妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
『STRに極振りなんていらねぇよ!』
『うわぁ……本当に極振りだ……悪いけど他を当たってくれないか?』
私達は現実で力が弱かった。だからこのゲームを始めた時は、攻撃力に振って強くなろうと思っていたんだ。それがみんなから嫌われるなんて思ってなかったけど。
「お姉ちゃん……どうしようか……」
「うーん……まさか極振りって言うのがこんなに悪い事だったなんて……」
初めたばかりの私達はこのゲームのシステムを理解してなかった。だから極振りをしたら攻撃力だけで何とかなるなんて思っていたのだが、これから先強い敵が出てきたらそれだけでは何も出来ないと、色んな人に言われてパーティを断られる日が続いた。
「もうお姉ちゃんと2人でやるしかないかなぁ……?」
「でも、私達STRにしか振ってないから……強い敵がきたら守ってくれる人いないし……」
パーティバランスが壊滅的だった。お姉ちゃんと2人で攻撃力なら何とかなるが、魔法やら防御やらで能力を下げて有利にするなんて戦略が取れない以上どこかで躓くのも事実。
「仕方ない……ユイ、少しばかりレベルをあげて見てまたパーティに入れる様に交渉しよう」
普段はオドオドしているお姉ちゃんも今回ばかりは頼りになる。きっと、断られすぎて少し怒っているんだろうななんて私も自分に対してイライラしていたので姉の判断に任せることにした……のだが。
「何でこんな所に蛇がいるの!?」
「お姉ちゃん逃げよう!!」
初心者の森では出て来ないであろう大きな蛇が私たちを襲ってきた。体力ゲージはこの第一層では絶対にありえない4〜5本程。例えSTR極振りでも、そんなモンスターに勝てるわけ無かった。
「やっぱり無理だったんだ……」
「ユイ、諦め……いや、確かに私も諦めてるかも……」
私の言葉にお姉ちゃんも肯定する。こう言う場合姉として強気であって欲しかったが、強がり言われて結局無理でしたよりマシだと思う。そう言いながら走っていると、視界にプレイヤーを見つけた。私が走っていて視界が定かでは無いが、釣りでもしているのだろうか?
「お姉ちゃん、一か八か、あの人に助けてもらおう」
「えっ……ちょっとユイ!?」
私は目もくれず男の人に走って行った。お姉ちゃんもついてきて何とか間に合った。
「助けてください!!」
「えっ? 何事??」
「蛇が……」
「蛇??」
男の人は私たちの後ろにいた蛇を見て驚いていた。俺だって初心者なのに……なんて聞いた瞬間多分これダメだなと思ったが、男の人は私たちを見てから少し笑ってくれた。多分怯えてたから少しばかり落ち着かせようと笑ってくれたのだと思うが、正直そんな事するよりも倒して欲しいです。
「仕方ない……無理なら3人でデスペナだ」
彼の言葉には肯定するしか無い。だってそうだ、私達が誘き寄せて、彼に勝手に助けを求めたのだから彼からすればとばっちりだろう。彼が死んでも私達に恨まれる事なんて無いのだ。
そうして彼は、刀を2本両手に持った。刀使いとはいえ二刀流は珍しい。今まで……と言っても私達は初心者なのであまりプレイヤーを見ていないけど刀使いは1本しか持っていなかったからだ。
「【極天二刀】」
聞いたことのないスキル、刀使い限定の技だろうか? 大槌使いの私達はそのスキルはないが、珍しいとは思っていた。そして、彼が私達の前から消えた。
「「え?」」
「【居合極】」
彼のいる場所は大蛇の背中付近。その後に二刀の斬撃エフェクトが大蛇を襲って、一撃で粒子に変えた。何をしたらこうなるの……??
「HP少なくて助かったな」
いや、どう見ても4〜5本あったでしょ……私達が2人で攻撃しても1本削れるかどうかだと思う。やってないから分からないけど。それでも彼は一撃で0にした。
「今の……見えた? ユイ」
「全く」
見えるわけない。お姉ちゃんとあの後話をしたが、どんなステータスしたらこうなるのか。そう考えながら何故か私は彼に対して口を開いた。
「あ、あの!」
「どうした?」
「弟子にしてください!!」
「嫌だけど」
私が何も考えずに出した言葉に対して彼は戸惑うどころか否定で返したのだった。
☆
結局何やかんやで師匠……コウヨウさんとは知り合いになり、弟子として……なのか仲間としてなのかは分からないけど、一緒にクエストに行ったりした。
パーティなんて組んだことないし断られすぎたからどんな動きをすれば良いのかわからなかったけど、師匠は私達の動きやスキルをみて、次に動く場所を指示してくれた。
「ユイ、モンスターの側面から殴れ、正面から行ったらガードされる」
「マイ、背後を取るのは良いけどやり過ぎたら尻尾とかで攻撃される。システムだから分からないけど、モンスターもバカではあるまい」
彼は地頭が良いのか分かりやすく丁寧に教えてくれた。本人は戦いたくないからって言って、私達が戦いながらも釣りしてたけど。少しばかり手伝ってくれと言ったらしっかり斬ってくれるのもあり何も言い返せなかった。
「師匠……強くなりたくないんですか?」
「何で?」
「戦って、このゲームで強くなって、1番を目指すとか考えた事はないんですか?」
ある日私は師匠に聞いてみた。彼の実力は本物だが、釣りしかしてないので勿体無いと思ってしまったからだ。だが、師匠から返ってきた言葉は……
「別に、何も思ってない」
「「どうしてです??」」
「モンスターと戦えば経験値になるが、プレイヤーと戦ったところで人を斬ったという残酷な事実だけだ。誰かを守るとか、自己防衛とかでない限り、俺は刃を向けない」
この言葉を聞いた時、別に共感は無かった……でも、何だかその言葉は心の中で渦巻いて離れない。非力だから強くなりたいって思ったのは自分達、だけどそれを見せつけるためのものかと言われればそうではない。それは分かっていたが……やはり力に憧れる。
「プレイスタイルは人それぞれ。俺は俺だ。お前達はお前達のプレイスタイルを貫けば良い。メイプルを目指すなら極振りでも、全力でやってみろ。俺は肯定くらいはする」
初めて、私達のプレイスタイルを分かってくれたような、理解してくれたかのようなことを言ってくれる人だった。まぁ、その後私達が憧れたメイプルさんのお兄さんだったなんて思わなかったけど。
それから師匠は色んなことを教えてくれた。釣りの仕方やらモンスターの倒し方だけじゃなく、1人で釣りをしてた時に耳で聞いた美味しいスイーツのお店とかを紹介がてら奢ってくれた。
「平穏は良いもんだな」
師匠はいつもこんなこと言っているが、私は知っている。プレイヤーとは戦わないけどモンスターとは戦ってこまめに経験値を稼いでいること、ごく稀にメイプルさんと兄妹喧嘩と称して練習場でスキルの見せ合いをしていること、何やかんやで師匠も私達以上に強くなっていたこと。というか、強過ぎてもう追い越せないかもしれない。
「師匠って凄いなぁ……」
「ユイはコウヨウさんの事好きすぎだよね」
「それはお姉ちゃんもでしょ?」
やっぱり姉妹だから好みも似るのだろうか。最初はメイプルさんに憧れたし、実際会ったら嬉しくて緊張して、何も話せなくなったりもした……だけど、今はなんとなく師匠と一緒にいたいと思う。師匠といると安心するし、落ち着くし、たまにサリーさんといたら殺したくなるし。
コレが恋かと言われたらそうではない……訳ではないかもしれない。サリーさんと付き合ったって聞いた時は発狂寸前だったから。だからドレッドさん相手にいい勝負出来たんだけど……
「師匠がサリーさんと……」
「いつまで落ち込んでるのユイ」
いや落ち込むだろう。好きな人が幼馴染に取られたんだから。でも、師匠はたまに私達と遊んでくれるし、とりあえず今は許してあげようかなと思った。たまに私達は師匠の隣で寝てるし。
でも、そんな日々が毎日続くだろうなって思っていた私とお姉ちゃんを大鎚でぶん殴ってやりたい……
☆
「お姉ちゃん、やろう」
「うん、でもユイ顔怖いよ?」
「いつか師匠をぶん殴るからね!」
「物騒だなぁ……まぁ、コウヨウさんに強くなった私達を見せないとね」
そう言いながらユイとマイの双子はテイムモンスターにするために2体の熊と対峙する。コウヨウがギルドから姿を消して3日程たった。
『一身上の都合で……本日から俺は一旦【楓の木】から抜けます。今までありがとうございました』
突如としてコウヨウ……2人からすれば師匠なる存在からその発言をされた時、何も言葉を返せなかった。どうしてだとか、急にだとか、色々と言いたいことはあった。でも、彼の表情は今まで見たことのない表情をしていたのは事実だった。
「コウヨウさんが【楓の木】をやめるなんて信じられない……だから、私達は……」
「強くなって師匠とまた冒険したい。師匠が帰ってくるまで待つ。だから……」
「「全力であなたたちをテイムモンスターにするよ!」」
そうしてユイとマイは一撃で吹っ飛ばすコウヨウ並のSTRを持って熊と戦うのである。ちなみにゲームを辞めるとは言ってない。
それにしても、コウヨウの事が関係するとユイもやる気が違うんだなぁと、同じ姉妹として惚れた男の事を思いながらマイは大鎚を振りかぶったのだった。
☆
「白蛇か……コウヨウが見たら目を輝かせてくれるに違いない」
カスミは白蛇と戦っている。コウヨウがギルドを抜けてからみんなでテイムモンスターを1匹捕まえて強くなろうと考えた事で、メイプルとサリー以外のメンバーはテイムモンスターを手に入れるために東奔西走していたのだ。
「あの時、何も言葉を返してやれなかった自分を恨むぞ……あいつがいなければメイプルやサリーがいい顔をしないからな……特にサリーだが」
あの時から、メイプルもサリーも【楓の木】もあまり良い顔をしなくなった。メイプルはカナデを怯えさせながら特訓しているし、特にサリーに関してはログインはしているが、メイプルや他のメンバーから誘われないとクエストにすら行かないくらいまで暗くなっている。
「コウヨウ、帰ったら小言の1つや2つは言わせてもらう。まぁ、あいつの言葉遊びの言い訳なら逆にこっちが納得させられるけど……」
そう言いながらもカスミは白蛇に向かって、刀を抜く。初めてコウヨウと会った時は、やる気が無さそうな、妹であるメイプルとは真逆の性格かと思っていたが、刀を抜けばメイプルが化け物になった時を思い出す強さ。
一方で、釣りをすればとてもよく笑い、柔らかい物言いがメイプルと似ていた。更にはかなりユイやマイ、メイプル、サリーなど仲間の事を思いながら誰とどこに行っただの笑って話をしてくれる。
『身長くれ、身長くれ、身長くれ……』
『こ、コウヨウはそのままでも……ほら、サリーがいるだろう……?』
一方で、私を見るたびに身長を羨ましく思うのは少しやめて欲しかったが。一応私も女であるから【楓の木】で背が高い方だと自覚したら少し何とも言えない思いはあったから。ただ、コウヨウは何というか弟みたいな感じがした……天才の弟を持つのはこういう事なのだろうか。
そんなコウヨウだからこそ、抜けた日に斬撃の1つは入れてやろうと本気で思った。だが、あの時……私はコウヨウに沈められた。
『コウヨウ……理由も言わずに抜けるのならば私が許しは……』
『許せ』
流石にカスミはコウヨウの言葉だけで黙っている事はしない。強引に練習場に連れて行き、一言でも言葉を貰おうとした。だが、彼もなりふり構っていられなかったのか見たこともない一撃でカスミを吹き飛ばしたのだ。無論【コネクト】無しのカスミから貰った刀で一太刀喰らわせた、覚醒コウヨウがそこにいたのだが。
「まさか私の刀を使って……無数の斬撃を……いや【二天一流】と言っていたか……? どちらにせよ、まだ私が叶うべき相手では無かったみたいだ」
カスミは決意する。同じ刀使いとして、いつか彼を叩き斬ってやろうと……
「そのためにはまずコイツだな。後……メイプルやサリーを倒さなければ……いや、ユイやマイもか? 全く……かなり厳しい修行になりそうだ。恨むぞ、コウヨウ……いや、紅葉め」