妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
【楓の木】ギルドホームではすぐさま宴の準備が始まる。魔王討伐の興奮も冷めやらぬ中、テーブルにはイズとコウヨウ作の料理がずらりと並び、各々が最高級の料理に舌鼓を打ちながら魔王戦の感想を交わしていた。
「美味いな! 前から用意してたのか?」
「最初からこのメンバーなら勝つって分かってたって事だろう?」
「ええ。だってこんなに強いメンバーが揃ったのよ? コウヨウ君がトドメを……まぁ、8割くらい何とかしてくれたけど、残り2割くらいは私たちの活躍もあってでしょ?」
イズは自慢げに言う。メイプルが集めた人材は最強メンバーが勢揃い。魔王如きに破られる程弱くは無いのだ。確かにほとんどコウヨウが決めたとはみんなも言うが、自分達だってその道を切り拓いたのは事実。コウヨウにもお礼を言われたし、今日くらい誇っても、驕っても言いだろう。
「「「俺達最強だぜー!!」」」
「貴方達あんまり調子乗ったら死ぬわよ、あそこで魚切ってる人に斬られて」
すぐに歓喜の叫びから顔を青ざめるシン、ドラグ、ドレッド、イズの声ですぐこの男がいる場所……キッチンに目をやった。
「あれ……やばかったよなぁ……俺達が束になっても攻撃を通せない二刀を……装備合成して一瞬で斬り裂きやがってよぉ……」
「しかもあの真空刃? みたいな攻撃を喰らっただけで、後はほぼノーダメージで何もかも斬ってたよな……」
「ってか見えたか? あの斬撃」
「「全く見えん」」
コウヨウのステータスはやばい事で有名ではあるが、コウヨウ自身の斬撃スピードも刀の構えも、この中の全員が刀を持ったところで誰1人勝てはしないほど隙が無いのだ。
「しかし……スキル、魔法の打ち消しはやはり課題だな。【炎帝ノ国】は魔法使いも多い。魔王のような相手はどうしても苦境に立たされる……特に1番最初にコウヨウと会ってから……ずっとそれを課題としてきた……」
「そこはパーティー編成でカバーするより他ないさ。私とウィルもそうだが、そもそもこのゲームにおいてスキルは重要な立ち位置だ。封じられれば弱体化は免れない……まぁ、コウヨウさんに関してはパーティー編成なんてあってないようなものだけれど……」
スキルは全て斬る、相手の攻撃も刀で止める。コウヨウと戦っている時はコウヨウだから仕方ないと思っていたが、魔王の攻撃削除能力を目の当たりにして、これからは他のモンスターもこういった能力持ちが増えてくる可能性が高くなっていく。
「コウヨウなら……と考えてしまう俺は弱いか……?」
「いや、ペインの言う事も間違ってはいない。どんなモンスターが来ても今のコウヨウならばまだ問題ないだろうしな」
「だからと言って、私達が彼といつも協力関係になるとは限らないさ……うん、正直……」
欲しい。彼を、自分のギルドにいれば、そう考えてしまうギルドマスター達を責められる者は誰1人としていなかった。
「しかし……コウヨウさんの顔色は、なんだか元気ないですよね? 魔王を倒したと言うのに……」
「コウヨウのテイムモンスターが実はラスボスで、魔王と同じ敵モンスターだったんだ、俺達も自分のモンスターが敵に回ったら嫌だろう? ましてや、自身の手で倒して、二度と会えなくなるなら尚更だ」
「うっ……確かにそうだな……魔王を倒したから盛大に祝勝会を開かせてもらって参加させてもらったが、コウヨウの気持ちを考えてなかった……」
「別に良いですよ」
ペインとミィ、ヒナタにリリィのギルドマスター達に声をかけたのは自分の切った魚料理を運ぶコウヨウ本人である。4人は少し申し訳無さそうな顔をしながらも、お礼を言う。
「食ってください、イズさんと……まぁ、俺が少し手伝って作った料理ですから」
「コウヨウ……あぁ、頂こう。魔王討伐……お疲れ様だ……な……?」
「ええ、みんなのおかげでムサシ……宮本武蔵と夢想権之助を天に帰すことが出来ました。これで、アイツらも願った通りになって一件落着でしょう」
「それにしても……本当にあの人達は……」
ヒナタの言葉をコウヨウが指先1つで止めた。
「本物ですよ……じゃないと……今の俺はいませんからね」
コウヨウの強さは宮本武蔵という存在が本当にいたという証明だと、彼は自分で言った。それは疑いは一切できない、完璧なアリバイである。
☆
「よぉ、どうやら俺も諦めが悪いみてぇだ」
許せよと、コウヨウが歩いていたのは、第一層の洞窟の中。コウヨウが強くなった原点にして頂点と言っても良いくらいのターニングポイントである。
「お? こんな所に石なんてあったんだな」
ムサシがいなくなって、新しく建ったのだろうか、石碑のようなものが、その洞窟に建っていた。石には文字があり、そこにはコウヨウでも読める字で……
『最強の二刀流剣豪、ここに産まれ、ここに眠る』
「別に、ここで産まれたわけじゃねぇし、ここで死んだわけじゃねぇだろ……」
突っ込んだコウヨウだが、笑いは乾いていた。少し近づいて手を合わせると、彼のテイムモンスターが顔を出した。
「指揮官、寂しいですか?」
「当たり前だ……正直な、あんな形で勝って良かったのかと、思うところはある」
最後のひと勝負、コウヨウは刀ではなく、武士ならざる砲術で勝った。ムサシがいなくなった事は前から覚悟はしていたのであまりショックは無かったが、刀のプロに、刀で立ち向かえなかった自分を恨んだのは事実である。
「そうよね……妾も少し……大人気無かった……」
「判断したのは俺だ。お前は協力しただけだろ」
「そう、なら……載舟覆舟という事は覚えておくが良いわ」
「怖いわ」
乗る船も沈む船も、全て同じ水であることを忘れるなと、なんとも恐ろしい言葉を口にした武蔵野。ふと、彼女は右手をコウヨウに向けて差し出した。
「なんだ?」
「刀、借りるわよ」
そう言ってコウヨウから木刀をひったくった武蔵野はコウヨウに向けてそれを向けた。コウヨウは刀を使えるのかと聞いたが、少しばかりなら教養はあると答えた。
「やるの? やらないの?」
「少しだけ……撃ち込むか……」
そう言って彼は木刀を二本構えた。反則じゃね? と武蔵野は言わない。コウヨウの強さが生まれた最強の構えは誰も否定は出来ないのだ。
「そっちも使うか?」
「やれるだけ……やってみるわ」
そう言って、お互い二刀の木刀を構えて……足を踏み出した、ガン、ガン、と洞窟内で響き渡る木刀と木刀のぶつかり合い。コウヨウが有利かに見えるが、武蔵野もかなり動ける方である。
「なるほど、これが二刀一流……難しいわね」
「俺はスキル補正があったからやりやすかったが、それ無いとかなり難しいよな」
いつの間にか集中しすぎて30合程の打ち合いをし続けた。
「やるな、お前船じゃねぇのかよ?」
「妾は船の前に元々は人間……これくらい造作もないわ」
「面白い船だな……行くぞ!!」
さらに15合、しっかりと打ち込んではいるが、コウヨウはやけにこの打ち合いが懐かしく感じた。
「行くぞ、武蔵……はぁああ!」
「フフッ……『この一撃は私の一撃』……」
——ガキィイン!!
「な!? おっも……!?」
「トドメ……もらっ……!?」
武蔵野の木刀は一瞬とてつもない重さになり、コウヨウは驚きながらも自分の手に持っていた木刀を吹っ飛ばされた。彼女はすぐにコウヨウの胴に二刀の木刀を置くが……
「なんてな、甘いぞ」
「なっ!? 妾の木刀を握って……う、動けない……!?」
「うらぁ!!」
コウヨウはその木刀の刃先を両手で二本握りしめて、そのままへし折った。コウヨウ以外が刀を触れば耐久値が存在してしまう。それを逆手にとり、生身の手でへし折った木刀の先を、武蔵野の首につけた。
「お前……得意だろ。命かけるならどんなものでも有意義に使い切って勝つことを……」
「何のこと?」
「元々侍は腰に二本刀をつけてたが、いつも一本だけで戦う。お前はそれを疑問に思ったから、二刀流になったんだろ」
「へぇ……知ってたのか……」
「それを、教えてくれたんだ。俺が忘れるわけねぇだろ」
「教えたつもりが……逆に教えられたのか」
コウヨウは泣いていた。姿は違う、声も違う、行動も、性別も、全部違う。ただ、あの一瞬で見たのは……もう二度と会うことのない師の姿。
「あの一瞬の刀の重さを、俺が忘れるわけねぇ……忘れねぇぞ。馬鹿」
「フフッ、妾の負けね……指揮官、一つ伝言を……」
——見事。そして、さらば……主
その一言と同時に武蔵野は姿を消した。コウヨウは言葉を理解して、建っている石に手を触れて、ずっと泣いていたのだった。
『いいの? こんな別れで』
『怒った主は怖いからな。もう二度と顔は出せんよ。私が確実に負ける』
『怒られれば良いのに』
『たわけ、弟子に敗北する師などあまり見せるものではないわ……武蔵野よ、主を頼んだぞ』
『ええ、生憎妾は死んだ魂について行くようなバカな真似はしないの』
「あの野郎……いつか覚えてろ。絶対向こうで木刀持って喧嘩してやる……!!」
『『おお(ああ)……怖い怖い……』』
【魔王】編完結。