戦鎚とったからパラディ島行くわ   作:匿名

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お待たせ。
少しセリフを多めに書いてみたんだけど、どうです?
その場面の詳細は書けるんだけど、話が進まないんだよね。


王都の傑物/少女の想い

 

 その日の夜は、騒がしかった。

 よくいる酒に溺れた酔っ払いどもによる諍いではない。

 

 

 乾いた音に煉瓦が壊れる音。

 積み立てられた木箱が崩れる音、それを破壊する音。

 走る音、逃げる音。

 

 モノを知らない住民は何事かと窓やドアから顔を出す。

 音の正体を知っている情報通の住民はピシャリと戸締りをし、嵐が去るのを待つ。

 

 普段は静寂が似合う夜に行われているのは、激しい銃撃戦であった。

 

 逃げる者は、身長が低くまだ元服を済ませていないと思える少年。

 追いかける者は、長身瘦躯に鋭い眼光を持つ歴戦の強者。

 

 壁外の訪問者、ノルド・スカーレッド。

 真の王の懐刀、ケニー・アッカーマン。

 

「ったく、困ったもんだぜ」

 

 ノルドが止まったのを確認し、ケニーも同様に立ち止まる。嗜好品である煙草を咥える仕草には余裕が見て取れる。

 

 「こちとら何発もてめぇのどてっぱらに風穴空けてんのにまるで効いた様子がねぇ」

 

 それに返してくる声は幼さが見えるも、どこか大人びた雰囲気がある。

 

 「いやいや、十分効いてるとも。こちらの攻撃は当たらず、そちらの攻撃はよく当たる。理不尽じゃありません?」

 

 「何言ってやがる。一発で終わりの俺と、何発撃たれても終わらねぇお前だと、そっちのほうが理不尽だぜ?」

 

 お互い遮蔽物を盾にした状態で、軽口を飛ばす。

 そしてこの膠着状況になったのも一度目ではない。

 

 剣とナイフによる鍔迫り合い。

 互いに道の真ん中で銃口を向け合い。

 

 どれも決着はつかず。

 

 こうして会話しているのも間隙を突こうと画策しているからだ。

 

 「アッカーマンの血筋に言われたくは……ないです、よっ!!!」

 

 「うおっ!?」

 

 脈絡なく投げられた物体を見て、非常に嫌な予感がしたケニーは咄嗟に身体を後ろへ弾いた。

 

 投擲物が床に転がると同時に、先程までケニーがいた場所は耳をつんざくような音ともに破壊された。

 

 いまだ、壁内では再現できていない。コンパクトにまとめられた手投げ式の砲弾、手榴弾である。

 

 「あぶねぇな、おい。俺は人間だから普通に死んじまうってぇのによ」

 

 既に見えなくなった敵に対して、独り言ちる。

 けれどそれは、見失ったと同義ではない。

 

 周囲の喧騒に紛れて聞こえる、ここから離れる足音。

 ボロボロの服から落ちる微細な繊維。

 

 追跡する手段はいくらである。

 

 

 

 耳を傾けていた足音が止まり、代わりにカランコロンと入店を知らせるベルが鳴る。

 

 (こっからだと、あの店か?)

 

 走る速度、その時間を逆算し、叩き込んだ頭の地図から入った店を把握したケニー。

 

 「まったく。俺を誘ってんのかねぇ?」

 

 これまでの戦闘でノルドは常にケニーを警戒していた。

 

 どのタイミングだろうと油断することなく、ナイフと剣で切り結んだ時も癖や動きが掴まれないように立ち回り、銃撃戦においてはこちらが優位をとることを前提とした動きを見せるなど。

 

 そんなアッカーマンというものを理解しているあの男が、そこまで距離が離れていない場所に対策なしで無防備に入るのか。

 

 あり得ないことだ。理解していながらもケニーは足を運ぶ。

 

 鼻歌を出し、銃弾を詰め替え、ゆったりとした移動で店の前に着く。

 

 店の中からはノルドが入った時から、普通の喧騒がずっと聞こえていた。少なくとも、何かしら店ぐるみでやってるってことはなさそうだ。

 

 そう判断したケニーは、ノルドと同じく客のように店の中へと入る。

 

 「いらっしゃい!! おひとりで?」

 

 店のマスターは来店者を迎え入れた。

 

 「いいや。連れが先に来てると思うんだが、いるかい?」

 

 「あぁ、親御さんかい。隅のカウンターで待ってるよ」

 

 マスターが指をさした場所には一人、チビチビとジュースを飲む子供がいた。

 

 「俺に子供はいねぇよ。バカたれ。マスター、酒」

 

 先程まで殺し合いをしていた二人が隣り合って、飲んでいる。

 

 「いやになるね、ピンピンしてやがる。お前、なにもんだ」

 

 「まぁ、貴方の近しい人物を例にすれば、ウーリ・レイスと同じといえば分かりやすいかな」

 

 「っ!? まぁ、予想はしてたけどよ。改めて言われるとなぁ。俺は人生で二回も化け物とやりあったってのか、ついてねぇな」

 

 「安心しろ、貴方もアッカーマンである以上は化け物の仲間入りだ」

 

 軽口を叩きながら、お互いの顔を見ることはなくケニーはマスターから渡された酒を飲んでいた。

 

 「ここへは何をしに?」

 

 「壁の100年の平和が崩れた。理由は?」

 

 「ある程度知ってるさ」

 

 「なら話は早い。私はそいつらから力を奪った、どこに潜伏しているのか分からない以上、情報収集は必須だ」

 

 「ほう、なるほどな。どうやってその力を手に入れたのか疑問だったがそういう理由か」

 

 感心したような、悩みが解消されたような声音で理解を示すケニー。

 ついでに気になっていたことを思い出し、追加で疑問を口にする。

 

「そういや、お前の武器。ありゃなんだ? よくわからん物質もそうだが、あの爆発だ。あれは今の技術じゃ無理だろ」

 

 「そうだな。爆発物に関しては少なくとも壁内の科学力では後 20年は無理だろう」

 

 「壁内の……そういうわけね」

 

 「そういうわけだ。硬質化物質は俺の力だ、形態変化しなくても使うことができる」

 

 「はっはーん。羨ましい限りだ」

 

 カラカラとコップに入っている氷ごと中身をゆらゆらさせる。

 そして、ぐびっと一気に呷った。

 

 それを横目に見ていたノルドは逆に問いかける。

 

 「今度はこっちの番だ。お前は何をしようとしている?」

 

 先の戦闘の高揚感の余韻か、酒か。

 短い邂逅でノルドの為人を理解し雰囲気に酔った彼は、普段よく見せる饒舌な口調で語り始めた。

 

 「……俺はよ、やりてぇことがあんだよ」

 

 隣にいるノルドには聞こえるように、しかしその周りにいる人間には聞こえない絶妙な声量でケニーは親友であるウーリのことや祖父から聞いた物語を話した。

 

 「世界の変革か、いいね。俺も目指すべきはそこだと思うよ」

 

 彼が語った内容は原作と変わりなかった。

 始祖の巨人の力を奪い、世界をひっくり返す。

 

 けれども、始祖の巨人はレイス家でなければ力が発動せず、しかし、レイス家が継げばフリッツ王による不戦の契りに囚われる。

 

 ここでそれをケニーが知ってしまえば、王政編の動きが分からなくなると判断したノルドは事実を告げることはなかった。

 

 ケニーの話が長引き、気が付けば日の光が昇り始めた。酒場もそろそろ看板を下ろす時間になってきた。

 

 「さて俺はもう行くよ。ケニー、お前の話は面白かった」

 

 「おーう、夢を誰かに話すなんざ久しぶりだったからよ。中々楽しかったぜ」

 

 簡単な挨拶。もし互いに会うことがあっても、また敵同士から始まるのは分かっているが故の行動だ。

 

 床に足がつかないカウンターの椅子から降り、出口に向かう。

 ノルドは来店から退店までフードを外すことはなく、その顔を晒すことはなかった。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 数日前から始めた王都ミットラスでの活動。

 

 本来であれば、いままで同様ユミルとペアでする予定であったが、彼女にはクリスタの攻略をお願いしているため居ない。

 

 あの日、クリスタと初めての接触を図って以降、初っ端のインパクトが功を奏したのか、素の態度で接してくれている。しかし、まだ本名を教えてくれるほど親密になれていないので、そこをユミルにお願いしたのだ。

 

 そのまま、ノルドもクリスタ攻略に携わってもよかったが新鮮な情報が入ってこないのは落ち着かず、また王都も未探索であったのでちょうどよい機会として、彼女のもとから離れた。

 

 結果として、いくつか得るものはあったが作中最上位の実力を持つケニー・アッカーマンと死合うことになってしまったのはいただけない。

 

 まだ、出すべきでない武装をいくつか解禁して何とか引き分けには持ち込めたものの、彼にそれを見られた以上、仮に王政編で敵対したときには通用しないだろう。

 

 むしろ、相手側が使ってくるようになる可能性すらある。

 

 新たな武装の用意が必要だなと、一人嘆息するノルドはようやっと拠点に帰還した。

 この数ヶ月間、拠点にしているだけあって少しずつ綺麗になっていっている。

 特に自分たちが使う領域は道含めて清掃をしっかりと行っていた。

 

 その一環として作られた簡易的な馬用の小屋に、しっかりと馬が休まされておりユミルがいることが窺えた。

 

 (この時間はあっちにいるはずでは?)

 

 ここ最近のクリスタは、笑顔を作るのが上達しており周囲の開拓民に愛想とともに振りまいている。

 

 その影響で、ちょくちょくサボっても何も言われない状態となっており、昼間からユミルとよく駄弁っている。

 

 

 だから、お昼真っただ中な現在、ユミルはあっちにいると思ったのだが。

 

 

 ノルドは今回の王都潜入で疲れており、頭も回らない状態だった。

 だからこそ、ユミルがここにいる現状に深く追及することはなく、会って聞けばいいやという浅い考えのもと、城の中へと入っていった。

 

 

 

 「あっ! おかえり」

 

 

 「ノルド! 遅かったな、大丈夫だったか!?」

 

 「……………………」

 

 (疲れてんのかな、クリスタがここにいるなんて)

 

 目の前にいるクリスタを疲労による幻覚と判断したノルドは、一度目を閉じ精神を落ち着かせてゆっくりと瞼を開けた。

 

 「大丈夫?」

 

 目を開くと、ノルドの顔を覗き込むように近づく少女が一人。

 

 間違いなく本物であると認識したノルドは、一旦クリスタをスルーして、この件の首謀者であろうユミルに目を向ける。

 

「返してきなさい」

 

「やだっ! こいつはうちで飼うって決めた」

 

「そんな余裕はありません」

 

 まるで捨て猫を拾った子供と、それを叱りつける母親のよう。

 

 見た目は丸っきり逆である。

 

 その様子に慌てたのはクリスタ本人。

 それはそうだろう。ノルドからはシカトされ、気が付いたら猫扱いだったのだから。

 

 終わる気配を感じない言葉の斬りあい。

 クリスタは二人による言葉のチャンバラを真に受けてどうにかしないと、とアワアワしだした。

 

 「ちょ、ちょっと待ってっ! 私は猫じゃないよっ」

 

 クリスタの必死の仲裁に、先程の言い争いが嘘かのようにピタリと止んだ。

 

 「…………はぇ?」

 

 「……くふっ」

 

 「……あはっ」

  

 漏れ出た笑いは、一気にこみ上げ二人はケラケラと笑い出す。

 

 「あはははははは、ごめんクリスタ。少しからかいすぎたね」

 

 「えっ! え、なに!?」

 

 「冗談なんだよ、クリスタ。お互いじゃれあってただけさ」

 

 その言葉にようやく追いついてきたクリスタは、憤慨といった表情でいまだ笑い転げる二人を見た。

 

 「もうっ! 普通に怖かったんだからね」

 

 

 少し経ち、ようやく落ち着きを見せた城の中。

 改めて、ノルドはユミルに確認をとった。

 

 「それでユミル、これってどういう意味?」

 

 「クリスタを連れてきたことか?」

 

 「当然。この娘は壁の奴らの監視対象だろうに。バレたらどうするんだい」

 

 そう言ってノルドは隣に座るクリスタの頭を鷲掴みしてグワングワンと回す。

 

 「あ~れ~」

 

 「安心しろ、賄賂は渡してある」

 

 そんなクリスタを挟んだ反対側にいるユミルは、ノルドから奪うようにクリスタを寄せ、ギュッと抱きしめ小さな頭を撫で回した。

 

 「ぐぎゅ〜」

 

 「全っ然安心できんわっ! 阿呆」

 

 ユミルに抱き潰され、不細工な声を上げるクリスタを取り上げ、膝上に乗せ後ろから優しく抱きしめる。

 

 「ふにゃ」

 

 「今日はもう仕方ないが、明日には帰すよ。俺たちの存在が露呈するのはよろしくない」

 

 「えぇー、まじかよ」

 

 いいこと思いついたと言わんばかりに、ユミルはクリスタの前に移動し、サンドイッチかのようにノルドと二人でクリスタを挟む。

 

 「むきゅー」

 

 「実際、連れてきたのは何でだ?」

 

 「えぇ? 普通にクリスタが私たちと一緒にいたいって言ったからだけど」

 

 クリスタを挟んで、至近距離に顔があり、パチクリと瞬いた目を合わせる。

 

 「そうなのか? 俺がいない間にそこまで仲良くなれたのか」

 

 「ああ、いや、ちょっと違う。コイツは「ユ、ユミルッ」――んあ?」

 

 「…………言わないで、恥ずかしいよぉ」

 

 二人からのスキンシップに目を回していたクリスタは、ここに訪れた目的を話そうとするユミルの言葉を遮った。

 

 「おおっと、そうだったな。いやー、恥ずかしいもんな。あんなこと本人に聞かれちゃったらさぁ」

 

 「うぅ……」

 

 含んだ物言いのユミルを半ば睨みつけるかのように目を向けるが、頬を赤く染め、体勢も相まってか上目遣い。

 

 あぁ、と特等席でそれを見たユミルは恍惚とした表情で、とても世間一般に晒して良いような顔ではなかった。

 

 

 そしてこの場にいるのは、つい最近まで使用人として鍛錬を積んできた猛者。

 主人の機微を察知し、適切な対応を常に心掛ける彼等にとって相手の表情や仕草を見れば、どんな事を思っているのか簡単に分かるというもの。

 

 そこらの鈍感系主人公とは訳が違う!(ガチ)

 

 (…………一緒にいたかった、というわけね。なるほど)

 

 しっかりと理由を把握したノルド。

 

 (……………………ん? ちょっと待て)

 

 (誰が? クリスタが)

 (誰に? 俺に)

 

 理由は把握した。

 それ以上に理解できなかっただけである。

 

 「……………………なら、仕方ないね」

 

 彼は考えることをやめた。

 

 「壁教には明日、俺から話を通しておくよ。伝手と言えるほど太い繋がりではないけど、何人かとは面識あるし」

 

 「…………明日からも居ていいの?」

 

 クリスタは何処か遠慮がちに、恐る恐る尋ねてくる。

 先の様子から、てっきり居てはダメと思っていたからだ。

 

 「もちろんいいよ、明日からもよろしく」

 

 クリスタを肯定した後、次はユミルに。

 

 「身の回りの世話はお前がやれよ」

 

 「もちろんっ。ふへへ…………あんなことやこんなことを」

 

 「…………クリスタ。変なことをされたら俺に言っていいよ。頭しばいとくから」

 

 「えへへ…………あっ、うんっ! 分かったっ!」

 

 クリスタにユミルともに理由は異なれど、にへら笑いを表に出している。

 

 (…………なんだコイツら、俺がいない間に一体何があったんだよ)

 

 三人中二人が相好を崩した笑みを浮かべる、異様な空間から現実逃避するように、ノルドは顔を上に向けた。

 

 実際に何があったかというと、ノルドが王都に行く為にユミルが一人でクリスタの下へ訪ねた日に遡る。

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 「今日は、あの子居ないの?」

 

 いつものようにやって来た来訪者を見て、クリスタが最初に発した言葉がこれだった。

 

 「あの子? あぁ、相棒か。見た目は子供の癖して中身はまるで大人みたいな奴だから、一瞬分からなかった…………で、来ないのかだっけ? 今日から王都へ偵察に出かけたから数日はこっちに来ないぜ」

 

 「そっか」

 

 「何だよ、アイツがいなくて寂しいのか?」

 

 「へっ? い、いや。べ、別にそんなことないよ」

 

 自身でも思い至らなかった無意識の図星を突かれたクリスタは、腕をブンブンと振って違うことをアピールする。

 

 そのオーバーなリアクションは答えを言っているようなものだろう。

 現に間近でそれを見たユミルは、気付いた。

 

 「へぇ~、ノルドが気になるんだ? 確かに大人びた雰囲気あるし、おこちゃまのアンタじゃ憧れるよなぁ」

 

 「むっ! 私はお子様じゃありません。訂正しなさいユミルっ!」

 

 「嫌だね〜」

 

 内容は様々だが、この二人は毎日じゃれ合いへと発展している。

 しかし、普段とは違いクリスタの表情は少し曇っていて、楽しんでいないことが窺えた。

 

 「どうしたんだよ、クリスタ。本当に寂しかったのか?」

 

 「……っ…………分からない」

 

 振り回していた腕を下ろして、軽く拳を握る。

 

 「こんなの初めてだから、分からない」

 

 壁が破壊されてから全てが変わった。

 自分を捨てて生きることを強要された日々。

 突如として捨てたはずの私を照らす光。

 

 無意識ではあるものの、惹かれてしまうのも無理はない。

 

 ここ最近は特に、意味もなくノルドに視線を向けることもあった。

 指摘する者もいなければ、教える者もいない。

 

 ただ心の中で燻り続けていた。

 

 彼が居なくなったことで、それが溢れてしまっただけ。

 

 

 「なるほどな、だったらさクリスタ。うちに来ないか?」

 

 どう折り合いをつければよいか分からず蹲っていたクリスタに、ユミルはノルドと過ごす拠点に来ないかと誘いを投げた。

 

 「別に無理して、それをこじ開ける必要はないさ。答えが分かるまで、一緒に暮らせば見えてくるものもあるんじゃないのか」

 

 「…………ダメだよ。何もない私だけど、見張り自体は付けられてるから」

 

 素敵な提案。一も二もなく飛び付きたかったが、クリスタは自身を囲う今の状況に否定をしなければならなかった。

 

 「だったら…………なんだっけか。そうだ、賄賂だ」

 

 「だ、ダメだよっ! そんなこと、もしバレたら……」

 

 賄賂。金銭や価値あるものを差し出すことで、悪事を見逃す行為。

 

 「バレたら……その時はお前を連れて逃げるしかねぇな」

 

 「…………私も?」

 

 「当たり前だろ? ここまで知っちまったんだから、お前も一緒だよ」

 

 「……っ、うぅ……」

 

 ポロポロと頬を伝って落ちる涙。

 ようやく落ち着いてきたと思っていた涙腺は、たったひと言であっけなく決壊し、彼女の胸の内を静かにさらけ出していた。

 

 その様子を見て、ユミルは彼女の心境を察した。

 

 優しく寄り添い、抱きしめた。

 

 「安心しろ、私は絶対にお前を離すことはない。ノルドだってなんだかんだ言いながら絶対こっちに来てくれる」

 

 「ありがとう……っ」

 

 

 

 

 ノルドが来なかった一日目に起こった出来事である。

 この一件があり、ユミルは何回かクリスタを馬に乗せて拠点まで地下を駆けたのだ。

 その時は、ちゃんと日帰りをさせていた。

 

 そしてようやく、意思決定権を持つノルドが帰還したことで正式に住むことが許された。

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 クリスタが住むことが決まり、まず最初に行われたのは清掃であった。

 

 この古城、所詮は訓練兵になるまでの間の繋ぎのようなものとノルドは認識していた。情報調達や鍛錬で外に出ることが多く、一時期はクリスタのところに毎日のように行って、本当に寝泊まりするだけの場所と化していた。

 

 当然、綺麗にするはずもなく瓦礫はそのまま、壊れた部分も放置していた。

 

 しかし、クリスタが住むとなれば話は変わる。

 

 ノルドは壁教の中でも私腹を肥やしている悪徳司祭と王都潜入中に()()出会い、コネクションを築いていた。それを利用し、開拓地で作業に従事していると上層部に報告させた。

 おかげでこれから、ずっとこちらで暮らすことになるだろう。

 

 自分たちとは違い純粋な人間であるクリスタに、不衛生な場所は健康によくないとして、全員で大掃除をしたのだ。

 

 瓦礫は撤廃し、長年にわたって積もった埃を取り除き、壊れた箇所は修繕していく。

 資材は基本的にクリスタが寝静まった夜に、ノルドが硬質化物質を加工したモノを使用している。

 

 巨人については、クリスタには秘密にしている。

 知っていても負担になるだけだろうから、教えるにしても原作同様マーレ組が正体を現す前後までとっておくことになった。

 

 クリスタには隠している秘密があることを伝え、それを教えた時に本名という大事な秘密を教えてくれと言ってある。

 巨人組は心苦しかったが、それでも知るには、まだ早すぎると二人揃って判断した。

 

 

 

 

 そうして、クリスタが眠る夜に巨人の力でどんどん改築を行い、朝昼はDIYで机や椅子などを作成し、ノルドたちが壁内にやってきてちょうど一年経った日に新生トリルハイム城は完成したのだ。

 

 

 「いやー、それにしても壮観だな」

 

 「ねっ! とっても綺麗になった」

 

 「本当に、よくここまでやったと、我ながら思うよ」

 

 生まれ変わった城を前にユミル、クリスタ、ノルドは思い思いに溢す。

 

 前者二人は目の前の城について話しており、ノルドはこれから先の展開についての考えが漏れていた。

 

 先日、政府が決行した人類の2割を投入した奪還作戦が行われた。

 それと同時に103期の訓練兵団募集が終了した。

 

 来年訓練兵団へ志願することになる。

 それすなわち、約一年の間かわいい女子二人と男子一人がこの城で暮らすことになると同義である。

 

 (俺、耐えられるかな)

 

 肉体は子供であろうと、精神は既に熟達した大人とそう変わらない。

 身体が子供である分、幼かろうが対象としてみてしまう。

 

 (嫌われてはないから、むしろ好かれてる部類だし。何とかなるか)

 

 考えたところで何か変わるわけでもなく、彼は思考を打ち切った。

 

 

 

 

 

 ノルドたちの、それからの日々はあっという間に過ぎ去っていった。

 

 クリスタが来たことで精神的な癒し、安らぎ、余裕が生まれいい意味で緊張が解かれ

楽しく日々を過ごすことができていた。

 

 同じ飯を食べ、鍛錬を積み、下らない話で盛り上がり、いちゃつき、時に共に寝て。

 

 三人ともに心を通わせ、秘密を持っていようと関係ない程に強固となった信頼関係を構築していた。

 

 

 そして時は過ぎ────。

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 「これよりっ!  第104期訓練兵団の入団式を行う!!」

 

 

 ――――原作を駆け抜ける音が聞こえる。

 





読んでくれてありがと!
まだまだ、止まらないですよー!

ケニーは書いてて筆が乗るから楽しい。
王政編まで出番ないけど。

次回から、あの娘が登場です。

あなたにとって"あの娘"とは?

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