妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
「【超加速】!」
「だからなんで俺がサリーと戦わないといけないんだ!」
コウヨウはサリーの罠に捕まった。ギルドの【訓練場】があるので鍛えられるとサリーから言われたコウヨウ。HPは減っても0にはならないので暇つぶしに立ち回りを鍛えてみるかと考えた彼だが、【訓練場】の事を一切知らない彼は、最初デクの木か何かでも出て来てそれと戦うと思い込んでいた。
だが、連れてこられた瞬間、背後から確実なる殺気が感じられた。慌てて背後を振り向くと、サリーが目の前でダガーを振り切って止まっていた。コウヨウに当たる前に、ムサシがガードしたのだ。
その瞬間サリーのテイムモンスターである朧がムサシに噛み付いて来たのもあり、ムサシだけではあるがダメージを受けたのだった。コウヨウは慌てて距離を取って逃げる。
「一回コウヨウと本気で戦いたくなったから!」
「俺はしばらく釣りをするから戦わないぞ!」
「お願い、戦ってよ! だってコウヨウに決闘挑んでも了承しないし!」
「嫌です」
そう言ってもサリーは止まることなくコウヨウに刃物を向けるが、彼もそれを全力で避ける。
「ちょっとコウヨウ!? なんでそんなに避けられるの!? 避けるのは私の専売特許なんだけど!」
「別に好きで避けてる訳じゃねぇよ!! 単純に危ないから避けてるだけだ……よ!?」
「まさか……攻撃が当たるギリギリで回避してるの!?」
「じゃねぇとお前【ウィンドカッター】の変化球とか投げるだろ!?」
「あんな動き……結構ゲームしてた私でもすぐに出来なかったのに……」
サリーの攻撃を持ち前のAGIで避けるコウヨウ。サリーは【超加速】で彼の周りを瞬間移動しながら攻撃していくが、本当にギリギリ当たるか当たらないかのタイミングで避けられる。
コウヨウ本人は本気でギリギリ避けてはいるが、他のプレイヤーから見たら、とてつもない回避術であった。正直本人からすればAGIがある事に依存して、攻撃をギリギリまで見切って当たるギリギリでどちらかに避けるという常人じゃできそうに無い動きをしているだけである。
サリーの様に何事もなく当たり前の様に回避しているわけではないので、サリーがフレデリカにやったみたいなスキルと勘違いするハッタリは使えないが、コウヨウは避けてるのが分かるからこそ当たらないという真っ当な行動。それでも、そんなに当たらないかと疑問に思うほどサリーの攻撃を回避し続ける。
「【ウィンドカッター】!!」
「よ、避けきれるかぁ!!」
サリーの魔法は避けもせず斬った。【魔法削除】というチートの様なスキルのせいでノーダメージである。因みにこのスキルはミィの【炎帝】ですらも斬れるので、コウヨウ本人も何が斬れて何が斬れないか分かってない。
「だからって斬らないでよ……全く、本当なんなのそのスキル……反則でしょ……」
「くっ……ムサシも朧に苦戦してるか……」
「どっちかっていうとコウヨウと同じで戦いたくないから逃げてそうだけど……ね!!」
「うぉっ!?」
ムサシに頼れないとわかったコウヨウは仕方なくサリーの攻撃を避けることにしたが、このままだと本気で埒があかない。
こうなっては選択肢は2つ。サリーに……幼馴染であり恋人のサリーに対して刃を向けて戦うか……それは嫌だとコウヨウはそれを全力で拒否した。例え敵に回ってもサリーは斬れない。メイプルも斬れない。無理だ。
強さとかのレベルではない。単純に彼自身が嫌なのだ。誰が好き好んで恋人に傷を与えなければならんのか。ならば、もう選択肢はたった一つ。この状況から、サリーが止まらない事を考えると、もう……
「諦めて斬られる。そう思ってるなら私はコウヨウを一生恨むよ」
「なんでだよ……別にいいだろ」
「コウヨウ言ったよね、私達に追いつける様にするって。だったらいつか私達が敵になった時、斬らないといけないでしょ」
「私を好きなら斬って。愛してるなら斬って。そうじゃないと……」
「そうじゃないと……?」
「私が惨めになる」
サリーはコウヨウが斬ってくれないと悲しいぞと本気で考えていた。コウヨウはそれを聞いてから一つ息を飲んで……
「ゴクッ……ゴクッ……プハァ……!!」
「いや、息を呑むってそういう事じゃないでしょ!?」
漢字が違った。だが、コウヨウはその瞬間、首輪を首から引っこ抜いていつ現れたのか分からないが彼がいた場所からサリーの目の前に現れた。
「え!? 首輪が……!?」
「いつからムサシが鍵にならないと外れないと誤解していたんだろうな?」
少なくともさっきまで離れていた彼はすでにサリーの顔間近に迫って拳を出していたのだ。ギリギリで避けたが、彼が真正面から突き出した拳はどうしてか絶対に当たってはいけないとサリーを恐怖させるには充分だった。
「一度外れれば、ムサシがそばにいる事が条件だが、俺の力で外せる。ムサシ……やろう。俺の考えてる事、分かるよな?」
「ギュルルルル!!」
「へぇ……ようやくやる気になった?」
「あぁ、お前の泣き顔見るよりは、悔しい顔を見た方が俺は幸せだからな」
コウヨウだって気が付いていたし、わかっている。これはサリーが自分をその気にさせるためにわざと言った言葉であると。それでも、彼にとっては充分だった。
彼女に、サリーにそんな言葉を吐かせたのは自分のせいだから……それを全て理解したコウヨウだからこそ、サリーに伝えた。
「来い……今この場から存在を消してやる」
「コウヨウ……やる気だね!」
サリーは彼の言葉を合図と見て全力で駆け出してダガーを彼に振り切る……が、それを二刀流で受け止める。
「お前の強さは見切っている」
「全部見てないくせに……【ウィンドカッター】!!」
何をしても削除されるサリーの魔法。
「お化け屋敷で号泣したお前の世話をした仲だろう。昔からお前のことはずっと見てたぞ」
それでも彼女はコウヨウの隙を作りにいく事にした。コウヨウの攻撃くらいなら余裕で避けられるが、彼のSTRを考えると確実に刃がかするだけでもHPが0になりかねない。だからこそ、彼に攻撃させるのはいくらサリーでも悪手。
そして、コウヨウはサリーよりも圧倒的にゲームをしない。即ちどれだけステータスがサリーより多くても、予想外の事には耐えられないはずだ。だからこそ、サリーは全力で避けるのではなく、攻撃に徹する策でいく。
「朧! 戻って!」
「ムサシ、朧を止め……」
ムサシは間に合わない。サリーの肩に乗った朧は主人の命令通りに動く。
「朧! 【幻影】!!」
サリーは5人に増えたと思ったが、それがさらに倍になる。一斉に襲われたコウヨウは少し眉を歪めながらスキルを出した。
「【極天二刀】、【呪斬】!! 回転すりゃ流石に当たるだろ!」
「当たらないけど?」
「しまった……サリーのPSじゃなくてただの無敵スキルか……」
「刀は貰うよ」
そして、大きな金属音と共にコウヨウの二刀はサリーのダガーによって弾かれた……遠くにある飛ばされて刺さった二刀はすでに取りに行っても間に合わない。サリーはダガーをトドメと言わんばかりに全力で振りかざす。
だがしかし。それでも彼は……
「【超加速】」
「んな!?」
彼は本気のスピードになったからこそ消えた。彼のAGIはサリーの数十倍以上。そこに【超加速】があれば彼女の前から姿を消すのは当たり前の事である。
「消えたか……背後……と見せかけて正面!」
そんな事を言いながらもサリーは【ウォーターボール】を四方八方に放ったが、当たった感覚は一切ない。なんとか彼が二刀を取る前に決めてやろうと思った。今はまだ、飛ばした二刀は地面に刺さったまま。
瞬間、朧が叫ぶ。それを聞き逃さないサリーは朧の鳴き声によって上を見る。人の影があった。
「真上からか! 何回目かわからないけど……【ウィンドカッター】!!」
サリーは魔法を上に放つが、魔法はかき消された。やはり上にコウヨウがいると考えたサリーは上から飛んで来たその刀とダガーでやり合うが……
「ただの刀!? コウヨウじゃない!?」
『フフッ……騙されたな……』
「え……ムサシが喋った!? いや……え? 何なの一体……??」
「ギュルルルル!!」
「危な!? 朧! ムサシを止めておいて!!」
サリーには一瞬だが、ムサシがコウヨウそのままに変身して、抜刀した姿に見えた。同時にムサシが少し人の言葉を話した様な幻聴が聞こえたが、彼女の目には刀にしか見えなかった。驚きながらもムサシの追撃を交わして朧に助けを求める。このままだと彼の思う壺だと慌ててサリーは上以外で周りを見るが、どこを探してもコウヨウの姿はない。本当にどこにいるのか分からない。
「もしや……逃げ……」
瞬間、確実の恐怖。気づいた時には彼の手が目に見えた。それでもサリーはそれすらも身体を背後に反らして避けるが……
「捕まえた。殴られると思ってたか?」
「な!? 朧……!」
「ムサシ頼む、朧はそこ動くな!」
コウヨウはサリーの片腕を片手で掴んだ。朧がコウヨウに攻撃を仕掛けてこようとしてもムサシに止められる。片手で掴まれただけであっても流石に首輪が取れて2倍になったSTR4桁を軽く越えた手で掴まれたらサリーも逃げ場はない。それでもサリーは諦めない。
「でも、二刀は拾えなかったみたいだね」
「お前の魔法を避けるのが精一杯だ」
「片手が塞がってるなら……【ウォーターボール】!!」
「カスミさん、手を貸せ」
サリーの魔法は結論を言うと消された。彼女が魔法を放つその直前、彼はこの一瞬でこの技を決めきる決断をするつもりであった。
だからサリーを片手で掴んだその瞬間、彼女でも見切れない速さでカスミから貰った刀を装備して、右手の親指1つで、鞘から刀を魔法に向かって飛ばした。
「な!? 指だけで刀を飛ばして魔法を刃先で斬った……!」
「もう一方の手も貰うぞ」
「つ、掴まれたところでなんだっての? お互い何も出来ないんじゃない?」
そう言いながら、サリーはコウヨウに対して体術の蹴りを仕掛けようとしたが、コウヨウは両手でサリーを引っ張り顔と顔を近づけた。バランスを崩しかけた彼女に対して彼は少し頭を仰け反りボソリと言った。
「んじゃ、またな。サリーちゃん」
「え? うわ!?」
完全にバランスを崩したサリーの身体を両手で持ち上げてから、【訓練場】の出口まで放り投げた。そうして……
「俺は先に帰ってるぞー!」
「は……はぁ!? ちょっと……逃げるの!?」
「逃げるに決まってんだろ! 誰が可愛い恋人を斬るかよ!! 言っただろ、お前は斬らねえって!」
「さっきのやる気は何なのさ!!」
「俺はこの場から存在を消してやると言ったがどっちの存在かは言ってないぞ、あばよ」
コウヨウは練習場を出るボタンを押してそのまま逃げたのだった。残されたサリーはまるで早くその出口から出ろと言わんばかりにここに投げ飛ばされたので少し怒っている。
「ふざけんな、ちくしょう!! あの馬鹿コウヨウ……しかも、ただ投げられただけだからダメージもないし……後で本気で怒ってやる……帰るよ朧!!」
そう言ってサリーは去ろうとしたのだが……
「ん? お、朧?? どこ行ったの??」
サリーが練習場を去るまで、朧の声は全く聞こえなかったという。