妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
突然だが、ドレッドという男を紹介しておこう。彼はトッププレイヤーに近い1人であり【
そんなドレッドは第二回イベントでも猛威を振るい、多くのプレイヤーを倒していた。そんなイベントのある夜、彼は湖の近くで釣りをしている1人の男が目に止まった。
「こんな場所で釣り……イベント中なのに変な奴だ……」
折角獲物を発見したのだ、一太刀で葬ってやろうか。いつもの様に2枚の刃を持ち二刀流の構えをする。ゆっくり、ゆっくり、と近づいて、その釣りをしている男に近寄っていくのだが……
「うっ……何だこれは……」
ドレッドに襲いかかる初めての感覚。足が重い。ゲームの中では少なくともこんな事は一度も無かった。釣りをしている男に少しずつ近寄っていると同時に、ドレッド自身の足が重く動きづらくなっていたのだ。
「何が……起こっている……?」
ドレッドは直感が鋭い。そんな直感を信じてみるが、どれだけの選択肢が直感で出てきたとしても答えは1つだけだった。
──彼に攻撃をしてはいけない
そんな直感しかドレッドには存在しない。本気で戸惑うドレッド。その瞬間だった。
「おい、不意打ちしねぇのかよ?」
「バレていたか……」
「いや、さっきからなんかガサガサ聞こえんだよ……誰だお前」
釣りをしていた男はドレッドに声をかける。その男はコウヨウ。ただの刀使いの釣り師である。コウヨウはドレッドに向かって名を名乗れと伝えるが、ドレッドは黙っているばかりだ。
「俺の声聞こえてる? え……ちょっと? すみません……あの……幽霊かなにかですか?」
「あ、ああ。悪いな……聞こえている……何でお前は釣りをしているんだ?」
「釣りしたいからですけど?」
「いや……え? 今イベント中……だよな?」
「第二回イベント中ですね、それが何か?」
「戦わないのか??」
「絶対戦いたくないです」
ドレッドは訳が分からなかった。何でイベントに参加してるのに戦わないのか。確かにクエストと対人戦が混じっている感じなので、完成な対人戦よりは緊張はないイベントだが、ドレッド達の様にメダル欲しさにプレイヤーをキルする者もいるはずだ。
「珍しい男だな……だが……なぜだ……俺の直感がお前と戦ったらいけないと告げている……」
「随分とまぁ、スピリチュアルやね」
そんなオカルトありえませんとコウヨウはドレッドに伝えるが、互いに名前を知らないので誰かすらも分からない。
そうして、先に動いたのは……ドレッドである。
「【神速】」
「は??」
瞬間コウヨウの目の前にドレッドがいた。ドレッドは確かに戦ったらヤバいという直感があったが、コウヨウの態度を見たのもあり、初めて自分の直感を裏切り、攻撃態勢に入ったのだ。
(俺の直感は戦うなと言っているが……俺がこんな奴に負ける訳無いはずだ……)
イベントなのに釣りをしているわけ分からないプレイヤーにトッププレイヤーの1人として名乗りをあげられるドレッドが、コウヨウに負ける訳ない。
「危ねぇ!?」
「な……大剣!? どこから!?」
そう思っていた瞬間がドレッドにもあった。ドレッドの二枚刃に対してコウヨウは手を突き出しただけ。逆にそれだけで彼の……ドレッドの攻撃を止めた。コウヨウの合図で大剣に変身したムサシがドレッドの攻撃をしっかりと止め切ったのだ。
正直本気で怒ったコウヨウはドレッドの驚いた顔すら見ないでハッキリと告げた。
「テメェ! 何しやがる!?」
「お前……何者だ……この【神速】からの攻撃を止めるなんて……」
【神速】はほとんどのプレイヤーには見えない。それくらい早いのだ。【超加速】というスキルもあるが、それ以上に【神速】が速い。だが、コウヨウにはバカみたいなAGIがあったので全てが見えていた。
「俺は釣りがしたいだけだ! 気が済んだら帰れ!!」
「プレイヤーを倒してメダルを手に入れるのもこのイベントの醍醐味なんだが?」
「こんなもんで良いならくれてやる!!」
「な!? 嘘だろお前!?」
ドレッドがメダルの話をすると、コウヨウは全部のメダルをいらねぇと言ってドレッドに全力でばら撒いた。プレイヤーを倒し尽くして5〜6枚程手に入れた銀メダルを全部ドレッドに対して放り投げたのだ。
彼はとんでもないくらいの驚いた顔をしながらコウヨウに叫んだ。
「うるせぇ! 二度と来んな! 釣りの邪魔だ!!」
「お……お前……本当になんなんだ……???」
「早く持って帰れ! 俺は戦うのが嫌いだ! 争うなら他の野郎のとこに行け!」
「くっ……流石の俺も……何もしないでこのメダルを奪う訳にはいかない……今日は大人しく退かせてもらう……」
「二度と顔見せるな。いや……釣りするっていうなら別だけど……戦いに来ないでください。マジで」
「えぇ……」
完全にコウヨウに調子を狂わせられたドレッド。仕方ないので、そのまま退くことにしたのだった。
「ありがとうムサシ。助かったよ……それにしても……あいつ……誰??」
「キュルルルン?」
「ってか【神速】なんてスキルあったんだな……まぁ、全然姿見えたけど……それでも速かったな。俺も欲しい」
普通のプレイヤーは見ることすら叶わず切り裂かれてしまうのだが、コウヨウからすれば全くと言っていいほど良く見えた動きだった。
☆
「何だったんだ……あいつ……」
「おう、ドレッドどうした?」
ドレッドはコウヨウと別れた後、同じギルドに所属している大斧使いのドラグと会った。
「ドラグか……いや、変な奴に会っただけだ」
「変な奴?? 装備が変態とかか??」
「いや……イベントなのに釣りをしてた」
「はぁ??」
「しかもその男……俺の【神速】からの攻撃を片手で大剣出して止めやがった……」
「はぁ!!??」
もはやそれだけでドラグにしたら情報過多である。あのドレッドの【神速】は恐らくドラグでも油断すれば見逃す速さである。なのに、その男は初見で、しかも片手でそれを止めたと言うのだ。
「な、何者だ……その男は?」
「知らん……名前を聞きそびれたが……これはペインに報告するべきかもしれない」
「ドレッドの攻撃を止めたのは分かるが、ただ釣りしてる奴なのにペインの報告までいるか??」
「念のためだ……脅威になっても困る」
「まぁ……好きにしろ……それにしても……ドレッドの攻撃を片手か……」
ドレッドの話を聞いたドラグはかなり嫌な予感がしたのは、その男を自分の目で見ていないからか、それとも本当に……
「ペインと同等……いや、そんな訳無いか……? そうだったら前から有名だもんな……」
「どうしたドラグ?」
「いや……何でもねぇ……イベントももう少しで終わりだ。頑張ろうぜ」
「そうだな……にしてもあの男……やはり俺の直感は信じないとヤバいな……」
初めてドレッドは自身の直感を信じれば良かったと後悔したのだった。