ムサシには名前を思い出すまで黙っとくから安心しろ」
「かたじけない」
そのセリフを聞いたコウヨウは少し笑い、やっぱりお前も武士なんだなと伝えてそのまま帰ったのだった。
「お前の……お前達の喧嘩だけは買ってやるよ」
そしてコウヨウはあの野郎絶対痛い目見せてやると自分の昔から今までの相棒に対してそう決意した。
☆
「「お兄ちゃん(紅葉)起きて!!」」
「ん……んあ……え……っと……はい??」
いつものように自宅で楓と理沙の勉強を見ながら料理を作っていた紅葉。しかし日々の疲れからか妹である楓の部屋で眠ってしまう。そんな時大声で起こされたので何が起こったのか分からない顔と寝ぼけた顔で2人を見た。
「黒塗りの、高級車とか、傷つけた?」
「なんで川柳みたいに喋ってるの?? と言うか、昨日大変な話をしたからお兄ちゃんにも伝えようと思ったんだけど忘れてて今思い出したの!!」
「受験今日だっけ?」
「違うよ馬鹿!! ってか紅葉本当に疲れてない!?」
「んー……んで……なんだっけ?」
「楓やめよう、今の紅葉は冷静な判断出来ないから……」
「ペインさんが【楓の木】協力する代わりにお兄ちゃんをよこせって……!」
「こら楓!!」
「良いよぉ……」
「ダメだろぉぉぉおお!!」
別に寝ぼけてなくても疲れてなくても紅葉はこの提案を飲むのだが、理沙としては心配しかしていないのである。
☆
「眠い……辛い……」
「おいメイプル、大事な話なのにコウヨウがこんな状態で良いのか?」
「えっと……お兄ちゃんは良いと言ってたので……」
「んで……話だけ簡潔にお願いしても良いですか?」
眠そうなコウヨウに対してペインは一つ息を吐いて伝えた。今回の【魔王】討伐は3パーティの計24人で行われるみたいなのだが、【楓の木】と【集う聖剣】が協力して倒してみようかと画策している途中であった。
だが、【楓の木】は既に8人なのでパーティとしては制限があるのでコウヨウを【集う聖剣】に一時的に入れて、パーティを組めるようにしたらどうかというペインの案であるが……
「いや、別に俺が【集う聖剣】に入る必要なくね?」
「「「え?」」」
コウヨウの見立てとしてはその時だけ24人適当にパーティが組めるというだけであり、8×3固定での24人ではないのではとはっきり伝えた。
「あ……そうか……確かに……そうかもしれない」
「もし8×3なら【集う聖剣】に行かないといけないと思いますけど、そうじゃなくて適当24人なら俺ここにいますよ……とりあえず運営がそこしっかりしてくれるまで動けません。んじゃ、解散で」
「珍しいですね……ペインさんがこんな初歩的な考えをするなんて……まぁ、気づかなかった私達もアレですけど……」
「みんな新層とか【魔王】とか勉強とかで疲れてんだろ……解散……」
「コウヨウ! 今回の【魔王】が24人のパーティみたいだぞ!! 私達のギルドに来ないか!?」
「うるせぇメスガキ」
普通に木刀でぶっ叩いた。ペイン達には見慣れた光景だが、ギルドマスターでもないプレイヤーが木刀一本でトップクラスのギルド【炎帝の国】をまとめるギルドマスターミィを叩き伏せるなんて事はコウヨウ以外ありえないのである。
「頭痛い……」
「本当……凄まじいプレイヤーになったものだな……」
「ミィ大丈夫? 頭」
「自信ないです……」
「いやそこは自信持って……コウヨウやり過ぎ……」
「俺の眠りを邪魔するな……すやぁ……」
そうして眠ったコウヨウだが、その後日のこと……
「はぁ? もしかして3パーティ?? んじゃペインさんに世話になるか」
「「裏切り者!!」」
結局【集う聖剣】に行かないといけないかもしれないコウヨウである。
「アイツらにはまだ、黙っておくか」
ついに明かされる【魔王】の真実。