妹と幼馴染が強すぎるので、釣りと料理スキルに極振りしたかったです(手遅れ) 作:初見さん
「ねぇ、紅葉。私の事嫌いになったの? 私はこんなに紅葉に懐いているのに」
「そんなわけないだろ。というか何だそのペットみたいな発言は」
「紅葉のペットもいいけど、紅葉のベッドでって言うのも捨てがたい」
「何言ってんだ??」
第二回イベントが始まる前に、現実世界で幼馴染の白峯理沙から彼の自室でそう話された本条紅葉。紅葉からすれば理沙が何故その様なことを言ったのかわからない。いや、実を言うとほんの、たった1ミクロンほど心当たりはある。
「嫌いな奴に朝一緒に登校を誘わんし、弁当も作らん」
「じゃあどうしてゲームでは会わないの?」
「ぐっ……やはりか……」
やはりそうだったかと紅葉は納得する。その1ミクロンの正体はゲームの事であるだろうと思っていたからである。
ここで、彼の心を正直に話すとだ。
(どれだけ理沙がプロゲーマーでも……やっぱり好きな人には追いつきたいんだよなぁ……)
紅葉は理沙を愛していた。小さい頃から一緒にいて、遊んで、ご飯を食べて、妹と同じくらい交流が深かった白峯理沙を本条紅葉は愛していた。もしも結婚だとか、付き合うだとか考えた時、頭に浮かぶのは喜怒哀楽を表現しながらゲームに勤しむ理沙の顔のみである。
「私はね、紅葉と楓の3人で一緒にプレイしたいから誘ったんだよ? なのに、どうして一緒に会ってくれないの?」
目を少しばかり濁らせながら紅葉の部屋のベッドに彼を押し倒す理沙。楓や理沙には小さい時から毎回の様にベッドに押し倒されて一緒に眠る事は何回かあるが、ここまで妹の漫画で読んだヤンデレの恐ろしい押し倒され方は初めてである。
「理沙、よく聞いてくれ」
「嫌。紅葉は私の事嫌いだもん」
「違う。寧ろ楓もそうだが理沙の事は好きだ……だからこそ伝えておく。俺はお前達に追いつくまで会いたくない」
「どうしてそんなことを言うの? 紅葉がゲーム下手でも私とメイ……楓が守ってあげるよ?」
紅葉が理沙に告白しないのはこれが原因でもあった。ゲームをあまりやらない紅葉はゲーマーである理沙の話題についていけない事が多々あったのだ。
一緒にゲームをしても最初のうちは理沙の実力に伴わない自分がいて、たまに手加減してもらっていた。だからこそ、理沙を満足させる事、楽しませる事が出来ない。
もしも付き合うならお互い共通の話題や趣味を持たなければ長続きしないと本やネットから見た事があったのもあり、それが紅葉の告白への道を止めている元凶である。
そうして、紅葉は理沙の言葉にそれは俺のやりたいゲームではないと否定する。3人で協力して、クエストをクリアして、イベントを進める。紅葉がやりたいのは3人で楽しくゲームをやることであった。決しておんぶに抱っこはごめんなのだと彼ははっきり言った。
楓に追いつきたい、理沙に追いつきたい。3人で、ゲームを本気でやってみたい。それは紅葉がいつでも望む事だったため彼は自らを強くしたいと思った。
「理沙や楓がNWOでトップに近いプレイヤーになりつつある事を俺は知っている。だからこそ、お前達より後から始めて、レベルも低い俺がいても、本気で楽しめるとは思わないんだ」
「レベルとか関係無しに、私と楓は紅葉がいればそれでいいよ」
「ダメだ。俺も理沙や楓が必要だけど、みんなで持ちつ持たれつの関係になりたい。だから頼む……しばらくは1人でレベルを上げさせてくれ」
はっきりと理沙の言葉を否定して紅葉は自分の考えを伝える。それでも声色は優しく、彼女の頭を撫でながらゆっくり怖がらない様に伝えた。
「そっか……ねぇ、紅葉。もしも、ゲームの世界で紅葉と……コウヨウと会えたら、その時は一緒に戦ってくれる?」
「勿論だ。その時は足引っ張らん様にはする」
「じゃあ、楽しみにしてる。ねぇ、紅葉」
「なんだ?」
「私ね、ゲーム苦手でも、運が悪くても、どんな紅葉でもね、私達の事を思って行動してくれる紅葉の事……」
「お兄ちゃんただいま! お母さんに聞いたけど理沙と部屋にいるなら勝手に入るよ……」
「ずっと昔から愛してるよ」
「へ?」
「うん?」
「紅葉が好き、愛してる、このまま私のものに……って楓??」
幼馴染が家に遊びにくると聞いていたので楓が兄の部屋に乗り込んで幼馴染と兄に会おうとドアを開けると……そこには兄を押し倒して告白する幼馴染の姿。ここで、本条楓として、本条紅葉の妹として、白峯理沙の幼馴染として、やるべき事はたった1つ……
「わ、私、お母さんと用事思い出した……え、えっとごゆっくり!!」
「楓!? ご、誤解だぁぁぁぁ!!」
「紅葉、誤解じゃない! けど! 楓ちょっと待ってぇぇ!!」
「誤解じゃないのかよ!? ちょっと待て理沙ぁぁ!!」
こうして現実世界での告白イベントは終わりを告げたのだった。しばらくの間紅葉は理沙の顔を見れず、少しばかりギクシャクしたのはいうまでもない。
☆
暗闇の中で、金属音が1つ鳴り響いた。男は釣竿を見ながら右側面に右手を差し出してガード。青い服装に身を纏った女の方は2つのダガーを彼の右手近くに振りかざしていた。
だが、弾き飛ばされたのは女の方である。男は釣竿をしまいながら、女に伝えた。
「俺は争う気はねぇよ。お前とは絶対な」
「やっと……ヤット……アエタネ……ワタシノ……イトシノコウヨウ」
「そんなに俺を大切にしてくれてるならその刃をしまってくれよ……
イベント6日目。ある程度落ち着いたと思ったコウヨウはいつもの様に夜の釣りをしていると、自分の近くにやたらと殺気を纏った人がいると感じた。
しかも、ただのプレイヤーではないと。そう考えた彼は念のため自分のテイムモンスターであるムサシに準備を指示して、彼女の攻撃を止めてもらった。右手を出したのはわざと相手に魔法スキルと勘違いさせるためではあった。
だが、暗闇でも見えた月明かりに照らされた彼女の顔を見て彼は目を開いた。彼女の服は変わっていても顔は変わらない。ポニーテールに汚れ一つもない顔をした美少女。そして彼が小さい時から見てきた想い人。もっと言うと、このイベントの前に告白してきた白峯理沙、プレイヤー名はサリー。彼女そのものであった。
「最初は誰だか分からなかったから本気で不意打ちしたんだけど……それ、魔法か何か?」
「さぁな。その刃をしまってくれるなら答えてやるよ」
それでもサリーはコウヨウに刃を向けたまま一定距離を保っている。サリーはコウヨウに初めてゲームであった事に本気で喜びを覚えていた。
「私の目的、コウヨウなら分かるでしょ?」
「なんとなくな。もう少しでイベント終わるから最後くらい暴れて楽しもうって話だろ。恐らくお前はメダルを持ってない。メイプルに預けて、プレイヤーからメダルを狩っているって感じか?」
「流石コウヨウ。私と以心伝心で嬉しいな。ねぇ……愛してるから殺していい?」
「こんな喜べない以心伝心は初めてだ。初心者だから一度死んでこのゲームの洗礼を浴びろってか……だが断る」
メダルが欲しいならくれてやると何やかんやでプレイヤーを倒して運良く手に入れた銀10枚で変化した金のメダルを1枚を見せたコウヨウだが、いらないと言うセリフと共にサリーが突っ込んでくる。慌ててメダルをしまい、すぐに刀を抜いたコウヨウに対してサリーは容赦無かった。
「【超加速】、【ウィンドカッター】!」
「うらぁ!」
両刀でサリーの【ウィンドカッター】を【魔法削除】で消したコウヨウだが、すでにサリーは彼の背後に回って斬る一歩寸前であった。仮に彼がすぐにブラフだと気づいてもサリーは少し速かった。
サリーが倒し尽くしたプレイヤーは一般が多い。簡単に言うと、プロであるサリーに勝てる様な器では無かったと言う事だ。
だからこそ、今回に関してもサリーがコウヨウを斬ってすぐに終わる試合であると第三者が見れば確信するだろう。
だが、多くの人はコウヨウの事を全く知らないため、その結論に至れるのだ。殆どのプレイヤーは一切知らない。彼がどんなステータスで、どんなスキルを持っていて、どんなモンスターを使役しているのかを。
それを直感で感じたのは彼の幼馴染であるサリーだった。確実にコウヨウを斬れる距離、タイミング、このままダガーの刃を振り下ろせばコウヨウは負けるはず。だが、サリーの直感がそれを拒んだ。
その瞬間見えたのはいつも行動を一緒にしていた、防御に極振りしたぶっ壊れの幼馴染。基本はおおらかで優しく女の子だが、いざとなると誰も、サリーですら読めないとんでもない行動を起こす彼女の雰囲気が一瞬だけ彼に感じてしまった。
やばいと感じた直感を信じて彼女は攻撃を中断。そのまま横にずれた。第三者からすると確実に悪手であるが、サリーとコウヨウからすればそれは最高の一手だった。サリーがずれた瞬間、元々彼女がいた正面の位置に、急に刃が現れて、大きな斬撃のエフェクトが発動したからである。
ここで改めておさらいしておくと、彼女はプロゲーマーである。最初こそ何度も死んだりして苦労はしていたが、今では家に大会のトロフィーを飾る様な実力だ。そんな彼女が始めたNWOは回避盾という武器にしながら、盾を装備せず自分のプレイヤースキル、ようはPSで乗り切っているほどの実力であった。
そんな彼女でも今のは正直焦った。そんな彼女を見ながらコウヨウは声を出した。
「サリーなら避けてくれると信じてたぞ。俺達以心伝心だな。分かったならその刃しまってくれ」
「正直嬉しくない以心伝心だったよ。というか今のはなんなの?」
今の反撃の際、彼が右手を出さなかったのは確認出来たので、魔法じゃない事は分かった。だが、その正体は掴めない。
「多分これから実装されるはずだから安心しろ」
「つまりコウヨウは反則的な力を手に入れたんだね、メイプルも反則だし、この妹にしてこの兄ありって事かぁ……」
「メイプルと一緒にするのはお門が違うぞ。あいつは化物だからな」
「本気で1つ聞いて良い? AGIだけ教えてよ、結構動きが速すぎるから気になったんだ」
「一カ月も経ってはいないから大したことない。装備込むが、200から先は知らん」
コウヨウの言葉に目を開きながら笑うしかないサリー。彼女からすれば、一般的な数字も知っているのでコウヨウの話に対して本当に驚くしか無かった。
「兄妹揃って化物かぁ」
「ステータスがどれだけ低くてもPS1本で攻撃全てを回避しているお前に言われたくない」
「なんで分かるの?」
「サリーだからな。お前の事ならある程度知ってる。小さい時お祭りにあるお化け屋敷で泣き喚いてたお前もな」
彼の言葉に対してサリーはまたもや苦笑いするしか無かったのだった。因みにメイプルで知っている事は、予防接種の時に大泣きして暴れたので、学年毎の男子の列から抜けて看護師と一緒に何故か押さえつけて大人しくさせる役をやった事である。
「んで、どうする? 理……サリーの頼みだから……本当に仕方がないから……めっちゃ嫌々だが……一閃くらいは付き合うけれども……」
「嫌がりすぎでしょ……うーん、本当はそうしてコウヨウがどれだけ私の事を大切に思っているか確かめたいんだけど」
そんな愛の確かめ方があるかとツッコミを入れるが、コウヨウもサリーが急に戦いをやめた理由を分かっていた。自分達以外に誰かいる。恐らく騒ぎを聞いてこっちに来たプレイヤー達だ。
「10人か?」
「恐らくね、コウヨウは逃げるの?」
「現実世界で約束しただろ。最初に会ったら一緒に戦うって。足を引っ張らない程度にってさ。幼馴染を置いていくのは幼馴染の兄として間違った選択だろうがよ」
彼の言葉にトキメキしか起きないサリー。このまま押し倒して本気で愛を確かめ合う方の性的な戦いに切り替えるつもりであったが、そもそもまだ彼と付き合ってないし、今の状況で服を脱ぐわけにもいかない。
2人で背中を預けながら策をたてる事にしたのだが、すでに炎魔法がコウヨウを襲った。
「コウヨウ!?」
「俺の刀は俺と、大事な人の命を守るために振るう……おらぁ!」
「ぐぁぁぁぁ!? 熱いぃぃぃ!!?」
【魔法反射】
魔法に攻撃を当てるとダメージを負わずに跳ね返せる。
STRが高い程、反射出来る魔法が増える。
サリーがコウヨウに攻撃が来る事を伝える前に、コウヨウは【魔法反射】で魔法を放ってきたプレイヤーに跳ね返した。浴びたプレイヤーは断末魔を上げながらそのまま粒子になる。
「ま、魔法を跳ね返した……そういえば! さっき私の魔法切ってたよね!? ど、どんなスキル覚えたらそんなこと出来るの……?」
「初クエストクリアしたからな。おいお前ら! 隠れて撃ってくるのは戦略の1つだから許してやる。だけどな、その場所にいるだけじゃ、真っ直ぐ跳ね返されて終わるぞ?」
「せめて動き回って撃った方がいいんじゃねぇか?」
コウヨウの煽りに隠れてたプレイヤーがガサガサと音を立てて移動した。彼はサリーに伝える。音の場所から攻めて行って斬ってこいと。
「本当に音を立てる馬鹿がいるかよ……俺は魔法を跳ね返して直撃させるか、相手の逃げ場を消すから、お前は追い詰めろ」
「ありがとう、行ってくるね。
「黙れ格上。後、その装備可愛いぞ。水色の装備、俺は好きだな」
「コウヨウもその侍装備カッコいいよ」
「相変わらず背は低いがな」
「私はコウヨウだから好きなの」
よく分からない夫婦(?)喧嘩をしたのち、2人はプレイヤーを殲滅に全力を尽くすのだが、まぁ、2人に挑んだプレイヤーは……ドンマイという言葉がお似合いである。