妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
「というわけで今日からコウヨウは【楓の木】と【集う聖剣】を行き来する事になる。コウヨウ、知っている顔だとは思うが挨拶を頼む……はい、よろしくお願いします」
「「「いや全部自分で言うなよ!?」」」
「普通俺の台詞なんだがな」
最初の台詞はペイン……ではなくてコウヨウである。普通にボケたし、よろしくお願いしますまで全部言った。相変わらずだなとペインは苦笑するが、コウヨウは普通に頭下げてお願いした。因みにというわけでの訳というのは単純にコウヨウが訓練したいだけである。
「んで、どうしますか?」
「何をだ?」
「ここにいるならレリフルになりますけど」
「やりやすいように頼む。別にレリフルでも良いが、【魔王】と戦うならその侍装備じゃないと足りない部分もあるだろう」
「御意ですわ」
「侍姿でお嬢様言葉話すなよ……」
「ってかそれお嬢様言葉なの??」
「フレデリカさんの疑問は最もですが、モンスター全員皆殺しですわーなんて言うお嬢様よりはマシでしょう」
「通り魔お嬢様だな」
なんとも物騒なお嬢様である。結局コウヨウは侍装備でペイン達とクエストに向かう事にしたのである。
「今回俺達が向かうのは【魔王の魔力】を手に入れるクエストじゃない」
「となると新しいスキルですか?」
「あぁ、俺達だって【楓の木】に負けないように強くなろうとしてんだ。次回のイベントもあるしな、だから今回はスキルを身につけようと思う」
「それ、俺に教えても……」
「良いわよ。どうせどんなスキル使おうがアンタサリーみたいに避けるんじゃなくて刀で止めにかかるでしょ」
「コウヨウはサリー達よりも覚えが早いと予想してるからな。どうせ隠しスキルを発動してもその日その瞬間に止めてきやがるから……」
「まぁ、どうせならバレて良いかなと」
「『どうせどうせ』うるせぇなお前ら」
流石に突っ込んだ。フレデリカもドラグもドレッドも別に負ける気はないし勝つ気持ちはある。それでも、隠しスキルを撃っても不意打ちしても、正面から攻めても、何をしてもコウヨウは真っ向から攻略しに来る存在なので、こちらも手の内明かした真剣勝負に興味があった。
「まぁ、俺も思うところはある……コウヨウもうスキル覚えないんだろ?」
「タブンネですけど……レベルMAXでクエストクリアしてますが最近覚えたのは刀ではなく格闘スキルなので」
「あの水になるやつか……」
ペインは考えた。そろそろこの人は刀スキル覚えないんじゃねと。確かに格闘系のスキルを覚えて帰ってきたりするが、最後に覚えた刀スキルは確か……
「【二天の無紅へ】……それから刀スキルは覚えないんだろ? ならお前の成長もここで止まるはずだがな」
「確かに」
「認めるんかい」
確かにペインの言う通り、割とこのゲームはスキル依存が7割PS3割くらいである。PSで立ち回れてるのはサリーくらいかもしれないが。一方コウヨウはというと……
「まぁ、そんな理由なら手伝います」
何も言わずにそのままペイン達について行ったのである。だが、ペイン達は知らない。コウヨウの本気も、実力も、全てがもはや人ではない事を。確かに化け物だと揶揄してはいたが、それよりも確実に、コウヨウは強い。
「コウヨウ、モンスターが行ったぞ!」
「フレデリカさんは俺が守ります」
「それは俺のせり……ん? コウヨウお前刀一本持ちなのか?」
「まぁ、最近そうしてます」
「ってかちょっと待て、木刀じゃ無理だろ!?」
「本当何考えてんのアンタ!?」
ドラグが突っ込む前にドレッドとフレデリカが突っ込んだ。コウヨウは二刀流ではなく一刀で構えているし、なんなら武器が木刀だし。モンスターはそのままコウヨウに向かっていくしもう無茶苦茶であった。だが、ペインだけは何も言わずに見ていた。
(何をする気だ……コウヨウ……)
コウヨウが突拍子もない事をする時は必ず何か意味がある事をペインは分かっていた。今回はどんな事をするのか、もしや実はまだスキルがあったとか……いや、【楓の木】でもその話は聞いていない。例えステータスやスキルをバラすのがマナー違反でも、コウヨウは気にせず見せてくるからだ。
そうして、ペインはしっかりとコウヨウを見ていたのだが……
「「「は?」」」
モンスターが消えた……だけだった。正確にはコウヨウが斬った動作が見えず、ただモンスターが勝手に粒子になったのだ。そしてもはやその木刀は左の腰にしまわれていた。
「こ……コウヨウ、今のはムサシが斬ったのか?」
「私はここだぞ若造」
「うわ!?」
ただ構えたフリをして、ムサシがテイムモンスターになり斬っていたのかと思った。だが、本体はペインの隣にいつの間にかいた。
「あれが主だ……我が五輪書を解読し、心を弁え、全ての武士の道を極めた……まさしく二刀一流を身につけた……我が弟子の姿」
「ど、どういう事だ……?」
「もはや私もいつ斬ったのか分からぬ。だが、主は木刀で斬ったのだ」
叩くのでは無く、斬った。そうはっきり言ったムサシ。ペインはゾッと恐怖した。彼の間合いに入った瞬間いつの間にか粒子になっている自分が見えてしまった。
「んじゃ、進みましょうか」
「なぁ……フレデリカ……俺達もしかしてよ……」
「うん。多分そういう事じゃないかな、かっこ遠い目」
「コウヨウはスキル以前の問題かもしれないな……」
「お前ら……自信持ってくれないか。俺もかなり怖くなってきたんだ」
一生かけても彼には勝てない可能性しか見えないのは黙っているだけでも偉い【集う聖剣】だった。
☆
「私さ、楓……メイプルと戦いたい」
「やれば?」
「いや……楓戦い嫌いじゃん」
「俺は?」
「コウヨウは……良いかなって」
「妹には遠慮して俺に喧嘩売るとかそりゃないぜ瑠理沙子」
「誰だよ瑠理沙子」
野口様の方です。今回は珍しく現実世界での紅葉と理沙の会話。ゲーム内ではバレてしまうので楓に内緒で理沙は自分の願いを紅葉に伝えるが帰ってきたのはOKのみ。
「ってか、紅葉が止めないの割と以外。楓や私が傷つくの嫌なんじゃないの?」
「本人が望まない形で傷が付くのは嫌だが、本人が望んでつく傷なら俺は何も言わん」
「なんか紅葉言葉がカッコよくなったね、今からでも厨二病になる?」
「もうなってんじゃねぇか? 宮本武蔵とか五輪書とか、刀で喧嘩売ってる時点でもうそれだろ」
ついでに1つお前に問うと紅葉は理沙に伝える。
「楓が……メイプルがギルドマスターをやる時点で俺が止めるとは思わなかったのか?」
「あ……確かに……本当にシスコンならそうだよね」
「いやシスコンですけど?」
「シスコンなのかい」
「今の時期は楓に貰った毛布にずっと包まってる」
「それくらいなら良いんじゃない?」
「楓がたまに風呂に乱入してくるの止めてくれないか?」
「それは許さん」
かなでがいるのでだから止めろと言ってんだよ。話を戻すと、本気で妹が心配ならギルドマスターに対しても反対するはずだと紅葉は自分で言った。
「まぁ……確かに……」
「それに、ハッキリ言うとだ、楓より理沙の方がゲームは得意だろ。お前がギルドマスターになっても良かったはずだ」
理沙は考える。別にあの時楓をギルドマスターにしたのは単純に誘われたからとか、なんか面白そうだからとかそんな理由だった。
「カリスマ性……かどうかは分からんがアイツは人を惹きつける力がある。だからなったんだと思うぞ」
「紅葉が反対しない理由は?」
「昔かなでにも伝えた事だ。アイツは天然だが馬鹿じゃない。楓からギルドマスターの話を聞いたが、なんとなく覚悟のある目をしていた」
「覚悟のある目……かぁ」
「それが何かは知らん。ただ、アイツはふわふわしてでも芯はある。勿論、理沙が自分と戦いたい事くらいは分かってるだろうな」
「えっ嘘!?」
あくまでもお前からの言葉待ちだろうと紅葉は予想しながら笑う。
「お前が言わないと壮大に何も始まらん」
「そう……だよね……ねぇ、紅葉はさゲームで何か最後にしたい事あるの?」
釣りをしたいとか、アイテムが欲しいとかそう言ったゲームの醍醐味を理沙は紅葉に伝えるが……
「俺がやりたいのはたった一つだけ。2人の武士を天に帰す事だけだ」
そう言って笑った。そうして家に帰ってからログインをしてメイプルと会ったコウヨウ。
「お兄ちゃん、サリーは?」
「天に帰った」
「そうじゃなくて……」
「お前の予想通り。んで、どうすんだ?」
「やるよ、私」
「じゃあやれ。あいつも寂しがってる」
「うん。ちよの、オー!」
「それはサリーの台詞だ」
⭐︎
「クロム、お疲れ様」
「お、カスミか。今入ったのか?」
【楓の木】の中で対話をしているのはクロムとカスミ。カスミはクロムにコウヨウの太刀筋を見せてもらっていたと発言した。
「コウヨウのか……んで、成果は?」
「私では無理だな」
だろうなとクロムは笑う。だが、カスミが言ったのはコウヨウのステータス以外の話であった。
「コウヨウに訓練所の木偶の坊を100体斬ってもらった」
「本当になにしてんだよ!?」
「そしたら面白いことが分かった」
「面白い事??」
——縦一閃全て同じところを斬った
「ん? どういうことだ?」
「斬れた跡を見たらな、寸分違わず同じ場所、同じ力、同じ秒数で斬ったんだ」
流石におかしいだろとクロムは笑った。刀で斬る、包丁で切る、何に対しても斬るという動作は持ち手の力依存だ。3体程ならともかく、100体の人形を全て同じ一閃で斬るなんて芸当は……
「コンピュータくらいだろ」
「コウヨウは機械説が無いか?」
「それだとメイプルちゃんも同じ事なんだが……」
コンピュータでも出来るものではなかった。同じ力の比較としてサリーの回避術があるが、サリーだって昔はそんなにゲームは上手くなかったと本人から聞いたのだ。対してコウヨウは……
「刀を持った瞬間から……アイツの天賦の才が覚醒したと?」
「分からない……が、アイツは剣道でもやっていたのかな?」
「いや……コウヨウにもメイプルにもサリーにも聞いたが、アイツは帰宅専門の部活だったみたいだぞ。メイプルちゃんとサリーちゃんのお世話するから」
それは部活では無い。帰宅部だ。ただ、それ以上にコウヨウが何者なのか、改めて考える事になった。
「お疲れ様、2人とも」
「「カナデ」」
「何話してるの?」
「コウヨウがな……」
「へぇ、そんな事が……でも、あり得ない話では無いよ」
カナデはクロムとカスミに伝える。同じ場所を斬るというのは昔の武士がよくやっていた事である。
「戦いにおいて急所……まぁ、このゲームではクリティカルだけど、そこを狙う事で戦いを制するから、1人くらいはできるんじゃないかな」
「だが、コウヨウは刀を握ったのはこのゲームのみで……」
「うん。だから兄さんは武士なんだ。普段はメイプル達の世話をしてるから芸者みたいなところはあるけど、ゲームに入って刀を握れば天下無双の最強武士……兄さん最強、やったー」
「「天才のカナデでもコウヨウの解析は無理か」」
まぁ、化け物だよねとケラケラ笑うカナデだが、眼は笑ってなかった。カナデもカナデでコウヨウの本質が見えないのだ。
「誰が化け物だカナデ」
「だったらどうして刀を握ったこともない君が3年も経ってないのにこんな技を使えるようになったのか教えてよ、兄さん」
「それは俺が一番聞きたい。別に俺の親だって刀使いじゃねぇし、侍でもねぇ」
「だが、俺には心があったと宮本武蔵が言っていた。おい、ムサシ教えろ。俺は一体なんなんだ?」
「ふむ……答えるにはちと難しい話だが……」
久しぶりにしっかりと姿を見せたムサシはコウヨウを見て、目を細めた。
「主を選んだ理由など些細なことだ。【呪いの首輪】。それを持っていたから」
「本当にそれだけか?」
コウヨウに対してムサシは頷いた。本心はムサシのみぞを知るが、ムサシはコウヨウが【呪いの首輪】を付けているから付いてきたという。
「きっかけは些細なことよ……それでも、主の実力が見えたのは……あの言葉だな」
——戦いたくない
「コウヨウが言ったそんなもんが何になるっていうんだよ?」
「武士たるもの戦いが全てではあるが、中には和平を想う心で戦う武士もいる。戦いたくて戦う武士と和平を願って皆の為に戦う武士。重みは後者にある」
平和に暮らしたいコウヨウは平和にならなそうな出来事に対しては首を突っ込んでいった。昔は戦いを好んでいたわけでも正直無いが、【楓の木】が危なくなったらその刃を振るい、敵を斬り倒してきたのだ。
「主は最終的には誰かを守る力として刀を握った、それを最強と言わずしてなんと言えば良い?」
その心構えこそコウヨウの本当の強さ、即ち……
「正義。今の主は……うむ、【正義の剣聖者】と言うのがちょうど良い」
「【聖剣】ならペインさんがいるけど?」
「たわけ。それは若造の持つ刀がそうだからであろう。主の【聖剣者】はどちらかと言うと、どんな刃でも扱える剣の達人だ。文字は入れ替わるが、『全ての剣を使う聖なる者』であり、『聖なる剣』とは訳が違う」
「確かにコウヨウは木刀でも錆びた刀でも、魚とかあったし……何でも斬ったり叩いたりしてたな……【聖剣者】か……言い得て妙だなクロム」
カスミの言葉にクロムは頷いた。だが、仮にその考えがあったとしてもそれは心構え。技術とは違うとカナデが指摘する。
「私がいるだろ。主の心と私の技量。それがあれば充分だ」
「俺は【釣り師】それが良いんだが?」
「主がそういうならそれでもいいが、最早【防人】よりも強いぞ」
「誰だよ【防人】」
「「お前だよお前」」
コウヨウはなんやかんやで素直である。ムサシの教えや刀の使い方を一手一手真剣に学び、一つずつ高みに登って行った。コウヨウの集中力もあるだろうが、彼にとっては刀がカッコよくてやってみただけである。
「要はたまたまなんだな」
「うむ。たまたまだ」
「理解はしがたいが……コウヨウは宮本武蔵の弟子だから、この強さだと言う事で良いのだろうか?」
「多分それで合ってますよ。俺の師匠は宮本武蔵。それが俺の強さです」
【聖剣者】ことコウヨウは笑う。別に自分が宮本武蔵の弟子であっても、誰かのために刃を振るのは変わらないと。
「兄さんってなんか、不思議だよね」
「俺が?」
「この世の者じゃ無いみたいだ」
「生きてます……ただ、たまに……その……」
「どうしたの?」
「手を振るだけで斬れそうな気がして……」
「そこまで行ったらもう化け物だよ」